其の十四 乱舞
朝七時、ピッタリに起床!昨日の計画通り、アクション開始!
ライトはつけない、大きな音は立てない。エミの耳は超敏感ってのは皆が知っているけど、彼女は眠りこけるから微妙なバランスがある。でも、でもね!無謀に手を出さないで、運任せにしないで、計画の肝心な点は、絶対に彼女を起こさないこと!昨日、無生はこの一番ハードな任務を僕に任せたから、彼の信頼を裏切れない!探偵団や寒鴉や村長やエイの使命を背負って、僕は絶対に失敗できない!
地面を見つめて、左足を踏み出す、よし。バランスを保ちながら、右足を踏み出す、よし。バランスを保ちながら、次は左足を踏み出す、よし!
廊下をひそかに進み、エミの部屋に近づく。耳をドアに軽く押し付け、じっと聞く。微かないびきが聞こえる。ドアの隙間から冷たい風が吹いてくる。やっぱり、彼女は裸でグーグー寝ているに決まっている。言わずもがな、布団は床に落ちてるし、窓はバカでかく開いている。
オッケー、すべて順調!計画の第一段階が完了。さあ、階下のリビングへ行って、待ち合わせた仲間たちと合流しよう。みんな超時間通りで、もうちょい早くここに来て、僕を待ってくれてた。
窓をそーっと開けると、窓台には寒鴉がびっしり詰まっている。四角い陣地を築いてるように整然と立ってる。窓台のスペースは狭いから、ここに立ているのは一握りだけ。残りの寒鴉は外の雪の上に立って、また同じように四角い陣地を築いている。
トップの寒鴉が僕を見ると、チョット頭を下げて、俺に礼をする。その後、全部の連中がバシバシと頭を下げて、僕に礼をする。
見た目はただの普通の寒鴉で、赤ん坊や隊長みたいな鮮やかな特徴はない。でも、その足には金の指輪がはめられている。間違いなく、それが国王だ!
昨夜、エミに寒鴉たちのことをいっぱい聞いて、名前や特徴などの情報をゲットできたおかげさ。エミは現場で100個以上の名前を言ったけど、その内数個しか覚えていないと言った。100個以上って、ちょっとオーバーだね。寝る前に何度もくり返し覚えたけど、今思い出してみても、ほとんど覚えていない気がする。
で、僕も完璧主義者じゃないから、大丈夫、印象に残ったことだけ覚えておけばいいんだ。例えば、この国王のこととか。
国王は礼をして、列の外、横にいる一羽の寒鴉が一声鳴いた。
「ガァ......」
――シッ!声を小さくしてくださいよ。
神官がやる日課だとか、その仕事柄でしょう、つい鳴いてしまったんだ。でも今、絶対にエミを起こせないから、声を小さくしなきゃ。
僕の意思をピンと察して、神官はすぐにぴたりと黙った。
神官の返事があって、国王はメンバーたちを引っ張ってキリッと整列し、窓をくぐり抜けて隣のテーブルにやって来て、そこでストップした。賢い神官は戦略を変えて、もうひと鳴きせずに頷いた。その動きを終えると、国王がぱっと光る石を口から吐き出し、それをテーブルにそっと置いた。
これ......まさか宝石か?やっぱり国王は凄いな。エミ、これで一気に金持ちになるよ。
それから、国王は隊列を離れて、神官のそばに立った。
次から次へと寒鴉たちが前に出て、それぞれが贈り物を献上した。その後、列から離れて、きちんと国王の後ろに並んだ。そして、次の列がやってきた。一列が窓から離れるたびに、雪の上から別の列の寒鴉たちが飛び立って、空いたスペースを埋めたんだ。
これらの奴ら、まるで閲兵のようだった。僕はただ驚いて、何も言えなかった。
やっぱり、もしかしたら僕もこういうエレガントな礼儀を学ぶべきなんじゃないかと思う。時々、儀式を大事にするのもいいんじゃないかと。今、ちょっと後悔している。もっと早く、南に行って礼儀を学んでおけばよかった。ああ、あの頃は宅邸で騒いでばかりだった。故郷を離れて亡霊連邦を旅しているときなんて、もっと学ぶ機会がなかった。
風鈴よ風鈴、お前はなんでこんなに田舎者みたいなんだ。礼儀っていう分野では、これらの亡霊生物たちにも負けてしまうよ。
この静かな儀式はそうやって進んでいった。出席した各寒鴉が、皆エミに一つの贈り物を届けた。そのほとんどは羽根一本を贈るだけで、やっぱり彼らも国王みたいに変わったもんを贈るわけにはいかないからな。
隊長の贈り物は赤い羽根。中尉の贈り物は鋭い黒い羽根。その羽根を見ると、あまり良い思い出は浮かばないな。博士の贈り物は本の一ページ。韋駄天の贈り物は霧松の針葉。神官の贈り物は一粒のガラスの玉。音楽家の贈り物は一本の琴弦。警長の贈り物は死んだ虫。大公は来なかった。もちろん、その体格があまりにも大きいから、他の誰かに見つかるとまずいでしょう。その贈り物は一本の固い羽根で、五羽の寒鴉が一緒に持ち込んできた。
