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この世界の光と影  作者: 混乱天使
第一章 風花湾、冬の精霊
23/65

其の二十三 障害

 午前七時、篠木家。

 今、仁也はベッドの上でぐっすり寝てる。右手がない腕はベッドの横の椅子にだらんと置かれてて、手首には何重にも包帯が巻かれてるけど、それでも血が滲んで、腕全体が真っ赤になってる。

 できるだけ、彼の右腕を見ないようにしてるんだ。昨日のことを思い出すと、どうにも吐き気がしてくるから。

 昨日、仁也の傷を包帯で巻いてる時、頭の中にあの「死の樹」の姿がずっと浮かんでた。まるで次の瞬間、骨から新しい枝が生えてきて、そいつが僕の目をグサッと突き刺してくるんじゃないかって感じだ。

 でも昨日はそれどころじゃなかったんだ、あまりにも必死で、怖いとかそんなこと考えてる余裕もなかった。気がついた時には、もう仁也の腕を包帯で巻き終わってて、そんでトイレに駆け込んで、しばらくえずいたけど、何も吐けなかったんだ。

 まあ、とにかく、仁也が血を失いすぎて死ななかったのはラッキーだった。生きててくれて、それだけで十分だ。海神から逃げ切れたのは、風花湾じゃ僕たち二人だけね。やっぱり、これは神様のおかげかな。この運がいつまでも続きますように。

 「旅人。」

 うん、ほんとありがたいよ。昨日なんて、もう死ぬ覚悟まで決めてたんだから。探偵事務所を畳んで引退して、墓地の棺桶の中でゆっくり休む準備もできてたんだ。でも、まだ引退できそうにないな。僕が生きてる限り、太陽は毎日昇るし、白雪村の問題もまだ片付けなきゃならない。

 「旅人?」

ハハ、もちろん冗談だよ。死ぬなんて、まだまだごめんだ。少なくとも今はね。僕が死んだら、エミがきっと悲しむし。だから、死ぬのはもうちょっと先の話にしておこう。

 「風鈴!お前、死んでた?」

 ――ああ、もちろん死んでない。今はまだ死ぬつもりないし。

 えっと……

 振り返ると、そこには凛がいた。

 次の瞬間、凛にこっぴどく叱られた。理由は、僕がボーッと考え事をしてて、仁也の包帯を替えるように凛を呼ぶのをすっかり忘れてたから。確かに、あの血まみれの包帯は、まるで仁也の傷が止まらないかのように見えるけど、実際のところ大したことはないんだ。ただ見た目がやばいだけ。

 でも、凛の言ってることは正しい。この状況で、ほんの些細なミスも許されないってのは分かるし、彼女の慎重さには共感する。正直、凛とはあんまり気が合わない気がするけど、探偵団の中で彼女は間違いなく二番目に頼れる存在だしね。何より、今回は僕が完全に悪いんだから、素直に彼女の叱責を受け入れることにしたよ。

 とはいえ、正直言って、もう仁也の傷を見たくないんだ。これ以上見たら、今夜もまた悪夢を見ることになるから。昨日の夢では、金色の劇場が「死の樹」にめちゃくちゃにされちゃったし、今日もそんな演出事故は勘弁だ。

 だから、そっぽを向いて、目をつむった。

 ――そうだ、凛。仁也の様子、本当に大丈夫?

 「心配しないで、旅人。仁也君の血を少し味見したけど、亡霊に感染した感じはなかったわ。正直、これは奇跡だと言えるかもね。」

 ――さすが血魔様がそう言うなら、もう安心だね。

 「うん。それとね、旅人......」

 ――なに?

 「ありがとう。仁也を救ってくれて、本当にありがとう。」

 おやおや、凛がこんなこと言うなんて、珍しいな。なんか、ちょっと照れくさいね。

 ――大したことじゃないよ。ただ、仁也の右手には申し訳ないけどね。

 そういえば、仁也の右手のことを思うと胸が痛む。これで兄弟揃って右手が同じ状態なんてね。いやいや、風鈴、そんな悪意のある冗談を考えちゃダメだ。神様に見られたら罰が当たるかもしれないし。

 「ああ....まさか仁也君が本当に海に飛び込むなんて思わなかった。」

 ――彼がこんなことするの、初めてじゃないよ。

 「そうね....実は、私の方にも問題があったの。もっと注意深くしていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。」

