其の十八 綺羅星
水丙月第三土戊日。薄桜城国立大学・競技大会、模範試合。
数日間の努力、そして悠奈のほんの少しの「善意」の後押しもあって――風鈴はついに、ずっと心待ちにしていたこの日を迎えた。
…いや、まったく。今さらだけど、本当に不思議な話だと思う。
そもそものきっかけは、僕が何気なく口にしたひと言だった。「競技大会の優勝者は、他大学の代表と合同演舞試合をするかもしれない。もしかしたら、天時郡皇家大学の南森綾に会えるかもね」――と。
あのとき、そんな運命が動き出すなんて、僕はこれっぽっちも思っていなかった。
その後、良くも悪くも、面白くも危なくもある出来事が次々に起こって。なぜか先覚塔の爆破計画まで、この競技大会と絡み合ってきて。風鈴という奇妙な少女が、僕の大切な相棒になって…
そして、ついに今――僕はこの目で見ている。かつては学園の片隅でひっそりと過ごしていた新入生が、今こうして、合同演舞の舞台の中央に立つ、大スターになった姿を。
そう。待ち望んだこの日を迎えて、風鈴は今朝、珍しく身なりに気を遣っていた。とはいえ、服装はいつもと変わらない。けれど、今日はあの銀白の徽章を胸に付けている。
あの、彼女が最初に僕に見せてきたおもちゃみたいなバッジだ。羽根の紋様が刻まれた、銀色の小さな円形の鉄片。彼女はずっと、それが「南森家の徽章」だと言い張っていた。
正直、僕はずっと勘違いだと思ってた。だから本気にはしていなかった。
でも――彼女の話を聞いたあの夜のことを思い出す。酔っ払った勢いで、風鈴は麦涯郡の「下界の心」研究所で南森南の助手をしていた頃のことを、いろいろ話してくれた。それは、どれも現実味があって、生き生きとしていて。まるで昨日のことのように語られる、その物語の数々。
…あんなの、ちょっとやそっとの作家じゃ、書けやしない。たとえ詐欺師でも、あれだけの話を「作る」のは無理だと思う。
実のところ、僕もどこかで南森家の徽章を見た記憶がある。
うちは蘭空家だし、南森家とは昔から交流があるから、それ自体は不思議じゃない。ただ、風鈴の持っているそれは、僕の知る一般的な南森家の徽章とは違う。
けど、だからといって――彼女のそれが偽物だと、言い切れるわけでもない。もしかすると、風鈴が持っているのは、特別な立場に与えられる“別格”の証なのかもしれない。もし本当に彼女が、あの南森南の助手だったのなら――ありえない話じゃない。
…そうか。最初から、風鈴は何も嘘なんて言ってなかったのかもしれないな。
あーあ。
ずっと「風鈴なんか嫌いだ」って言い続けてきたけど――正直、僕はこの子のことが、全然嫌いになれないんだよな。
きっと、僕たちってそういう関係なんだ。まるで最初から決められていたみたいに、どこかで出会って、こうして共犯者になって。
そして今――その思いは、ますます強くなっている。だって、一度でも風鈴って奴に関わっちゃったら、もう最後なんだ。その呪いからは、きっと逃れられない。
まあ、あと二日後には、先覚塔の爆破を決行する予定なんだけどさ。
だからこそ、今は――嵐の前の、ほんの短い安らぎ。それなら、せめて今日くらいは他のことを全部忘れて、目の前のこの演舞試合を、じっくり楽しませてもらおうじゃないか。
薄桜城国立大学の代表、風鈴。その素朴で野暮ったい衣装に比べて。天時郡皇家大学の代表――南森綾は、明らかに貴族の風格を纏っていた。