短い10分間、テーブルは贈り物でいっぱいになった。儀式が終わると、神官が軽く頷いた。ほとんどの寒鴉が飛び立ち、去っていった。残ったのは国王をリーダーとする十数羽の寒鴉だけで、大群の代表として、ここに留まることになった。
十九分が経ち、今は七時二十九分だ。予想通り、ドアのノックの音が聞こえた。
――ただ一分早い、なかなかいいね。
「車椅子に乗らなければ、もっと早く来たのに。ほら、ボーッとするな、これらのリボンを壁につけろ。おや、これらのカラスたちもいるんだ。これで大助かり。彩りのリボンつけの仕事は、それらに任せよう。ほら、そう、そう、こい。お前だよ。」
無生は黄金の指輪をつけた脚の上にいるあの寒鴉に手を振り、その寒鴉が無生の前に飛んできた。
ちょっと、あれは国王だよ、無生。なんで奴隷のように命令するんだ、失礼すぎる。こんなことしたら、寒鴉たちに復讐されるよ。
「お前、カラスのボスだろ?さあ、仲間を呼んで、これらのリボンを取り付けろ。あまりひどい仕事にしないでくれ、お前らならできると信じてるぜ。」
たぶん国王自体が寛大な心を持っているから、無生の無礼な行動を許容したのかもしれない。あるいは、今日はエミの誕生日だから、この少年と争いたくないのかもしれない。無生の命令に従い、その後、寒鴉たちを集めて作業を始めた。次々と彩りのリボンを足に取り、リビングの各所に取り付けていった。
「兄さん、朝食の準備しよう。小魚を2匹焼いておけばいい、今朝はあんまり食べすぎるな、昼は豪華な食事をするから。」
仁也はうなずき、大きな四角い箱をテーブルに置いた。そして、キッチンに向かった。
「おい!ボス!みんな作業をさせる時に気をつけろよ、この箱に触れないでくれ!」
国王は不本意そうな声で応え、それから寒鴉たちを連れて作業を続けた。
――無生、これは?
「バースデーケーキだ!風鈴、ビックリしたろ?ここでもケーキがあるんだぜ!実は、昨日、村長が封鎖線をなんとかして、自分で寒山町までケーキを買いに行ったんだ。」
――村長か?へえ、村長もなかなかやるじゃん。
大きなひげを生やしたおっさんがふらふらと外に出ていくシーンが、思い浮かんだ。
「そりゃ当たり前だろ!知らない?エミは村長のお気に入りの孫娘だ。瑛が遠く行った後、ずっと村長がエミの面倒を見てきたんだ。僕たち探偵団だけじゃ、エミを守れないんだ。村長がいるから、村の奴らはエミに手を出さないんだ。」
――なるほど、そうだったのか。
そういえば、前回、村長がエミを見舞いに来たことがあった。凛が手紙を届けに来た時の。ああ、その時は特になんてことないと思ってたけど。今考えると、村長は僕に会いに特別に来たわけじゃなくて、ただこの辺りに遊びに来たついでに挨拶しに来ただけかもしれないね。
「さて、時間を無駄にするのはやめよう。こいつで風船を膨らませよう。」
――はい。
ええと、これらの風船、篠木兄弟がどこから手に入れたか、全然知らないんだけど、質感がめちゃくちゃいい!革の鎧みたいに硬くて、まるで膨らまない。一生懸命息を吸って、頬がパンパンになって、それでもやっと風船が膨らむ。二つも膨らませたら、もう肺が爆発しそう。
無生が悪ふざけしてるわけじゃない。彼も息切れしているし。ダメだ、テーブルの上にはまだ膨らませていない風船が二十個以上もある。僕たち二人だけじゃ、絶対にミッション達成できない。
あぁ、手伝ってくれる人がいたらいいのに。仁也?まだキッチンで冷凍魚を処理している。国王?寒鴉に風船を膨らませさせるなんて、冗談。凛?見る影もない。
「ドン――ドン――」
階段からゴゴゴという音が聞こえてきた。眠い目をこすりながら、ボケボケの少女がのそのそと降りてきた。あくびをして目をこすり、そして、混乱したリビングを見て、ビックリしたように目を丸くした。
あれ、やっとエミが起きた!やった、これで手伝いが来た。三人でやれば、まだ間に合うんじゃないか。
「おい、エミ、風船膨らませる手伝いしてくれよ。エミが起きる前に、全ての風船を膨らませないといけないんだってば!」
まるで命の綱をつかむように、エミに大声で叫んだ。
「え?」
少女の表情がますますヘンな感じになった。
ん?何か変だな。考えてみよう。僕と無生が風船膨らます必要はあるけど、もう間に合わない。エミが手伝ってくれるなら、大丈夫そうだ。なんで急いで風船膨らます必要があるんだろ?エミが起きる前に、エミの誕生日サプライズのためのパーティーの準備を整えなきゃいけないから。
ええと。論理的には何も問題ないような......
