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第一章23 捜索開始

 結論、龍乃助は部屋にはいなかった。

 もぬけの殻となったその部屋に首を傾げたレキだったが、暫くしてから何かを思いついたように「ああ」と、白い手袋に包まれた両手をぽんと合わせ、


「ここに居ないとなると、外で剣でも振るっているのでしょう」


「戦いの練習ってやつ?」


「まあ、そうなりますね」


 それにしても、龍乃助の部屋はどこもかしこも剣だらけだ。

 果たしてここにある全ての剣が、武器として使われているのだろうか。それともコレクションなのだろうか。そういえばゲオル達と戦った時も、龍乃助は腰に三本もの剣を装備していた。


 この世界に来るまでは、まさか唯一の男友達である龍乃助が、こんな凄いことをしてるだなんて思いもしなかったなぁ。


「じゃあ、そこに連れて行って」


「そのつもりですが、その為には確かめなければならないことがあります」


 レキはそう言うと、カーテンがきっちり閉められた窓を指差した。


「月の形を教えて下さい。それと、光の強さも」


 この部屋に入る時も、レキは私に妙な頼みごとをした。彼はこの部屋のカーテンが開いているかどうかを私に確認させ、開いていると伝えるとすぐに閉めさせたのだ。


「自分で見れば良いじゃん」


「それが出来たら、あなたになんて頼んでませんよ」


 なんだか癪に障る言い方だが、今頼れるのはこの執事だけなので、ここはグッと飲み込もう。

 月の状態が龍乃助を探す上で役に立つとも思えないがーー私は疑問を浮かべながらもそれに従い、カーテンの隙間から外を覗いた。


「わぁ……!」


 そこにはとても幻想的な世界が広がっていた。

 この豪邸を出入りする時には見逃していた、大きな噴水。上を見れば、夜空に輝く星。そして宙をキラキラと舞う、幾千もの小さな七色の光。


「ねえレキ、あの綺麗なの何?」


「はい?ああ……精霊のことですか。ニンゲンさんの住んでいたところで言うと、蛍みたいで綺麗ですよね」


「蛍、知ってるの?」


「まあ、ね。それよりさっさと月の状態を教えて下さいよ」


「えーっとね、三日月っぽい感じ。光の強さは……よく分かんないけど、別に眩しくはないよ」


 するとレキは「それなら大丈夫ですね」と言い、私がその隙間から覗くようにしていたカーテンを背後から掴み、ばっと全開にした。


「忘れないで下さい、ニンゲンさん。俺はバケモノです」


 そう言った彼の横顔は、少し切なげに月明かりに照らされていた。改めて見ると、レキは意外と端正な顔立ちをしている。

 言葉の意図を確かめる隙すら与えず、次の瞬間、彼は乱暴に窓を開けていた。


「キリンさんを探しに行くんでしょう?屋敷の扉から出るのは面倒なので、ここから出ましょう」


「確かにここは一階だけど……」


 ここでは家の中でも土足で良いらしく、確かに私達は靴を履いているので、そのまま外に出ることはできる。なんだか本当に、海外にでも来た気分になってしまうものだ。


「じゃあ行きますよ」


 そう言うとレキは身軽に窓から飛び降り、それに続いて私も、バランスを崩しながらどうにか地面に着地した。

 まったく、女の子にこんなアグレッシブなことをさせるなんて、レキは執事だけど紳士じゃないね。


 少し歩いたところで、レキは一際目立つ大木を指差し、


「キリンさんはいつも、あの大木辺りを剣の練習場所としています。行ってきて下さい。俺は面倒くさいので、これにて」


「うん、分かった。ありがとね、レキ」


 相変わらず捻くれた言い方をする執事だが、ここまで連れてきてくれたことには感謝を述べなければならない。


 さてと。龍乃助の捜索、開始。とは言っても、目的地は分かっているのだけれど。

 なんだか、今更ながら本当にここは不思議な世界だ。夜なのに怖くない。ふわふわと舞う精霊達が、明るく闇を照らしてくれる。彼らが夜に潜む邪悪さを和らげてくれているような、そんな気がした。


「あれ?しゅん」


 レキの言う通り、龍乃助はそこにいた。彼は剣を振るっていた腕を止め、驚いた顔で私を見た。

 ここは、龍乃助にとって秘密の練習場所といった感じなのだろう。誰もが寝る準備に入った時、きっと彼は静寂な夜に飛び出して一人で戦いの練習をしているのだ。


「なんでここに来た?って顔をしてるね。ふふん、レキに教えてもらったの!」


「ははは、そっか。誰にも見られてないつもりだったんだけど、レキにはお見通しだったって訳かー!確かにレキ、夜行性だしな」


「それにしてもりゅうの。私に今後どうするかとか、ちゃんと教えてよね」


「ごめんごめん。そこは流石に俺の責任だと思ってるよ」


 いや、思ってもらわないと困ります。

 とりあえず適当に座って一つずつ話していこうか、と龍乃助は言う。

 精霊がキラキラと周りを舞う大木の下で、私と龍乃助は腰を下ろして、やっと二人で会話する機会を設けたのだった。


「まず、七葉ちゃんのことは心配要らないよ。あの時言った『悪いやつ』は、しゅんをこの世界に来させたかった。だからそれが叶った瞬間に彼女は解放された」


「なら良かったけど……。ていうか、りゅうのって、この世界と私達の世界をどうやって同時に生きてるのよ?」


「それは鏡がキーポイントだな。ほら、俺達がここに来た時も、しゅんがうっかりこの世界にフライングしてきた時も、きっかけは鏡だったろ」


 うっかりフライングって……。ぐぬぬ、まあ何も言えまい。


「俺達のようにこの世界に受け入れられた者は、鏡を通して世界を行き来できるようになる。ちなみに、こっちの世界とあっちの世界では時空の感覚が全く違うんで、俺達はここで大活躍を繰り広げている間も、向こうでは時間が進んでいないんだ」


 なんともまあ、私達にとっては都合の良いシステムで。

 でも、そうでもない限り全く関係のない世界を救おうなんて思わないよね。この正義感の塊のような男でもない限り。


「ほう……。ところでりゅうのくん、一つ気になることが。私、この世界に来た時、村人Aみたいな灰色のださい服に着替えさせられてたんだけど」


「あれはどうせ紬が着替えさせたんだろ。ほら俺らの世界の服とこっちの世界の服って大分違うし……お、俺じゃないからな!勘違いすんなよ!」


「ほうほう……」


 気になっていたことが解決すると、多少なりとも気持ちが良い。まったく、早めに龍乃助を見つけてくればよかった。


「それと主様の存在、まだちゃんと話してなかったよな。主様ってのは、その名の通りアカシア家の主で――」


「そして、僕の兄です」


 突然降ってきたその声。

 見上げると、柔和な微笑を湛えてこちらを見下ろす銀髪の青年が立っていた。

 アカシア家当主、コハク・アカシアが。 

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