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女神のブレスを  作者: マイペ
4/10

毒煙と炎の中で。

 テンガは依頼の洞窟に向かう前に自宅の洞窟に寄っていた。


今迄の冒険で得た硬い針葉樹の木の棒、植物で出来たロープ、植物油、薬草、毒草、武器になりそうな尖った石、白い植物の樹皮。


これらはテンガが薬草採取以外の依頼を受けれる様になった時を夢見て集めたテンガの希望そのものだった。


その全てを袋に詰めてテンガは思う。


俺の自慢の品、夢の象徴、この品々を持ち出す日がまさかこんな絶望の日になるなんてな。


ゆっくりゆっくりと街を出て歩いていく。


「俺は捨て子、洞窟育ちのテンガだ!

俺だって生まれた時から洞窟に住んでるんだ。

道具だってこんなに増えた。

知識と経験だってあるぞ。

虫なんかに負けてたまるか!」


テンガは歩きながらそう叫び自分を奮い立たせ覚悟を決めていた。


 目的の洞窟に着いたのは夜だった。

テンガはどうせ暗い洞窟だし昼も夜も変わらない。

このまま行こうと思ったがやめた。

怖くなった訳じゃない。

冷静になったのだ。

洞窟の中は夜行性の生き物が多い事を洞窟暮らしのテンガは知っていた。


どうせ本当に急ぎの特別依頼ではない。

とはいえ沼地のジメジメした洞窟の入り口付近で安全に寝られる訳もない。

そして俺の能力では出来る事は限られている。

出来る事を全てやるんだ。


 翌朝テンガのはじめての冒険は洞窟のマッピングからはじまった。


洞窟探索中に外から獣が入って来ない様に入り口に罠を仕掛け、洞窟のポイントとなっている地点に罠や油をそれぞれ設置する。


暗い洞窟内で迷わない様に目印の代わりの白い樹皮を所々置いた。


大沼虫が溜まって居る場所の手前ギリギリで、木の棒を握り呼吸を整える。


もう一度テンガは覚悟を決め直して、毒草を混ぜて作った薪木台に火をつけた。


「よし火が着いた。

煙も洞窟の奥へ向かっているぞ。」


テンガは静かに拳を握りしめてガッツポーズした。


カサカサカサカサ。


白、黒、灰色色はそれぞれ違うが大きさはどれも大体30〜40センチ。


しばらくすると毒煙を吸った大沼虫の大群が奥から火を警戒しつつもふらふらと歩いて出てきた。


いける!


テンガは先頭の白い大沼虫に向けて渾身の力で木の棒を振り下ろした。


グチョ。


小気味悪い音を立てながら大沼虫がはぜる。

それと同時に漂う強烈な悪臭。


「うぐっ。」


あまりの悪臭にテンガは気を失いそうになったが、なんとか正気を保って次の白い大沼虫に殴りかかる。


グチョ。


いける!いけるぞ!

俺だってやれば出来るんだ。


そんなテンガの希望は次の黒い大沼虫を叩いた瞬間に木の棒と共にへし折られた。


「なんだと!」


ついそんな声をあげてしまったテンガの眼前に黒い固まりが高速で飛び込んできた。


「グハァッ。」

テンガには一瞬何が起こったかわからなかった。

わからないまま大きく後ろに飛ばされた。


そらはただの毒で弱った大沼虫の体当たりだった。


熟練のハンターならば楽に避けられたかもしれない。

初心者でも何かしらの自然力があれば、盾や鎧があれはギリギリ耐えられただろう。


しかし、テンガには自然力もなく、ただのボロ布の服しか着ていないのだ。

植物で作った紐を腕や胴に巻いて保護していたが何の意味も無かった。


「ぐはぁぁ、痛い、痛いよ。」


死ぬ、俺は死ぬのか…嫌だ。


テンガは地面の石を拾いながら何とか立ち上がり石を焚き火台に投げつけた。


パリンッ。


焚き火台の中の壺が割れ中の油が溢れ辺り一帯を火の海に変える。


「へっへへ、ざまあみろ。」


そう言うとテンガは足を引き摺りながら、樹皮の目印即ち次の毒入り焚き火台に向かって歩いた。


洞窟育ちのテンガは知っていた、洞窟内では酸素が不足していくら大量の油で火をつけても消えてしまう事を。

低酸素状態では生き物は生きれない事を。


次の毒入り焚き火を着けたテンガはその場に座り込み薬草から作った薬を飲んだ。


テンガは長い間薬草採取をしていたが、自分が使うのははじめてだった。


「なんだよ、みんな言う程不味くないじゃないか。」

はじめての戦闘の高揚感か、それとも身体の痛みのせいなのかテンガは何故だか嬉しかった。


これが冒険か、ハンターなのか。

なるほど薬草採取ばかりしていた俺はバカにされる筈だな。


カサカサカサカサ。


そんな事を考えているとまた大沼虫の大群がふらふらと洞窟の奥から現れだした。


「おうおうおう!

俺様がテンガ様だ!

虫けらども俺に叩き潰されるか、毒煙で死ぬか、酸欠で死ぬか、炎で死ぬか選びやがれ!」


 大沼虫の大群との戦闘は続きテンガが用意した最後の毒焚き火台に着いた頃にはテンガも大沼虫の大群も共に限界を迎えていた。


テンガは瀕死に近い状態の中でも出来る事を全てしてきた。


白い大沼虫は脱皮直後なのか柔らかく木の棒で叩き潰せる事、灰色のは堅くなり始めていて潰せない事、黒色のは堅い上に動きも素早い事なども観察しながら戦っていた。


そしてテンガは次の白い樹皮の目印が足場の悪い入り口から少し入った走れない所なのも理解していた。


「この毒焚き火台を突破されたらもう逃げられないだろうな。」


テンガは一人そう呟いて先頭の白い大沼虫に向かっていった。


脱皮したての白い大沼虫は打撃だけでなく毒にも弱いのだ。

だから毒煙の中から一番最初に逃げ出してくる大沼虫の先頭はいつも白い大沼虫なのだ。


出来るだけ黒い大沼虫が出て来る前に白い奴を叩き潰す。

今のテンガに出来る事はそれだけだった。


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