南森家――あの由緒正しき千代城の名家。彼女は、その家の現当主・南森南の実の妹でありながら、生まれ育った千代城には留まらず、今は人間王国の首都・天時郡にある最高学府、天時郡皇家大学で学んでいるという。
たぶん、それも南森家なりの策略なのかもしれない。綾を王都に送り込むことで、千代城の影を天時郡に滲ませようとしているのか。あるいは、単純に彼女自身の意志でこの道を選んだのか。自らの手で王国に仕えるために――千代を出たのかもしれない。
深く結ばれたダークブルーのポニーテールは、まるで星の海。
白く整った細面には、決意と冷徹が同居していた。
その瞳――あの双眸の奥には、数えきれない星々が宿っていた。まばたきの一瞬、きらめく星々が零れ落ちそうなほどに。
身に纏ったのは、貴族のドレスとは一線を画す衣装だった。豪奢で華やか――それでいて、どこか鋭く、機能美すら感じさせる。明らかにオーダーメイド。個人の「色」が強く表れている。
それは、南森家の令嬢としての誇りと威厳を示す「儀礼服」であると同時に、南森綾という一個人の戦意と信念を刻んだ「戦装束」でもあった。
…騎士でもない。魔法使いでもない。彼女が手に持つ、あの奇妙な武器はいったい…?見たこともない。まったく、正体が掴めない。
そんな南森綾を目の前にして――風鈴は、驚くほど静かだった。一言も喋らず、表情すらほとんど変わらない。
でも。
その口元に浮かぶ、ほんのわずかな弧。その呼吸のかすかな乱れ。その目の奥にたまる光。その純粋なまなざし。
全部が、彼女の心の奥底にある感情を雄弁に物語っていた。
懐かしさ。嬉しさ。悲しさ。そして、再会の痛みと喜び。
漆黒の影は、煌めく星河に溶けていく。星と影が、ふたたび交差した瞬間だった。
「風鈴!やっと見つけたわよ、このバカ!」
怒気を孕んだ叫び声が、会場に響き渡る。
…本気で怒ってる。いや、それ以上に――感情が抑えきれなくなっているような口調だった。
「まったく、あのとき私を置いて勝手にいなくなって!やっと帰ってきたと思ったら、今度は勝手に暴れてるし!聞いたわよ、君、風花湾で自分が『南森綾』とか名乗って、好き放題やったって!なにそれ!王国法廷に訴えてやるんだから!」
風鈴は、それでも一言も返さなかった。ただ、静かに、じっとその場に立ち尽くして。何も語らず、全てを受け止めるかのように――綾の声に耳を傾けていた。
「ねぇ、何か言いなさいよ!ただ突っ立って、ぼーっとして…何してるのよ!言いたいこと、山ほどあったんじゃないの!?ほら、来なさいよ!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
綾の叫びが終わると同時に、風鈴の体が動いた。まるで堰を切ったように、彼女は全力で綾のもとへ駆け出した。
…一瞬、僕は思った。本気で怒って、もう我慢できなくなったんじゃないかって。このまま殴りかかるんじゃないかって。
でも。
目に映ったのは、想像していたものとは、まるで違う光景だった――
風鈴、その紫の少女は、駆け抜けた先で、綾の胸に飛び込んだ。
そして、何も言わずに、ぎゅっと抱きしめた。その瞬間、溢れ出した涙は、堰を切った川のようだった。
肩を震わせながら、子どものように。風鈴は、大声で泣き出した。
魂の奥から絞り出すような嗚咽に、思わず僕も心を揺さぶられた。
