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この世界の光と影  作者: 混乱天使
第一章 風花湾、冬の精霊
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其の二十七 折返

 村長の家を出た後、雪が降り始めた。細かい雪が暗闇の世界に白さをもたらし、その結果、世界は寒々しい灰色に染まっていく。

 白雪村の中央通りはとても広々としているのに、今は降りしきる雪のせいで前方が見えない。道行く村人が礼儀正しく挨拶してくれているのだが、吹き荒ぶ寒風がその声をかき消してしまう。

 僕のそばを、黒いガラスがずっと旋回している。大声で鳴き続けているが、何か言いたいことでもあるのか?とはいえ、今は構っている余裕なんてない。

 ――うるさい、黙ってくれないか!

 「ガー!」

 中尉は反論するように鳴き、さらに叫び声を上げ続けた。

 そうだ、雪が煩わしい。風が煩わしい。ガラスが煩わしい。そして、村長も......認めたくはないが、村長のことも煩わしく感じる。

 わかっている、彼は悪人ではないし、悪意があるわけでもない。ただ、可哀想な孫娘を守りたいがゆえに、こんなことをしてしまったのだ。

 まさか、この滑稽な老人にこんな考えがあったとは思わなかった。彼は墨雪瑛の名を使って毎月手紙を書き、孫娘に遠く離れた兄が自分を思ってくれていると信じさせていた。エミが嬉しそうに兄のことを話すと、村長はとぼけたふりをして、ただ微笑んで聞き、心温まる言葉を返した。

 この寒鴉が大嫌いだ老人が、ガラスたちと密かに協力していたことも予想外だった。韋駄天は贈り物を集めるため薄桜城へ飛び、赤ん坊は村長の手紙を届ける役目を担っていた。そして、ガラスたちは皆、村長の親切な嘘を黙って守ってきた。今日、中尉がその嘘を僕に伝えるまで——特別な方法で、事実の断片を僕に教えてくれたのだ。

 だが、この事実は、暗闇を晴らす光ではなかった。それどころか、黒い霧が詰まった風船が破裂し、その霧が更なる暗闇と残酷さを広げていくようなものだった。

 そう、村長の考えは単純だ。彼は少女の兄を装って手紙を書き、少しでも孫娘の心を慰めようとした。そしてガラスたちと一緒に贈り物を用意して、彼女が喜ぶのを期待していた。

 わかるんだ。ただ、年老いた彼が、孫娘の幸せを少しでも願ってしていることだ。

 しかし、逆に言えば、それはある恐ろしい事実をも示している――

 そう。エイが薄桜城に療養に出てから、白雪村との連絡は一切途絶えていた。丸二年、彼は一度も故郷に戻らず、手紙もよこさなかった。まるでこの世から消えてしまったかのように。

 こう考えると、すべてをもう一度考え直す必要がある。

 エイは無事でいる。エイは薄桜城で落ち着いている。エイは毎月エミに手紙を送り、エイは毎月エミに贈り物をしている......この最初に立てた前提が、今、音を立てて崩れ去ってしまった。さらなる謎は、その崩壊とともに深まり、闇を増すばかりだ。

 では、エイに何があったのか?僕には分からない。

 最良の結果?以前の予想通り、薄桜城で無事に過ごしていて、ただ仕事が忙しいとか、うっかり忘れているとか、あるいはエミに驚かせたくて連絡していないだけかもしれない。

 普通の結果?エイは確かに薄桜城にいるが、何らかの困難や問題に巻き込まれ、故郷や風花湾の人々と連絡を取ることができない。彼はそうしたくても、できないだけだ。

 そして、最悪の結果?言葉にするまでもなく、最も残酷で直截的な答えだ。そう、このすべては、理想主義者の夢だったのかもしれない。エイは、もう......

 だが、どれも僕の推測に過ぎない。村長が認めている唯一の事実は、エイが風花湾を離れ、薄桜城へ向かったその時から、何の消息も届かなくなったということ。二年前、彼が飛行船に乗った瞬間から、すべてがぼやけ、暗くなってしまったのかもしれない。

 飛行船、か。初めて、この言葉に意識が向いた。そういえば、村長もエミもそう言っていたけれど、僕は特に気にも留めていなかった。ただの王国でよくある交通手段だとしか思っていなかったからだ。例えば、薄桜城の第一皇后駅にあるような、あるいは王都の天時郡の第一国王駅にあるような、ただの交通手段だと思っていた。

 だが、本当にそれだけのもの?

