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第二章2 敏腕執事に手落ちなし

 着替えを済ませたので、とりあえず大広間に足を運んだ。

 ところでこの服、この世界での普段着ということでいいのかな。こんな服を着るのは初めてだし、若干そわそわするよ。


 大広間にやってきた私に真っ先に私に気付いたコハクは、微笑んで「どうぞ」と椅子を引いてくれた。紳士だ。どこぞの執事とは、本当に同じ人間なのかと疑うほどの違いだ。


「おはようございます、春来。昨晩はよく眠れましたか?」


「おはよう、コハク。うん、昨日は色んなことがあったから、ぐっすりだったよ」


「それは良かったです。それと……うん、やっぱり。その服、よく似合っていますよ」


「ほ、ほんと?」


 なんと!コハク様に褒められました!

 シノムはコハクに頼まれてこの服を持ってきたって言ってたし……もしかして、コハクが選んでくれたのかな?

 にしてもコハク、なんでよりによってあんな危険人物に頼んだんだーー?


 と、まるで私達の会話を遮るかのように、器用に皿をいくつも乗せた腕が伸びてきて、テーブルに皿を置いた。


「お待たせしました、コハク様。朝食でございます」


 ーーんん?


「毎日ご苦労様です、シノム。今日はバード中心の豪華な朝食ですね」


 特に戸惑う様子もなく、嬉しそうな表情を浮かべるコハク。バードというのは、そのクリスマスかとでも言いたくなるような七面鳥めいた肉塊のことだろうか。


「はい。昨日コハク様達が出かけてる間に、僕とレキもたまには狩りにでも行こうって話になって。行って良かったです、たくさんバードが捕れたんですよ!」


 いやいやいや、ちょっと待て。どういうことよ、これ。あの変態執事はどこに?今朝、女物の服をコハクに着せたいと息を荒くしていたシノムはどこに?


「まあ、『僕がレキを半ば強引に狩りに連れて行って』が正解なんですけどね」


 相変わらず昨日と同じ長椅子にゴロゴロと寝そべるレキが、独り言のように、でもしっかり聞こえる声で呟いた。

 うーん、なぜスーツが崩れないのかが不思議だ……じゃなくて。


 未だに、コハクがシノムの料理を褒めシノムが嬉しそうに(ニヤニヤではなく)ニコニコしているという状況に謎しか感じない私は、小声でレキを呼び、こっちに来るように手招きをした。


「はい、どうも、バケモノです」


「あくまでも挨拶はそれなのね……」


 レキは面倒くさそうにではあるが、のろのろとこちらに来てくれた。

 今のところ態度や行動は緩慢な彼しか見たことがないが、妙に服装はしっかりしている。皺一つない黒いスーツを着た男が、ああやって長椅子に転がる姿は、何とも言えず滑稽だ。


「で、どうしたんですか。ニンゲンさん」


「いや、シノムのことなんだけどさ。あのシノムの態度、一体どうなってんの?」


 流石にシノムと毎日顔を合わせて、一緒に仕事をしているであろうレキなら、彼の普段の変態っぷりを知っているのではないかと、私は談笑中の二人の方を指差して言った。

 するとレキは、よく分からないと言った風に首を傾げて、


「シノムも一応執事ですし、主様に敬語を使うのは当たり前では?それに、普段は騒がしいしうざったい奴ですが、仕事もちゃんと熟しますし、料理の腕も確かですし……人として終わってる奴では無いですよ。あ、因みに俺はバケモノですが彼は人間です」


「……レキって意外とシノムのこと好きだったんだね」


「は?嫌いですよ。根拠も無く、分かったようなことを言わないで下さい」


「まあまあ。いや、そうじゃなくてさ。要するに、普段は腐ってーーんぐっ!?」


 そこまで喋ると、後ろから何者かに物凄い迫力で口を覆われた。とは言ってもその犯人など一人しか思い当たらない訳だが。

 恐る恐る振り返ると、ゴゴゴ……という効果音でも付きそうなほど、恐ろしい表情をしたシノムがそこにいた。

 黒い。黒いぞ。黒を纏っていると言ってもいい。オーラが黒い。


「春来ちゃーん。ご飯食べ終わったら、大事なお話がありますからねー?」


 ああ神様、どうやら私の人生は終わりを迎えたようです。

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