79 焦る訳
目か覚めたら知らない天井があった。
うわぁ、リアル知らない天井だ……。
痛みはないが少しだるい体を起こして回りを見回す、どこか見覚えがある気がして思い返してみれば、心当たりは保健室だと行きついた。
とわいえ、カーテンに囲われているから周囲がどうなっているのかわからない。
寝てた……訳ではないか。アナウンサーが私の勝ちだって言ってたのを聞いて、それで喜んで……。
あぁ、気絶したんだ。血を流しすぎたか、魔力の使いすぎか、その両方かが原因で気絶したな。
まぁ、別に変なことではないか。
体のあちこちを刻まれていた。一番ひどかったのはもろにくらった背中だったな。高所から落下して緩衝材はあったものの盛大にぶつかって転がったし、もしかしたら骨折ってたのかも。
魔法だって魔方陣を使って乱発したし、最後のだって最高火力の複数の魔方陣を使った飽和攻撃を放ったんだししけんのときのように魔力が減りすぎて気絶もありうる。
さて、怪我が治っていることだし動いても問題はないんだろう。ナースコールとか無いし適当に人を探さないと。
「よっ、とぉ!?」
ベッドから降りて、靴を履いて歩きだそうと思って踏み出したとたん足の力が抜けてストンと尻餅をついてしまった。
目も痛いし、体もだるい。
目は魔眼を再現した負荷がまだ残っているのだとして、体のだるさや力の抜ける感覚……これは血が足りないんだろうか。
「どうしよ、これ」
女の子座りのまんま動けない。腕力で、どうにかベッドに戻ろうと試みるも腕にも力が入らないせいでベッドに戻ることもままならない。
これは人がくるまで、このまんまかな。
たぶん令嬢も寝ているだろうし、大声を出すのは憚られる。
「誰か〜」
控えめな声で人を呼んでみる。
すると複数人の足音がして扉が開く音がしとと思えばシャッとベッドの回りを囲っていたカーテンが開いた。
「何やってるのよ?」
「ベッドに戻れなくなっちゃった、助けて」
見舞いにでも来たのか、見知った者達に呆れた表情を向けられてしまった。
ベイノットが呆れた表情のまま、こちらに来ようとしたとき篠野部がベイノットに気づいてなかったのかわって入った。
脇に手を差し込まれ、猫のように持ち上げられたかと思えばベッドに座らされた。
「ありがとう〜」
「ふん」
マジ無愛想。
「失血のし過ぎと魔力の使いすぎだそうです。それ以外は特に何もないと、治癒魔法は魔力も血液も元に戻せませんので当分安静にしていたください」
少し後ろにいたザベル先生が言った。
なるほど、ダブルコンボだったと。そりゃあ体も言うことを聞かないわけだ。
「それよりもよ!」
ミューのひときわ大きい声が部屋のなかに響いた。
「永華、危ないことしたんですってね?」
危ないこと?わりと色々したような……。
心当たりはあれども如何せん数が多すぎて、どれのことを言っているのか見当がつかない。
魔眼を再現したこと?魔方陣が間に合わず落ちたこと?最後にほとんど魔力を使って飽和攻撃をしたこと?
どれにせよ、この状態が気まずくて目をそらしてしまった。
「えーちゃん」
今まで聞いたことの無いようなメメの大人のような声色に体を硬直させる。
メメは何を言うでもなく、そっと私に近づいて顎を掬い上げたかと思えばじっと目を合わせてきた。
いったい何を、そう思って見つめ返していると少しして安心したかのように息を吐いた。
「保険医の方から聞いていましたけど、大丈夫そうですわね。みんな心配してましたのよ!」
あ、これ魔眼のこと言ってるわ。
でも、なんで知って……。そこまで考えて一人だけ原因を思い付いた。
その人物に目を向けると静かに頷いて口を開いた。
「私です。説教よりもこの子達に心配される方が目に沁みるかと思いまして」
思わず苦い顔になる。
そうですね、お説教よりも心配される方が心にきますよ!!