 

 さて、あの時の出来事を振り返って、あの場面を思い描いてみよう。

 二年前、墨雪瑛が二匹の悪魂に襲われ、重傷を負った。村人たちは協力して悪魂を倒したが、エイを治療することはできなかった。緊急の事態に、村長自ら白雪村唯一の飛行船を操縦し、エイを連れて薄桜城へ治療に向かった。そして、村長は飛行船で戻り、墨雪咲に「瑛は無事」と伝えたのだ。

 そう、たくさんの出来事があったが、こうしてほんの数行で要約できてしまう。それが二年前の出来事の全貌だ。

 うん、見たところ何も疑わしいところはない。すべて順序通りで、筋も通っている。どこにも歪みはないし、矛盾もない。すべて、村長やエミが僕に語った通りだ。僕がずっと想像してきた通りに思える。

 だが、ここで思考を変えてみよう。すべてをリセットし、ゼロから考え直す。そして今まで見落としていたこと――そう、その言葉を、この事件全体に再び組み込んで再構築してみる。

 「飛、行、船」。

 そう、今回は「飛行船」を考慮する。白雪村唯一の飛行船。それは村長の所有物だった。あの日、緊急に使われた。村長が操縦した。エイを乗せて。薄桜城に向かった。そして村長が操縦して戻ってきた。

 ならば――

 その飛行船は今どこにある?!

 白雪村に滞在してからというもの、僕は多くの場所を回ってきたつもりだ。しかし、その飛行船を一度も見たことがない!村長の話では、それは小型の飛行船で、「WSS-白落号」というらしい。

 どこにあるんだ?どこに停められてるんだ?小型だとはいえ、地面に置かれれば家くらいの大きさはあるはずだ。どうして僕が気づかないなんてことがある?いくら見逃していたとしても、こんな飛行船を停めておける場所なんて限られているはずだ。村内にはなく、港にもない。じゃあ、いったいどこにある?

 まさか飛行船も僕の「霧の紗」みたいに隠れる装置でも使っているっていうのか?バガバガしい、冗談するな!

 あんな大きな飛行船が、一体どこへ消えたというんだ?!ちくしょう、どうして今までこのことに気づかなかったんだ!どうして村長にこの件を問い詰めなかったんだ!

 くそ、くそ!風鈴、お前は手紙のことばかりに気を取られて、こんな重要な疑点を見落としていたんだ。探偵として失格じゃないか、風鈴!

 でも、まだ間に合う。村長のもとに戻って、もう一度聞いてやるよ!納得のいく答えが出るまで、あの大きな飛行船がどこにあるのか説明してもらうまで!

 ......うん。

 待てよ。

 飛行船......飛行船......待て。つまり、飛行船......

 頭を冷やして、物自体をもう一度しっかりと考えよう。そうだ、なぜでしょ、どこかでそれが完全に未知の存在とは思えない気がするんだ。

 妙なことに、それが不思議な感覚を引き起こし、説明しがたいが、確かに心に触れるものがある。

 これは初めて金を見つけた瞬間ではなく、前に金を埋めていた瞬間に触れたような気がする。初めて剣で刺された瞬間ではなく、以前に剣を持ち上げていた瞬間に気づいたような感覚だ。初めて光を目にしたのではなく、前に灯台が灯る瞬間を目撃していたようだ。

 そう、不思議で混乱する感覚。

 飛行船。完全に未知とは思えない。いや、未知だけど、完全に未知ではないんだ。

 そう言えば、どこかで似たようなものを見た記憶がある気がする。

 そうだ、ただ文字の説明だけではここまで想像は膨らまない。どこかで見たことがあるからこそ、今、僕の思考と繋がっているのかもしれない。

 よし、よし。集中して、考えよう。半分は記憶で、半分は想像で、その形を描き出してみよう!

 丸みを帯びた黒い輪郭、それから......

 「ガアア!」

 ――くそ、中尉!黙ってくれないか!僕の思考がめちゃくちゃだ!

 「ガア!ガア!」

 ――中尉、お前......

 「ガア!ガア!」

 目の前のガラスは、狂ったように鳴き続けている。その声はどこか哀しげで、震えているようだ。まるで空気の中を漂う金属のように響く。

 どんなに命令しても、中尉は黙らない。こんな様子は初めて見た。

 ガラス、吉兆の鳥、不吉の鳥。静寂の鳥、予兆の鳥......

 まさか!

 ――中尉、一体どうした!何か見つけた?

 「ガアア!!」

 中尉は狂気のように叫び、鋭い黒い羽を次々と前方へ飛ばしていく。硬く鋭い羽は、空中を駆け抜け、地面へと突き刺さった。

 その瞬間、僕は悟った。

 羽が示す先、それは海岸、灯台......そして墨雪家!

 墨雪家?今、墨雪家で何かが起こっているのか?

 いや、エミはまだ眠っているはずだし、韋駄天が咲を見守っているはずだ。何かあれば、韋駄天が必ず知らせに来るに違いない!

 まさか、僕がいない間に誰かが何かを仕掛けたのか!

 あのしつこい悪魂?それとも狂気に囚われた村人たち?凛?

