其の十 墓場
黄金の原っぱ、黄金の山、黄金の太陽。他の色はもうぼやけて、世界中が広がるのは黄金色ばかり。山々の中で黄金の朝顔が満開で、黄金の姿がゆっくりと現れる。その黄金の長髪が風に舞い、彼女の周りにはキラキラと黄金色の光が踊る。
あぁ、またこの夢か。何度も、何度も、いつも同じ夢。映画館で毎日定刻に上映されるオペラのように、今、風鈴って呼ばれる娘は、自分で作り上げたステージで、自分で選んだ役者として、自分で練り上げた演劇を演じ、自分を演じてる。
第三幕――『追放』。地獄の果てからの幽霊、あの彼岸花の咲く郷里からの少女、枯れた足で大地を蹴り、黄金の原野を駆け抜け、あの黄金の影を追いかける。彼女は休むことを忘れ、生命を忘れ、ただ追いかける。生命の果てまで、夢の果てまで、ただ追いかける。
ホンマに言うと、この幕の結末は明らかや。僕は彼女を追いつけない。何度も何度も、この夢ばっかり。もうそろそろ飽きた。こうなると、自分の頬を思いっきり叩きたくなる。それか舌を噛み切って、血が凝固して腐った塊になって、喉を詰まらせて窒息死するくらい。それとも足をロープのように結びつけて、骨を粉砕し、血管を断ち切るくらい。追い続けるのをやめるために、僕は色々な方法を試したけど、なかなかやめられなかった。
しかし、夢の主は、僕じゃない。目を覚ますときの世界を感じる僕でもなく、眠っている間の虚無に陥る僕でもなく、この舞台で演じる僕でもない。風鈴じゃなく、風鈴でもなく、また風鈴でもなく、ただの風鈴だ。混沌の風鈴、原始の風鈴、真の風鈴。潜在意識が支配する夢の中、舞台の上の僕はただの駒、歯車、この劇場をドンドン動かす一部分にすぎない。歌劇が終わり、観客が去ると、全世界、全舞台、全夢の中が、俳優の風鈴の死によって全て終わる。
ああ、だから、追い続けなきゃ。少し力を入れて、左足を前に踏み出し、膝がキーキーと鳴るようにし、冷たい足が原野にまた一つの印を残すんだ。ただ追い続ける。一歩、一歩、そしてまた一歩。音楽が奏でられ、照明が点滅し、観客たちは立ち上がって拍手を送る。彼らが喜び、涙し、怒りを向け、僕を前に進ませるんだ。
ふん、あの馬鹿ども、舞台を見に来るだけで、後の展開なんてまったく理解してないんだ。お金を渡してチケットを買って、舞台を見て、それっきり帰る。まるで来たことなんてなかったみたいに。僕を追いつけるとでも思ってるの?本当に金色の影と抱き合えるとでも?ふん、バカばっかりだ。
そうだ。第四幕――『湮滅』。いつまでも追いつけない金色の影が、夢の果てまで走って、劇場のガラスを破って、この壮大なオペラを終わらせるんだ。いつものように、いつも通り。何千年も、変わらず。期待なんてする必要もないし、何を考える必要もない。ただ追いかけるだけ。まるで機械のように、オペラの流れを進め、人間らしい思考を捨て、風鈴という名の役者を混沌と原始に還す。
ああ、金色の影。こんなに近くにいるのに、もう一歩踏み出せば彼女とぶつかりそうなんだ。ああ、今、彼女は走り去るべきだ。風のように軽やかに跳ねて、姿を消してしまえばいい。
一秒、二秒、三秒。
世界は静寂に包まれた。
なんだ、どういうことだ。もっと早く動けよ!
だが、誰も応えない。電気の切れたランプのように、故障した機械のように、枯れた木のように、消えた星のように。劇場は息を潜め、役者たちは失敗した。
あれ?そうか。何百回、何千回もの公演を経ても、こんなサプライズがあるとはな。
そうか。ならば、なんで試してみないか?
なんで?もう公演は台無しだし、客席のお客さんたちも罵り始めてる。彼らはチケット返金して劇場荒らす気満々だ。この舞台はもうグチャグチャだ。だったら、なんで他のことをやってみないんだ?
