51 手紙が届いた
メルリス魔法学校の入学試験から十数日。
七月が終わり、今はもう八月にはいった。
永華とカルタはいつも通りバイスの町にあるマーキュリー・ベーカリーで働いている。
天気は雲一つない晴天で太陽がじりじりと照りつけてくる。
暑さのせいで普段よりも人が少ないし、最近は寝苦しくって余計にうまく寝れない。
「ん〜……」
ぐぐっと背伸びをすると、いくらか眠気が覚めた。
「っはあ……。眠た〜」
今はピークを過ぎたからいいが篠野部は外に行ったっきり中々帰ってこない。
ヤンチャしてる人たちに捕まった?いや、仮にそんなことが起こったとしてもアイツなら魔法か口撃で撃退してくるか。
「まあ、この辺りの不良なら心配しなくてもいいか……」
「薄情ものだな」
「あ、帰ってきた」
噂をすればなんとやら、篠野部が手紙を片手にドアベルをならして入ってきた。
「だって、篠野部が不良に負けるわけないじゃん。魔法で一発K,Oじゃん」
「そうだけど……。どこからくるんだ、その信頼……」
呆れたとで言いたげに肩をすくめてカウンターの上に手紙を置いた。
「メルリス魔法学校からきた」
「まじ!?」
思わず立ち上がり、大きな声がでてしまう。
「どうした?」
「あ、イルゼさん。ごめんなさい、おっきい声だしちゃって」
「別にいいよ。お客さんいないし」
永華が思わず出した大きな声に、厨房にいたイルゼが何があったのかと顔を出す。
「で、どうしたの?」
「学校から手紙きたんです!ちょっと見てくるから店番変わって欲しいです」
「ついにきたのか!いいよ、いっといで」
「はーい」
「ありがとうございます」
イルゼの好意に素直に受けとり、二人は家の方に移動して手紙を開けることにした。
場所は近かったカルタの部屋、なかに入って深呼吸してカルタが自分の分の手紙の封を開けた。
「……うん」
永華も自分宛の手紙の封を開ける。
自信はあるものの不安はぬぐいきれず、心臓がドクドクと激しく脈打ち大きな音をならす。
うす目になりながら手紙をゆっくりと開いていく。
「……合格!!!ふぅー!!!」
「うるさい……」
手紙にあったのは“合格”の文字と、合格を祝う堅苦しい文章だった。
嬉しさから思わず歓声を上げる。だが篠野部にうるさいと怒られてしまった。
「あ、ごめん。そうだ、篠野部はどう?」
「ふん」
カルタが手紙を差し出す。
永華の手紙とは書かれている内容が少し違った。
「え、座学……しゅ、首席合格!?」
確かに元いた世界では試験の順位の一番上で名前を見ることが多かったけど、異世界にきてたったの一年で首席合格してしまうとは驚き以外のなんでもない。
「実践試験は逃してしまったがな」
「それでも三位じゃん」
「よくない、やるなら一位だ」
「え、あ……そう?」
なんか、篠野部の言葉に並々ならぬ執念を感じたきがするんだけど……。
「あれだけの活躍をしたのだし、君が実践で二位なのは納得だが座学は中の上か」
「え、何?」
「無知は罪、知識なき力はいいものを呼ばない」
「言いたいことわかるけど私に君と同じレベルを求めないでね?」
「精進することだな」
座学の試験を首席合格した人に言われると説得力が違うなあ。
「わかってるっての。これで九月になればメルリス魔法学校の生徒になるのか」
「問題を起こさなければな」
「怖いこと言わないでよ……」
フラグでもたったらどうしてくれるんだ。
「でも、なんで私らが実践試験二位と三位なんだろ?トラブルがあったから本領発揮した感じなかったんだけどなあ」
「自己魔法が使えるからだろう。騎士も一緒に試験を受けてた者達も言っていたが、僕らの年で自己魔法が使えるものは少ないってな」
「あ、そっか。それでか」
「あとは、あのトラブルでたいした怪我もなかったことやワイバーンを倒したことで加点されてるのかもしれない。不服なのは、それほど活躍していなかった僕が三位だったことだ」
「速攻で的のど真ん中に穴開けたの誰よ」
あれ、試験管も他の受験生も驚いてたんだぞ……。
「あれは相性がよかったからだろう」
篠野部、卑屈ってほどではないがなぜか自己肯定感が低いんだよねえ。
「あの黒いドラゴンの最後のブレス、あれ私だけの魔法じゃどうにもならなかったんだよ。それを察して、しかも私が話し聞いてないってのも察して、すぐにサポートに回って、あの四人に指示出して、自分も最大火力ぶっぱなして相討ちに持ち込んだ有能は、だぁれ?」
「……」
「篠野部ですけど?返事しやがれください」
「正しい敬語を使え。有能、ね。その有能は箒が燃えてワイバーンに食べられそうになって焦って君に助けられたんだよ?」
「おま……多少は自分を誉めろぉ?」
いったい何がここまで篠野部をネガティブにさせるのか……。
