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この世界の光と影  作者: 混乱天使
第三章 薄桜城、白夜残影
56/65

其の十 縁起

 穏やかな午後。

 背中を桜の木に預けて、ふわふわした絨毯みたいな芝生の上に寝転がる。血みたいに赤い桜の花びらが、ひらひらと頭の上に舞い降りてきた。

 春の陽射しってやつは、思ってたよりあったかくはない。むしろ、ちょっと寒いくらいだ。桜の枝の影が、金色の光をいくつもの斑に切り分けて、体の上で揺れている。

 少し離れたところでは、二人が魔法の練習中だった。

 高身長の少年が、地面をドンと踏みしめる。それだけで、ものすごい突風が巻き起こり、空へ向かってぐるぐると広がる渦を作っていく。

 その風に合わせるように、紫の少女が、ふわっと宙に舞い上がった。まるで軽やかな鳥みたいに、風の上昇気流に乗って、くいっと空中に浮かぶ。

 だけど、その上昇は長く続かなかった。地面からおよそ三メートルのあたりで、少女の体はふっと止まり、数秒間その場に浮かび続ける。

 下を見下ろし、軽くうなずく。

 竜一はそれに静かに応えた。

 ゆっくりと足を下ろすと、さっきまでの突風がすっと収まっていく。

 少女の黒いマント「霧の紗」が、大きなパラシュートのように広がって、ゆっくりと降下を始めた。

 でも、まだまだ不慣れらしい。空中で体勢を保とうと、必死になってバランスを取っている。

 彼女は空気に漂う風の気配を感じ取りながら、集中してその残り香のような魔力を引き寄せて、マントの下に集めていく。風の魔力が少しずつ集まり、霧の紗の下にはかすかな気流が生まれた。

 そのおかげで、風鈴の体は羽のようにふわっと地面へと降りていく――はずだった。

 けど、その瞬間。魔力が尽きた。

 「わ、わっ!」

 バランスを一気に失って、風鈴の両足がふっと持ち上がる。空中でくるっと半回転して、まるで雲の中で寝返りを打つみたいに体が傾いた。

 霧の紗が彼女の体にぴたっと張り付き、緩衝力も魔法のサポートも消えたその状態で。少女は、流れ星みたいに真っ逆さまに落ちていった。

 そのとき。

 再び竜一が、地面を力強く踏み鳴らす。赤い桜の花びらが、ぶわっと舞い上がる。

 新たな突風が吹き荒れ、風鈴の真下で爆風のように炸裂した。

 その風に乗って、風鈴は空中でぐるんと体勢を立て直す。まっすぐに、垂直に――「立ち姿」へ戻る。

 霧の紗が再びふわりと開き、落下速度が一気に緩やかになった。

 そして。

 …すとんっ。

 軽く着地した羽のように、地面に降り立った。

 「悪くない。もしもう少し風の魔力を正確に掴めていれば、魔力切れなんて起きなかったはずだ。」

 「うぅ、むずかしー…」

 竜一が、ふっと笑って彼女の肩を軽く叩いた。

 「今日はここまでにしよう。でも、時間あるときはちゃんと自主練も忘れるな。」

 「はいっ!竜一先生っ!」

 元気よくうなずく。

 と、そのとき。

 「おーい!竜一君!今度は私の番でしょーがっ!」

 屋敷の三階の窓から、悠奈が顔を出して、手をぶんぶん振っていた。


 「ひぃぃぃぃぃ……!」

 隣の少年「滄溟」が、またも情けない悲鳴を上げた。

 ……って、おいおい、逃げようとしてんじゃねぇよ。慌てて、彼の腕をがっしりと掴んだ。

 ――なぁ、滄溟。あれだけ毎日僕のこと「チキン野郎」ってバカにしてるくせに、あの紫の怪物少女と真正面から対峙して生き残ってる僕がここにいるんだよ?そんな僕の前で、なんでお前が震えてんのさ。

