第八部 第十一章 エピローグ
神聖帝国の伝承とは、隠された福音枢機卿がいずれ再度現れた時、神とともに腐れ切った神聖帝国を滅ぼして、新しい世界を作り上げると言う話だった。
「だからこそ、五人の特任枢機卿の中でもっとも特異なポジションにいるのが福音枢機卿なのだ。別名は滅びの枢機卿とも呼ばれるのはそこにある。偉大なる祖師が神の啓示を受けて起こした神聖帝国が転生者に運用されることによって、腐った組織になった時にそれを糺すもの。それこそが福音枢機卿なのだ。だからこそ、エドウィン殿が高潔なのだというのなら、この伝承もまさに事実という事になる」
そう呟いて、アルフォンス卿が天を仰いだ。
「我らは確かに神聖帝国の枢機卿だ。神聖帝国は守らねばならない。だが、昨今の内部分裂はどうだ。仲間同士で醜い権力争いをしているだけではないか」
アルフォンス卿はそれを憂えていた。
おそらく、彼は男爵という下位の貴族から枢機卿に選ばれただけあって識見も人並み以上に優れていた。
そして、だからこそ、この神聖帝国が今のままではいけないと非常に憂えていた。
そこへ、不貞腐れているエドウインがこちらに歩いて来ていた。
「あの軽装の革の鎧に、あの姿。間違いない調査対象の一人のエドウィン殿だ。さて、彼が本当にあの福音枢機卿として産まれたのかどうか判断させて貰おうか。果たしてあの伝承は本当なのかどうかを……」
アルフォンス卿はエドウィンに接触を試みた。
つまり、彼の横を通りながら落とし物をする。
自らの財布を落として、その後のエドウィンの行動を見て自ら確かめようとしていた。
「なっ! 」
だが、その前にアルフォンス卿は目の前で信じられないものを見た。
彼も転生者であったからこそ気が付いたのだ。
そう、エドウィンの後に追いかけてきた人物の姿を……
それはイエス・キリストだった。
「待てよ。エドウィン。一緒に帰ろう」
イエスが苦笑しながら、ハリーと追いかけてきた。
「いいよ。もう。真面目にやったのが悪いんだろ」
エドウィンが不貞腐れた。
「そんなこと無いさ。お前は頑張った。俺達は仲間だ。ああは言ったけど、ちゃんと分かってるよ」
そうイエスが苦笑した。
はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!
アルフォンス卿が混乱していた。
すでにエドウィンがイエス・キリスト……神とともに仲間になっていたのだ。
エドウィンとイエスとハリーは何もできなくて呆然として立ちすくむアルフォンス卿の横を通って向こうへ行った。
「神は降臨なされていたのだ」
しばらく立ちすくんでいたアルフォンス卿はそこで跪くと震えるように涙を流して祈りを捧げた。
これが神聖帝国の歴史上なかった最悪の内紛と、この世界の大破壊につながるきっかけとなるとは、その時は誰も理解して無かった。