…風鈴は、簡単に涙を見せるような子じゃない。どこか僕よりもずっと強くて、どんな状況でも前を向いている、そんな印象があった。
僕が彼女の涙を見たのは、これで二度目だった。
あの夜、酔い潰れた彼女が金色の夢から目覚めて、過去を語り始めたとき。『葵』という名の少女のことを、僕に話してくれたあの夜――
そして今日、『綾』という少女と再会した、二度目の涙。
過去のことは、僕も知っている。風鈴の心に、どんな思い出が残っているのか、どれほどの悲しみと後悔があるのかも。
でも――それでも。
その全てを、僕は当事者としては知らない。あのとき、そこにいたわけじゃない。だから、同じ痛みを分かち合うことは、きっとできない。
きっと、これからだ。もっと時間をかけて、彼女と共に過ごすことで。彼女という存在を、本当の意味で理解していけるのかもしれない。
「なによ風鈴、泣いてるのは君の方じゃない!傷つけられたのは私の方なのに!泣く権利があるのは、私の方でしょ!この数年、どれだけ君に会いたかったか、君は知らないくせに…!」
…そうだよな。綾だって、ずっと我慢してたんだ。強気な口調も、怒った表情も――全部、感情の蓋だっただけで。
けど、もう無理だったんだろう。仮面が崩れるのに、かかった時間は、たったの数秒。湧き上がる感情が、そのまま涙になって溢れていく。
観客席からは、物音ひとつしなかった。会場全体が、ふたりの少女の再会を前に、静かに息を呑んでいた。
僕の隣では。悠奈、僕のお姉様までもが…そっと目元を拭っていた。
「ねえ、風鈴…お願いだから、今度はもうどこにも行かないで。ここにいてよ、私たちのそばにいてよ…お願い…」
「綾…わかんないよ、僕は…」
「もう絶対に、同じことは繰り返さない。私はね、二度も負けたんだ。三度目は、もう負けない。」
「…うん、僕も覚えてる。ずっと約束してた。何年も前のこと、出会った日、別れた日、そして今日――三度目だよね。」
「うん。三度目だよ…」
綾は、ふっと小さく息を吐いた。その瞳に宿った光は、星河のように煌めいていた。
「今度こそ、私が君を倒す。私の復讐を果たす。どれだけ強くなったか、ちゃんと見せるから。どれだけ想っていたか、感じさせるから。私、南森綾は、ずっと――ずっとあんたを想い続けてた。今日という日を、ずっとずっと待ってた。だから、私は――本気で、勝ちに行く。君をここに引き留めるために。もう、君をどこにも行かせないために!!」
綾の宣言を聞きながら――
風鈴の瞳は、まるで影のように静かで、そして、誰よりも清らかだった。
「ありがとう、綾…さあ、戦おう。この久しぶりの戦いの中で、言葉じゃ足りなかった気持ちを――全部、見せ合おう!」
こうして、互いの想いを確かめ合った二人の少女は。ついに、本当の意味で戦いを始めた。
「ねぇ綾!その武器、初めて見るんだけど!?なにそれ!」
「どうしたの?この『法杖』を見てビビっちゃった?名を『銀河聖遺・綺羅星』っていうのよ!」
…『銀河聖遺・綺羅星』。
確かに、技術の南森家っぽい、いかにもなネーミングセンスだ。
「はぁ!?法杖!?どう見ても超巨大な二連式散弾銃でしょこれ!?あんた、変わったね。昔だったら、兄さんの発明なんて全部鼻で笑ってたくせに!」
散弾…銃?っていうか、銃!?ちょっと待ってくれ、それは何だ?剣と魔法のこの世界に、そんなものが存在していたなんて、聞いたことないぞ?
