97話 VViⅡ you execute it?
「ここは…どこ?」
ミュオは布団の中で目を覚ます。その部屋は普通の部屋のように見えたが、ミュオは何か違和感を感じる。
「なんか…ちょっと揺れてるような…」
それもそのはず、ここは船の上であった。任務を終えて帰還する戦艦紀伊の一室。ミュオは第7部隊によって保護されていた。
「大丈夫か?体に異常は?」
ミュオは自分の顔を覗く、敵の隊長を認めると顔を引き攣らせる。暫く顔を見合わせてから、ミュオは大鳳に敵意が無いことを確認すると、上体を起こして体を調べる。
「うん、大丈夫…なんで敵なのに助けたの?」
ミュオは恐る恐る大鳳に聞く。
「ん、他の部隊だと問答無用で殺されるだろ?勿体ないから、捕虜として確保しただけだよ。無駄に反抗するなよ?せっかく助かったんだし」
大鳳はなんて事ないと言った感じで答えた。大鳳はお粥とちょっとしたおかずが乗ったトレーを置いて、部屋を出ていった。
「…皆死んじゃったのかな…私は敵に看病されて…生きてていいの?」
ミュオは少し迷ってからお粥を食べ始める。ゆっくりと食べ続けて、もうすぐ食べ終わるかといった所で、誰かが入ってきた。
「失礼しますー。ちょっと入るっすよー」
チャラそうな金髪の青年が部屋に入ってきた。青年は体のあちこちに包帯を巻いて、歩いている時も顔を顰めていた。
「どうも第7部隊のブローニングっす。ついさっき2人の死体が発見されたんすよ。俺達と戦った後逃げただしたんすけど、第2軍にトドメを刺されたらしいっす。俺が言うのもおかしいんすけど、一号さんと二号さん、とっても強かったっす」
ミュオは俯く。もう裏切り者の五号と自分しか残っていない。ブローニングは申し訳なさそうにしているが、ミュオは顔を上げて首を振る。
「そんな顔しないでよ…どうせ負けるとは分かってたもの。仕方なかった…」
アクケルテは俯いて部屋を出ていった。ミュオは膝に顔を埋めて、しばらく泣いていたが、自分を逃がして死んでいったモクレンの事を考え、前に進まないと思う。
ミュオはベッドから降りて、歩き出した。
「…第7部隊の皆は優しくしてくれたよ。特に瑞樹、いや…隊長はね。どう?何か思い出した?」
アニマ、本来の名でいえばミュオは、話し終わって自分の方を向いた。自分は頭を掻いて、首を横に振る。ミュオは黙って自分の方に近付いてきた。
「私…瑞樹を庇って死んだのよ…なのに結局死んじゃうなんて…しかも私の事覚えてすらいないなんて…」
ミュオは剣を投げ捨てる。剣はピアノに当たって、鍵盤がへし折れて破片が飛び散る。おそらく今まで溜め込んできた感情が爆発したのだろう。
「ねえ…お願い…私を殺して!もう、好きな人も親友もいないのに…1人で生きるなんて嫌!」
ミュオは自分の前に立つ。
「その鋏で私の首を切り落として。もう人格を変えても…心が持たない。どうせだったら心の無い機械でありたかった。もう寂しさに…苦しめられるのは…」
自分は鋏を地面に落とす。そして能力を解除して、真っ直ぐミュオを見る。
「俺はお前の知る人間じゃないんだろうけど、お前を殺す気は起きない。おそらく元の俺も同じ事をする」
自分が手を挙げて、戦う意思の無い事をアピールするが、ミュオは怒った表情を顕にしながら、詰め寄ってくる。
「そんな偽善をのうのうと!私はもう疲れたの!もういい、自分で死ぬよ!」
ミュオはそう言って下がる。
「自壊コマンド実行。最終プロトコルの確認。データの消去を…」
訳の分からない事を口走り始めたミュオに自分は驚く。だが、なんとなくの直感で危ないと感じて、咄嗟にミュオの足を払う。
「きゃあ!」
ミュオが倒れ込むのを受け止めて、頬を引っぱたく。そして顔を近づけて叫ぶ。
「ふざけるんじゃない!死ぬのがお前一人の問題だと思ってんのか!有限の命の癖に、自殺なんて許さねえぞ!」
自分が体を揺さぶると、ミュオは目を見開いて自分を見る。そして、目に涙を浮かべる。
「実行を中断。…なんで…いつも…私の事をそんなに大切にしてくれるの…瑞樹!私があっちで死ぬ時だって…」
ミュオは涙をポロポロ流しながら、自分の胸に顔を埋める。どうやら自殺は阻止できたようだ。全く記憶にない話であるが、目の前で死なれるのは後味が悪い。