......
そうそう、何も問題ない。
......
――問題ないって、言えるもんかよ!
失敗。大失敗。完全失敗。人生でただ一度の失敗。
「あらら、なんか今日変な感じがして、目が覚めちゃったんだ。まさか、私の誕生日なの。ハハ、ハハ......ありがとう、みんな、ありがとう。」
みんなが困惑しつつも、エミの馬鹿っぽい笑顔を見て、どう返すかわからない表情を浮かべる。
僕のような自分が誕生日を知らないだけでもちょっと変わっていると思ってたけど、エミのような誕生日を忘れちゃう人って......なんだ。やっぱり僕とエミがここで出会うのは運命だった。縁があった。
まあいいや、とにかくエミが来てくれたんだ。彼女も手伝ってくれるっていうし、その固い風船を膨らませるのに必死で頑張っている。誕生日の本人が会場に早く来て、準備に参加して、自分の誕生日を一緒に楽しもうとしている――本当に珍しい光景だ。
仕事終わったら、お腹がグーグー鳴ってきた。良かった、仁也は焼き魚を作ってくれた。えと、この色、ちょっと黒い、焼きすぎたのかな。まあ、まだまだ美味しそうだけど、エミが作った焼き魚と比べるとやっぱりちょっと違う。でも、とにかく自分で作るよりは美味しいな。
魚肉は人間たちに食べ尽くされ、魚の骨はカラスたちに任せた。それらもお腹が空いているようで、口角からヨダレが垂れている。でも、まだ国王の命令を待っているみたい。
国王は乱れた魚の骨を見て、嫌悪の表情で頭を横に振った。神官がそれを見て、そっと鳴き声をあげた。残りの寒鴉たちは、骨を奪い合って食べ始めた。中尉と隊長は明らかに凶暴なタイプで、他の連中はこのコンビにはかなわなかった。
正直、ふたりの魚が、そこにいる四人の人間と十数羽のカラスには、ちょっと足りないね。もちろん、それは無生の判断ミスじゃない、わざとそうしてる。彼も僕もその理屈をわかっている。おなかがすいたときほど、後のごちそうを楽しみにするってね。
凜が来ると、皆のごちそうの幕が上がる。正直言って、若いハンターが家に入ってくると、彼女がちょうど戦いから戻ってきたと思った。
「雪兎三匹、毛鼠十二匹、松蟒蛇五匹。どう?」
「わー、さすが凜!」みんなが歓声をあげた。
雪兎三匹は本当においしそうだった。でも残りのは何でしょう、ネズミ?ヘビ?こんなに大きい五匹のヘビ、凜がひとりで仕留めたの?ウサギは食べるものだって、僕はよく知っている。だからネズミとヘビは?狩人から、エミへの秘密の贈り物なのかな。
おいおい、仁也と凛って、なんでこうして死んだ動物全部台所に持ってきた?え、まさか。
なんか考えちゃって、本当に不思議な感じがした。感情が強すぎるのか、表情が勝手に変わっちゃた。でもその変化、無生にピンポイントで見抜かれてた。
「どうした、風鈴。ビックリしちゃった?」
――まあ......