 「ふ、ふざけんな!だ、誰が怖がってるってんだッ!俺様?」

 必死に言い訳してるけど、腕がぶるぶる震えてるぞ、それ。いや、これはもう「逃れようとする動き」じゃなくて、「本能的なビビり震え」ってやつだ。

 練習が終わった後、風鈴が僕たちの方に歩いてきた。

 彼女がぐっと近づいた瞬間、滄溟はぎゅっと目をつむる。完全にビビりきっている。

 小さくため息をついて、何も言わずに僕の左隣へと腰を下ろした。こうして僕は、必要不可欠な「緩衝材」として、二人の真ん中に鎮座することとなった。

 「強い邪霊はたくさん見てきたけど、ここまでビビり倒してるのは初めてかも。普通の亡霊らって、僕のことを『仲間』と勘違いして、挨拶したこともよくあるけど…目の前で固まってガクブルしてるのは初。」

 「う、うるせぇ!誰がビビってるってんだと!つーか、そもそも貴様だろ!?初対面でいきなり無言で刀抜いて突っかかってきたのは!」

 「だってさ、人間の集団にまぎれてるくせに、めっちゃ強い邪霊がひとり混ざってたら、そりゃびっくりするでしょ?あんな場面で冷静になれるわけないって。それに、あなたが逃げたから追いかけただけだし?」

 「て、てめぇぇぇ……!!!」

 反論したいけど、論破されてるせいで言い返せない滄溟。地面を拳でバンッと叩いて、ぷいっと顔をそらす。

 …やれやれ。こりゃ僕の出番ってやつだな。

 風鈴も滄溟も、僕たちのチームの中で文句なしの戦力トップ。この二人が仲違いすると、戦力的にも精神的にもマジでキツい。

 ――はいはい、そこのお二人さん。もう誤解も解けたんだから、仲良くしなよ?そもそもさぁ、ちょっとは僕の気持ちも考えてほしいわけ。こっちはさ、ひとりは怖ろしい邪霊で、もうひとりはそれを上回る勢いの恐怖系女子なんですけど?この二人がケンカしだしたら、マジで僕が消し炭になる未来しか見えないだろ?ってことで、はい、仲直りの儀式。手ぇ出して?

