第二部 第四章 イエス
「俺も残念ながら、この辺はなろう小説なんだが、ブラック企業でな。酷い労働環境で家にも帰れず会社で寝袋生活だ。スローライフとかに憧れながら命を削って働いた結果、ある日ぽっくりと脳溢血で死んでしまった」
イエスが悲しい顔で呟いた。
「そうか、それは辛いな。だが、今は羊飼いなんだろ。それなら夢に見ていたスローライフじゃ無いか」
「最初はそう思った。だがな、来る日も来る日も羊ばかりだ。しかも、羊毛を取る以外は飯は羊のチーズだし、さらに羊肉。羊、羊、羊、羊、羊、ひつじ、ひつぅじ、ひつぇぅぅじぃぃだらけだ。同じ羊飼いのこちらの世界の父さんがそうやって亡くなった時、もうウンザリしてな」
「待て、父さんっているのか? 」
「いるよ! 俺はイエスキリストじゃねえから! そもそも旧約か何かだと、イエスキリストはちゃんと両親揃ってるし、イエスが神の事を話し出した時に、両親はイエスの頭がおかしくなったかとか心配してる。あれ読んだ時に、すげぇ矛盾してるやんと思ったけど」
「まあ、そりゃ、そうだろうな」
「それで、流石に転生者がここに居るのを知ってな。何か俺達がここに現れたのに理由があるのかと思ったわけだ」
「え? 馬鹿なっ! 俺の転生がそんなに世間に知られているとはっ! 」
俺が動揺した。
「そりゃ、そんだけ喋ればな」
エイドリアン様が呆れて笑ってらっしゃる。
「いや、と言うか、<ストーカーのエドウィン>って言ったら有名だぞ? 近隣で知らん奴はいないし」
「マジかよ」
俺がイエスに言われて悲しくなった。
「そこで、この世界での母ちゃんが村長の後添えになったし、もう俺も羊飼いは良いかと思って冒険者でもやろうかと思ってここに来たんだ」
「父さんが亡くなって、何年だ? 」
「先月だぞ? 」
「母ちゃんドライだな」
「まあ、俺の本当の父さんが誰かちょっと心配になって来たけどな」
「うーむ」
リアルに考えるとシビアだな。
「まあ、俺としても、何か転生者の伝承とかあって、俺達が何かをする為にここに転生したとか思いたかったんだが、何にも無いんだな」
「ある訳ないじゃ無いか」
俺が実も蓋も無く答えた。
「世の中ってシビアだよな」
「そりゃそうだろう」
「しょうがない、地道に生きていくか。と言う事で冒険者になりたいのだが」
「いや、冒険者はあまり地道じゃ無いと思うぞ」
俺がそう突っ込んだ。
何しろ、普通に討伐クエストとかあればポンポン亡くなるし。
「何となくだが、長年の勘だが、お前、何か特殊な能力とかあるんじゃないのか? 」
エイドリアン様がいきなりイエスを見てそうおっしゃった。
それはあくまで容姿の問題では……と思うのだが。
「ふふふ、流石はギルドマスターの中のギルドマスターと言われるだけの事はありますね」
イエスがにやりと笑うのではなく、猛烈な揉み手をしてエイドリアン様に近づいた。
『こ、こいつぅぅぅ! 俺のエイドリアン様に馴れ馴れしい! 』
「それはクスシヘビの酒漬けですね。では、これをおためしください。クスシエビを捌いて切り身にして干した上にハチミツを塗ったものです」
イエスがエイドリアン様に俺が渡したクスシヘビの酒漬けを見て、媚び媚びの笑顔で揉み手をしながらエイドリアン様にクスシヘビの干しハチミツ漬けを渡す。
『き、貴様ぁぁぁあ! 俺のエイドリアン様を奪う気かぁぁぁ! 』
「いや、別にお前のじゃ無いから」
エイドリアン様が困惑した顔だ。
しかし、俺はそれを放置する事は出来ない。
「良いだろう。俺が貴様と勝負して、エイドリアン様の真の寵愛を受けているのが誰かを教えてやる」
俺がイエスにそう宣言した。
「ふふふ、良いだろう」
イエスが笑って頷いた。
「勝負しても、どちらが寵愛を受けてるとか関係無いだろうに」
エイドリアン様がそう苦笑した。
だが、これは面子の問題なのだ。




