第五部 第一章 プロローグ
羊の草刈りのお金は取られずに済んだ。
金貨の袋に比べて微々たるものだったし、何より俺とイエスがどんよりとした顔をしているので、セシリアちゃんの不穏な呟きと合わせてアルバート達がビビったらしい。
金貨の袋は中の金貨一枚までエドワードと言い合って、何とか十分の一だけ貰えた。
『おかしい。必死に戦ったのは俺と羊さん達のはずだ。セシリアちゃんは別だが、他の奴は全く戦ってダメージを与えれなかったくせに……。ボコボコにされてたくせに……。糞虫みたいな扱いを受けていたくせに……』
「いやいや、ずっと喋って居るんだけど」
ダリアが愚痴る。
「愚痴るだろ! 」
「そうですよ! 」
俺とイエスが抗議した。
そう、俺達はクエストを終えて、入院中の<チームチェイン>はそのまま現地で療養と言う事になって、俺達だけ馬車で先にエイドリアン様のギルドに向かっていた。
イエスの羊の精鋭たちも馬車の後ろにトコトコとついて来る。
ちょっと、傍から見たらほのぼのとした風景に見える様だが中身は相当に違うと言う。
「まあまあ、穏便に」
困ったようにアルバートが話す。
「いや、こんだけ愚痴られてたらムカつくでしょ」
ダリアが騒ぐ。
「「いや、愚痴るだろ」」
結局、ラッセルの追い込みも合わせての報酬だったらしくて、俺達は糞みたいな報酬でやんの。
「いや、そもそも、あんな爆発起こす方がおかしいでしょ」
「そうしないと倒せなかっただろ? 」
「いやいや、結局、セシリアの怪力でしょうが」
「は? 」
セシリアちゃんが三白眼でダリアを睨んだ。
ダリアが震えて挙動不審になった。
『馬鹿な奴め』
「あんたも五月蠅いんだけどぉぉぉ」
低音の地獄の底から響くような呟きがセシリアちゃんから漏れる。
うーむ。
困ったもんである。
結局、馬車の中はまるで葬儀のように静かになった。
アルバートも黙っちゃったんで間に入る奴がいない。
「キィーーーッ! 」
後ろから羊の叫び声が聞こえた。
「またか? 」
イエスが呆れたように立った。
やっぱり、こいつは侮れない。
上手い逃げ方だ。
「とりあえず、行くぞ」
セシリアちゃんの三白眼が光る中、羊達を見ると言う言い訳で、馬車の幌の後ろから出た。
素晴らしい。
イエスの要領の良さはSS級はあるだろう。
「また、ツチトカゲか」
イエスが後ろを見ると、餌にするはずだった羊の軍団に一瞬にして首の頸動脈を切られて、尻尾を掴まれた挙句木に吊るされてジタバタと断末魔の動きをする二メートルくらいのツチトカゲが居る。
恐ろしや。
飛び散った血が羊の血にかかり、まさにブラッディシープである。
トカゲに噛みつかれないように、綺麗にツチトカゲの顎を蹄で砕いて吊るしてるあたり、半端じゃない。
餌が実は捕食獣みたいな感じだ。
「今夜もトカゲ肉だな」
俺が笑って答えた。
「そろそろ別なものが引っかかって欲しいのだがなぁ」
イエスが愚痴を言う。
『なるほど、この口ぶりだとずっと羊飼いの間、これをやっていたのか』
「当たり前だろ。オオカミの銀箔のような毛皮は高く売れるのだ」
俺が喋っていたらしく、イエスが笑った。
むう、やはりこいつは侮れないな。
「たいしたものだな」
アルバートも馬車を止めて見に来た。
こいつはさしずめ、羊の奇襲部隊でも夢見ているのだろう。
だが、この強さなら、それは夢では無いし。
「ここで野宿する? 」
ダリアも馬車の中に居ずらかったらしくて出て来た。
確かに、小川は流れていて見通しのいい軽い丘であるし、今夜の野宿の場所には良さそうだ。