 左手で風鈴の右手を、右手で滄溟の左手をがしっと掴む。そして、そのまま勢いよく「バチン!」と二人の手を強制的に合わせた。

 風鈴は無表情で、あくまで冷静なまま…

 と思いきや、こっそりイタズラっ子みたいに、滄溟の手をキュッと握りしめた。

 「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!!!」

 蒼い少年は、魂が抜けたかのように、そのまま草の上に崩れ落ちた。

 「…くっそ。竜一に迷惑かけたくねぇから我慢してただけだっつーの…こんな奴と向き合うくらいなら、あの大鎌の中に封印されたままの方がまだマシだ…」

 あ、まだ意識はあるらしい。しかも、ちゃんと文句は言えるくらいには元気。さすがは邪霊、しぶとい。

 「封印されてるって、普通は強者の証だけど……君くらいのビビりさんなら、犬用のリードでも充分だったんじゃない?」

 「な、なにぃぃぃぃぃ!?」

 屈辱が怒りに変わり、それが燃料となって、さっきまで脱力してた少年が勢いよく跳ね起きる。

 「今…今この俺様を犬扱いしやがったな!?貴様なんか、亡霊よりタチ悪い化けモンババァじゃねぇかぁぁぁ!!今こそ、この俺様が成敗して――!!」

 全部の恐怖を忘れて、怒りのままに風鈴を指さして叫ぶ滄溟。

 だけど――

 「は?」

 彼女が返したのは、氷みたいに冷たい視線。

 その一言で、世界は止まった。

 「ひぃぃぃぃぃぃ……」

 はい。勝負、あっけなく終了。

 やっぱり滄溟の指定席は、この柔らかな草の上しかないらしい。

 まるで真理にたどり着いた大賢者みたいな顔をして、「すべてを受け入れました」みたいな、悟りの境地に至っていた。

 恐怖という名の毛布にくるまれて、草のベッドに安らぐ少年。

 その口元には、うっすらと安堵の笑みが浮かび、目を閉じる。

 ――風鈴、お前…完全にトドメ刺してんじゃん。

 「刺してねぇしッ!!」

 おお、まだ喋れる余裕あるのか。

 ていうか、目を開けてすらいないじゃん。

 なるほど。風鈴の顔が見えなければ恐怖が半減するって理屈か。さっすが、邪霊「滄溟」様…小心者界のレジェンド。


 少し離れた場所では。はい、出ました。リア充爆発案件。

 恋する少年少女が、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにイチャイチャしていた。

 竜一が、鮮やかな野の花を手に取り、草で編んだ冠にそっと差し込む。そして、姫に戴冠する騎士のように、その冠を悠奈の頭にふわりと乗せた。

 「もう。ズルい…」

 そう呟きながら、恥ずかしそうに竜一の胸をポカポカと叩く。でも、その頬には真っ赤な笑みが咲いていて。嬉しさが隠しきれず、顔からこぼれ落ちそうだった。

 そのまま二人は、庭のカフェテーブルへ移動して、ゆったりとティータイムに突入。

 悠奈が二つのカップにコーヒーを注ぎ、さらに透明な瓶から、何やら緑色の粉末を取り出して。さらさらっと、コーヒーの表面に振りかけた。

 抹茶?え、悠奈って抹茶派だったっけ?

 いや、待てよ。その緑色、なんか違う。いやいや、まさか、まさか――

 あれ、「甘草」じゃん!!!

 あ、ありえない…まさか、ほんとにやるつもりか!?あの伝説の、「甘草コーヒー」ってやつを!?

 っていうか、竜一…お前、マジで飲もうとしてないか!?

 飲んだぁぁぁ!!!

 しかも。なんか、うなずいてる!?笑ってる!?親指立ててるぅぅぅ!?

 おい、マジで!?

 それ、彼女に気を使ってのリアクション?それとも本気で「ウマい」とか思ってんだか!?

 もしかして、僕の味覚がおかしかったのか?風鈴が前に「甘草美味しいよ」とか言ってたの、本当だったのか?

 ――って、違う違う違う!今はそんなこと考えてる場合じゃない!

 しっかり見るんだ、僕!しっかり学ぶんだ、僕!これは貴重な「先輩カップルのリアル恋愛実践」なんだぞ!?

 いつかきっと、何かの役に立つ…かもしれないし!そう、未来の自分のために、今はひたすら吸収だ蘭空祈っ!!

 

 ――ああ、いいなぁ…デートってやつはさ。

 思わず、心の底からため息が漏れた。

 ただの何気ない、ほんの小さな感想だったはずなのに。風鈴がすかさず察知してきやがった。

 そのニヤニヤした顔を見ただけでわかる。あ、これ絶対、何か仕掛けてくるやつだ。

 「ふふ~?祈君、今なんのこと考えてたのかな?もしかして――好きな子でもいるの?」

 くっ…なんてストレート…!!

 もうちょっとオブラートってものを使おうよ!?言い方ってもんがあるだろ!?

 でもわかる。これが「単刀直入」ってやつだ。回避も、かわしも許されない、一撃必殺の真正面パンチ……!

 だが、今回はそう簡単にはいかないぞ!

 風鈴、お前には悪いけど…今回ばかりは僕が一枚上手だ!こんな程度の挑発、僕が乗っかるわけないだろ。何を隠そう、僕は「王国斥侯」で、蘭空家の名を背負う貴族だぞ?こんな質問ひとつで動揺するほど、ヤワじゃない!

