第二章4 勧誘
「コハクー!どこー!」
意外な救世主登場により、シノムの「玩具の刑」から逃れることに成功した私は、絶賛コハク捜索中である。
レキ曰くコハクが私を呼んでいるとのことだが、そもそもこの屋敷が広すぎて、必死の呼び声は意味を成していないだろうし、一体彼がどこにいるのかも分からない。レキもコハクの居場所ぐらい教えてくれれば良かったのでは。
いやしかし、あのデンジャラスすぎる事態から救ってくれたのがレキというのは紛れもない事実なのだ。あの男がそんな行動を取ってくれたということには感謝しなくてはならない――と、その時。
「やっぱりあんただった。一言言いに来た。うるさい」
迷惑そうに顔を顰めて現れたのはミシュアだった。どうやら、私の叫びながらの捜索は全く意味の無いものでは無かったようだ。
ある程度はここの間取りを覚えたと思っていたが、実際まだまだだった。スマホも無いし迷ったら誰かを頼るしか手段が無いので、やっと人が目の前に現れたことには安堵したが、その相手が相手なもので。
「ミ、ミシュア!会いたかったような、会いたくなかったような」
「ミシュは全力で会いたくなかった」
ひどっ。即答ですか。しかも全力で会うことを嫌がられてる私の立場って……。
しかしミシュアは呆れたように溜息をつくと、
「ほら。アルジのところ、行く」
ムスっとした表情でそんな言葉を口にした。
私がコハクと接触するのは気に入らないはずなのでは――と不思議に思い、硬直してしまった。
「連れて行ってくれるの?」
「勘違いされると困る。ミシュがあんたを連れて行くのは、あくまでアルジのため。分かったら、早く歩く」
コハクに異常なほど絶対服従なミシュア。そういえば、二人の間にどんな特別な絆があるのかを私はまだ知らない。
「あのさ、ミシュア。ミシュアはどうしてそんなにコハクが好きなの?」
「……これは、ただのミシュの一方的な執着だって分かってる。でも、アルジがいなければ、この命は無かった。だから、ミシュの命はアルジのもの。で、ミシュもアルジのもの」
案外すんなりと語ってくれたミシュアだが、それ以上は口を開こうとしなかった。
コハクがいなければ、ミシュアの命は無かった――?非常に詳細が気になるが、なんだか今は、それを聞く時では無いような気がした。ミシュアがこのことを話してくれただけでも珍しいのだろうし、とりあえず今はこの胸中を渦巻く感情をなんとか誤魔化そう。
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ミシュアに連れられるまま外に出ると、コハクに加え、私を除く牙の三人は、屋敷の外の庭に集合していた。どうりで、屋敷内をいくら歩き回っても見つからなかったはずだ。
場に着くが否や受けたコハクからの説明を完結に改めると、今から私は、自分の特性である風の精霊の加護を活かした魔法を使えるように特訓するらしい。
鳳凰――つまりユキを操ることだけが私の役目だとばかり思っていたが、どうやらそれだけでは無いようだ。確かに、シンプルにすごいことを言うようだが、私がここにいる目的はこの世界を守ることだし、魔法の一つや二つ使えなくてはならないというのもなんとなく納得出来る。
「まずは風魔法の基本、ストームからいきましょうか」
「ちょっと待った!しゅんちゃん、私と一緒に召喚魔法の道に進もうよ!」
「紬……そういうのは、シロ以外にも召喚出来る味方を増やしてから言ってください」
紬が愛して止まない召喚魔法というのは、物凄い攻撃力の龍や、味方に付ければ心強い回復系の妖精、更には強力な悪魔まで、様々なものを呼び寄せることが出来るらしい。しかし紬は今のところ、相棒である応竜のシロ以外に召喚出来るものがいないとのこと。
