一筋縄ではいかない?
鉱山関係だけでなく、侯爵領では牧畜や農業や林業なども行われている。その狭くはない領地内では、小さなものから大きなものまで行われている不正やごまかしや虚偽は多い。
だれもが私腹を肥やしたがっている。
領主が皇族への税金をごまかすというのではない。
領主以外の人たちが、みずからの利益の為に不正を行ったり加担したりしている。
そういう数々の不正を、一刻も早く暴き出したい。その為には、調査に没頭したい。
没頭する気は満々だし、実際に没頭し始めている。
が、将軍が邪魔をする。
彼は、わたしにくっついて離れようとしない。彼は、とくになにかをするというわけではなく、ずっとわたしを見張っているのだ。
「見張らなくても、ちゃんとやることはやります。わたしがいい加減な人間ではないことを、あなたは知っているはずです。どうかご自身の仕事をして下さい」
同じことを何十回言っただろうか。
「手伝ってくれるのでしたら、領主の権限を用いて揺さぶりをかけてみて下さい」
そう何十回お願いしただろうか。
が、彼は頑なにわたしにくっついている。
(鬱陶しいことこの上ない)
でかい図体の彼が見張っているのである。
鬱陶しいし、なにより不気味である。
ごつい顔をときおり赤くしてわたしを睨んでいる様は、不気味以外のなにものでもない。
そんな彼の監視にめげず、要領よく調査を進めていく。
が、調査が進んで行くにつれ、ますます彼が鬱陶しく不気味になっていく。
(いったい、彼はなにを考えているのかしら?)
その彼の行動は、もはやわたしの調査の妨害をしているとしかいいようがない。
(いまさら気が変わって調査をやめさせたいの?)
いずれにせよ、これだけ妨害されればやめさせようとしているとしかいいようがない。
彼がなにを考えているのか?
何度も彼の心を読もうとした。が、彼の心を読むことが出来ない。
当然のことながら、わたしは読唇術と読心術の双方に長けている。
が、どうにも彼の心が読めない。
彼の心が読めない自分に腹が立つ。イライラする。
今回の任務は、簡単なようで難しいことを認めざるを得ない。