「へえ。今さらここの生活にまだ慣れないか、お前。まさに『郷に入っては郷に従え』ってこと、知ってる?」
すると、台所から内臓と血の臭いがプンプン漂ってきた。無生が顔を上げて、じっくり匂いを嗅いで、思わず感嘆しながら頷いたんだ。
「うん、なんて素晴らしい味なんだろ。毎日食べてる魚よりも100倍も美味しいな!」
――ふん、なに言ってんだよ。
「ん?じゃ風鈴は何が好き?世界中を旅してきたお前なら、色んな美味しいものに出会った、そうだろ?」
――ふふ、それはよく分かってる。一番おいしいものってのは、甘草だ!
「甘草?」
――そう。ありがちなものだけど、超おいしい。甘草の汁は、まるで蜜のように甘いんだ。
冗談じゃない。亡霊連邦を旅しているとき、ずっと甘草を食べてた。なんでみんながそんなに良いものに気づかないのか、ほんとに不思議だった。道端にいっぱい生えているし、一握りつかんで口に放り込んで、ぎゅっと噛んで、甘い汁がのどを潤すんだ......ああ、なんていい思い出でしょう。亡霊たちは不思議がって、「この人間、なんで牛みたいに食べるんだろう」って。ふん、そんなこと言うなよ。どうして僕が牛に似てると言えるんだよ。
「ってことは、草を好きだって?うーん、本当に牛みたいだぜ。」
――君が!
「肉よりも草を食べるって、本当に変わった人だな。でも本当にうまいから、凛の料理。試してみたらどうだ?」
――いやだ。とにかく僕絶対そのネズミやヘビなんか食べない。絶対に!
昼間、村長がやってきた。彼は輝くびんを何本か抱えて、のんびりと家に入ってきた。
「おや、皆揃ってた。遅れてごめんよ。おっ、この若者はどうしたのじゃ。」
明らかに今、一匹の怪物が暴れ回っている。焼いたネズミの肉でも、蛇の肉でも、彼女が見つけたものはすぐにかみ砕かれ、その後お腹の中へと消えていく。まるで何日も空腹だった猛犬のように、テーブルの上の食べ物を狂ったように食い荒らしている。
あ、それ誰だって。もちろん僕じゃない、本当。
――美味しい!仁也、もっとヘビをくれ!ネズミも欲しい!
「別にいいよ、村長。この異邦人は、地元の美味しいモノを食べたことがないんだ。今、やっと口にするチャンスが来て、興奮しちまうのも仕方ないだろ。」
なんか奴ら、僕のことを話してるみたいだ。いやいや、かまわない。食べ続けよう。
「なるほど。この若者、なかなかじゃないか。『郷に入っては郷に従え』、そうかい?」
「そうだって言ってた、彼女に。ほらほら、もう食べないでくれよ、風鈴。おい、止めろ。」
嫌々だけど、手にしてた串を置いた。早く口の中の肉を飲み込んで、それから口を拭った。
「さて、みんな集まったし。では――」
無生が手を上げて合図を出した。昨日約束してた合図だ。
そして皆が振り向いて、エミを見つめる。
「――お誕生日おめでとう、エミ!」
大声で歓声を上げた。寒鴉たちはリビングの中で上下に舞い踊り、一緒に喜んで鳴いた。
皆の祝福に向き合うと、白い少女はちょっと照れくさそうに見えた。彼女は微笑んで、ほんのりと頭を下げた。
「ありがとう、みんな。」
「よーし!じゃ、村長様、お酒持ってこい!」
「おや、篠木くん、相変わらず細かいのじや。さぁさぁ、今日は例外じゃ。若者らよ、がぶりといこうぜ!」
「おお!万歳!」 みんな一斉に歓声をあげた。
あのピカピカ光る瓶の中にはお酒が入ってたのか!まさか、こんなものが大好きだったとは。南の酒蔵で小さな頃、ずいぶん盗み飲みしてた。いつもグラグラしてて、結局彼に見つかることになってたけどね。もし南の邸宅がまだあるなら、酒蔵の入り口の左側の最初の板の上に、二つの足跡が見つかるはずだ。そう、それが僕がよく立たされた場所なんだ。
未成年がお酒を飲むのはあんまり推奨されないけど、まぁいいや。だって今日はエミの誕生日だし、思いっきり飲もうじゃないか。
「乾杯!」
ちょっと、酒杯を手に取ったばかりなのに、どうして彼らは先に一杯もう飲んでしまったよ。このスピードは速すぎない?
「乾杯!」
げっ。味はまぁまぁだな。
「乾杯。」
うーん、けっこうな濃い酒だ。こんなもの久しぶりに飲むから、ちょっとキツいな。どこで作ったものかはわからないけど、とにかく思い出の中の酒と同じような感じだ。
「乾杯......」
もうちょっと酔っ払い気味だけど、僕みたいなベテランの酒飲みにとってはおちゃのこさいさいだ。
「乾......」
――かんぱい!あれ、みんな......
