99話 短い平穏
「もう4時限目かー。ん、先生がはいってきたな」
ヨミと喋っていたら、教室の扉を開けて誰かが入ってきた。その人は誰かと思えば、双葉であった。てっきり今回欠席したカインと同じように、参加しないと思っていたが、意外と普通の顔をして立っていた。
「双葉さん!?なんでここに?」
「ええ、私は普段通りですよ。トレントとはどちらかが死んでも、立ち止まることをしないと約束して居るんです。ただ…カイン君は立ち直れてなくて心配なんですよね」
双葉はそう言ってから教卓に着く。
「あ、皆さん!この授業の後に部活と呼ばれる、放課後にスポーツや文芸をしたりする活動があります。ぜひご参加下さいね!」
流石トレントの妻なのだろう。トレント達は幾度の紛争を経験して、精神的にも強いとは聞いていたが、既に愛する夫の死を乗り越えている。自分達はまだ覚悟が足りていないのだと実感した。
双葉は授業を始める。普段BL小説ばかり書いているため、少し心配だったが分かりやすく、まとまった授業であった。
授業が終わって双葉が出ていった後に、サヤが横に来てしっぽを振る。
「主人様、お疲れ様です!見てください、アクケルテさんは終わった瞬間に、教室から飛び出していきましたよー」
「まじだ。あいつ最早女性恐怖症の域に達してるな。サヤちゃん、ヨミ、ラザフォード。部活見に行くか?」
ヨミとラザフォードがいつの間にか、引っ付いてきていたので声をかける。
「うん!コメットちゃんも着いてくる?」
ヨミはコメットにも声をかけた。
「ごめんなさい、ヨミ様。隣のクラスのパーミャチちゃんと約束しているので…失礼します〜」
そう言ってコメットはカバンを持って教室から出ていった。ここまで仲間として暮らしてきているのに、自分とコメットの距離は縮まらない。
「最近コメットちゃん冷たいなー。じゃ、行こっか!」
4人で教室を出て、部活を探しに行く。折角なので、外に出てスポーツ系の部活を探そう、という事になり、外に出る。テニスやサッカーをしている集団がちらほら見える。
しかし、使われる道具が何やらおかしい。サッカーでは有り合わせで無理やり作ったらしく、対空砲に網をかけてゴールポストにしていた。そんな即席のクラブの中でも一際目立っている部活を発見した。
「あれ?なんだか和風の建物がありますね?」
ラザフォードが指さした建物はやけに縦に長い、和風の建物であった。自分達はその建物に近付いて、なんの部活なのか調べる事にした。
「わかった、弓道部だ!しかも本格的!」
自分達は扉を開けてその建物の中に入る。すると中で乾いた音を立てて弓を放つ音が聞こえてくる。何人かの弓を引いている人達の中に、双葉が混じっているのが見えた。
「双葉さん、弓道場の顧問しているんですか?」
双葉は自分達に気づいて、駆け寄ってきた。
「あら、マヤさん。ようこそ、弓道部に来てくれて嬉しいです。どうです、体験して行きませんか?」
ヨミは手を上げて、返事をする。
「したい!双葉さん、僕弓撃ちたい!」
ヨミは興味津々なようだ。他の2人も興味がありそうなので、体験することにした。
双葉は長い和弓を持ってきて、矢と共に渡してくれた。
「そこの箱に手袋の様な物がありますよね。それは弽と言う、弓道の道具です」
自分達は言われた通りに弽をつけて、各々的の前に立って、双葉の指示を待つ。
「じゃあ、私が引き方を見せるので、真似して打ってみてください。数日で完璧には出来ないかもしれないですが、皆さんは上手くできると信じています」
そう言って双葉は綺麗なフォームで弓を引き、矢を放つ。矢は真っ直ぐ飛んでいき、的に音を立てて突き刺さる。ど真ん中だ。
自分達も真似をして弓を引き始める。