 あるいは、最も恐ろしい予感......海神?

 ――やばい!

 考える暇なんてない。他に考えるべきこともない。今するべきことはただひとつ、墨雪家へ急いで戻ることだ!


 雪を突き抜け、墨雪家がようやく目の前に現れた。

 小さな家、丸い窓。すべてが静かで平和に見える。エミはまだ二階で眠っているはずで、韋駄天はきっと軒の上で怠けているでしょう。凍った魚は冷凍庫に眠り、暖炉には薪が燃え盛っている。

 だが......

 ――韋駄天!

 「ガア!ガア!」

 僕と中尉に応えたのは、冷たい風の絶え間ないうなり声だけだった。

 まずい、韋駄天は一体どこへ行ったんだ。じゃ、エミは?

 ドアを開け、飛ぶように二階へ駆け上がり、廊下を抜けてエミの部屋の前に立った。

 ......ドアが開いている。

 目を凝らし、もう一度確認する。

 そう、ドアが開いている。

 窓も開いている、それは重要じゃない。布団が床に落ちている、それも重要じゃない。雪が部屋中に積もっている、それも重要じゃない。

 それらはどうでもいい。もうどうでもいいのだ。この開かれたドアだけが、すべてを物語っているからだ。

 エミがいない。

 今この瞬間、僕はついにその事実を理解したのだ。

 「グアアアアアアア!」

 どこからともなく、胸を引き裂かれるような叫び声が響く。

 泣いてる?誰かが泣いてる?誰?どこに?

 「グアアアアア!」

 外だ。すぐ外にいる!

 急いで階下へ降り、外に出た。足元を見ると、中尉が地面にとまり、全身を震わせていた。

 ――中尉、何かを見つけた?

 「グ......」

 中尉は首を伸ばし、絶望に満ちた声で叫び続ける。自分の耳で聞かなければ信じられなかった、こんな悲痛なすすり泣きが、目の前のこの小さなガラスから発せられるなんて。

 小さな瞳が瞬き、目のふちに何かが光っている。中尉は目を閉じ、その光が雪の中に落ちて、溶けていった。

 それは涙だ。ガラスの涙だった。

 寒鴉の中でも屈指の優秀な戦士であるこの中尉が、今この瞬間、まるで子供のように泣いているのだ。

 ――中尉......

 中尉は僕を見つめ、そして翼で何かを指し示した。その方向を見てみると、木の家の端に、小さな窪みができているのが目に入った。

一見すると、ただの普通の窪みだ。凹凸のある地面が少しくぼみ、そこに雪が積もり始めている。

 だが、僕はすぐに何かに気づいた。

 その窪みの上部が、黒いのだ。

 黒いものは、亡霊の血だ。白い雪が、黒い血によって黒く染まっていた。


 表面の雪を掘り起こすと、そこには見覚えのある姿が現れた。

 韋駄天だ。

 その体は何かに貫かれていて、黒い血が流れ出し、土と混ざり合っている。その小さな窪みは、韋駄天の最後の黒い揺りかごとなっていた。

 まだ息がある。僕と中尉を見つけた瞬間、韋駄天は力を振り絞って首を動かし、喉をわずかに震わせた。

 「ガ.....」

 か細く震えるその声は、それにもう生きる力が残されていないことを物語っていた。血はすでに多く流れ出していた。

 今、意志の力と残ったわずかな血の力だけで、最後の命をつないでいる。

 「ガ。」

 その声はとても優しく、苦痛の色は一切見えなかった。

 「グアアアア!」

 中尉が狂ったように叫び、頭を激しく韋駄天の首に擦り付ける。しかし、親愛なる友の呼吸は次第に弱まっていくばかりだった。

 「グア!グア!」

 中尉の涙が韋駄天の体に落ち、残った羽根を滑り、雪と血とが一つに溶け合っていく。

 その呼びかけに応え、韋駄天はわずかに首をかしげ、中尉に何かを示そうとしているかのようだった。信じられないという表情で、中尉がそれを見つめるが、韋駄天はその姿勢のまま動かない。

 数秒の沈黙の後、中尉は顔を上げた。もはや韋駄天を見ず、ただ空を見つめ、涙が頬を伝うままにしている。

 「グアアアアアアアアアア!」

 激怒の叫び声をあげながら、友に最後の別れを告げるように。素早く首を低くし、大きく口を開け、そして力を込めて韋駄天の首を噛み切った。

 「パキッ」と音が響く。

 韋駄天は一瞬震え、そして静かに息を引き取った。

 僕は分かった。中尉はそれを楽にしてやったのだ。ついに韋駄天はその苦しみから解放されたのだ。

 静寂が訪れた後、僕は韋駄天の体に突き刺さっていたものを引き抜いた。

 それは鋭い矢だった。

 そう、間違いない。僕はその矢をよく知っている。

 ――凛。

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