 ――そんなこと言わないで。これは凛のせいじゃないんだから。

 「そう、旅人。右手のことなんだけど、エミを起こしてくれない?私がこれを片付けたら、みんなに話したいことがあるの。」

 ――はい。

 僕は立ち上がって、仁也の部屋の様子を思い浮かべながら、そっと身をひるがえして前へ進んだ。両手を前に出して探るように歩けば、位置を把握しやすくなるから。

 そうそう、こんな感じ。一歩、一歩、目をつぶったまま、ドアの場所を探しながら歩いていく。

 「それとね、もう一つ気になってることがあるんだけど。エミのこと....」

 暗闇の中で歩いている時に集中を切らすのは絶対にダメだ。僕は一旦全ての動きを止め、まるで彫刻のようにその場でじっと立ち止まり、凛の話を聞いた。

 ――どうした?

 「えっと。咲がね、匂いが変なの。」

 ――匂い?

 「うん。こんなこと言いたくないんだけど、どうしても感じる。咲から恐ろしい匂いがするんだ。仁也君の血の匂い、それに亡霊の臭い......どうしても昨日の出来事と咲が関係あるように思えてならないの。」

 プッ。凛の言葉を聞いて、思わず吹き出しそうになった。いやいや、彼女は冗談を言ってるんじゃない。凛の勘は鋭いから、彼女が言ってることは正しいんだ!

 昨日、仁也の包帯を巻き終わった後、急いで墨雪家に戻ってエミを起こしたんだ。状況が危険だから、もうみんなバラバラに行動するわけにはいかない。あの子を怖がらせたくなかったけど、そんな余裕もなかった。

 怖かった出来事をなるべく怖くないように説明したつもりだったけど、それでもエミはすっかり怯えてしまった。仁也の家に来た途端、彼女は篠木夫婦の寝室に駆け込んで、布団に潜り込んじゃった。

 そして一番厄介だったのが、エミがあまりにも怯えて、寒霜杖を抱きしめながら寝ようとしたことだ。「これを持ってれば、何かあっても寒鴉が守ってくれるから」って。結局、杖に残ってた血とか呪力を浄化する前に、エミが寒霜杖をぎゅっと抱えて布団に潜り込んじゃって、もう出てこなかった。

 いつもなら、僕は冗談を言うところだ。「エミよ、その魔杖を返さなかったら、今夜海神が部屋に来るよ」とか。だが、今回はやめておいた方がいいと思った。

 最初は震えて寝付けない様子だったけど、エミのことをよく知ってる人なら、彼女がどれだけ寝るのが得意か知ってるはず。案の定、しばらくしたらすぐに寝ちゃって、挙句の果てには布団とあの可哀想な寒霜杖を床に蹴り落としてしまったんだ。

 つまり、凛の疑いはただの滑稽な偶然ってことだ。でも今はそんなことより、僕の目を閉じたまま、仁也の部屋を出て、あの寝ぼすけを起こしに行くことが重要だ。

 ――よし、前進だ!

 「ゴン!」

 額が、木製のドア横に掛けてあった時計に激しくぶつかった。


 すべてが片付いた後、探偵団の皆がリビングに集まった。

 驚いたことに、無生もこの集まりに参加していた。どうやら彼自身の強い意志のようで、みんながベッドで休んでろと説得しても、彼はただ一生懸命にまばたきして応えていたんだ。

 瞬きは「うん」という意味。無生に反論しても仕方ないので、彼の希望を受け入れるしかなかった。もう長くない彼に無理をさせるわけにはいかないしね。

 見ての通り、無生は車椅子に座っている。呪力に侵され、腐りかけた右腕には厚く包帯が巻かれていて、綺麗だった金髪も急速に色あせていた。ほとんど灰色になった髪は、軽く触れるだけでごっそりと落ちてしまうんだ。

 彼の顔は真っ青で、生気がまるでない。重度の呪力侵蝕で、すでに体の動きも言葉を発する力も失ってしまっていた。以前なら、彼はすぐにノートを手に取り、質問をしながら情報を記録していたはず。でも今は、ただ車椅子に座り、動かず、何も声を発することができない。彼の体で動くのは、わずかにまばたきするまぶただけだった。

 「それじゃ、始めようか。」

 皆がうなずき、無生もまばたきで応えた。全員の準備が整ったのを確認すると、凛が何かをテーブルの上に置いた。

 途端に、激しい腐臭が部屋中に充満した。まるで長い間腐りきった鯨の腹の中に入り込んだような匂いだった。ちょっとでもその匂いを嗅げば、吐き気を催すような強烈な悪臭だ。

