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第一章10 コハク・アカシア

「ところで春来、肝心なここの『主様』には会ったのか?」


 先程から皆が口にしている主様、とは一体誰なのか。そんな疑問を頭に巡らせながら、キャタの問い掛けに対して首を振る。

 するとキャタは少々不満気に腕を組み、


「龍乃助に紬。一番最初に春来を会わせるべきは、キャタではなくあいつだろう?でなければキャタはもう暫く寝ていられたんだぞ。責任を取れ」


「だーれが、あんたの自分勝手な睡眠欲に従うもんですか」


 言いながら、ぷいっとそっぽを向く紬。なんというか、どちらも子供だ。


「まあ、しゅんを先にキャタに会わせたことに関しては、特に深い理由は無いよ。ただそこにお前の部屋があったから。それだけ」


 龍乃助の言葉に、それはそれで気に食わないという様子のキャタだが、何気なくといった感じで不意に口を開くと、


「にしても、あの頼りない男のことを主様と呼んだのはいつぶりだろうな。あの男も、あれから少しは変わったのか?」


「そう言ってやるなよ、キャタ。あいつだって、あれでも色々努力してんだぜ?それに……なんてったって、俺達の止まっていた一年もの時間は、こいつが召喚されたことによって動き始めているんだから!!」


 言いながら龍乃助は私の腕をがしっと掴み、どういう訳か走り出した。

 いやどういう訳!?本当にどういう訳!?てか速いよ!引き摺られてるよ私!


「行くぞ、しゅん!この家の――アカシア家の主の元へ!!」


「あーっ!りゅうのずるい!私を置いて行くなーっ!」


 と言う訳で。龍乃助に半ば引き摺られるような形で、後ろに紬を引き連れて、私は『アカシア家』の主様に御対面させて頂くことになった。



❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖



「ここが主様の部屋……」


 私達がいた階――つまり、目が覚めた私が寝かされていた部屋と、キャタの部屋があった階は一階だったらしい。龍乃助があまりにも速いので、龍乃助に体重すら預けて引っ張られていた私には一瞬のように感じられたが、私達はどうやらいつの間にかこの豪邸の四階に到着していたようだ。ちなみに紬はというと、数十秒後に、息を切らしてツインテールをぶん回して登場した。


「顔引き攣ってるけど大丈夫か?まあ安心しろよ。ここの主、見た目は結構弱そうだから」


 かなり主様のことをディスっている感が否めないのだが、果たして龍乃助は怒られたりしないのだろうか。しかし龍乃助が龍乃助なら、紬も紬で、


「じゃ、行くよ!とつにゅー!!」


 仮にもこの豪邸の主の部屋に、ノックすらせずに『とつにゅー』するのはどうかと突っ込みたい気持ちは山々なのだが、扉が開いてしまった限り中へ進むしかない。

 やはりまだ緊張する。まるでお化け屋敷の中への第一歩を踏み出す時のような足取りの重さだ。


「お、お邪魔しまーす」


 部屋は心を映し出す鏡だとか、部屋を見ただけでも持ち主の性格が大体分かるとかはよく言うが、確かにその通りだと思う。

 とても広い部屋だが無駄な物が無く、そのシンプルさがこの部屋の本の多さを際立たせている。しかしその何百冊もの本も、一冊も読みっぱなしにされることなく綺麗に書棚に収納されており、持ち主の知的な雰囲気と几帳面さが想像出来る。


「あれ?見当たらないな……」


 龍乃助の言う通り、部屋には主様らしき人物はいなかった。どうしたものかと首を傾げていると、紬が書棚の近くまで私を導き、


「しゅんちゃん、ここ。ゆっくり押してみて」


 紬が指したのは、書棚の側面だった。言われるがままに押してみるが、かなりの冊数の本が収められた書棚は流石に重い。

 本当にこれであっているのか確かめるように紬を見てみるが、彼女はうんうんと頷いている。

 思い切って力を込めてみると、書棚が動き僅かな隙間が現れた。


「か、隠し部屋?」


 書棚の奥には『聖堂』と呼ぶしかないような神秘的な空間が広がっていた。まるでそこだけ異空間に繋がっているかのような、そんな不思議な違和感を覚える。

 その奥――美しい色彩のステンドグラスの下、両手を握り、祈るような体制を取っていた人物がいた。彼は人の気配に気付いたようで、はっとしたように振り向く。


 その一挙一動にさえ、私はすっかり目を奪われてしまっていた。

 微かに揺れる美しい銀髪。異常なまでに整った綺麗な顔立ち。白を基調としたシンプルな西洋風の衣服に包まれた、スラリとした肢体。そして何より印象的なのが――サファイア色に輝く宇宙のような双眸。

 絵に書いたような美少年、という表現が最も相応しい人物だった。


「やっぱりここにいたのね」


 後ろからひょっこりと紬が現れたことで意識を取り戻し、半開きになっていた口を慌てて覆う。

 すると美少年は降ろしていた腰を上げ、微笑を浮かべてこちらに近付いてきた。

 こんな美少年に免疫がある訳ではない私は、それを確認してあたふたと慌てふためくことしか出来ない。

 若干頬の辺りが熱いし。なんなんだろう、この何とも表現し難い気持ちは!


「兄さんに話を聞いてもらっていたんです。自らの命を犠牲にしてまで僕を生かしてくれた、兄さんに」


 彼は少し伏し目がちになり、胸にそっと手を当てて言う。

 とうとう美少年が目の前まで来てしまった。まずい、心の準備が――!


「ようこそお越し下さいました。折角この場所で初めて顔を合わせることが出来たのです、どうか礼を言わせてください。そして、我が兄にも紹介させて下さい――愛しき逸材よ」


 言いながら彼は、あろう事か私の前に跪いた。

 そして思考が乱れて「え?」を連呼することしか出来ない私の手を取ると、


「初めまして。僕がこの屋敷の主、コハク・アカシアです」

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