電車がレールから外れたなら、もっと外れさせりゃいい。小鳥が飛ぶの忘れたなら、海で泳ぐようにさせりゃいい。
そうして、手を伸ばして彼女に触れた。冷たい指先が、その柔らかくて白い頬に触れた。指をそっと滑らせて、鼻から唇へと進んでいく。そして、もっと深く、もっと深く、手を伸ばしていった。
「おい!」
突如、巨大な声が空から轟いた。まるでこの世界には属さないような、そんな声だ。その出現は全ての法則を破壊したかのようだ。観客はただの泡影と化し、大地は炎に包まれ、空には亀裂が入り、世界自体が崩れ去った。大小様々なガラスの破片がまるで豪雨のように地面に降り注ぎ、僕はその粉々になる音が聞こえてきた。
最終幕――『崩壊』。
――幕切れ。今日の演目が終わり、ご覧いただきありがとうございました!
ガッと目を開けた。そこには、目を見開いたままのエミと、その隣に金色の少女がいた。
おお、夢が現実になったな。いいや、今日はラッキーな日だ。
でも、この少女、どこかで見覚えがあるんだが......あれ、本当にこんな子いたっけ?指を動かしてみると、確かに何かに触れている感覚がある。よく見ると、ああ、その真っ白な頬だ。
「おい、お前!喰らえ!」
空からぶん投げられた平手打ちが、額にドンと当たり、辛辣な痛みでベッドからビクッと飛び上がった。金色の少年が僕を驚きのまなざしで見つめているのが見えた。エミはなんか興奮したものでも見たかのように顔が真っ赤になり、恥ずかしそうにしてた。
感じるんだ、僕が完全に目を覚ましたってことを。無生が皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「おや、今日も特別な収穫があるってわけか。風鈴って、夢見てるときに、他人の顔をこんな下らないことするんだな。で?それに、僕の口に指突っ込む気?」
――篠木?エミ?あの、ここはどこ?
「墨雪家だよ、墨雪家。無駄じゃなかったってことさ。まず風鈴の変な癖をメモって、それから村の掲示板に貼り出して、みんなに楽しませるぜ。」
墨雪家?でも、覚えている、僕は黒煙で毒殺されたはずだ。ああ、つまり、結局僕は死んでなかったんだ、ラッキーだ。でも、なんで僕がここに?大公はどこ?海は?黒煙は?とにかく、冷静にならなきゃ。自分ではっきりとわからないなら、周りの人に聞いてみるしかない。
――僕、僕......
ちくしょう、舌がもつれて何も言えない。
「僕、僕って、なんなんだよ!探偵団の新星の大探偵が、こんなヘマをやるなんて?海岸で気絶して、どういうことだ?」
そう言えば、今、僕は確かにエイの寝室のベッドの上に横たわっている。窓の外はもう真っ暗で、数時間気絶していたようだ。エミはベッドの横に座って、僕を悲しそうに見ている。無生は木製の車椅子に座り、左手でノートの空白のページに日付を書いている。
「あの、風鈴......」
――エミ、どうしたんだ?きゃあ!
白い少女が突然飛びかかってきて、力強僕を抱きしめた。彼女の顔は見えないが、微かな泣き声が聞こえる。ため息をつき、優しく彼女の髪を撫でる。
「無事なの、本当に良かった。あの時、風鈴が海岸で死んじゃうかと思ったよ。」
――ごめんね、エミ。
約半分後、エミは手を離した。ハンカチを取り、そっと涙を拭いてから、黙って頭を下げた。
「ほらほら、もういいよ。エミ、泣くな。」
少年が僕を見つめて、眉をひそめた。病気で青白くなった顔は、かつての活気を取り戻そうとしているようだった。
「さて、今、この大探偵が午後に何を体験したのか、聞いてみましょう。嘘はつかないでくれよ、僕はお前のことを信じてるから。」
全ての経験を語り終えると、無生はノートにすでに三ページもの記録を残していた。こんな奇妙な話を聞いたら、彼がいくつか質問を始めるかと思ったが、ただノートをバッグにしまい、手を振ってため息をついた。
それどころか、不思議そうな顔をしたのはエミだった。不思議というより、怒っているという表情だ。うーん、そんなにムッとしてる顔は怒ってるということかな。エミに何か悪いことでもしたのか、全く理解できないな。
「風鈴!君、本当に海の奥に行ったの?なんでそんなことを!約束したじゃないの、行くのはだめって!」
――ごめん、エミ......