 僕だけじゃない、エミも鼻を押さえ、苦しそうな表情を浮かべた。無生も車椅子の上でわずかに眉をひそめていた。

 「みんな、少し我慢して。この話を聞いて!もしかすると、ついに寒鴉がどこから来たのか、そして寒鴉と海の関係が分かるかもしれない。」

 はい、凛が見せたかったのは、まさに仁也の右手だった。今、この右手は、枝が生えた状態で机の上にぐったりと横たわっていて、まるで死んだ化け物みたいだ。

 気づいたら、凛はすでに解剖を終えていた。いやあ、さすがはプロのハンター。みんなが耐えられそうにないことも、彼女にとっては朝飯前ってわけだ。

 で、凛が細かく調べた結果、いろんな恐ろしい事実が目の前に並べられることになったんだ。

 まずはこの枝。いや、正確には「生まれたての死の樹」だな。最初に感じた通り、この木は本当に「新しく生まれたもの」だった。

 もともとあって、それが仁也の手に潜り込んだとかじゃなくて、完全に新しくできたものってこと。人間の血肉と完全に融合してて、どこが境目なのかすら分からないくらいだ。まるでこの世界に降りてきたばかりの赤ん坊みたいなものだ。でも、僕が仁也の右手を切り落とした時に、その木も一緒に死んじまったんだ。

 しかも、その奇妙な血肉の中には、たくさんの小さい白い丸い石が埋め込まれてて、まるで宝石が石の中に隠されているかのようだ。

 一見、人間の骨っぽくて、防御とか支える役割でもあるのか、あるいは単に「飾り」で、死の樹の一部なのかもしれない。でも、凛がかなり恐ろしい仮説を立てたんだ。

 凛はその小さい石を一本の枝から慎重に取り出して、そっと指で握ってみた。

 「パキッ――」

 なんと、あっさりとその小石が凛の手の中で砕けちゃった。凛が怪力を使ったわけじゃなくて、そもそもその石がめちゃ脆かった。表面にヒビが入って、あっという間に潰れて薄っぺらい破片に。そしたら、その破片の中心から気持ち悪い黒い粘液がじわじわと流れ出してきた。

 「みんなにお知らせしたいことがある。さっき、私は一羽のカラスを殺した。」

 カラス?彼女が言っているのは寒鴉のこと?えっと、その石たちと寒鴉には何か関係があるのかな?でも、凛の真剣な表情を見ていると、どうやら冗談ではなさそうだ。

 「そう、それらは寒鴉の卵。」

 卵?どういうこと?寒鴉は無性別じゃなかったっけ?無性別なら、オスとメスの交配なんてありえないし、卵なんてできるはずがないよね。

 えっと......

 待って!

 「ドク、ドク......」

 心臓が激しく鼓動し始めた。なぜか、頭の中が急速に働き出す。脳内には何千人もの人間が走り回っているようで、考えが活発になり、混乱し、膨張している。血管が鈍い痛みを感じ、呼吸さえも荒くなった。

 体の突然の変化に、自分でも驚いてしまった。でも、一つの強力な力が他の考えを次々と押しつぶしていく。まるで残酷な独裁者のように、それは僕にその道筋に沿ってすべての思考を強制させ始めた。

 脳がオーバーヒートし、熱を持ち始め、轟音を立てる馬車のように、計画された道を突っ走り、止まることができなかった。

 ――つまり、これが寒鴉の卵なのか?そうなると、死の樹が寒鴉の母親ってこと?寒鴉が卵から孵化して、樹皮を破って飛び出してきたから、死の樹にはあんなにたくさんの樹洞があるの?

 「うん、私もそう思ったよ、旅人。」

 ――じゃあ、どうしてこんなにたくさんの寒鴉がいる?死の樹でできた森があるからって?それじゃ、森はどうやってできた?死の樹はどこから来た?

 「それは......」

 ――そうだ!それらは人間が変わったものなんだ!つまり、人間がいたからこそ、それが存在するわけだ。仁也の右手がその証拠だ。人間が海神に襲われて死んじゃうと、最終的には死の樹になっちゃうんだ!

 「えっと......私......」

 ――そうそう、まさにその通り!だから海の中に森が存在するんだ。これらの木は、死んだ人間が変わったものなんだよ!こう考えれば、すべてが納得できる!すべてが繋がるんだ!