見ての通り、みんなが僕みたいに酒に強いわけじゃない。まさに、彼らには僕のような、コッソリと酒を盗んで飲んで酒に慣れていくという、ちょっと変わった経験がないんだ。だから、予想通り、さっきまでうるさかった皆が、今はすっかり静かになったん。
仁也は地面に倒れて、顔は真っ赤になって、もう酔いつぶれてしまった。凛は仁也の隣で横たわり、意識を失う直前にしっかりと彼を抱きしめ、満足げな顔を浮かべてすぐに眠りに落ちた。
無生は車椅子に座って、手に持っていたコップを地面に叩きつけた。その後、彼は国王を怒りにまかせた表情で見つめ、左手で指をさして口の中で何かをぶつぶつ言っていた。まるで国王やカラスの連中が仕事をする能力がないとか、バカげている、風船一つも膨らませることができないとかを責めているようだった。
エミはまだ椅子に座っているけれど、明らかに酔っている。彼女はそっとげっぷをして、白い顔に可愛らしい紅潮を浮かべている。
今、村長の意識はまあまあまともだ。でも、まあ、ほんのちょっとだけどね。
「なんだって?酔ってねぇ、若者よ!」
そう言って、また空の酒杯を持ち上げて、ガツガツと一口飲んだ。もちろん、ただの空気を飲んでいるだけだが。
「見たかい、もう一口!わしは酔ってなぇぞ!」
――えっと、村長、大丈夫?
「大丈夫!が、大丈夫だからこそ、一番大きな問題じゃ!つまり大きな問題も、大丈夫じゃ!大丈夫になりたいなら、酒を飲んで、それで大丈夫になるのじゃ。わかるかい、若者よ!」
――村長、ちょっと意味不明なこと言い出したわね!
「なんだい?もう一度言ってみろ、わしは酔ってねぇ!」
この時、彼は何かを思い出したようだ。
「おっ、そうか!忘れるところじゃ。ほら、エミちゃん!」
老人はグラスを机にバンと置き、そしてポケットから手紙を取り出した。
「エミへの、プレゼント!」
彼はエミに手を差し出し、手紙を渡そうとした。でもエミはとうに酔い潰れていたので、当然、反応がない。彼女を憤慨しながら見つめ、手を振り回している。
――わかったわかった、僕がやるよ。
信をさっさと取ってきて。うーん、この封筒を見ると、なんだかとても馴染み深い感じがする。
あ、わかった。これは瑛の手紙だ!今日は妹の誕生日で、兄としてのエイが特別に手紙を書いて、そして村長にこの時に持って来てもらうように頼んだんだ。
危なかった。僕が素早く反応しなかったら、この手紙は村長によって壊されてしまうところだった。村長ってやつは、郵便配達員としてはやっぱり不合格だ。でも、手紙はここまで無事に届いたからよかった。
それじゃあ、読んでみるとするか。
「親愛なる妹よ、最近はどう?もし僕の予想が当たっているなら、今、村長じいさんからこの手紙を受け取っているはずだ。あ、そうそう、咲は今日が何日か知ってる?思い出せない?また忘れてしまった?
うーん、ちょっとヒントをあげよう。十五年前の今日、ひとりの人が生まれたんだ。それは兄にとって最も重要な人なんだ。思い出したかな。
お誕生日おめでとう、咲。お誕生日、おめでとう、
可愛い妹の誕生日を祝えることができて、今の僕はどんな時よりも幸せだ。今頃、エミはきっと家で誕生日を祝っているんだろう。友達と一緒に、誕生日を祝って。きっととっても嬉しいんだろう。もしこの手紙を読んで、もっと幸せになれるなら、それで僕も成功だね。
そう言えば、あと二週間で春がやってくるんだ。薄桜城に来てから、長い間、ずっと病院にいた。死にかけの患者から、見習い医師になった。もう半年以上も医者になってるけど、時々看護師さんたちが昔の僕を患者と間違えちゃうことがあるんだ。正式な医者になったら、彼女たちはまだ僕を間違えるかな。
はい、まだエミのことを心配してる。大金を稼いで、家を買ったら、必ずエミを迎えに行く。その時は、一緒に白雪村を離れて、薄桜城で暮らそう。故郷のことは忘れて、希望を抱きながら、新しい生活を一緒に迎えよう。
春が、もうすぐやってくる。
――墨雪瑛。」




