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64 懐かしの味

前回までのあらすじ。


 寮でご飯が食べれないから作ることになったんだけどザベル先生への説教が終わって厨房に入ったら貴族の出である二人が戦力外通告を出されてたっぽい。


「……何故?」


「メメは野菜を食器用洗剤で洗おうとしたから運ぶのだけやらせてるの」


 嘘だろ!?今時そんなことする人いるの??


「しゅみましぇん……」


 あ、スッゴいしょぼんとしてる。これ、たぶんミューあたりに叱られたんだろうなあ……。


「レーピオは?」


「レーピオは包丁の扱いがダメでさ。あれじゃ手が細切れになっちまう」


「ニンジンが固くて手が滑っちゃいましてえ……」


 だからってなんでそんな絆創膏だらけになるの?っていうか__


「わざとじゃない?」


「流石にこの状況でそんなことしませんよお!?」


 まあ、そりゃそうか。流石にしないよな。


 メメとレーピオの戦力外通告は仕方ないことだと受け止めよう。


「なぁ、じゃがいもってこれくらいでいいか?」


「あ~、それくらいでいいよ。やらかくなるからね」


 サラダに関しては料理に慣れていると言うララに丸投げすることにした。


「あ、米」


「今、炊いてる」


 そういえば米に関しては何の指示も出してなかった事を思い出し慌てそうになると篠野部から予想外の言葉が飛んできた。


「鍋?」


「うん」 


 篠野部の前には九合の米が入った鍋が火にかけられていた。


「これ足りる?」


「これ終わったら、また炊く」


 ならいけるか。


 っていうか。篠野部のやつが鍋で米を炊く方法知ってたの凄い驚いてるんだけど、よく知ってたな……。


 あ、驚いてる場合じゃないや、私もさっさと用意しなきゃ。


 袖をまくりあげて、髪を縛り、手を洗う。


「よし!メメ、野菜ちょうだい」


「は〜い」


 篠野部が米を、他のメンバーがサラダを作ってくれているから私は肉じゃがと味噌汁を作ろう。


 まずは残っている野菜を切っていてく、野菜が切り終わったら油を引いたフライパンで野菜を炒めていく。油が馴染んだら鍋にいれていって、下にはニンジンなどの固めの野菜にしとく。


