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98話 臨時魔術学校

 

「ケーニヒさん、軍事費結構カツカツなんでしょ?こんなん作る余裕あるんですか?」

「魔術学会を引き入れるために必要だったんです。とりあえず、士官学校を魔術学校に偽装したんです。これでも相当ケチった方ですよ」


 自分とケーニヒは元々自分達の拠点だった、ルルイエの城の前に立っている。そこはいつの間にか色々な魔術機械や設備等が詰め込まれた、魔術学校に変貌していた。

 この世界の魔術学校とは、世界で基本となる魔術を基礎から応用まで学ぶために、魔術の研究機関である魔術学会が建てた、巨大な学校である。

 魔術学校は相当お金がかかるため、フェンリル市等の獣人区画では、反王都寄りの魔術工業連合の運営する魔術工業大学がぽつりぽつりと建っているくらいだ。


「ですが、フェンリル軍には魔術を原理から習っている割合が低すぎるんですよね。一価の魔術と二価魔術の区別すらついていません」


 ケーニヒがため息をつきながら話す。自分は目を逸らす。正直言って、自分もよく分かっていない。魔術工学ならルルイエにいる時に、軍事転用出来そうな範囲だけ勉強していた。


「で、マヤ司令官?貴方はどうなんですか?」


 自分は黙って首を横に振る。ケーニヒはやれやれと言った感じで、学校を指さす。


「ですよね、それで今回はテストも兼ねて、マヤさん達に学んで貰おうと考えたんです」


 自分はなるほどな、と思って辺りを見回す。近くをフェンリルの3型戦車が通り抜ける。122ミリの砲が積まれた大型の戦車は、履帯をきゅらきゅら言わせながら、迫力満点で移動していた。


「なんの学校だが分かんなくなりますね」

「ルルイエ港は今でも軍港ですから…まあ、こうなりますね」


 自分はケーニヒの後について城内に入る。基本的な構造は変わっていないものの、色々な改造が施されており、学校らしくはなっていた。


「会議室を教室にしたんですね。個室は学生寮ですか」


 自分は変わり果てた城を案内される。自分達が住んでいた棟は学校にはなっていないが、それでも寂しい感じはする。


「明日から授業が始まります。今は前線も、能力者に押し切れないくらいでしょう、軍も暫く準備期間があるので安心して、良き学びを」


 ケーニヒは寮の鍵を渡してくれた。


「了解です。ずっと戦い続きだと大変ですからね」


 自分は頭を下げて、寮の方へ歩き出す。学校なんて何時ぶりだろうか。正直元の世界で何歳だったかも分からない。

 高校生ぐらいだったろうが、こちらに来て2年近くになる。久しぶりの学校が楽しみだ。


 次の日になり、部屋のクローゼットに掛けられていた、学生服らしき服に袖を通し、部屋を出る。


「マヤくーん!学校だって、楽しみだねー」

「おお、ヨミー!皆来てるって言ってたけど、びっくりするな!」


 ヨミは自分の横に来て、手を繋いできた。セーラー服風の装いで、可愛らしい。


「よし、教室へ行こう!」


 途中でサヤも合流して、大きな教室に入る。


「おお、知り合い多いな!」


 その教室には高校のような机が並べ慣れられていたが、座っているのは純粋な人間はほとんど居なかった。

 何人かが自分に気づいて近付いてきた。最初に近付いてきたのは猫耳の少女、タランであった。2人で無言でハイタッチする。


「心の友よ!」

「悪友としてよろしくにゃ!」


 タランは席に戻って行った。ヨミはくすくす笑っている。


「魔王を虐めてたコンビなんだって?本当に悪友だよね」


 よく考えたら、あまりにもはしゃぎすぎて、やばい事をしていた。まあ、ルシファーは近接弱っちかったから仕方ないが。


「おっす、グラン!」

「あーい」


「マヤさーん、私も居ますよー」

「ラザフォード、セーラー服似合ってるな!」


 いつも顔を合わせているメンバーに挨拶をして、自分の席に座る。ホロ、ハティは留守番させているが、大方のメンバーは来ているようだ。自分はアクケルテを見つけて、机に近づく。


