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2 Vのアイドル美少女の中身は「おっさん」と「おばさん」


「おねえちゃん~」


 猫耳の美少女が手を振った。


 モニターの向こうのアバターは、こんな可愛い妹がいたら思わず抱きしめて頬ずりしたいと思うような素晴らしい出来だった。


 今、Vチューバーファン界隈で人気上昇中のバーチャルアイドル『さくら』だ。


 私はモニターから顔を上げた。


 モーションキャプチャーを装着した村上和史が頭を可愛くかしげて手を振っている。


(さくらの中身が、あのデブのキモオタだと知ったら界隈のニキは発狂するわね)


 いつものことながら違和感満載の収録現場だった。


「おねえちゃん、こっちに来てニャン」


 猫耳をつけている村上和史が甘え声を出して私を手招きした。


(なんで、中身が猫耳をつける必要があるの。声だってどうせ合成音声に吹き替えるんだからわざわざ甘えた声を出さなくてもてもいいのに)


「よーし、カット。次のシーンはさくらとレイラがハグしてキスするシーンだ」


 監督から指示が飛んだ。


「えー。村上さんとするんですか」


 私は思わず不平を漏らした。


「その後、そのまま歌とダンスに入るから、編集で合成するのではなくて、モーションキャプチャーで自然な感じで撮りたい。頼む。やってくれよ」


「でも、キスまでは……」


「百合を匂わせると数字が伸びるんだよ。いいか、亜紀ちゃんがやるんじゃない。さくらとレイラがやるんだ」


 20歳をとうに越えた元地下アイドルと中年のキモオタのデブとで十代の少女の百合ごっこを演じろというのだ。


(こんな収録現場をもしファンに見られたらすべて終わりね)


 私が躊躇していると「私がやりましょうか」と中村裕子が手を挙げた。


 中村裕子は私の親くらいの年齢の2児の母で、声優だった。結婚と出産で仕事を休んでいたが子供の手がかからなくなったということで復帰してVチューバーになったのだ。


「愛梨とのからみか」


 監督は中村裕子を見て考えていた。


「だめですか」


 監督は私の顔と中村裕子を見比べた。


「村上先生、それでいいですか」


「ああ、構わない」


 村上和史は猫耳を揺らして頷いた。


 中村裕子が演じる愛梨はピンクがイメージカラーの元気いっぱいのメインキャラだった。私の演じるクールな優等生役のレイラより絵になるはずだった。


「よし、じゃあ始めるぞ」


 村上和史の元に、中村裕子が出産と加齢で肥大化したうえに垂れた胸と臀部を波打つように大きく揺らしながら駆けて行った。


「さくら。もう、いったい何をしていたの。おねえちゃん、心配したぞ」


 声は完璧だった。


 Vチューバーは人気上昇中である。そこで、オーディションには応募者が殺到してきている。だが、選ばれた中身のほとんどは素人でボイス・トレーニングも演技の勉強もろくにしていない。


 しかし、中村裕子は惚れ惚れするくらいガワの愛梨になりきっていた。


 素の声からは想像できない数オクターブ高いキャラ声で愛梨を演じていた。


 さすがは声優。


 プロだった。


 私は中身を見ないようにモニターにだけ目をやった。


(何?)


 モニターを見ていて思わず収録中に叫びそうになった。


 さくらと愛梨が濃厚なキスをしていたからだ。


 モニターから顔をあげると中村裕子が頬を桃色に上気させて村上和史と舌を絡めあっていた。


 まるでマニアックなAVを観ているようだった。


「カット!」


 監督が慌てて言った。


 そのシーンは撮り直しになった。


(まったくもう、一体どうなっているの)


 私は困惑した。





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