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第一章2 私がごく普通の女子高生、六月春来です

 以下から、回想シーンに突入する。


 光がチラチラと反射するほど太陽が照りつけるコンクリートに、沢山のビルが聳え立つ、いかにもな都会。


 ごく普通の女子高生の私、六月春来むつきしゅんらいは、ごく普通より一歩――に留まらず百歩くらい外の世界に踏み出している親友、上野七葉うえのななはとこの街の人ごみを掻き分けて小洒落たカフェに来ていた。


「ねぇ、あの子髪色派手だね」


「ガールズバンドとかやってそう」


 また聞こえてきた。こういう人の集まるところに来ると、必ず誰かには言われるのだ。

 ごく普通な私ののちょっと普通離れしているところといえば、髪色ぐらい。

白と桃色がランダムに入り混じるツートンカラーで染め、長い髪を高い位置で結わいた、私の『いつものスタイル』。


 中学生までは、女子特有のカースト制度の中でも中の下くらいにいた私。そのせいもあってか、特に楽しいこともなく物足りない学校生活を送ってきた。

 高校入学と同時にこんな派手な見た目にしたのは、気分だけでも上げていくためだ。

 け、決して、ワンチャン高校デビュー出来たりとかしないかなーとか思ってた訳じゃないよ?


 まあそのお陰で悪目立ちしたりもしたのだが、今となっては毎日平和に過ごしている。それにしても、まさか一年以上この髪色を維持するなんて思わなかった。


 それに外野に色々言われても、自分ではスタイリッシュって思ってやってい訳なので、今更清楚系黒髪女子になんて戻れない。


 ――それに対して。そんな私とは正反対の、男子受け抜群サラサラ黒髪の七葉。

 私の自慢の親友である七葉は、ファッション雑誌の大人気モデルなのだ。


「しゅん、私達あと八ヶ月で受験生になっちゃうね」


「あと八ヶ月もあるじゃないですか、七葉さん」


 そう、私達は現役高校二年生だ。今日みたいに色々出歩きたい年頃だし、まだ勉強から目を逸らしていたい私は、現実逃避をするように七葉の言葉を遮った。

 もし他人にこの会話を聞かれていたとしたら、遊びたい派手髪女子が真面目な女子に抵抗しているようにしか見えないのだろう。


「でもでも!一年の終わりが少しずつ近付いてきてるんだよ?私、心配なの。しゅんとクラス離れたくない」


 クラス替えの心配かあ。

 てっきり七葉が、受験が近いということで勉強面での心配をしているのかとばかり思っていたが、それは違ったみたいだ。


「まぁ確かに。でもさ、ななもそろそろ新しい友達作っても良いんじゃない?」


 七葉は小さい頃から私にべったりで、高校生になった今でも新しい友達を作ろうとしない。というか、自分から拒否しているようなものだ。

 七葉のような美少女にべったりされても嬉しいだけなのだが、ここは親友としての意見を述べておく。


 なんといっても七葉は人気モデルだし、容姿端麗で成績優秀。性格も一見穏やかで優しそうに見える。

 なぜ一見などという言葉を付け足したのかと言うと、幼い頃から彼女と一緒にいた私には、七葉が本当は少し面倒くさい性格だということを知ってしまっているからだ。

 それはともかくとして、七葉と友達になりたい女子などいっぱいいるのだ。なのに七葉ときたら、彼女達を受け入れない。――というより、上手くやんわりと拒むのだ。


「しゅん以外の友達なんて要らないよ。どうせ皆、私がモデルだからって理由で近寄ってくるんでしょ。モデルと友達になれば、自分達が得するって思ってるんだよ」


「いや、そんなことないって」


「別にいい。他の人には、私の気持ちなんて分かんないよ」


「せっかくモデルさんなんだからさ…もっとキラキラした生活を送っていいと思うよ。ななってば損してる」


 まずい。七葉の表情が更に曇ってしまった。

 損してる、は余計だっただろうか。七葉のガラスのハートに罅を入れてしまっただろうか。

 そんなことを考えていると、


「しゅんにそんなこと言われるなんて、私悲しい……!」


 案の定七葉はその大きな瞳から、それに負けないくらい大粒の涙を溢した。次第に嗚咽が漏れ始め、彼女は溢れる涙を拭いながらめそめそと泣き続ける。

 大変なことをしてしまった。こんな所でこの美少女を泣かせたら――。


「ねぇ、見てあの子。あの可愛い友達のこと泣かせて……」


「あんな可愛い子を泣かせるなんて、なんて酷い友達だ」


「あれっ!?もしかして、上野七葉ちゃんじゃない!?えっ?えっ?どうしたんだろー」


 ああ、やっぱりだ。

 七葉と長年ずっと一緒にいるのに、こうなることを事前に予測出来なかっただなんて。

 次から次へと降りかかる罵声を浴びながら、私は飲みかけのコーヒーもそのままに立ち上がった。そして七葉の腕を掴み、逃げるようにカウンターへ向かう。


「すみません!会計お願いします!!」


「どうされましたか、お客様。宜しければこのハンカチで涙をお拭きになって下さい。」


 直ぐにこのカフェを立ち去ろうとしたが、カウンターを担当にしていた上品なおばさま――もとい、店員が七葉を心配そうに見つめる。

 いや紳士的すぎでしょ!……あ、女性に向かってそれはおかしいか。

 それより、そんなもの何処から出てきたというのだろうか。まさか七葉が泣き出した頃から、準備してたとか。


「ありがとうございます……。でも、もう大丈夫ですから」


 七葉はすん、と鼻を鳴らしながら丁寧にそれを断る。

 そうこうしている間にも周りからの視線が痛い。七葉も悪気は無いだろうし、さっさと退散しよう。


「それなら一安心でございます。それと、お客様……」


 七葉に優しい笑顔を向けた店員は、くるりと私の方へ顔を向けると、あからさまではないが冷たい視線でこちらを見やり、

 

「あまりトラブルは起こさないように、お願いしますね」


 ――ああ、相変わらず私には生きにくい世界だなぁ。

 突き刺すように冷たい一撃を浴びた私は、ふとそんなことを思うのだった。

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