「よしよし、エミ、冷静に。これは風鈴のせいじゃないよ。僕たちの大探偵が初めて竜騎士を演じたら、自分の乗り物を手なづけられないのもわかるだろ。」
「たとえ大公がいるとしても、これはあまりにも危険じゃないの?もし神様に制裁されたらどうするつもりだ!」
「大丈夫だ。こいつはな、『海の奥に入った』なんて言ったのは無理だ。時間神さえ巻き込んでないし、神様の家の前でぶらついただけだから、制裁を受けることはない。もう心配しなくていい、エミ。」
「でも――」
「ほらほら。もういいよ。僕、もう寝る。明日、部活のときにまたゆっくり話そう。」
え?この態度、全然無生じゃない。正直僕、彼に審問されて朝までかかる覚悟してたくらいだ。こんな不思議な話を聞いても、誰だって無関心でいられるわけがない。
「驚かなくてもいいよ、風鈴。ホンマに、僕、本当疲れてるんだ。実は、今日ここまで来れただけでも奇跡だ。ふと思いついたんだ。ほら、おじいさんが昔使ってたボロい車椅子。なんで僕、そのいいものに気づかんかったんだろか。」
――そうか。
「お前だって、僕のような死にかけてる奴を困らせることはしない。そうだろ?」
お別れみたいに、彼は右腕をグッと上げようと頑張った。でも、結局のところ失敗しちゃった。ピンと張り詰めた右腕が、少しだけ持ち上がったかと思ったら、すぐにグッと力なく下がった。
「あ、すまない。失礼した。左手でバイバイするのにもっと慣れないと。」
彼が左腕を上げて手を振り、それから振り向いて、エミを見た。
「エミ、頼む。今は外に誰もいないかもしれないけど、気をつけて。他の奴らに見つからないように。」
エミはうなずいた。彼女は立ち上がって、無生の車椅子を押しながら、外に向かって歩き出した。
「じゃあな、風鈴。あ、そう、ちょっと冗談だった、お前が寝てる姿を他の奴らに話すつもりはないよ。ずっとずっと、僕はお前の良き相棒だから、そうだろ。」
――うん、ありがとう。お大事に、無生君。
エミが帰ってくる頃には、夜はもう深夜だった。まあ、篠木家が村の端っこにあるおかげで、夜に他の村人に遭遇することはなかった。もしも「呪いの子」と呼ばれる者が村に入るのを他の連中に見られたら、大変なことになりそうだ。
「呪いの子」か。偏見と悪意に満ちた言葉。正直に言うと、僕ならエミみたいなこと、そんな馬鹿どもに我慢するなんて無理だ。両親を失って、兄も出ていっちゃって、村の外で一人ぼっちになるのも、自分の罪を背負うのも、エミのせいじゃないんだ。そんなこと考えると、僕も村に行って、エミをイジメてる連中をボコボコにしたくなる。
今日は本当にエミに感謝しなくちゃいけない。大公も悪気はないし、単に僕を寒鴉たちの故郷に連れて行きたいだけなんだ。たぶん、気を失った後に、僕を桟橋まで運んできたんだ。間違いなく、エミが僕を見つけてくれて、背負って家に連れて帰ってくれたんだ。もし彼女がいなかったら、僕はもう凍死してたかもしれない。
なあ、エミって本当に心強い子だよな。風鈴、もしも君がここに来てくれなかったら、今のエミは一体どうなってたか?僕はきっと、彼女を裏切らないように、探偵団のみんなにも裏切らないように、何としてもこの場所の真相を明らかにしなきゃいけない。
エミも僕にいろいろ聞きたいことがあるでしょうけど、彼女も無生と同じく、もうクタクタだ。普段から長く眠る子が、こんなに大変なことを経験して疲れきってるんだ。
彼女のベッドのそばに行って、おやすみって言った。窓を閉めようかと思ったけど、やっぱりやめた。
「風鈴、私と約束してね。もうこれ以上、危ないことはやめてね。」
――うん、約束する。おやすみ。