自分はミュオの頭を撫でる。ミュオはしばらく泣いてたが、自分で立って涙を拭く。
「分かった、確かに私も馬鹿だったよ。わざわざこんな事して自殺なんて。部隊の皆に怒られちゃうよね」
ミュオはフラフラしながら立っていたが、自分は立っている場所を見て、背筋が凍った。いつの間にか2人で足場の端まで来ていた。案の定ミュオは足を滑らせて、真っ逆さまに落ちて行った。
自分は咄嗟に手を出すが、ミュオの手は全く届かなかった。ミュオは天使の姿に戻って飛ぼうとしたが、浮いていたオルガンに後頭部をぶつけて気絶したらしく、そのまま自由落下していく。
「ヴァル、加速!」
自分は羽を広げ、ミュオの元へ飛んでいく。ヴァルの加速もあって、距離は縮まっていくが、周りを飛びまわる物体のせいで、減速させられて、追いつけない。
「もう地面が!」
もう間に合わないかと思った瞬間に、何かが飛んできてミュオを受け止めて、目の前から消えた。
「危ねぇ…」
自分はヴァルを下に向けて減速する。しかし、さっき何かが飛んできた方を見ると、ミュオだけでなく、自分にも飛んできている奴がいた事に気づく。
「マヤァ!」
「イヌゥ…」
ハティが飛行機に乗って、自分を受け止めに来た。避ける事も出来ずに、ハティに捕まった。自分は咄嗟にヴァルを盾にする。
「マヤ、ちゅー!」
予想通りに、ハティは襲いかかってきたが、ハティの唇はヴァルの唇と重なる。
「すまんな、ヴァル。今キスの気分じゃない」
ハティはヴァルで妥協したのか暴れるヴァルを押さえ付けて、熱いキスをお見舞していた。
自分はハティの飛行機から、先程ミュオを受け止めた人物を探す。すると、目の前にミュオを抱き抱えた少女が見えた自分は降りて横に立つ。
「おお、確かドーブネストだっけ。てっきりアニマが1人で勝手にやったのかと思ってた。いや…なんかベトベトだな」
ドーブネストはムスッとした顔で、ミュオを地面に下ろす。
「吾はこいつの事嫌いなのだ。だけどこいつが死んだら皆が悲しむ。ほんとにムカつくのだー!まあわいつものエロ女モードじゃないだけマシかな」
自分はミュオに近づいて、生死を確かめる。どうやら気絶しているものの、息はあるようだ。
「まあ、ドブネスト?ちょっと着いてきてもらおうかな?事情を聞きたい」
ドーブネストはムカつきながらも頷いた。自分は暫くヴァルを舐め回していたハティをとっ捕まえて、基地に戻る。
「おかえりじゃー! おお、アニマ捕まえてきたのか、お疲れ様じゃのう」
第7軍の総本部に到着すると、伊智代が出迎えてくれた。しかもよく見ると、葵もそこにいて、カワセミの頭をかじっていた。
「マヤー!天使の奴ら全員ここに集まったな!ミゼラブルって奴はアイドルの奴らから送られてきたぞー」
よく見ると縄でぐるぐる巻きにされたミゼラブルが放り出されていた。アイドルというのは多分カラフルの人らだろう。
「アニマ、お前の仲間誰一人として勝てて無いぞ?」
「足止めとして送ったから期待はしてなかったけど、全敗かー」
どうやらエンジェルダイブのメンバーに援軍として駆けつけられそうなメンバーの足止めを任せていたらしい。敵軍の出撃率が高いのも、多分ミュオが原因だ。
少しの間、ミュオはエンジェルダイブのメンバーの手当をして立ち上がる。
「マヤ、私達は王都軍からは抜ける。でも暫くは私達だけで生きてみるよ。自分の身勝手で迷惑かけてごめんね」
「構わない。こちらに被害は無かったしな。それより、前世にばかり執着しないで、こっちの仲間も大事にな!」
ミュオは頷いて仲間の所へ戻った。
こちらは大怪我したメンバーもおらず、王都軍の情報を貰い、逆にトレントの死で慌ただしい軍に余裕が出来そうなくらいだ。
仲間と共に去っていくミュオの背中を見て、自分は
過去を思い出そうとしてみた。
全く何も思い出せなかったが、ミュオが記憶があって、自分に無い。もしかしたら、なにかの陰謀かも知れない。そんな想像をすると怖くなってしまうが、有り得る話だ。
「また会う時には、もっと情報を仕入れとこう。自分の過去に興味が湧いてきた」
自分はそう呟いて、葵が買ってきたドーナツを口に放り込む。