「アクケルテ、見た目ヤンキーみたいだなー。学ラン似合ってないぞ」

「…なんか、女の子多くないっすか?ちょ、ちょっと肩身が狭いっす…」


 アクケルテは陰キャオーラを発している。確かに男女比が男1女9になっている。見た目はチャラそうな癖に、ここまでしょぼくれてると、みっともなく感じる。


「もっと堂々としろ!フェンリル軍の男はしみったれだと言われたくないだろ?」


 アクケルテの背中をバンバンと叩き、元気づけようとする。アクケルテは1度顔を上げて辺りを見回すが、すぐに顔を赤くして下を向く。


「いや、陰キャにこの状況は地獄っすよ。まだ知り合い多いマヤさんはいいっすけど…」

「まあ…頑張れ!」


 自分は席に座る。右隣にはコメットが座っていた。コメットは本を読んでいたが、気付いたのかこちらをちらっと見て、手を振って直ぐに本に目を戻した。

 全員が座って数分待っていると、扉を開けて誰かが入ってくる。


「皆おはよう!儂が妖術学を臨時で教える天山伊智代じゃ!」


 どうやら伊智代は教師役として呼ばれていたようだ。伊智代は教卓に手をついて、教室を見回す。


「今日は4時限まである。妖術学、魔術学、魔術工学

 、歴史の順じゃ。それじゃ、初めて行くぞー」


 伊智代は前に置かれていた黒板に、文字を書き始めた。


「まず、妖術学が1時限目に配置された理由じゃが、混同しがちな妖術と魔術の区別を最初に学んで欲しいからじゃ」


 伊智代は棒人間と地面らしき横棒を引く。


「まず、魔術も妖術も二価魔力を利用する事になるのじゃが、魔術は人体、妖術は地面から利用する事になるぞ。上手い妖術師なら地面からの魔力を貯める事もできるのう」


 伊智代は赤いチョークで黒板に書かれた地面から矢印を書く。


「基本的に妖術を使えるのは、魔族の中でも妖怪位だと言われとるな。誰か理由が分かる者はおるか?」


 伊智代がクラスに質問をするが、中々手が上がらない。その中で1人だけ手を上げる人がいた。


「はい、妖術の習得には相当な年月を必要とするので、寿命が長い妖怪族以外で、実用段階にまで修練を積める人が少ないからです!」

「その通りじゃ!お主は魔王領からの生徒の火紙家さんじゃの。流石じゃ」


 猫耳のショートヘアの少女がハキハキと答えた。伊智代は手を叩きながら、その少女を褒めた。火紙家と呼ばれたその少女は、魔王領からと言っていたので、魔族の中でも上流階級なのだろう。


「今答えてくれたように、妖術には習得に時間がかかる。だから世の中に普及しておらんのじゃ。だが、習得すればほぼ無限の魔力を操ることができ、戦闘中の持久力が桁違いになる」


 自分は楽しそうに授業をする伊智代を見て微笑む。


「それでは原理や細かい所を教えていくぞー」


 伊智代は黒板にどんどんと書きこんでいく。1時間半ほど授業を受けると、終業のベルが鳴る。伊智代は満足したように、教室を出ていく。

 自分が伸びをしていると、急に横から声をかけられた。


「初めまして、火紙家 琴音です。魔王サタン様の右腕として魔王領副総督として働いています。マヤさんお会い出来て光栄です!」


 横を見ると猫耳少女が笑顔で挨拶をしてきた。自分も笑顔で挨拶を返す。


「初めまして、火紙家さん。フェンリル軍の一司令官でしかない私の事をご存知だとは驚きです。数日間ですが、クラスメイトとしてよろしくお願いいたします」


 使い慣れない敬語を無理に使いながら、ぎこちなく答えた。いつも周りが女子だらけの為に、緊張はしなかったものの、琴音はとても可愛らしく、心の中では少しドキドキしてしまった。


 琴音は席に戻って行った。その瞬間を見計らってか、ヨミが近づいてきて耳元で囁く。


「僕、実は出身がサタン領なんだけどね、あの子知ってる」

「そうだったのか?ヨルムンガンドに会ってこっちに来てからの、話しか教えてくれてなかったから初耳だ」


 自分はヨミの方を向く。


「ごめんね、恥ずかしいから細かい事は教えられないよ。それより、あの子ちょっと怪しい。気をつけてね」

「そうか?まあ、ヨルムンガンドが企んでいない限り大丈夫だとは思うが、一応気を付けておくな」


 魔王領からの教師が来て、次の授業が始まる。ヨミの言葉を思い返して、少しモヤモヤしながら、授業を受けた。


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