第五部 第二章 万能の羊
血抜きが済んだトカゲをさくさくとイエスが切り分けていく。
と言っても、尻尾の肉とレバーくらいで後はイマイチだ。
手足も食えないことは無いが、尻尾の肉の旨味には負ける。
「まあ、血抜きが上手くいけば大体の肉は食えるしな。まあ、時期的なものや雄雌の違いはあるけどさ」
イエスがそんな感じで笑いながらさくさくと肉の塊を切り分けた。
「後は、シチューでも作ろうか? 」
ダリアがそう話す。
多分、セシリアちゃんの方が料理は旨いが、こないだから怖くて誰も近寄れない。
「そうだな。急ぐ用も無いし、ちょっとゆっくり帰ったらいいしな」
アルバートが笑った。
「じゃあ、俺は食べれそうな野草と薬草でも探してくるかな」
俺もそう話した。
『いつまでも、グチグチと言ってられないし、少しでも稼がないとなぁ』
「それなら、俺もついて行こう」
イエスが笑った。
「いや、先に羊の血を落とせよ。小川があんだからさぁ」
俺が羊達の血を指差した。
何があったのか騒がれるようなレベルだ。
「いやいや、後でいいじゃん」
「いや、やったげたら? 血が落ちにくくなるよ? 」
ダリアも突っ込んだ。
羊飼いだからとか言いながら、結構、おおざっぱな世話の仕方なんで、何か羊が可哀そうと言うのは分かる。
「やれやれ、しょうが無いな」
イエスが仕方なしで小川の方に行った。
俺がそれを目で追いかけていてミゾソバを見つけた。
「あれ、ミゾソバだ」
俺が川沿いのミゾソバが群生しているとこに歩くと摘み始めた。
「この手の漢方にも使えそうな薬草の名前が微妙にあちらの世界と同じなのは何でなんだろうな」
イエスが俺に話しかけて来た。
「さあ、ひょっとしたら俺達みたいな転生者がいたんじゃねーかな? 」
俺がそう答える。
意外なくらい薬草関連の名前が向こうの世界と同じなのと、使い方が漢方薬的なものが多いのだ。
まあ、中世ヨーロッパみたいな世界だから、薬になる成分を抽出して使うとかまでは考えないのかもしれないが。
「これってあれだろ? 」
「ああ。石田散薬の原料になった血止め、リュウマチ、捻挫、打ち身に効果ある奴だ」
「何だ、知ってたのか? 」
「幕末好きな奴は知ってるだろうな」
俺がイエスに苦笑した。
そう、石田散薬とは江戸後期の薬で、あの土方歳三の生家が作って販売していた薬なのだ。
まあ、別に俺は幕末は好きでもなんでもないんだけどね。
「ノビルもあるな」
「これは料理に使えそうだな」
そう言いながらイエスも採りだした。
「いやいや、羊を洗いに来たんじゃ無いのか? 」
「ああ、それなら、これで済む」
イエスが手をパンと叩いた。
相変わらずの適当な世話の仕方で、羊達が小川に勝手に飛び込んで自分で洗っている。
「いや、洗ってやったら? 」
俺が呆れて突っ込んだ。
「これで充分だよ。どうせ、こいつらの羊毛なんか売り物にならんし」
「え? ならないの? 」
「戦闘用で育てると羊毛が堅くなるんだ」
「へー」
それは知らなんだ。
まあ、羊を戦闘用で飼う奴なんて、こいつくらいだろうけど。
いつの間にか、イエスが網になっている袋を持ち出した。
「何だ? 」
「見てろ」
イエスが再度手を叩くと、羊が一匹ずつ川からあがってイエスの前に並んだ。
そしたら、イエスが網を持って羊から羊毛に絡まったカニや川エビを採取し始めた。
「この羊、万能かよ」
マジで呆れた。




