今枝と私
今枝義隆って知ってる?
私が今まで会った中で、一番嫌なやつ。
無駄に高身長から見下ろす感じが嫌。
自分が一番賢いって思ってる感じが嫌。
意味もなく鋭い目付きも、ぶっきらぼうな口調も
とにかく何もかもが大嫌い。
でもね、あの男はね
週末には天使になるの
「ホントに嫌いだよね。しおんって、今枝の事」
ケラケラ笑いながら、そう言われたから、私はムッとして口を尖らせた。
「あの男を、好きな人間なんているっ!!」
お弁当のエビフライにフォークを突き刺して叫んだら、また、笑われた。ひどい!
「今枝のこと、なんでそんなに嫌いかな。格好よくない?背も高いしさ。頭だって悪くないし、それから…」
「わあ、もう聞きたくない、聞きたくない」
あんな男への誉め言葉なんて、世界で一番聞きたくない。
「隣の席になったらわかるってば。ホント無理。絶対無理。無理ったら無理」
「すごい嫌いかただね」
「なんかもう、今枝の存在が出してる空気があわないの!!何で無駄に偉そうなの?自分のことハイスペックだと思ってるの?なーにーさーまーなのよっ!」
「落ち着きなって、もう。エビフライ振り回してないで食べたら?」
呆れたように言われたから、エビフライを口に運んだ。美味しい。今枝のことなんかでイライラしてるのがもったいない。そう思って心を落ち着かせた時
「うるせー女だな」
頭の上から、一番聞きたくない声がして、一気に食欲がなくなる。
「今枝」
見上げるとあの憎たらしい顔が、私を見下ろしてた。まあ、整った顔なのかもしれない。切れ長の目とすっと通った鼻筋とちょっと薄めの唇。一部の女子にクール系のイケメンだって言われてるのも知ってる。私は一回も思ったことないけどねっ。
「もうすぐ昼休みも終わるんだから、さっさと食えば?」
「大きなお世話だけど」
「まあ、そうだな」
せせら笑うみたいな嫌みな言いかた。これが標準装備な男なんて絶対嫌でしょう!とフォークを握りしめたところでチャイムがなる。
「ゆっくり食えよ」
今枝が隣の席に座りながら言う。ああ、本当嫌いだわこの男。そんな気持ちが変わることなんてないとずっと私は思ってた。
なのに
そんな今枝の印象がちょっとだけ変わったのは、週末のことだったの。