僕はうなずき、そして彼女の額をそっと触った。ちゃんと掛けた毛布は、彼女の蹴った一撃でまた床に落ちた。
よし、これでエミはぐっすり眠っている。僕も調査に取りかかれる。そう、新星探偵、堂々復活!オーバータイム、オーバータイムだ!今日の事務所は絶対に閉じない。無生のために、エミのために、探偵団の仲間たちのために、もっと頑張らなきゃ。
そうして、服を着て、マフラーを巻いて、静かに歩みを進め、出発の準備を整えた。解決しなければならない問題は山ほどあるけど、一歩一歩進めればいい。無生の言葉を聞いて、今日のことは全て明日の部活の時間までに済ませる。今日は昨日の問題を解決し、明日は今日の問題を解決する。そして昨日の問題とは――白鈴花だ。
ふん,そうだ、白鈴花。彼岸の連邦都市で咲く花が、なんと白雪村の墓場でも見つかるとは。もし寒鴉たちがここに現れたのが偶然だとすれば、白鈴花はどうなの?そしてエイと篠木兄弟を襲った悪魂は?海に漂うあの黒煙は?これらのものは、この荒廃し、世界と隔絶された小さな村に現れるべきではない。
答えは簡単だ。ここには確かに亡霊たちが浸透していた。ふん、正直言って、彼らを過小評価していたな。風花湾に関しては、彼らは既に行動を起こしていた。人間王国の目の前で、こっそりと陰で動いていた。僕の旅が、確かに素晴らしすぎた。亡霊連邦を離れて人間王国に来たら、すべてが変わると思ってた。しかし今、生々しい事実が教えてくれた、亡霊たちはまだここにいるってことを。
うん、彼らから永遠に逃れられない気がする。将来はあり得るかもしれないが、でも今はだめだ。見て、風に揺れる可憐な白鈴花。見て、墓場の果ての石のベンチに置かれた提灯。聞け、黄泉の者が奏でるような鈴の音が。聞け、提灯の中で青い炎が燃える時の爆音が。
ああ、懐かしい、それでいて嫌な呪力の息吹。まあ、こんな冷えた夜に、僕みたいな可愛い女の子が一人で陰気な墓場に来るのはかなり危険だ。誰かが僕と一緒にいないと、とても孤独に感じるよ。でも幸い、僕は一人じゃない。この人里離れた無人の墓場には、他に何があるでしょうか。
ああ、わくわくしてきた。一体誰でしょう。礼儀正しいカラスの紳士?僕をプリンセスと呼んで、この素晴らしい夜に共に踊るの?それとも死体を食べる悪魔?暗闇で僕が罠にかかるのを待ち受けて、容赦なく一食いするの?それとも、白雪村を守る魂たち?僕を訪ねる者として歓迎パーティを開くの?
さあ、静かに進めよう。墓場の奥深くへと歩みを進め、石のベンチに座り、そして目を閉じる。
「はあ......」
あら、来たね。後ろの松林から、黒い姿がゆっくりと近づいてくる。その息遣い、なかなか重たいな。まあ、この程度の距離を歩いただけで、そんなに息が切れるかな。
「邪霊様。ここ。なぜ。」
――邪霊、邪霊って、いつもそんな風に呼んで、本当に失礼な!お前らの亡霊って、いつまで経ってもマナー知らないな。僕ってば立派な人間なんだ!
相手が動かなくなった。まずい、ビビっちゃったのか。僕はちょっと後悔した。自信満々と生意気な発言で、本音をストレートに吐き出せたのはいいけど、さすがに今のタイミングでそれは大胆すぎた。もっとしゃべり方に気をつけるべきだ。
「人間。なぜ。」
――そう、人間。この人間は、聞きたいことがあるんだ。
相手はしばらく黙っていたけど、やっぱりゆっくりと近づいてきた。もう闇に紛れる必要もなく、まっすぐに僕に向かってきた。提灯の明かりで、彼の顔がハッキリと見えた。
「墓守。どうも。人間。」
ボロボロのマントの下から、腐ったようで乾いた顔が覗いている。腐った木みたいな唇がほんのり上向きになって、黒い歯が見え隠れする。
目の前の亡霊が微笑む。