「足を開いて…弓を構える。そのまま持ち上げて…ゆっくりと引く。引ききったら…右腕を放す!」
見よう見まねで弓を放つ。意外としっくりと来た感じがする。矢は飛んでいって的の端に当たった。
「おお、上手いです!初めて弓を引いたのに、この距離で当てるなんて、相当な天才ですよ!」
双葉は手を叩いて褒めてくれた。サヤ達も頑張って打とうとしていたが、流石に上手く打てない。
ヨミは頬を膨らませて、自分を弓でつついてきた。
「なんかやたらと上手くない?絶対前世でやってたでしょ!」
「全く記憶にない!そこまで記憶消さなくてもいいのになって思うよなー」
自分はつついてくるヨミを避けながら、双葉と所のに歩いていく。自分は弓道部に入る事に決めた。
「弓道楽しいですね!部活弓道にします、数日間よろしくお願いします!」
「気に入ってくださって嬉しいです!皆さんはどうしますか?」
双葉は他の3人に聞く。
「やる!せめて的に当てたい!」
「私もです!」
「じゃあ、私も参加しますね」
乗り気なのかは分からないが、全員弓道部にするらしい。その日は基本の打ち方をひたすら練習した。何事も基礎が大事だ。サヤは結構上達が早かったが、ヨミは四苦八苦している。ラザフォードもだんだん上手くなっていくのに、中々ヨミはフォームが固まらない。
「むー!」
ヨミは最後の方にはイライラしてきたのか、謎の奇声を上げながら半分ヤケになって、練習を続けていた。見かねた自分はヨミの後ろについて、動きを教える。
「2人とも〜続きは明日にしましょう!別に今日完璧にする必要は無いですよ!」
ふと空を見ると、既に日も暮れてきていた。自分達は弓を壁にかけて帰る準備をし始める。皆で寮に帰ろうとした所に、双葉が声をかけてきた。
「マヤさん、こんな帰り際に申し訳ないんですが、ケーニヒさんが部活の後で来てくれって、言ってました。2棟の4階に行ってくださいますか?」
「わかりました。皆、先帰っといてー!」
3人と別れて、自分はケーニヒの所へ向かう。
「新型ロケットかー。ファイアフライに載せるか…それとも、専用のロケット戦車作るか…」
自分はケーニヒに新型の兵器の情報がまとめられたファイルを貰って、寮へ向かう。結局仕事から逃れる事は出来ないのか、と思いながらもどんどんと開発されていく兵器に心を踊らせる。
「貫徹力も十分だし、歩兵部隊に優先的に配備しようかな。うーん、HEAT対策されるかなー。相手側にどこまで戦車に詳しい奴がいるか…そこが問題だな」
ブツブツと独り言を言いながら、歩いていく。上の空だったせいか、目の前に誰かが立っている事に気づかなかった。大分近づいてから、存在に気づいた。
「ん、誰?…火紙家さん?どうしてこんな所で突っ立っているんですか?」
もう大分暗くなっていた道で、文字通り目を光らせながら立っていたのは、琴音であった。この道にはベンチすらなく、ここで棒立ちしているのは不思議だ。
「どうも!夜道で1人は危ないよ〜。親に教わらなかった?」
琴音は昼に比べて大分ラフな口調で話しかけてきた。自分は嫌な予感がして、鋏に手を置いて、警戒する。
「夜道って、ここ自分の軍の敷地内なんすけどね。何か御用ですか?」
琴音が足音を立てずに、こちらまで歩いてきた。タランは結構ドスドス歩いてくるので、猫の獣人にも色々いるのだろう。
「御用?そんなかしこまらなくてもいいのに。味方ではあるんだから、そんな気張らないで!」
琴音は自分の目の前まで迫ってきていた。自分は黙って様子を伺う。
流石に自分の敷地内で襲撃はしてこないだろうと、高を括っていたのだが、少女が現れて事態は急転した。その少女の頭には曲がった角が伸びている。
「どうもです、サタンちゃんです。直接会いに来ちゃったですよ」
人生三度目の魔王との邂逅となった。