 「あの......」

 ――海神が海に入ってきた人を殺すんだ。そして、強力な呪力の影響で、死体が大きな木に変わり、無数のカラスを生み出した。それが、なぜ海が寒鴉たちの故郷なのかってことだ!いや、海は寒鴉の故郷じゃない。本当の故郷は、あの恐ろしい大樹たちなんだ!大公があの日、僕を黒煙の中に飛ばしたのは、実際にあの木々を見せたかったからなんだ!

 「......風鈴?」

 ――そうそう、黒煙、黒煙!どうして木々が黒煙を放つのかな?それは何かの執念、何かの因果、死んだ魂の意志の表れなんだ!森は昼間に黒煙を放ち、夜はそれを放たない。これは、人々が昼間は海に近づけず、夜にこっそり海に入ることに対応しているんだ!昼間の黒煙は、海への恐怖を表しているし、自分の罪深い考えを他人に知られることへの恐怖も示してる!さらに、昼間の黒煙は他人への警戒心も象徴してる。「俺がまだ海に近づけないなら、お前も近づけるな!」ってことだ!そう、これって海に対する「阻害」を象徴していて、だから彼らが死んだ後は黒煙として具現化されるんだ!

「......」

 ――なんて悲しい、悲しいループなんだ!死んだ人たちが死の樹になり、それが放つ黒煙が無意識に人を引き寄せ、以前の人々の行動を真似て、昼間は避けて夜に海へ向かう。そして結局、先人たちと同じように全員が海神の手にかかって死んで、また死の樹に変わっていく......これが海、寒鴉、海神、死の樹、そして海に入っていく愚かな人々との完全なつながりだ!分かった、全てが分かった!

 ――じゃあ、夏はどうなる?大海が溶けたらどうなるの?ああああ!知りたい、知りたい!もう頭がおかしくなりそうだ、狂いそうだ!

 喉が刃物を飲み込んだように痛くて、声もかすれてきた。テーブルの水杯をつかみ、一気に飲み干す。たった一杯の水じゃ全然足りないけど、今は喉の痛みを止めることなんてできない。一気に無生のノートを掴んで、空白のページを適当にめくり、自分の考えを全部書き始める!ああ、早く書かないと、たくさん書かないと!今書いてるごちゃごちゃした線が自分でもよく分からないけど、そんなことはどうでもいい!忘れないうちに、脳の車輪が壊れないうちに、急いで全部記録しなきゃ!

 え?他の人がまるで私を見ている狂人のように見ている?ふん、彼らが僕に何の関係がある?まったくない!ただ書け、直感的に書くんだ!

 書け!書け!書け書け書け書け......

 ……

 はい、書き終わった!間違いない!

 頭には新しい言葉がなくなり、心臓は完全に止まり、血管は完全に固まって、肺は完全に破裂した。独裁者は完全に疲れ果て、軌道は完全に断裂し、車輪は完全に崩れ、馬は完全に疲れ果てた。

 よし!今なら死ねる。そう、今ならその虚無を抱きしめに行ける。

 意識が暗くなり、体は制御不能で地面に向かって落ちていく。

 そう、そう、いいね!

 死んだ。


 目が覚めた時、すでに外は暗くなっていた。

 うーん、どうやら本当に死んだわけじゃないみたいだ。命を捧げて、世の人々にこの重要な論文を残し、涙を流して思い出される......そんなことはもう起こらないみたいだ。

 でも、脳は確かにオーバーロードしていた。時間を大まかに計算してみると、たぶん十時間以上は昏睡していた。昨晩、海神と戦い、朝方に仁也の傷を手当てして、エミを起こして仁也の家で寝かせて、悪夢で全然眠れず、早起きして仁也の様子を見て、それから「大海と寒鴉と海神と死の樹と愚か者たちの関係について」という論文を書いた......身体が持たないのも当然だ。

 「ふん!誰か私を可哀想だと思わないの?私たちの探偵団がこんな状態になってるのを見て!今日は私一人で四人を世話しなきゃいけないのよ!可哀想な仁也くん、可哀想な無生、ただ寝てる大怠け者、そしてこの狂ってるバカ。」

 ――おい、なんでエミと僕のあだ名がこんなにひどいの、凛!

 ドン!

 ――ああ!

