第二部 第五章 転生者だから分かる
俺とイエスが酒場の前の通りに出た。
酒場内はやんややんやの歓声だし、アルバート達も興味があるらしくて俺と相対するイエスを見ていた。
しかし、外に出て驚いた。
まさか、本当に羊を連れて来ているとは。
それも、三十頭くらい居る。
「何だ、これは? 」
俺が冷やかに呟いた。
「いやいや、羊使いだと言っただろうに」
「単なる羊飼いじゃねーか」
「ふふふふ、そう見えるか? 」
俺の突っ込みにイエスがにやりと笑った。
「む? 羊を闘犬のように操るのか? 」
俺がイエスの真意を見抜いた。
「ふふふふ、分かるか。見よっ! ババババーン! ドドーン! 」
イエスが叫ぶ。
「ドーン! 」
イエスの叫び声で一頭の羊が前に進み出て来た。
「何? 魔法の詠唱なの? 変わった詠唱ね」
ダリアが興味深げに呟いた。
「ババーンッ! 」
羊の一頭が俺を見てにやりと笑った。
「ま、まさか……お前……さっきから口に出しているのは……」
俺が衝撃のあまり震える。
「ふふふ、分かるか。流石、俺と同じ転生者よ」
イエスが不敵に笑った。
「転生者にのみ伝わる魔法って事? 」
ダリアが真剣だ。
『この世界のSクラス級はあるかもしれない魔法使いのダリアからしたら、それが興味深いのだろう。だが、違う』
「これは、効果音だな」
俺がそうイエスに話す。
「ふはははは、良くぞ分かった! その通りだ! 俺はこの世界に不満がある! 戦いを物語を盛り上げるのは何時だって効果音だ! 」
「ううむ。そんな前世の観点をこちらの世界に持ってくるとは、こいつ並じゃない」
俺が唸る。
『実際に刀の斬り合いとかやったら、別にズバッと斬ったって音はしない。剣同士がぶつかれば金属音はするが、剣が破損するから現実には滅多にしない。結局は無音の戦いになってしまうのだ』
「その通りだ。例えば相手を殴っても無音。相手を蹴っても無音。だが、ここで、効果音でビシィッ! とか俺が言ってみろ! そのパンチは威力があるように見えるだろう! 」
「なるほど、先ほどのババババーンとかドドーンとか言うのは登場音と言う事か」
「ふふふふ」
イエスがふてぶてしく笑った。
「はああ? 呪文の詠唱じゃ無いの? 」
ダリアが衝撃を受けた顔をした。
「当たり前だろうが。魔法なんか使わねぇし」
イエスがそう胸を張った。
セシリアちゃんが凄い顔していた。
勿論、アルバートだけでなく皆もだが。
「いやいや、これは大切な事なんだ。さっきの羊の登場シーンだって、奴が叫ばなければ、普通に羊がトコトコ前に出て来ただけだからな」
「その通りだ。ババババーンとかドーンとか音がしたら、インパクトが出るだろう」
呆れる皆を俺とイエスが必死に説得する。
「それは必要なのか? 」
あのエイドリアン様がため息をついて聞いた。
「「必要です! 」」
俺とイエスがエイドリアン様を見て叫ぶ。
「おおお……」
その迫力に気圧されたのかエイドリアン様が頷いた。
「貴様、たいした視点だな。まさか、なろう世界に効果音と言う新しい概念を持ち込むとは」
「ふふふふ、それが分かる凄腕の転生者で良かったよ」
イエスが満足げに笑った。
「さあ、わが使徒ペテロよ! 戦うのだ! 」
「え? それは良いのか? お前の名前はともかく、使徒ペテロって羊につけて使うのはどうかと思うが……」
俺がその名前に突っ込んだ。
「ふふふ、その辺は見解の違いだな。さあ、使徒ペテロ。奴を倒せ」
そう、イエスがそう使徒羊一号に声をかけるとのっそりと立った。
『羊が二本足で立つだと? ええええ? 』
「バババーン! 」
イエスが効果音を絶叫した。




