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この世界の光と影  作者: 混乱天使
第三章 薄桜城、白夜残影
53/65

其の七 弐の残影・野良星

 三四八六年、星癸月・第四の火丁日。真冬の午後。

 屋敷の最上階、あの古びた屋根裏へ。鉄製の螺旋階段をぎしぎしと登っていって、低くて豪華な木の扉をそっと開けた。湿ってて、ちょっと埃っぽくて、でもどこか懐かしい――そんな木の匂いが、ふわっと鼻をくすぐる。

 ……なんか、落ち着く。

 どうせ誰もいないと思ってた。けど、いたんだ。星の光みたいにきらきら輝く、あの光の中に――小さなふたつの影が、浮かび上がってた。

 「誰か、入ってきた?妹。」

 ふわっとしたピンク色の短髪。男の子が、こちらを振り返る。

 「誰か、入ってきたみたい。兄さん。」

 今度は、長いピンクの髪の女の子が、振り返る。

 ――えっ…ご、ごめん。まさか誰かいるとは思わなくて……あの、僕は――

 「知らない人?」

 男の子が僕の言葉を遮って、女の子を見る。

 「知らない人、だね。」

 女の子が、男の子を見る。

 ――えっと、その。僕は…祈、だ。

 「星?星だな。」

 男の子が訊く。

 「星。やっぱり星だよ。」

 女の子が答える。

 「みて。『新世界』が、ちゃんと予告してくれた。星が来るって。」

 女の子が、光を放つ水晶球を指さす。

 「ああ、やっぱり。星だ。」

 男の子が、こくりと頷いた。

 ――あの…?

 『地獄の魂霊のルーンは冥泉の花びらに書かれ、七と四分の三の角度で回転する。人形は血肉を交換し、黒き太陽を地平線から奪い取る。偽りの雛鳥の嘘は山脈を追放し、宇宙に反射した死光は、血涙の瞳に哀悼を捧げる。そうだろ、妹?』

 『異界より来た古の秘文は、蒼白の伝説を断頭台に捧げる。無垢な雲の胸腔で、輝く種が罪の花を咲かせる。高き壁は凝結し、殉教者の卑劣に溜息を吐く。四方の羅針盤を逆回転させ、不滅の王は法の庭に葬られる。そうだね、兄さん。』

