67 雰囲気お通夜
ミュー視点
私はミュー、ミュー・レイ。軍人の父を持ち、魔導師として父の手伝いをするべく、メルリス魔法学校に通っているごく普通の猫の獣人よ。
……自己紹介ありきたりすぎたかしら?
まあいいわ。今はあの二人のことが優先だもの。
「篠野部、魔法史の勉強教えて〜」
「自力でしろ」
「やったけどダメだからお願いしてるんだよ~」
「ザベル先生のところに行け」
「先生、別の子に教えてるんだもん」
「はぁ……」
「やめて、ため息つきながら“こいつダメだな”見たいな目で見ないで」
勉強を教えてほしいと言う戌井永華と、その永華に対してため息をこぼす篠野部カルタ。
今は日常になったこのやり取りを見て思う、永華はよくカルタに愛想をつかさなかったなって。
試験のときから薄々思っていて、学校でよく一緒に過ごすようになって直ぐにわかったことだけどカルタは自他ともに厳しいし、冷たいし、全体的に辛辣だ。
とくに永華に対しては遠慮なくものを言ってる節がある。
基本的に間に永華が間にはいるからトラブルは起きていない、私達も今となっては“そういう性格”とわかってるし割りきれてるから特に喧嘩するきもない。
たまに親しくない生徒とトラブルになりそうになるときがあるけど、永華が間に入ったりして事なきを得ている。
まぁ、最近は永華だけじゃなくて世話焼きなベイノットや永華と似た気質を持つローレスが間に入ってたり、変態のレーピオがいるからカルタの冷たさが霞んでたりするけど。
一ヶ月たてばクラスメイトも慣れたのか、特に喧嘩もない。
まあ、確かに良い奴ではある。仲良くなるには時間がかかるタイプだ。
最初は名字だけなのってのだってよくわからない。聞かれれば答えていたけど名前を呼んだって反応しないのはいただけない。
交遊関係が狭かったのかしら?何て思うが永華に振り回され気味の普段を見ると人と会う機会自体は多い気もするから不思議だ。
ある日、ふと不思議に思って永華に質問したことがある。
「ねえ、永華」
「ん?なぁに?」
外は日が暮れ暗くなっている夜。お風呂上がりに永華に疑問を投げ掛けるべく声をかけた。
「貴女、なんで篠野部といるの?」
「え、いきなりどうしたの?」
「いや、何となく……」
本当に何となく思い付いた疑問だった。
「ん〜?……唯一の同郷だから?かな。前々知ってはいたけど、ちゃんとか変わるようになったのは一年前からだし……」
帰ってきた答えは私が思っていたような可愛らしい乙女の思いとかではなかった。
ちょっと恋ばなしたかったんだけど、その類いじゃなかったのね。
ちょっと残念な気持ちになりつつ、まだ気になることがあるので質問を続ける。
「唯一の同郷?確か、東の出身だったかしら?でも唯一の同郷なんて、壮大な言い方するじゃない」
「そう、手違いでバイスの町の近くにある森に投げ出されちゃってね……。あはは……」
困りながらも笑っている永華に同室のメンバーは絶句した。
全く壮大な良いからじゃなかった。
普段は明るい永華が、普段は余裕綽々のカルタが、そんな境遇だとは思わなかったからだ。
てっきり幼馴染みか何かだとでも言うのだと思っていた。
「あ、あんたそれ……笑えないわよ!?」
「でも実際笑うしかないしね〜……」
やれることは今やってる最中だしさ。
その発言に頭を抱えたくなった。
私はいまだ国の外にでたことがない。だから永華やカルタの思いは想像なんてできやしない、だけど辛くないわけがないのだ。
頻繁に故郷の料理が恋しいといっているのも軽くホームシックを起こしてるだけだと思っていたが、この状態だと重さが変わってくる。
「ちなみに放り出されてから、どれくらたってるの?」
さらに頭を抱えたくなるだろう事実がでてくるのはわかってたが嫌な予感がして、ことと次第によってはお父さんに頼み込むことも辞さない。そう思いながら聞いてしまった。
「大体一年だね。七月中盤だったし」
「……」
私は頭を抱えた。
メメの髪を魔法で乾かしてる途中だったララも、眠そうにしながらされるがままになっていたメメも頭を抱えた。