 ――ふふん、いるよ、好きな人くらい。「蘭空」だ。

 「どの蘭空?」

 くっ…しつこいな。だが、それでこそ風鈴。

 いいだろう、ならば正々堂々と言ってやろうじゃないか。みんな分かってることだし、包み隠すことでもない!

 ――「蘭空ヒカリ」さ。風鈴、お前もさぁ、たまにはヒカリちゃん見習ったらどうよ?ああいう子こそ「理想的な女の子」ってやつなんだよ。お前はもう、性格も行動も男子より野性味あふれててさ…このままだと将来、恋愛とか無理だろ?

 「ちっ……」

 ――で、風鈴はどうなんだ?

 ふふん、今度はこっちのターンだぞ。しっかり答えてもらうからな。

 「僕?うーんとねぇ……」

 へぇへぇ、思った通り即答できない感じ?わかりやすいなぁ。その「迷い」こそが、僕の突っ込みチャンス!

 ――で?誰?

 「南森。」

 隣の少女が、わざとらしくウィンクしてみせた。

 あれ。ふつうに即答してきた。

 ――南森、ねぇ。あー、まあ納得っちゃ納得。風鈴って、昔は南森の助手だったんだよな。そりゃあ、あんな若さで城ひとつ治めてる化け物みたいな人間「南森南」だったら、女の子にモテても不思議じゃないか。

 「そうそうっ」

 少女が嬉しそうに頷く。

 ふむ。これは、今回の勝負、引き分けってとこかな。いや、いやいや、ちょっとだけ僕の勝ちかも?風鈴の好みが分かったし、こっちは情報得たぞ?まあ想像の範囲内ではあったけども。

 にしてもさ、なんか忘れてる気が。

 …あっ。

 ――おーい、滄溟。

 さっきから草の上に転がってる滄溟を、ぐらんぐらんと揺さぶってみる。だがこいつ、まるでスライムのごとくぐにゃぐにゃ動くだけで、まったく反応なし。

 ――お前、まだ死んだフリしてんのか?ああ、分かったぞ。僕ら二人にも恋愛対象がいたって知って、嫉妬してんだな!?はいはい、かわいそうに~!同情はしないけどねぇ!?

 「なっ、なんだとぉぉぉぉぉ!!!」

 はい、きた――。

 この煽り、滄溟にはマジで効く。こいつって、ある意味いちばん扱いやすいタイプだよな。

 瞬時に復活した滄溟は、鬼の形相で上半身を起こし、僕をぎろっと睨みつけてくる。

 「誰がそんなことでグチグチしてるってんだ!その侮辱、万死に値するぞ!!」

 ――じゃあさ、お前も語ってくれよ?滄溟の恋バナ、ちょっと興味あるよ。

 「は…仕方ないな。今回はこの俺様が特別に。そう、特・別・に!!貴様ら凡人に、邪霊界のロマンというものを教えてやろうじゃないか!!」

 そう言って、滄溟が指をパチンと鳴らすと、空中にふわりと呪力の流れが生まれ、そこから一枚の羊皮紙が現れて――

 ゆっくりと彼の手の中へと舞い落ちた。

 ――えぇ……!?

 僕と風鈴は、思わず顔を見合わせる。そして、興味津々で羊皮紙を覗き込んだ。

 邪霊の恋愛事情なんて、我々人類からしたらレア情報すぎるだろ。普通に気になるわ、それ。


 羊皮紙の上に描かれていたのは――誰か、じゃなくて、「何か」だった。

 うん。どう見ても、「誰か」って感じじゃない。それは、滄溟と同じ「邪霊」に属する存在らしい。

 小柄な女の子。見た目だけなら、可愛い系ってやつだ。

 白っぽい髪?いや、灰色がかってる?もしかして、古びた羊皮紙のせいでそう見えるのか。

 ――って、いやいやいやいや!?これ、髪じゃない!!触手だろ!?完全にタコの触手だろ!?