 「どうも、星。蘭空悠希、霊媒師。」

 少年が立ち上がり、僕の方を向いて、少しだけ首を下げた。

 「どうも、星。蘭空悠寧、占い師。」

 少女も立ち上がり、僕に向かって、静かにお辞儀した。

 ――あ、えっと、どうも…あの、ここって……

 「ねえ、妹?」

 「うん、兄さん。」

 「星は――侵入者かな?」

 「星は――侵入者だね。」

 「侵入者は、本来ここにいてはいけない。僕が星を、天から引きずり下ろすべきかな、妹?」

 「侵入者は、ここにいてはいけない。そうだね、星を静かな湖に投げ込もう、兄さん。」

 おかしい。この二人、急に何かに合意したみたいに、ぴたりと視線を交わし――そして、こくりと頷き合った。

 次の瞬間。二つの視線が、同時に僕を射抜いた。

 少年の目には、静かな怒りの中に――確かに、残酷な殺意が宿っていた。

 少女の目には、冷たい拒絶の奥に――はっきりと、敵意があった。

 ――は、はい…わ、わかった。ごめんなさい、ごめんなさい。失礼…

 まぁ、そうだな。この屋根裏は、もう二人の「秘密基地」なんだ。僕みたいな外から来たやつなんて、歓迎されるはずない。

 ちゃんと察して、僕はぺこりと頭を下げて、そっと扉を閉めて階段を降りる。

 そして。

 階段の下で、ある少女が、僕に手を振っていた。


 ――…蘭空。

 「も~う、何度も言ったでしょ?『悠奈』って呼んでいいのよ?もちろん、『お姉さま』って呼んでくれたら、もっと嬉しいけど?」

 ――うん。…ゆ、悠奈。

 「ふふっ、そんなにかしこまらなくてもいいのに~。これからは、私たち――家族になるんだから。」

 やわらかい笑顔が、彼女の顔に咲いた。そして、ぱたぱたと駆け寄ってきたかと思うと、僕の手をそっと握ってくる。

 「祈、さっき…悠希と悠寧に会ったんでしょ?」

 ――はい。見ての通り、追い出された。

 「ぷっ」

 ――はぁ…

 思わず、ため息がこぼれた。

 やっぱり…来たばっかりなのに、もう嫌われたかもな。まあ、蘭空家に拾ってもらえたおかげで命は助かったけど――でもなんだろう。どうしても、胸の奥がちょっと寂しくなる。

 「もう、そんなに気にしないの。悠希と悠寧、別に悪い子じゃないのよ。あの子たち、まだ七つ八つだから、ちょっと変なことするのが好きなだけ。子どもの世界って、そういうもんよ。」

 ――って言っても、僕もまだ十一歳なんだけど。

 「祈は私より一つ年下なだけで、全然子どもっぽくないんだもん。うーん、むしろ『大人』って感じ?かっこいい!」

 僕は小さく笑った。苦笑、ってやつかな。

 …まあ、わかんないだろうな。

 毎日をお気楽に過ごしてる貴族の人たちには、きっと僕のことなんて理解できない。

 生まれたときから捨てられて、生きるだけで精一杯だった僕みたいな人間のことなんて。この世界からの優しさを、ちゃんと受け取れたことなんて、たぶん一度もない。きっと、そのせいで心も…ずいぶん前に、年を取っちゃったんだ。

 …でもまあ、悠奈には悪気はないし。少なくとも、彼女の優しさは――嘘じゃない。

だから、僕もちゃんと向き合おう。この「新しい姉さん」に、ちゃんと優しくしてあげようって、そう思った。

 「そういえば、祈はどうして屋根裏に行こうと思ったの?」

 ――ああ、そのことか。話すと…ちょっと長いよ。実は、昔。暮光城にいた頃は、ずっと屋根裏で暮らしてたんだ。

 そう。星野孤児院を出て、いろいろ苦労して――

 やっとのことで、霧間伯爵家の坊ちゃんのご機嫌を取ることに成功してさ。それで、彼の「専属の従者」として屋敷に住み込みで仕えることになったんだ。

 「彼らは皆、愚か者だぞ!俺の偉大なる計画を理解しない。でも君は違う、祈。君だけは俺を理解してくれる!そうだろ!」

 ……まあ、正直言うと、僕も魔法使いそっちのけで弓とかクロスボウをいじってるのって、どうかと思ってた。

 けど僕は、ただただ完璧に。坊ちゃんの「心の中」を理解してるフリをした。坊ちゃんのために働けるのなら、僕はなんだってやります。

 「うむ!では、弩の作り方を教えてやろう。たった一度だけしか教えないから、ちゃんと覚えろよ?」

 ――全力で、がんばります。

 「よろしい。今日の雑務を全部終わらせたら、夜までに弩の矢を最低でも二十本作っておけ。明日の朝、庭で新型弩の威力を試すぞ!」

 ――了解です、坊ちゃん。

 …はぁ。

 今思えば、あの日々は。不幸だったのか、幸運だったのか、もうよくわかんない。

 たしか、あの晩は、僕一人で三十五本の矢を作ったんだよな。指の皮が擦り切れて血がにじんで、夜中の一時まで作業して。最後は「『霧間瞳』って、クソ野郎!」って悪態つきながら、泥のように寝落ちした。

 翌朝は、わざとらしく笑顔で、瞳の新兵器完成を祝ったよ。坊ちゃんは、本気で喜んでた。けど、僕は内心ずっと罵ってた。

 ……まあ、全部。もう過去のことだ。

 瞳は死んだ。

 『暮光城』は滅んだ。

 赤月が、あの空を覆った。

 つまり、あの頃のことは。もう、僕には関係ないんだ。

 霧間家のことなんか、考える必要もない。今、僕が向き合うべきなのは、僕の「新しい家」――蘭空家だけだ。

 ――ってわけ。だから、屋根裏に来たのも、ただのクセだよ。前からそうだったから、なんとなく落ち着くってだけ。あっ、もちろん! 蘭空家にもらった部屋は最高で…前の屋根裏なんかより、何百倍も快適で。ぜんぜん、不満とかじゃないからね!