確かに使うなとか、使うにしても短時間かつ間をあけろと言われていたが……きちんと言いつけを守っていたつもりだったんでけどな。
「聞いたときは心配したんだぜ。まぁ、先生の言いつけ通り、長い間使わなかったみたいだけどよ」
「力流眼の再現とかバカみたいなことしますねえ。そりゃあ魔力だって無くって倒れもしますよお」
「こっちはただでさえ上級生と戦うって言うから胆冷やしながら見てたんだぜ。目、大丈夫?」
「もう……心配させないでよ……」
「次やったら手ぇ出すわよ!」
「……使い方、考えろ」
約一名、違う気がしなくもないが揃いも揃って私のみを案じる言葉だったのが余計に私の居心地を悪くさせた。
心配されることは苦手だ。これなら先生に説教されてる方が何倍もマシに思える。
そのあ、心配の声と共に説教が行われた。
出てくるのは正論ばかりだし、今回ばかりは篠野部からの“能天気”っていう罵倒も受け入れた。
説教もほどほどに、私よりも先に目が覚めたという令嬢の元に行く事になった。
ベッドに乗せられたときと同じ様に車椅子に乗っけられ、されるがままに運ばれていると私が寝ていた部屋の隣の部屋に入った。
部屋のなかは同じ作りで、令嬢は暗い表情でベッドに座っていた。その近くにはビーグル先輩が椅子に座っていて、少し後ろにナーズビアが立っていた。
ビーグル先輩のことを詳しく知らないメンバーが口々に“食堂で暴れてたシスコン”と言う。その言葉にビーグル先輩は苛立ち気味に否定し、大きな声だったから先生怒られていた。
令嬢は私たちが入ってきたことに気がつくと目をそらす。
先生曰く、令嬢にはほとんど傷はなく無傷と言っても良いぐらいの軽症だったらしい。私は貧血で倒れるほどだったのに……。
なんというか、試合に勝って勝負に負けたって感じだ。
「体の方はどうです?倒れたと聞きましたが……」
「貧血と魔力不足ですよ。時間計かで治るので、ご心配無く」
「そうですか」
令嬢は気まずいらしい、だんまりになってしまった。
「辛くも勝利、だったな?後輩」
誉めてくれたらしい、ワシャワシャと頭を撫でられた。
少し乱暴ではあるものの、妹がいるからか心地よかった。
「でも、今回は運が良かっただけだぞ?」
友人達から疑問の声が上がる。
「何せ、こいつは数日まともに寝てなかったんだ」
ビーグル先輩が暴露すると令嬢は一瞬だけ私を見て、また居心地悪そうに視線をそらした。
「こいつが元気だったら最後の飽和攻撃、耐えきってたかもな」
「……マジすか」
あれを耐えきられてたとなると、ほぼ魔力はからになってるわけだ。私が勝つなんて持ち前の身体能力と木刀でどうにかむちゃくちゃして……ギリギリなきにしもあらず?いや、ほぼ無理か。
「まぁ、なんにせよだ。決闘に勝ったのはお前、何か望みがあれば言えよ。なぁ?カリヤ」
「……えぇ」
令嬢は受け入れる姿勢だ。
何をしようか少し迷うも、決闘までしてララ経由で岸に会おうとしていたことが気になったから、それを聞くことにした。
「何で、こんな回りくどいことをしてまで騎士に会おうとしたんですか?」
令嬢はしゃべらない。どうも、回りをキョロキョロと見て、何かに迷ってるようだった。
何かを察したのか、先生は人避けと防音の魔法を部屋にかけた。
「話す気がないと言うわけではないでしょう?これなら安心できますか?」
令嬢は先生の言葉に静かに頷き、ゆっくりと口を開いた。
「お兄様を、助けるためです」
令嬢の声は震えており、手は白むほど強く握られていた。
“お兄様”……。そういえば決闘の最後の方にそんなことを言われた気がする。
「……お兄様は、今ダンジョンに取り残されています」




