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第二章1 賑やかな朝

 六月春来、髪色以外平々凡々、どこにでもいる普通の女子高生。そんな私も、平和で退屈な毎日をひっくり返してしまう一大イベントーー異世界召喚とやらに見舞われたのだから、まったく人生はいつ何が起こるか分かったもんじゃない。


 右も左も分からないこの世界で、混乱続きの一日目を過ごした私。その心はそりゃあもう、穏やかなものとは言えそうにもなかったがーーだがしかし、それはそれとして。二日目の朝、私は疲労からどっぷりと夢の世界に入り浸っていたーーはずだった。


「いっっっだぁ!!」


 はずだった、のに。腰に食らった重い一撃のお陰で強制的に目覚めさせられた。

 あやふやな記憶だが、何だか心地良い夢を見ていて、起きなきゃと思いつつも二度寝してしまった覚えがある。そんな私を乱暴に起こしたのは、誰かから思い切り蹴られたような痛覚だった。

 異世界二日目の朝の始まりは、お世辞にも穏やかとは言えないようで。


「美少女に蹴られて起きるならまあ許そうか、あははーーなんて、言うとでも思った!?」


 犯人は寝台の真横で、腰に手を当て仁王立ちという有りがちなポーズで立っていた。


「いつまでも寝てるから全力で蹴った。それまで」


「あーなんか、分かってはいるんだけど、どうしても寝たい時ってあるじゃん?それが今日だったの!許して下さい、ごめんなさい!ーーって、ミシュアがあまりにも『自分、当然のことしたまでです』って顔してるから、こっちが謝っちゃったじゃん」


「朝から騒がないで。うるさい。あんたが悪いんだから、謝るの当たり前」


 突かれた通り朝からやけに元気な私だが、そういえば昨日、コハクと共にこの世界を守るという、スケールの大きすぎる約束をしてしまったのだった。

 コハク曰く、私はこれから龍乃助、紬、キャタで構成される「(きば)」の一員として、ペアの霊獣である鳳凰と共に戦っていくらしい。

 ーー昨晩意気込んだはいいけれど、本当にやれるのかなぁ。何せ私、体育の成績2だよ?


「てか私、なんでミシュアに起こされてるんだーー?ここは普通、コハク様に起こされるべきだと思うんだけど」


「はぁ……。あんたにはアルジに起こされる権利なんて、ない。そろそろ朝食の時間だから、嫌々ながら起こしに来てやった」


「うん、まあそれはありがとうなんだけど、暴力は辞めようね?ミシュアちゃん」


 この声が聞こえていないのか単に無視したのかーー後者の可能性の方が高い訳だが、ミシュアは私を起こすという目的を達成したと踏んだのか、返事もせずに部屋を出て行ってしまった。

 と同時に、扉の外で別の悲鳴が聞こえた気がするのだが、何かあったのだろうか。


「うーん……昨日とりあえずこの屋敷の大体の間取りは覚えた訳だし、大広間には辿り着けると思うんだけどーー服がなぁ」


 困った。何を着ればいいのだろう。私は今ネグリジェを着ているが、昨日来ていた村人Aのような灰色のワンピースは、脱ぎっぱなしにしていたらミシュアに回収されたみたいだし。(多分、洗濯してくれるのだと思う。)


 ーーと、丁度その時、部屋のドアを短く二回ノックする音が聞こえ、


「やあやあ!おはよう、春来お嬢様。僕ったら天才だから、そんな君にタイミングよーく服を持って来てやった訳だ。あ、別に君からその言葉が聞こえるまで、ドアの前で待機してた訳じゃないからね!」


「で、出たあああああ!」


 満面の笑みを湛えて入って来たのは、例の変態執事だった。

 彼には悪いがすっかり忘れていたし、まさか部屋に入ってくるなんて思っていなかったから、完全に油断していた私は絶叫して助けを呼んだ。

 もうこの際、ミシュアの手でも借りたい!助けてミシュア!どうか戻ってきて!


「こら、落ち着け女!しーっ!しーっ!君が昨日僕を頭突いた挙句に逃亡して、更には紬ちゃんに告げ口したことは、トイレにでも流してあげるから安心して?」


「それを言うなら水に流す、でしょうが!」


 無かったことにしてあげるという旨のことを言ってる割に顔が怖い気がするのは、多分気のせいではないだろう。


「まあまあ、細かいことは気にしない。それにしてもこの服、春来ちゃんなんかより他の男の子に着せたいなぁ。駄目かなぁ」


「はい?いやいやあなた、私のために持って来てくれたんでしょ?」


「いや、今君を見た瞬間に思ったんだ。この服は絶対に、コハク様とかに着せた方が良いってことに、ね!」


 シノムが鼻息を荒くしながらばっと広げた服を見てみて、私は思わずぎょっとした。いや、直前の彼の台詞が無ければ、その美しさに「息を飲んで」いたことだろう。


 白を基調としたそれは、柔らかな純白の羽根を連想させる造りで、ところどころに鳳凰のような紋章の桃色の刺繍が輝いている。


「とても綺麗ではあるんだけど、これ明らかに女物だよね?」


「それが良いんだよ。分かってないなあ。もう!」


「分かって溜まるか!」


 とかなんやらでぎゃあぎゃあ騒いでいると、騒音に気付いたらしい紬が顔を出し、訝しげな目でシノムを見やった。


「シノム……あんた、なんで女の子の部屋に不法侵入してんの?」


「げ、紬ちゃん。し、失礼な!僕はコハク様に頼まれて春来ちゃんに服を持って来てあげただけだよ。やだなぁ、もう。女の子が一晩でも寝た部屋なんて、空気吸い込むだけでアレルギー出ちゃうよ!」


 アレルギー?いや、そんな様子一切見せなかったんだけどこの人。

 先程まで全く関係ない会話(主に一方的な変態トーク)をしていたことを知られまいと焦っているのか、シノムは大袈裟に自分自身を抱くようにして身震いした。


「はぁ……変なこと言ってしゅんちゃんを困らせたら承知しないからね。ていうか、それより早くご飯作ってよね。りゅうのが空腹で機嫌悪くて、こっちは困ってるんだから」


「あーそうだった!春来ちゃんが中々服のことを呟かないせいで、究極のロスタイムじゃないか!仕方がない……今回はこれは君に譲ってあげよう。ではさらば!」


 いや、最初から貰うつもりだったんだけど。だってそれはコハクが私の為に用意してくれたやつだし。それにしても忙しい奴だなぁ。

 内心呆れながら、でもいつもと違う朝に少し胸を高鳴らせながら、私は窓から差し込む朝日を浴びるように、精一杯伸びをしてベッドから飛び降りた。

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