 無数の触手が頭から生えてて、深海の怪物みたいだ。その白い触手と、くすんだ黒灰色の肌が、妙に対照的でインパクトがすごい。

 ちっちゃな顔には、金色に輝く瞳。宝石みたいだった。

 ……

 ――滄溟、お前さ…そういう趣味だったのか?ロリが好き?いわゆる「ロリコン」ってやつ?

 「はあ!?何言ってんだ!!あいつの年齢、俺様より全然上だからな!ってか、教えてやるよ。このお方は、我が亡霊連邦の大賢者、連邦の肩書き『異蛸』。邪霊の中でも、ほぼ二番目の存在なんだぞ!?」

 ほう、なるほど。別に嘘ついてる感じでもないな。まあ、亡霊の世界ってのは、僕らの想像よりもずっと複雑なんだろう。

 「『異蛸』…ああ、聞いたことあるかも。で、君は?肩書き『滄溟』の邪霊さん、どうして母国を離れて、今は人間の仲間になってるの?」

 「それがさぁ……」

 滄溟が、長いため息をついた。その声の奥に、どこか果てしない哀愁が漂っていた。

 「話せば長くなるんだが。まあ数百年前さ。俺様はな、禁忌の研究をしていたことで、最強の邪霊『黒燭』に罪を問われて、大鎌に封印されたのさ。」

 「『黒燭』…邪霊の頂点、『黒燭』のことね。そんな名前、伝説級だね。」

 「そうそう。そのとき俺様は、全力で『光の呪術』を放って、自分の体を世界のどこかへと転送した。けどな、力を使い果たして、そこから長い眠りに入っちまったわけだ。」

 「…光の呪術?君、邪霊なのに?」

 「ふっ。風鈴、君だって人間のくせに呪術のような影の魔法使えるだろ?俺様も同じで、邪霊だけど、癒術のような光の呪術に興味があったんだ。でもな、光元素は我々亡霊にとっては天敵。だから当然、禁術扱いされる。ま、そういうわけで、追放されたってワケだ。」

 「うーん、それは…なかなかキツい過去ね。」

 「だろ?でもな、ある日、例の大鎌を竜一が見つけてくれてさ。それで俺様は目覚めて、彼に憑依したってワケだ。その大鎌も、俺様の肩書き『滄溟』を受け継いで、竜一の第二の武器になったのさ。」

 ――ん?そういえば、風鈴の霧の紗も、竜一にすぐ見抜かれたっけ……

 「だよなー。あいつ、何気にめっちゃ観察眼鋭いんだよ。」

 「つまり、滄溟は竜一のそばにいなきゃいけないわけだ。ってなると、異蛸とはいつ再会できるかも分かんないね。」

 「……チッ。」

 滄溟が肩をすくめ、どこか寂しそうに笑った。

 「風鈴。君って、ほんっと容赦ない毒舌だよな…」


 みんなでまったり恋バナしてた、そのとき。

 いつの間にか、二人のちびっ子が僕たちのところに来ていた。

 「星。こっち来て、いいか?」

 悠希が、僕の袖をちょこんと引っぱる。

 「影。こっち来て、いいよ。」

 悠寧が、風鈴の髪をつまんで引っぱる。

 ――ん?どうした、この二人。まさか、ちびっ子なりに恋愛の話でもしたくなったとか?

 「ちがうよ?ねぇ、妹?」

 「ちがうよ。そう、兄さん。」

 二人はぴたっと目を合わせて、こくりと同時にうなずいた。

 「星。心の儀式、準備できた。テスト、受けてみない?」

 悠希が、まっすぐな目で僕を見つめてくる。

 「影。世の旅、準備できた。テスト、受けてみよう。」

 悠寧が、にこっと可愛らしく笑って、風鈴にそう言った。

 え、なにを。

 心?世?

 なんか初めて聞くはずの単語なのに、どこかで聞いたことあるような――

 待って…心、世?世界……?

 もしかして――

 『心界』か!

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