 頭を強く叩かれた。その力がもう少し強かったら、また数時間寝ていたかもしれない。

 「うるさいなお前!やるわよ!」

 ――降参、降参!

 「ふん。それならまだましだ。さあ、夕飯を食べに来て。今は狩りに出られないから、今夜は焼き魚しか食べられないわ。」

 うーん、ほら、これが凛だ。とても残酷だけど、絶対に頼りになる。

 「早く体力を回復して、旅人。夕飯を食べたら、私たち二人はまた夜を守らなきゃ。」

 そういえば、夜の見張りは元々寒鴉たちの仕事だった。しかし、窓の外はとても静かで、寒鴉の鳴き声も聞こえない。それらはどこに行ったのだろう、信頼できる中尉と隊長も、今はここにはいない。

 でも正直なところ、今の寒鴉たちに対する印象は少し変わってきた。正確に言うと、これだけの経験を経て、それらへの評価が非常に客観的になった。確かに、それらはエミの友達であり、僕たちの守護者だけど、大海で彼らの別の一面を見た後、以前のように何の警戒もなく彼らを愛せるでしょうか?

 かつての美しいものは、もう戻らない。そんな事実を悲しいことに認めざるを得ない。

 

 夕飯を食べ終わった後、凛と一緒に夜の見張りを始めた。

 今や、小さな篠木家は僕たちの最後の砦だ。改めて感じるけど、僕の肩にはかなり重い使命がのしかかってる。友達の命、白雪村の未来......守らなきゃいけないものがたくさんあるんだ。

 だが、エミのおかげで今夜はまた辛くなりそうだ。最初の予定では、凛が仁也の部屋で見張りをし、僕が無生の部屋を担当することになってた。でも、エミはどうしても怖がって、僕のそばにいたいって言い張る。こういう怠け者の彼女には、夜を徹するエネルギーなんて全然足りないのに。さっきまでみんなを守りたいって言ってたのに、今はもう篠木夫婦の部屋でぐっすり眠ってる。仕方ないから、無生とエミの両方に気を配れる方法を取ることにした、二階の廊下で見張ることにした。これなら、できるだけ各部屋の様子をチェックできる。

 廊下にはソファやカーペットなんてないから、床に座って壁に寄りかかるしかない。体はすごく辛いけど、こういう環境だと逆に眠れないのも幸運なのかもしれない。

 そう言えば、今夜は本当に静かで穏やかだ。月は雲の中に隠れてて、月光なんて全然見えない。外も静かで、風の音すら聞こえない。寒鴉たちもいなくて、あのカーカーっていう鳴き声も聞こえないから、ちょっと寂しい気持ちになる。

 うーん......いい感じだ。少なくとも今夜は、やっと少し落ち着けそう。

 あくびをしながら、軽く目を閉じる。頭の中の考えをリセットして、他のことを考えないようにする。見張りの仕事に集中して、明日またみんなと仁也のことを村長にどう説明するか話し合おう。

 うーん。本当に静かだな。

 ところで、これって僕の錯覚かな?なんだか呪力の気配を感じるような気がする。

寒鴉たち、今来てるのかな?みんなもう仕事が割り当てられてるし、それらが今来ても何の役に立つのかな?まあ、たとえ助けてくれるとしても、僕の見張りの仕事を代わってもらうのは、ちょっと怖くて無理だけど。

 まあいいや、もう眠ろうなんて考えないことにしよう。保険として安心できるし。僕、凛、カラス。探偵団の最強戦力が起きてるから、きっと危険を引き起こす者はいないはず。

 うん。

 ――スっ、そう言えば、どうしてこんなに居心地が悪いんでしょう。

 ……

 ?!

 その瞬間、突然何かに気づいた。

 違う、違う。事は絶対に僕が思ってるほど単純じゃない!早く何かしなきゃ、風鈴!

 立ち上がり、廊下を駆け抜け、階段に向かって猛ダッシュ。廊下の端に来たら、急いで階段を下を覗いた。

 ――何だ!

 黒い羽、黒い蝶、黒い煙、黒い雪。黒い輪郭、黒いマント、白い仮面、鋭い刃物!

 ――海神!!!!!!!!!!!!!!!

 しかし、次の瞬間、すべてが消えた。さっきの瞬間は、どうやらただの錯覚、幻想、夢だった......出てはいけないものだった。

 「カチャン!!!」

 背後から大きな音が聞こえた。

 僕は驚いて、急いで振り返った。今、仁也の部屋の木の扉が突然開いた!

