石橋で戦って渡れ!!
筋肉が全ての男たちの話しです。が、内容的には、あのロシア三兄弟の話しと似ていますね。
「ぶっ、たまげ!」
会社の忘年会の帰り道。
加賀利睦美|(二五歳。同人作家)は、橋の真ん中で腕を組んで仁王立ちしている男を見て驚愕。その男は、隆々とした筋肉の持ち主。根のような太い腕に、幹のような太い脚。そして、ブロンド碧眼。
「お嬢さん、オ帰リカ?」
男が話し掛けてきた。
どうやら外国の人。
「あの……、どこの方でしょうか?」
「オォ! ソーリー。私ハ、すこっとらんど人ネ。だみあん言イマス」
ああ、なるほど。スコットランドの勇者ってキルト姿だったわねと納得した直後、睦美の体を危機感が駆け巡った!
「ええーー! ちょっとタンマ。スコットランドの勇者って、まさか……!」
「ヴィンゴー! のーぱんネー! ソシテ、お嬢さんト同ジすかーとデス」
「ち、違うわ。私のはプリーツ」
「ハッハーッ。イッツ、シャイ、ガール! 私トちぇっく仲間ネ。お嬢さんモ勇敢ナぐらっぷらーヨ」
「あああなたと一緒にしないでよっ。フルチン野郎っ!」
鶏冠にきたぜ。
だが、この寒さの中でキルト姿一枚とは! ちなみに二人とも赤のチェック柄のミニ。
「サア、今カラ世間ノ荒波ニ打チ勝ツ戦イヲ始メマス」
しかもダミアンは、睦美をこちらの世界へと招き入れようとしている。
「すかーとヒラリ、翻シー!」
後方へ踵を振り上げた。
「すかーとヒラリ、翻シー!」
足が天高く突きあがる。
「すかーとヒラリ、翻シー!」
踏み込んで踵を突き出した。
「すかーとヒラリ、翻シー!」
鞭のようなハイキック。
月明かりに照らされて、青白く輝きながら散ってゆくダミアンの汗。汗。汗。汗。汗。
―えぇーッ。ちょっとー、ドキドキするのは何故ーー?――
ミニキルトで蹴りを繰り広げてゆくダミアンに、睦美は熱くなった頬を両手で押さえて見入っていた。
その時!
数々の水飛沫をあげて、石橋の上に着地した者たちがダミアンを取り囲んだ。
「ダミアンとやら、グラップラーとは河童の三瓶様こと、この俺だぜ」
そう名乗りをあげて、長身でスレンダーな男が前に出てきた。
「いやんっ」
睦美、河童の三瓶に一目惚れ。
三瓶がダッシュ。
闘いに、ゴングは要らぬ。
「三瓶スマッシュっ!!」
ジャンプ、空中旋回。
「すかーとヒラリ、翻シー!」
ダミアンジャンプ。
そして、星の瞬く夜空で交差する飛び蹴り。満月を背に、漢二人の影が重なった。火花を散らして擦れ違い、着地。お互い片膝を突いていたが、三瓶の方に変化があった。
三瓶が顔をしかめて左胸を押さえたそこには、痣が。
「フッフッフ……。手応エ有リネ」
ゆっくりと立ち上がったダミアンは、腕を組んで笑みをこぼした。
その瞬間。
男のミニキルトが裂けて、ハラリと石橋の上に落ちたのだ。
「イヤンッ! マイッチング!」
忽ち顔を赤くしたダミアンは、反射的に脚の間に手をやって隠した。
「ってか、何で胸も隠してんのよっ!?」
歯を剥き出した睦美から、突っ込みが入る。
「ダミアンの旦那。勇者の証しが無きゃ戦えまい」
「オーウ。ソレ以前二、公然猥褻罪ネ」
「ふ……。お前さん、この三瓶様に初めて傷負わせたんだ。終わらすにゃ勿体ねえ」
「イェス。私ノきるとヲ破イタノモ、貴方ガ初メテネー」
言葉を交わしていく内に、二人の漢はお互いの顔を見つめ合っていたのだ。数秒に渡るアイ・コンタクトののちに、二人は熱い握手を交わして微笑んでいたのである! そして漢二人は、再びこの場で戦うことを共に誓い合った。
やがて、その一部始終を見ていた河童たちの瞳から感動の滴が頬を伝い、熱い拍手が沸き起こっていった。
ブラボー。
ブラボー。
胡瓜と代え難い素晴らしいモノを、見せていただいた我々は幸せ者だ。
ブラボー、三瓶。
ブラボー、ダミアン。
この晩、河童たちの熱き祝福は、いつまでも続いたという。
めでたし めでたし
そして、ここから先の男二人の展開を妄想してドキドキしていた睦美は、自宅に帰ったあとで同人のネタにしたそうな。
劇終
最後まで、このような変な書き物にお付き合いしていただきまして、ありがとうございました。