「はぁ、さっきの話しを加味すると、ズルをしたような僕らと違って一位の学生は正真正銘の天才かもしてないな」
「ふーん」
露骨に話を変えたな。
まぁ、別にいいか。誰にだって突っ込んで欲しくない事はあるし。
永華は手紙に視線を戻す。合格と書かれた紙以外に学校についての書かれていた紙も入っていた。
内容は入学式の日取りや寮、学食、学校の見取り図等だった。
「入学式まであと一ヶ月で、移動時間を考えると四週間……いや三週間?だから、今のうちから必要なもの買ったりしといた方がいいかな……」
「そうだな。さぁ、早く報告にいくぞ」
「はいよ〜」
マーキュリー家、それからマッドハッド氏に一先ず二人とも無事合格できたことを知らせ、盛大に祝われ祝いの品も貰った。
マーキュリー夫婦からは新しい文房具を一式、マッドハッド氏からは手書きの魔法指南書などを渡された。
それからナノンから母親と作ったと言うは四つ葉のクローバーを押し花にして、栞にしたものを渡された。永華の物は赤いリボンがついていて、カルタの物は青いリボンがついているものだ。
どこから聞いたかわからないが町の人たちもちらほらと二人の合格を知っている人から色々と渡されたりした。
二人は渡された品を見ながら思う。
「これ、大分節約できたんじゃない?」
「できたな」
「ありがとう。おじさん、おばさん」
祝いの品を渡してくれた人たちに感謝し、パン屋とギルドの雑用のような依頼を片付け、必要なものを揃えたりとしているとあっという間に時間が過ぎた。
永華とカルタは町の人たちに見送られ、馬車に乗って王都に向かった。
試験のときとは違い荷物を抱え馬車に乗って王都までやってきた。
永華は馬車を降りて、空を見上げる。太陽が眩しい。
「一ヶ月ぶりの王都〜!」
「あつい……」
九月、暑さは少しばかり残った季節。
王都は相変わらず人がごった返しており、人の熱気と元よりの暑さが合わさって汗が流れそうだ。
カルタは永華の元気さに感心と鬱陶しさ、呆れすら沸いてきた。
なんで暑いのにこんなに元気なんだろうか……。
「さて、とりあえず魔法学校にいくんだっけ?」
「あぁ、魔法学校にいって寮の自分の部屋にいく。荷物を置いて入学式だ。いくぞ」
「はーい」
カルタが先行して歩きだす。
一年前は夏休み前の終業式をやっていたのに、今となっては異世界に呼ばれパン屋で働き、魔法学校の入学式に出ようとしている。
こんなことになる前なら魔法も、異世界も、亜人族も現実のものだとは思いもしなかっただろう。すべて空想のものだと思っていたはずだ。
だが今現実となって、私の目標を阻んでいる。
何がなんでも元の世界に帰って、目的を達成してやる。
ふと、好奇心がわいた。
「ねえ、篠野部。帰ったら何したい?」
「……」
永華の質問にカルタの足が止まり、何も答えない。
「ん?篠野部?おーい?私の話し聞い、て……た?」
覗き込んだ篠野部の顔は心底恐ろしいものだった。
表情と言う表情は抜けており、いつもの死んだ目は光を一切うつしていない程に暗く冷たく、感情が一切乗っていない。
それこそ死人のような表情と目をしていた。
「はっ……」
体が、震える。
「かえった、ら……も、し……ぼ、くは、わ、わす__」
カルタが何か言おうとしたその時、木製のコップを持った中年の男がカルタにぶつかった。
「おっとぉ、悪いな兄ちゃん。ぶつかっちまって」
「え?あ、……あぁ、はい。だい、じょうぶ、です」
「え?だ、大丈夫か?兄ちゃん、顔色悪いぞ」
「人に酔っただけですので」
「そうか?お嬢ちゃんもしんどそうだが……」
「へぁ!?あ、はは、私も酔ったみたいです」
酔っぱらいの中年男性に方を叩かれ正気を取り戻す。
二人して何とか誤魔化して荷物を抱え足早に先に進む。
「……」
「……し、篠野部」
「……帰ったら何をするか何て、帰れたときに決めればいい。今は帰ることだけを考える」
「え、あ……そう」
正直、失敗したと思った。
目を合わせないように気を付けていたのに、心配になって顔を覗き込んだら気が抜けていたのか、下の子達にたいする接し方が癖になっているのか思わず目を合わせてしまった。
それに、話を振らなければ良かったとも思う。
篠野部は私が話を振ったこと事態は気にしていないようだが、同じことを聞くなと遠回しに言われた気がした。
ただ一つ、どうしても気になることがあった。
何か言おうとしていた、そのとき。篠野部の表情は大きく変わっていた。
……あれはどこに行けばいいのかわからない、迷子の子供と同じ表情だったように思う。下の子が迷子になったときと同じ表情……。
いや、それよりも、もっと酷いかもしれない。
いったい、元の世界で何があったって言うんだ?
そうやって疑問に思いながらも、それを聞くことは私にはできなかった。