 「もー、祈はそんなに気を使わなくてもいいのに~。そのうち、ここでの暮らしにもきっと慣れるよ。」

 ――はい、がんばるよ。ところで、悠奈。その…僕はいつから「就任」すればいいんだろう。蘭空様、いや、偉大なる蘭空家に仕えるために。

 僕は至って真面目だった。けれど、目の前の少女は、まるでおかしなコントでも始まったかのように――ぷっと吹き出して、笑い出した。

 …強く湧き上がってくる嫌な感情を、なんとか押し殺して。僕はただ、まっすぐに悠奈を見つめていた。返事を、待ちながら。

 「祈くん、君はさ……最初から言ってるでしょ。今の君は『蘭空祈』。お父さまの息子で、おじいさまの孫で――私の、大事な弟なの。つまりね、祈はもう蘭空家の「家族」なの。働きに来た使用人なんかじゃないんだよ?」

 …うん。わかる。

 悠奈は、何も偽ってない。

 彼女が言った言葉は、たぶん、そのまんま彼女の本心なんだろう。

 …ほんと、いい貴族だなって思った。この「ひどい世界の貴族たち」の中で、ほんのわずかに存在する、「ちゃんとした人」。

 もしかして、考えを少し変えた方がいいのかもな。もしかして、蘭空家のみんなって――本当に、いい人ばっかりなのかも?

 …いや、違う。待て。待って。まだ早い。

 油断は禁物だ。何も、終わってない。だからこそ、僕は――信じちゃいけないんだ。

 だって僕は、こんなにも脆くて、ちょっとした風で吹き飛びそうな、ただの「枯れ草」みたいな子どもだから。だから、いつも――ずっと、警戒してなきゃダメなんだ。

 誰かの優しい言葉に、簡単に心を許したら、生き残れない。やり直しなんてできない。失敗は、許されない。

 僕は、そうやって――

 十一年間、生きてきた。

 そう。だから今もまた、そうする。ふいに浮かんだ「嬉しさ」を、ぐっと押し殺して。

その代わりに、疑いと警戒心を、もう一度、脳の奥に引っ張り出してくる。

 「ん~? なに考えてたの、祈?」

 ――あ、やば。気づかれた…いや。なんでもないよ!ちょっと、嬉しくて。ありがとう、悠奈。

 「ふふっ、いーのいーの。これからは、私のほうこそ祈に頼っちゃうからね?」

 その声は、あったかくて。その笑顔は、あかるくて。

 ピンク色の少女は、まるで、ぽかぽか燃えてる炎みたいだった。それでいて、ふわりと香る春の花みたいに、優しくて。

 「そうだ、祈。さあ、行こ?兄さんが待ってるの。」

 ――はい。


 二階の廊下をずっと奥まで進んで。その突き当たりにある部屋の扉を、そっと開けた。

 一気に、異様な空気が流れ込んでくる。

 大小さまざまな瓶や壺の中には、色とりどりの液体が満たされていて。正方形のガラス容器には、たくさんの死んだ動物たちの身体が液体の中に沈んでいた。

 奇妙な金属の道具と機械が、巨大な作業台の上に乱雑に並んでいて。石みたいに分厚い本が十数冊、塔のように積み上げられていた。

 さっき感じたあの匂い。きっと、この薬品たちが発する混ざり合ったガスの匂いなんだろう。別にいい匂いってわけじゃないけど、気持ち悪くなるほどでもなかった。

 「ああ、来ましだ。」

 ピンク色の髪の少年が、手に持っていたルーペを金属製のケースにそっと収める。

 そして、小さなピンセットで、綿の布の上に横たわっていた虫の死骸を掴み、すぐそばのガラス瓶に落とした。虫は底まで沈み、彼は容器の蓋をきゅっと締めて、それを棚の隅に並べる瓶たちの列に置いた。