 ――ちくしょう!なんてことだ!

 刀を抜き、すぐに仁也の部屋に駆け込んだ。

 赤い影が目の前に現れ、僕は足を止めた。

 ――凛?

 確認した、凛だ。彼女も外に出てきた。

 ふう、やっぱり錯覚だったのか、ホッとした......いや、違う!彼女の表情もすごく怖がってる。彼女も何かを感じ取っているに違いない!まだ終わっていない!

 「旅人......エミ、エミが……」

 エミ?

 その名前を聞いた瞬間、心臓が激しく震えた。急いで振り向き、エミの部屋のドアを蹴飛ばした!

 ――エミ!

 白髪の女の子はいつの間にか目を覚ましていた。彼女の体は激しく震えて、恐怖で体を丸めて、手で耳をしっかりと塞いでる。

 ――エミ、大丈夫?!

 急いで明かりをつけ、部屋を見回した。すべてが普通に見える。そう、すべてが安全だ。

 その時、再び激しい音が聞こえた。

 「カチッ!」

 その音は仁也の部屋から聞こえた。くそ、また驚かされた!

 ――凛、てめえ!無闇にドアを開けるな、ちょっとは気を付けろ!

 「え、何?旅人……」

 ――ん?

 振り返ると、凛が僕の隣に立ってる。ぼーっと僕を見つめていて、僕はぼーっと彼女を見つめ返してる。

 次の瞬間、何かが腑に落ちた。振り返り、仁也の部屋に向かって走り出した。

 「仁也!」

 凛の反応が僕よりも早かった。彼女は心の底から叫び、僕の前に飛び出して、一気に仁也の部屋のドアを蹴飛ばした!

 「仁也!!!」

 ――仁也!

 なんとか無事だった。目の前の少年はベッドのそばに立って、静かに僕に頷いた。

 ……

 ――ちくしょう!!!!

 「カチッ!」

 突然、何かに掴まれたような感覚が襲ってきた。少年の首が、一瞬で折れてしまった。喉が裂け、大量の血が噴き出した。

 「うああああああああ!!!!!」

 カチッ——カチッ——ガラガラ!

 骨が折れる音、肉が砕ける音が、あっという間に少年の悲鳴を飲み込んでいった。傷口がどんどん広がり、首から胸に、最後には仁也の胸腔と腹部を完全に引き裂いた。

 「仁也!仁也!いや、いや!!!!!」

 背後の少女が叫びながら、仁也に抱きつこうとした。

 ――くそ、凛!止まれ!

 少女が一緒に殉じるところは見たくなくて、急いで彼女を引き留めた。

 「仁也......」

 少女の体が力を失い、力尽きてしまった。目の前の光景は彼女には耐えられないもので、頭を傾けて意識を失い、地面に倒れ込んだ。

 ガラガラ!ガラガラ!

 血肉が再生する音、木が育つ音、死が訪れる音、亡霊が新たに生まれる音!

 巨大な樹幹が仁也の裂けた体から、猛然と飛び出してきた!

 死の樹、死の樹が降臨した!

 そのサイズは、仁也が持っていた木よりもはるかに大きかった。前の枝はただの餌、ただの不完全なものだった。今こそ、それが本当に恐ろしい存在だ。

 ――ちくしょう!なんてことだ!!!

 呼吸を整え、すぐに冷静になった。刀を高く掲げ、刃先で炎を燃え上がらせ、戦う準備を整えた。

 だが、死の樹は僕の行動には全く気に留めなかった。

 それはただ狂ったように上に伸びていく、飢えた獣のように。狂ったように成長を続ける。その樹幹はどんどん太くなり、ほんの数秒で驚くほど巨大になった。

 半メートル、一メートル、二メートル……目の前の怪物が、目に見える速度で成長している。残酷な悪魔が仁也の体をむしゃむしゃと食い破り、脆い木の家を壊し、僕たちの無力を嘲笑っている。

 でも、僕はそれに何もできない。

 仁也の体が完全に呑み込まれ、あの灰色の樹幹の中に溶け込んでいくのをただ見てるしかなかった。その瞬間、仁也が本当に僕たちのもとから去ってしまったことを理解した。

 次の瞬間、樹木が木の家の天井を突き破った。

 カチッ!!!!!

 樹幹に貫かれた木の家は、苦しげなうめき声を上げた。

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