とは言え、召喚出来ないという言い方をすると語弊があるかもしれない。召喚自体は可能なのだが、要するに彼らは紬に力を貸してくれるほど、紬を信頼していないということなのだ。こうした主従関係が無い以上、下手に召喚してしまって暴れられたりでもしたら取り返しのつかないことになってしまう。
「うーん、私は遠慮しておきたいところだけど、召喚魔法を使わないとユキを召喚出来ないってことだよね?」
「いや、出来るぜ」
私の問いかけに即座に答えたのは龍乃助だった。
彼はその特徴的なスカーフの柄の通り、麒麟という霊獣をパートナーにしているらしく、魔法はというと重力魔法が使える。更にはそれと一緒に、備えている剣術を組み合わせて強力な攻撃を繰り出すことも出来るらしい。感想、かなりすごい。
「本来、俺達とは違う空間にいる霊獣をここに呼び寄せるには、実体化って方法を使うんだ。これにはエネルギー量ってのも重要になってくるんだけど――それが少ない場合、霊獣に力を与えた人間は、自分の生命力を全て捧げる勢いで使うことになるし、暫く動けなくなることもある」
「キャタや龍乃助は、ある程度魔法を使って体を慣らしたり、少しずつ実体化の経験を重ねたりしたお陰で、実体化を使っても魔法を使い続けられるほどの域に達したが……当然ながら今の春来の場合、そうはいかない。下手すれば失神する可能性もあるぞ」
龍乃助の説明に付け足す形で言及するキャタ。彼女のパートナーの霊獣はまだ謎だ。
なるほど、エネルギーというのはつまり体力と似たようなものか。使って慣らしていくことで高まっていくみたいな。
それより今、さらっとすごいこと言わなかった?
「いや私、失神してまでユキを呼び出したくないんだけど」
「はいはーい!ここで、そんなしゅんちゃんにおすすめなのが、やっぱりこの召喚魔法!いちいちエネルギーを使わなくたって、ユキちゃんを秒速で召喚可能!この機会にどうでしょう?今ならつむちゃんの手取り足取り指導キャンペーン付き!」
恐怖心から若干青くなる私に、セールスマン風に召喚魔法をゴリ押ししてくる紬。その速射砲のような喋りは止まることを知らず、彼女は更に人差し指をピンと立てて、
「ちなみに!例えばですが私の場合、水の精霊の加護を受けているため水魔法との両立が可能なのです!つまりしゅんちゃんなら、風魔法が完全に使えるようになるまでは、何かあっても楽々召喚したユキちゃんに戦いを任せることが出来るのです!」
息も切らさずここまで喋ってドヤ顔を見せている紬の召喚魔法への熱意には圧倒される。それに、確かに彼女は間違ったことは言っていない。――いやむしろ、召喚魔法が使えれば無駄なエネルギー莫大消費も無く、霊獣を呼び出せるのだ。もしかして、これに乗らない手は無いのでは。
――となると、どうしても引っかかることが。
「確かに召喚魔法の素晴らしさはよーく伝わったよ。でも、じゃあなんでりゅうのもキャタもそれを使わないの?」
この二人なら、それは単なる拘りだという可能性も考えられるが、流石に自分の生命力をかなり削ってまでそれを貫くだろうか。
「それはなぁ……この召喚魔法、常人には難しすぎるんだよ!!」
あらま、そうでしたか!
「そうだぞ。確かに霊獣使いにとって、召喚魔法は使えるに越したことはない。しかし魔導書は解読不能、魔法を習得しようとして失敗した時のリスクは計測不可。キャタ達に無理なら、春来にも無理に決まってるんだぞ」
キャタがさり気なく新入りの可能性を潰しているのは置いておいて……やっぱり、そうですよねえ!そんな上手くいきませんよねえ!てか、紬すご!地味にすご!
「まったく……あなたが僕の部屋の本棚から召喚魔法の本を持ち出した時は、まさかこれを解読するなんて思ってもいませんでしたよ」
やれやれと失笑するコハクと、その言葉を聞いて「てへっ」と悪戯っぽく舌を出す紬。普段の行動からして、彼女がそんなずば抜けた頭脳を持っていることなんて想像すらつかなかった。見た目で判断してはいけないと言うのはこういうことなのかと、妙に納得したのだった。