 「祈くんですね。はじめまして。蘭空悠憫です。よろしくね。」

 見た目はそれほど年上って感じじゃないけど、すでに声変わりしていて、どこか落ち着いてて優しそうな印象だった。

 ――祈。どうも、悠憫。

 悠憫は、ちょっと驚いたようにまばたきした。そのせいで、笑顔が一瞬だけぎこちなくなる。彼は、悠奈の方をちらりと見た。まるで、何か説明を待ってるみたいに。でも妹のほうは何も言わず、ただ小さく頷いて、ぱちりと瞬きしただけだった。数秒の沈黙のあと、悠憫はまた穏やかな笑顔を浮かべた。

 「よし。じゃ祈くん、前に話してた通り、健康診断をさせてもらうよ。」

 「兄さんはね、将来の蘭空家の主治医候補なんだから。祈は安心して、言われたとおりにしてればいいの!」

 ――はい、わかった。あの。ていうか、ここ……

 「どうした?」

 ――なんか…少し。懐かしい、ような?

 懐かしさ。

 理由はわからない。でも、確かにそう感じた。

 絶対にここじゃないんだけど。どこかで、この雰囲気を見たような…気がした。

 「懐かしい?ああ、祈くんがそう言ってくれるなんて、私としては嬉しいな。もし興味が湧いたら、いつでも遊びにおいで?医学って、とっても面白いんだから。」

 ――たぶん、ただの夢だったのかも。うん、なんでもないよ。

 「そう。じゃあ、祈くん。準備ができたら始めようか。リラックスして、大丈夫だよ。」


 十五分後、悠憫の研究室を出た。

 正直、もっと怖い健康診断を想像してたんだけど。実際には、以前のケガの状態を軽く診てもらうだけだった。

 まあ、大したことはない。脚にでかい裂け傷があるのと、腕の皮がごっそり剥けてるだけ。

 僕にとっては、そんなの全然どうってことない。とにかく、暮光城のあの大災害を生き延びたんだから、それだけで奇跡だ。ちょっとくらいケガしたくらいで文句なんか言えないよ。

 「結果はどうだったの?兄さん?」

 「うん、大丈夫。祈くんは健康そのもの。何も問題ない。すぐに祖父さまへ報告してくるよ。」

 そう言って、悠憫はどこからともなく、一枚の紙を取り出した。

 そこには――びっしりと、何語かわからないくらいの流れるような筆記体が書かれていた。

 ――おい!いつの間に書いたんだよ!?全然気づかなかったんだけど!?

 つい、素でツッコミを入れてしまう。

 悠憫は一瞬きょとんとした後、吹き出して笑った。

 「ははっ。これもお医者さんとしての基本スキルだよ?」

 ――それ、もう魔法じゃん。

 「医者にとって、『医学』こそが『魔法』なんだよ。」

 きっちりしてそうな雰囲気だった悠憫が、いたずらっぽく僕の肩をぽんっと叩いて、

ちょっと狡猾な笑みを浮かべた。

 「さて、冗談はこの辺にして。私はこれで失礼する。悠奈、祈くんのことは任せた。」

 そう言って、彼はさっと背を向けて、そのまま数秒で視界から消えた。

 ――おいおい。走ってもいないのに、なんでそんなに早いんだよ!これも「魔法」ってやつか!?