「はは、雰囲気がお通夜」
「呑気に笑ってンじゃないわよ。張本人」
「……や、あの、お通夜みたいな雰囲気になると私も段々しんどくなってくるから茶化したんだよ」
「よし!この話し終わり!面白い話をしましょう!」
「メメ、先日あった話をします!」
さっきまで眠そうだったメメが勢いよく立ち上がる。後ろでララが驚きのあまり杖を落としそうになっていた。
「先に陸で生活していたタコの人魚のお友だちに会いに行ったんです。その時、ホットケーキなるものを焼いてくれたのです。固いジャムの蓋をあげてホットケーキに塗ってくれて、私は美味しく食べてたんですが悲劇が起こったんです。タコは全身筋肉で力持ちなので力をいれて開けたジャムの蓋が変形してしまってたんです!」
「ジャムの蓋ってそれなりに分厚い金属か何かよね?」
「はい、その友達はよくあることだと言って自力で蓋の形をもとに戻してました」
「あるあるなんだ……」
あまり亜人とふれあったことがないのか、永華は目を見開いて驚いていた。
「それ、獣人でもたまにあるわよ」
「え……」
「ゴリラとか、ゾウとか辺りがよくやるかしら。獣人は原種と似たような能力を持つことが多いから」
かくいう私も夜目はきくし、勉強会の買い出しのとき目が光ったりもしていた。それに反射神経も良い方だ。
「といってもあんまり鍛えていない子でもできてしまうからポテンシャル凄いのよね」
「わかります。タコのお友だちは細いし、とくに鍛えていないと言っていたし、私達人魚が人の姿に擬態するといささか能力が下がってしまうのにあれですからね。しかも、あのあと使わなくなったジャムの蓋を二人に折り畳むことができるって言ってたのでやってみてと言ったらものの見事に二つ折りになってました」
「開けるときに力いれ過ぎて歪んで開かなくなったって言う話ならどっかで見たけど二つ折るって聞いたことないよ」
「それ兄がやってたわ……」
「すごいな騎士。篠野部のやつ、できるのかな……」
こういう話を聞くと亜人と人間ってに通っているところがたくさんあっても、どちらかと言うと弱い方なのね。
さっきまでのお通夜のような雰囲気はどこへやら、私達は寝るまで話し込んでしまい、いつのまにか眠っていた。
寝る前に一つ思ったのだけど男子達も似たようなことになってたりするのかしら……?
ベイノット視点
ミューの予想通り、篠野部がいる男子部屋のはお通夜のような雰囲気になっていた。
それもこれもカルタと永華の関係を邪推したローレスの言葉から始まった。
俺はベイノット・アルマック。魔導警察になるために魔法学校に通っている。
風呂上がり、俺が部屋に戻るといつも通り図書館から借りてきた本を呼んでいるカルタとダラーンとベッドに寝転がっているローレス、つまらなさそうに手紙仕分けていっているレーピオがいた。
ふとムクリとローレスが起き上がる。
「カルタ、俺一つ聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「……」
呼ばれた本人は呼ばれたことにすら気がつかず読書を続けている。
「ローレスさん、名前で呼ばないとお」
「あ、そうだ。名前じゃ反応しねえんだったわ。篠野部〜」
「なんだ?」
「相変わらず名前で呼んでも反応しないな〜。珍しい」
「……すまん」
名字で呼ばれたカルタはあっさり反応する。
名前で呼んでも反応しなかったと言う事実にカルタは気まずく思ってるのか、目をそらして謝罪の言葉をこぼした。
「で、なんだ?」
「篠野部と永華ちゃんってどんな関係なの?」
「は?いきなりなんだ?」
篠野部のといはもっともだがローレスの疑問もわかる。
「いや、学校に来る前からの付き合いなんだろ。もしかして恋人だったりする?それか親戚か何かか」
「何を言ってるんだ?別に恋人でもないし親戚でもない」
「え、じゃあ何?」
「……しいていうなら、利害関係?」
「利害関係!?」
予想外の返答にローレスはオウム返しをしてしまう。