いや、南森家が火砲を扱えるって噂は聞いたことあるけど…小型の鉄砲、「銃」ってやつか?今日はいろいろと目からウロコだな。
「これも全部、君のおかげよ、風鈴!君が教えてくれたのよ!弱いって、こんなにも悔しいことなんだって!戦うには、魔法だけじゃなくて、科学技術も必要なんだって!」
「うわぁ…なんか、本気で怖くなってきたんだけど、綾?」
「それでいいのよ!魔法では『君』に敵わない、戦いでは『浅草』に敵わない、技術では『兄さん』に敵わない――でも!『一番』はなくても、『二番』を三つ持ってる私に、期待しときなさい!!」
…もう確信した。この二人、仲良すぎる。
一見、敵意に満ちたやりとりに見えるけど――実際は、ただの掛け合い漫才だ。僕にはよくわかる。これは信頼の証だ。
「ちょ、待って!その散弾銃、まともに喰らったら、僕、ホントに死ぬやつじゃない!?」
「ふんっ、今さら弱音?安心しなさいよ――君のような相手に、弾なんか撃つほど本気出すつもりはないわ!」
「おおっ、その優しさ、ありがたく受け取るとしようか!――影の境界・黒闇願影!」
一瞬にして、風鈴が最強の結界魔法を発動させた。
曼珠沙華の幻影が咲き乱れ、深淵のごとき暗黒世界が、ふたたび僕の目の前に現れる。
かつて、あの滄溟ですら怯えて動けなくなった黒の結界。だが、暗黒の中にあっても――星のようにきらめく少女は、まったく怯むことなく、そこに立っていた。
「ふん、いいサプライズじゃない!そういえば、あのときの私たちの戦いも、『寂滅谷』の彼岸花の中だったっけ。いいわよ――今の私の星光で、あんたの幻影、全部吹き飛ばしてあげる!」
綺羅星の銃口から、無数の星の光がほとばしる。まるでこの黒の世界を引き裂くような、鮮やかな輝き。
結界内の風鈴は、魔力も身体能力もすでに限界を超えていた。もはや詠唱もいらず、数秒で高位魔法を次々に放っていく。
灼けつくような炎が咆哮を上げ、彼女の黒刀、『無銘・星滅』がその魔焔を伴って襲いかかる。
――だが。その銃の間から放たれた星光が、すべてを飲み込んだ。灼熱の炎すら、美しすぎる星の奔流には敵わなかった。
「僕の結界の中で、そこまで反撃できるなんて!やっぱり、綾、あんた成長したんだね!」
「当然でしょ!私も南森よ。兄さんに負けない『南森綾』だよ!今こそ見せてやる、私の覚悟を――風鈴ッ!!」
あんなに巨大な武器を手にしていながら――綾は、信じられないようなスピードで風鈴へ突撃してきた。
まさか、あの鉄塊みたいな得体の知れない武器が、剣のように軽やかに振るえるなんて、誰が想像できただろう。
いや、それができるのが南森綾という少女なのか。この怪力、尋常じゃない。
散弾銃の銃剣が黒刀とぶつかり、澄んだ金属音が響く。
風鈴も、さすがに驚いた様子だった。これほどの猛攻には、彼女でもまともに対応できないようで、動きに乱れが出始めていた。
僕の目から見ても、スピードは風鈴と互角。だが、力は明らかに綾の方が上。身体能力そのものが、もはや強者の領域に達している。もしかしたら、あの力の化身・天雲竜一ですら、まともにやり合えば分が悪いかもしれない。
信じられない。
風鈴が。竜一にもヒカリにも一歩も引かずに渡り合ってきた彼女が。今はこんなにも押されているなんて!やっぱり、彼女の上にも、「上」がいるんだ――
力の差が、あまりに大きすぎた。ほんの数秒。数合のぶつかり合いの末、風鈴は完全に押し込まれた。
けれど。
型が崩れきる直前、彼女は一瞬の隙を見逃さなかった。反射的な判断と素早い身のこなしで、間一髪で間合いを離脱する。紫の影が、曼珠沙華の海へと溶け込むように、姿を消す。
それを目で追った綾は――まるで想定済みだと言わんばかりに、不敵に笑った。
「逃がさないよ――『星の空想・超新星』!」
瞬間、空がきらめく銀河に包まれた。
続いて、空間にぽっかりと黒い穴が開き、銀河の光は泡のように、そこへと吸い込まれていく。
それは、星々だけじゃない。世界すらも呑み込もうとする、重力の極み。そして――すべてを収束させたその黒点は、やがてひとつの特異点となる。