 「ぷふっ」

 こらえきれずに笑い出した悠奈。

 「お医者さんって、そういうもんよ?祈もカッコいいって思ったなら、目指してみてもいいんじゃない?私の部屋に医学の本、たくさんあるから、いつでも貸してあげるよ。」

 ――いやいやいや。僕には、ちょっと異世界すぎ…

 「ははっ、冗談だってば。さてと、行こっか。祈の部屋はまだお掃除中だから、まずは私の部屋に行こう。あ、そうだ。祈くんって――コーヒー、好き?」

 ――コーヒー?えっと……飲んだことないや。昔、瞳が飲んでるのを見たことあるけど、「めちゃくちゃ不味い」って言ってた。

 「な、な、な、な、なにぃぃぃぃぃいいいいいいっっっっ!?」

 さっきまであんなに優しかった少女が――

 一瞬で、怒れる獅子に変貌した。

 「それはダメ! 絶対にダメッ! なんてこと言うのよ!」

 「祈、今すぐ私についてきて!今日こそは、世界一おいしい飲み物――『コーヒー』を、ちゃんと味わってもらうからね!ちゃんと!公平に!誠実に!その味を判断してもらうから!!」

 そう叫んだ彼女は、くるっと背を向けて歩き出した。

 走ってるわけじゃないのに、その一歩一歩がまるで巨人みたいに力強くて――風を割って進む戦士のようだった。

二、三秒ぼうっとしてたら、もう見えなくなりそうになってて――

さすが。あれも、「蘭空家」の魔法”ってやつかもな。

 くそ。急いで追いかけろ、祈!

 たとえ――たとえ瞳が正しかったとしても。今日は、絶対にこう言わなきゃいけないんだ。「う、うまい!コーヒーって…世界一おいしい飲み物だ!!」って。

 …はは。

 なんか、変だな。

 貴族なんて、大嫌いだったはずなのに。他人なんて、警戒しかなかったはずなのに。

 それなのに、なんか。少しだけ、楽になった気がする。

 少しだけ、この人たちのことが、もう「当たり前」になってきた気がする。

 …まあ、いいか。考えるのはあとで!

 とりあえず、今は――

 コーヒー、飲みに行こう!


 十分後。

 ――ん…

 一人きりで、悠奈の部屋のソファにぽつんと座って。手の中、空っぽになったコーヒーカップを見つめていた。

 もう一杯、飲もうかなって思ったけど。コーヒーの淹れ方なんて知らないし、諦めた。

 あの大きな本棚にずらりと並ぶ、精巧な装丁の本たち。一冊くらい読んでみようかなって思ったけど。うっかり汚したら嫌だし、それもやめた。

 だから僕は、ただふかふかのソファに座って、じっと、流れる時間を感じていた。

 ――ちょっと、苦かったな。でも、もし角砂糖とか入れたら……きっと完璧だった。コーヒーは、確かにおいしかった。

 それは、心からそう思った。本当なら――この気持ちを、悠奈にちゃんと伝えたかった。

 だけど。

 今、この部屋には僕ひとりしかいない。

 …はぁ。

 悠奈のやつ、本当にもう。せっかくコーヒー淹れた直後に、いきなり叫びだして――

 「しまったああああああああっ!お祖父さんと約束してたんだった!二時までに魔法の勉強に行くって言ってたのに!」 

 「やばい、やばい!!!遅れたらマジで切腹しかないやつ~~~!!」

 …とか言って、慌てて本と杖を掴んで。コーヒーを一気に飲み干して、そのまま――文字通り「風のように」出て行った。

 ――はぁ…暇。

 こうなると、もう何すればいいのか、さっぱりだ。

 そんなことをぼんやり考えていた時――

 コンコン。

 ノックの音がして、誰かがそっと扉を開けた。

 「お姉様っ!!!!」

 その声は、まるで宝石のように透き通っていて。心を撫でる風のように、やさしくて――

どこか、空の音みたいな、そんな声だった。

 「ヒカリだよ!遊びに来ましたよ~、お姉様っ!」

 そして。

 初めて、彼女の姿をちゃんと見た。

 それは。汚れひとつない、純白の光。

 まるで黄金の太陽が、少女の姿になって現れたかのようだった。きっとこの世のどんなものよりも、眩しくて、まぶしくて。

 そんな彼女が、何の前触れもなく――

 突然、僕の世界に飛び込んできたんだ。

 金色の少女。

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