さっきまで手紙を仕分けていたレーピオは勢いよく顔を上げ、目を見開いていた。
「な、なんの利害関係?」
「なんのって、帰るため?」
「かえ、帰る?」
カルタの返答に困惑する。
帰るためって、家に?勘当でもされた?でもカルタは勘当されるようなやつには見えないし……。
「んっと、帰るってどういうことだ?」
「……僕たちはある日いきなり、この国の端の森に放り出されたて路頭に迷った。運良く心優しい人たちに拾われたから大事はなかったが、帰る方法がわからない。で、同郷だし故郷に帰るっていう目的は同じだから利害の一致で協力している。だから利害関係といった」
「……ソッカ」
ローレスの顔色は真っ青だ。
俺もレーピオも何も言えなかった。
雰囲気はお通夜になっていた。本人は気にせず本を読んでいる。
妙にただの友人というには空気感が違うし、恋人というには距離があるように感じる二人を不思議に思ってした質問でこんな思い案件が飛び出してくるとは思わなかった。
誘拐じゃん、言い方的に国外に放置されてるじゃん。しかも森の中とか殺意高くないか?二人ともへたうったら魔獣や動物に襲われてたかもしれないんだぞ……。
「……すぅ、どれくらい前の話ですかあ?それえ。それって用は誘拐でしょう?なのに放置されてるのが解せないんですけどもお……」
あ、俺が思ってたことレーピオが代弁してくれた。
「七月中旬だったから一年と数ヶ月前だな」
「……その頃ってなるとお、カトラスやSDS等の犯罪組織が活発に動いていたし軍も警察もそれにともなって動き活発になってましたから、誘拐されて放置されるの変ではないですかねえ」
「SDSってなんだ?カトラスは知ってるんだが」
「あぁ、カトラスほど知名度はありませんものねえ。カトラスと似たような犯罪組織ですよう。詳しいことは何もわかってないんですがあ、所属人数は膨大で大罪関連の集団だとかあ」
「なるほど……」
誘拐されたことは気の毒だが放置されたのは不幸中の際というやつだろう。
「でも、まあ、長い付き合いの永華がいたのはまだましだったな」
「いや、戌井との付き合いはこっちに来てからだぞ」
「……つまり一年?」
「そうだな。少し前からの知ってはいたけど」
なんなんだこの二人。色々濃いぞ……。
「……篠野部って良く本読んでるよな!好きなのか?」
空気に耐えかねたローレスが思いっきり別の話題を振った。
「別に、知識がほしいから読んでるだけだ」
「え、じゃあ勉強が好きな感じ?」
「別に好きじゃないが?」
「お前何が好きなの???」
「……ブラックコーヒー?」
「何で疑問系なんだよ」
前々から思っていたが本当に多くを語らないやつだな。
「篠野部さんは罵られるのと罵るのどっちが好きなんですかあ?」
「お前は作業に戻ってろ」
「ぶー」
「ぶーじゃない。家から来た手紙なんだろ?」
「ほとんどがやりたくないお見合いやめんどくさい食事会のお誘いなので見たくないです。こっちは学業優先させたいっていってるのに送りつけてくるんですから困ったものですよお」
そういうレーピオの顔に生気はなかった。
「貴族って大変なんだな……」
「まだ二十通ぐらいのこってるのやベエな……」
「……寝たら?」
「そうしましょうかねえ。って、もうそろそろ消灯時間ですねえ」
タイミング良く消灯時間がやってきた。
パタン__
篠野部が持っていた本を閉じる音を皮切りに、それぞれがベッドに潜っていく。
「おやすみ〜」
「おやすみなさいですう」
「……ん」
「おう、明かり消すからな。おやすみ」
魔法によって確保されている明かりを消す。
微睡む意識の中、ミューとベイノットはある考えにたどり着いた。
「あの二人、この国に来る前からの顔見知りがお互いしかいないから無意識に頼れる相手もお互いだけって思ってる?」
気がつかない方がいい事実に気がついた気がする。
……。
二人は少し考えてあえてふれる必要なんてないと結論付け、迫り来る眠気に身を委ねることにした。