「――はいやっ!!」
綾がその特異点に向けて、銃口をまっすぐ突きつける。次の瞬間、轟音と共に、超高温の星炎が撃ち出された。それは特異点に触れ、そして、一瞬のうちに爆ぜた。
ビッグバン。宇宙の誕生のような、破壊と再生の始まり。世界が、純粋な星の魔力で塗り潰されていく。まるで宇宙が再構成されるかのように――
…誰が予想できただろう。高位にある「境界」級の結界魔法が、この「空想」級の星の魔法ひとつで、跡形もなく吹き飛ばされるなんて。
闇の中に咲いていた曼珠沙華の群れは、光の奔流に呑まれ、灰すら残さず砕け散った。
風鈴は結界に守られていても、綾には敵わなかった。そして、結界を失った今――彼女の本体は、完全に無防備な状態で露出した。
「『星の霊・綺羅花火』!!」
次なる一撃。
あの高技術兵器、「銃」が放つ魔力の弾丸の速さには、風鈴すら反応しきれなかった。星炎を喰らった彼女は、その場でバランスを崩す。
…もう、勝負はついた。
それでも、綾は止まらなかった。迷いなく風鈴の懐へ踏み込み、綺羅僕の銃剣で星滅の刃を弾き飛ばす。
さらに。風鈴の動きが完全に止まったのを確認した綾は、ためらうことなく、鋭く蹴りを放った。
それは、決して過剰ではない。でも、十分に痛みを伝えるだけの威力はあった。
風鈴の腹部に直撃した蹴りに、彼女は苦しげな声を上げ、思わず身をかがめて腹を押さえる。
そこを逃さず、綾は即座に身をひねる。鋭い肘が、風鈴の肩へと突き刺さる。
「…いったぁ〜〜〜!!」
風鈴の叫びが、試合最後の音となった。
この薄桜城国立大学の競技大会を勝ち抜き、竜一、滄溟、悠奈、ヒカリ――名だたる強者たちを次々に打ち破ってきた少女が。
今、ひときわ小さな音を立てて、地に崩れ落ちた。
「――ピィッ!!」
試合終了のホイッスルが鳴る。
わずか五分にも満たない戦いは――
天時郡皇家大学の代表、南森綾の圧倒的勝利で幕を閉じた。
「綾…僕の負けだよ…っていうか、あんた…手加減って言葉、知ってるか!」
地面に倒れた風鈴が、息を切らしながら笑っていた。
「こうでもしなきゃ、私の本気が伝わらないでしょ?」
「うん…そうだ…南でも、綾でも…やっぱ南森家の人間って、化け物ばっかだな…今回は、完敗。今のあんたには、敵わないよ、綾…」
「ふん、それがわかってくれたならいい。じゃあもう、昔みたいに私を置いて行ったりしないわね?」
「…しないよ。もう、絶対しない…」
「よしっ!」
満足そうにうなずいた綾は、真剣なまなざしで風鈴を見つめた。
「今日、私が勝ったからには――ひとつだけ、君にお願いを聞いてもらうわ!」
「お願い?」
「…今日から、少なくとも明日の朝まで。その間、ずーっと!私のそばにいて。ちゃんと付き合って。ずっと一緒にいて!!」
人目も気にせず、そんなことを言ってのけるとは。さすがの綾も、顔を赤くして少し照れていた。
まあ、わかるよ。これだけの年月、離れていたんだもんな。僕だって、何年ぶりかに大切な友だちと再会できたなら――きっと、一分一秒でも長く、一緒にいたいって思う。
「え…それだけ?」
風鈴が、ニヤリと綾を見つめる。
「そ、それだけよっ!」
綾はブンブンとうなずいた。
「本当に?」
…やれやれ。風鈴、ほんとブレないよな。こんな場面でも、しっかりイジりにくるあたり、まったくもって彼女らしい。
「こ、このっ!君ってやつは――!!」
綾は顔を真っ赤にしながら、風鈴の耳をぎゅっと引っ張った。
「いだだだだっ!ごめんってば、ごめんってば!!行く行く、あんたについてくから~!!」
…その威力、バツグンだったらしい。風鈴はあっさり白旗を上げて、素直に綾に従うことにした。
そして――
穏やかで、どこか懐かしい空気に包まれて。二人の少女は、同じような笑顔を浮かべながら、並んで会場を後にした。
…ふぅ。
本当は今日、試合が終わったら風鈴と合流して、爆破計画の話を詰めるはずだったんだけど。こりゃ、今日は無理だな。
そういえば…先覚塔の爆破、その日は…
もう、二日後に迫ってるんだ。