 それから一口サイズに切った牛もも肉も投入しておく。水をいれて中火で火をいれつつアクを取り、牛もも肉の色が変わるのを待つ。


 牛もも肉の色が変わったら各種調味料、及び調味料の代用品を入れて煮る。


 じゃがいもが柔らかくなったら切ったシラタキと醤油をいれて味を整える。


「……ワァ」


 ちょっと味が薄い気がするけど、ちゃんと肉じゃがだあ。ホームシックが加速して泣きそう。


 よし、篠野部も巻き込もう。


 小皿に少量の汁を取って米の面倒を見ている篠野部のもとに持っていく。


「篠野部、味見して」


「ん、いいけど……」


 カルタは永華から小皿を受け取ると口をつけた。


「ん!?」


「篠野部、泣きそうになった?」


「????」


「篠野部?なんで宇宙を見た猫みたいになってるの?」


 私は自分だけこんなしんみりとした気分になってるのが癪だったから篠野部もホームシックになってしまえばいいと思って味見させたのになんか宇宙猫になってるんだけど……。


「……戌井、これどこで知ったんだ?」


「え、何の話?」


「この肉じゃがのレシピ」


「お母さんのやつだけど、それがどうしたの?」


「……いや、なんでもない」


「ま、不味かった?」


「いや、そういうことじゃない」


 食いぎみに否定されたな……。


「……すこし、薄い気がする」


「む、やっぱり薄いか。醤油足そ」


 なんだったんだろうか。不思議に思いつつも追求はしなかった。


「ん〜……。まあ、これでいいか」


 すこし醤油を足して満足のいく味になったら落し蓋をして中火のまま少し加熱する。味が全体に馴染んだら火から下ろす。


「肉じゃがはこれでいいね。あとは味噌汁だ」


「サラダできたわよ」


「お、了解〜」


 ララがサラダができたことを知らせてくれた。今は机を拭き終わった先生と一緒に食器の用意をしてくれている。


 さて、次は金平ゴボウだ。


 野菜は肉じゃがの野菜を切るときに一緒にやっておいたよ。あ、ゴボウは十分くらい水に浸けておこうね。


 フライパンに油を出して中火にする。水気を切ったゴボウをニンジンをいれてゴボウがしんなりするまで火をいれたら各種調味料を投入して汁気がなくなるまで炒める。


 白いりごまをいれてさっと炒めあわせたら火から下ろして完成です。


「こっちはど〜おだっと」


 ん〜、こっちは調節いらない?一先ずこれでいいや。


 それじゃあ次は味噌汁だね。


 まず買ってきた豆腐を切って、溶き卵を用意する。用意した鍋に水をいれて、沸騰したら豆腐を入れて卵を回しいれる。


 卵に火が通ったら火を止めて、こっちもまた買ってきた味噌を溶き入れます。


 今回の味噌は私の好みで甘口の味噌を使っております。


「味噌汁も出来上がり。篠野部、ご飯炊けた〜?」


「もう、そろそろ」


「間に合いそうでよかった。じゃあ、ご飯以外の盛り付けしとくね」


「あぁ」


 できたと声をかけるとスッと列が作られる。手にはお盆と、その上には必要な食器がのかっていた。


 気分はさながら食堂で配膳をするおばちゃんである。


 流れ作業のようにお皿に肉じゃが、金平ゴボウ、味噌汁をいれていく。


 自分と、適当に篠野部の分までいれたところで肉じゃがや金平ゴボウが大分無くなっていることに気がついた。


 ……これ、足りるのだろうか。


 学生の胃袋は男女関係なくブラックホールにも等しいと知っている永華は少し心配になってきていた。


 永華の心配もよそにご飯が炊き上がったとカルタから知らされる。


 まぁ、足りなかったらその時は卵焼きでもしてあげよう。と自分の分のお椀を篠野部に差し出しながら思うのだった。


 ご飯が完成したので食器や飲み物を持って食堂に移動する。


 席についたら“いただきます”の合唱、そのすぐあとに久しぶりの肉じゃがを口の中に入れる。


 野菜に味が染み込んでいて、じゃがいもなんかはホロホロと崩れてしまう。


「うまぁ……」


 自分で作っておいてアレだが非常に美味しい。たぶん一年ぶりの和食なのが美味しさに拍車をかけている気がする。


 なんなら帰るまで食べれないと思ってたのも原因だと思う。


 篠野部なんか何もしゃべらずに黙々と食べていっている。いや、これはいつものことか。……あれ?なんか食べるペース早くない?


 はぁ〜……。白米美味しい、味噌汁美味しい、日本食最高。


「最初は何これって思ったけど、この白いのとキンピラの相性最高ね」


「肉じゃがも凄いですう。お米たくさん食べるう」


「アタシ、この肉じゃがというやつが好き」


「肉じゃがのおかわり入れてくるわ」


「あ、メメも行きます!お味噌汁もっと欲しいです!」


「食堂とか家の飯とかと全然違うのに、なんか落ち着く味してる」


「ふぅー……五臓六腑にしみわたる。この味噌汁、いいですね」


 日本食が大好評で永華さんニッコリです。


 箸がないのは違和感があるけど今回ばかりは叱らないのでスプーンとフォークでがんばる。


 ワイワイガヤガヤとしつつ食事をしていると、あっという間に時間がすぎていきお腹いっぱいになることには肉じゃがも金平ゴボウも味噌汁も白米もなくなっていた。


 料理をするなら片付けまで、ということで食後は総出で片付けをしています。


 料理するのはいいけど、片付けはやっぱり憂鬱だなあ。


 カチャカチャと食器を洗っていると、さっきまで少しはなれたところで食器を拭いていた篠野部が隣に立っていた。


「……ねえ」


「ん〜?どうしたの?」


 久しぶりに食べられた和食のお陰でご機嫌な私はテンションの高いまま篠野部に返事を返す。


「料理してるときレシピは君の母親のものだといっていたよね」


「ん?そーね?」


 カタン__


 篠野部は持っていた皿を置いて、死んだ目のまま私を見た。


 私は目を合わせないように、洗い物に視線を集中させる。


「参考にしたレシピとか、わかるかい?」


「参考?それはわかんないなあ。お母さんはいつもレシピとか見ずに料理作ってたから」


「……そうかい。やっぱり偶然なんだ。たまたま似ていただけ、それか忘れたくないから__」


 手は動かしつつもブツブツとなにか呟き続ける。


 えぇ、いきなりどうしたんだろうか。ホームシック拗らせておかしくなった?


 それとも私がなにか失言したのだろうか?全く見に覚えがないし、地雷踏みそうなことはいってないんだけどな……。


 なんか様子のおかしい篠野部は一旦置いておくことにする。篠野部のことだから聞かれるのをいやがるだろうし、そのうち正気に戻るでしょ。


 ……どうすればいいのか、わからないのもあるし。


 篠野部を気にしつつも道具を洗い続けているとポツリと篠野部が言葉をこぼした。


「……悪くなかった」


「んえ?あ、料理のこと?それはよかった」


 そこからは静になり、片付けが終わる頃には通常運転に戻っていてレーピオに絡まれていた。


 篠野部にどうしたのかと聞こうとも思ったが、どうにも声をかけられないでいた。


 私がモタモタしている間に時間が迫ってきていて、私たちは慌てて寮に戻ることになった。

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