95話 АНиМА
アニマの剣と自分の鋏が鈍い金属音と共に火花を散らす。
「金縛りの能力は使わないのか?」
自分は鋏で牽制しながら、ワンドで攻撃するチャンスを狙う。アニマは中々隙を見せる様子は無いが、いつかは油断するはずだ。
「もうマヤに効くとは思えないです。精々格下に使えるくらいの能力ですから」
アニマは一定の距離を保ちつつ、剣を持っていない手に魔力を溜め始めている。自分は砲を展開して、アニマに狙いをつける。
アニマは溜めきったらしく、拳を握込む。だが、ふとなにか言いたい事を思い出したらしく、話し出す。
「そう言えばマヤ、その…大鋏とか黒い翼とか…こっちに来て厨二病でも発病したんですか?漆黒の堕天使?」
自分は顔が赤くなるのを感じる。
アニマは吹き出しそうな顔でこちらを見ているが、自分だってもうちょっと落ち着いた格好したい。服はフェンリル軍の灰色の制服だが、それに釣り合わない翼と鋏。
「堕天使?可愛い可愛い烏の洋服屋さんだよ。お前の皮でお洋服作ってやるよ」
自分はアニマを睨みつけながら鋏を構える。アニマは微笑みながら手をこちらに向ける。
「ふふ、私の汚らしい皮ではろくな服作れませんよ。それより私とベッドの上で一夜を過ごしましょう!」
「ほんとに汚らわしいなお前!なんでお前が天使に転生したのかほんとに不思議。」
本当に気持ち悪くなってきたので、砲弾を撃ち込んで黙らせる。アニマは躱して魔力弾を発射する。自分は宙返りして、魔力弾を回避しようとするが、魔力弾は自分の近くで炸裂する。その衝撃で吹き飛ばされる。
「おっと、普通に攻撃してきたな」
自分は飛ばされながら、アニマに向けてどんどん砲弾を撃ち込む。当たりそうにないが追撃を避けるための牽制としては十分だ。
自分は空中でブレーキをかけて、アニマに向かって飛ぶ。アニマは剣を構えて、自分に向かう。すぐに自分の鋏と剣がぶつかり合う。
「ん、これは普通にやったら押し負けますね。じゃあ本気で行きましょう!」
アニマは鋏を弾いて後ろに飛び下がる。自分は追撃しようと鋏で切り掛るが、急に目の前に植物の蔦の様なものが現れ、慌てて足でそれを蹴って勢いを止める。
気づいた頃には周りに色々な生き物や植物が浮いていた。鳥やら犬やら象までいる。
「ド派手な能力だな。…これくらいじゃなきゃ張合いが無いからな!丁度いい!」
自分はワンドをしまって、フェンリルの能力を発動させる。背中の羽が無くなって重力の影響で下に落ち始めるが、浮いている動物を蹴って浮き上がる。次々に乗り継ぎながら、アニマに近付く。
「よお、足場いっぱい出してくれて、ありがとうな!」
自分はアニマに飛び蹴りを食らわせる。アニマは何故か避けるを事せずに、蹴りを受け止める。自分は足を掴まれないように、アニマから離脱する。
自分はアニマの顔を蹴りながら見ていたが、その顔は先程までの気味の悪い笑顔ではなく、驚きに口が塞がっていない唖然とした表情だった。
「え…変身…。いや、気を取られたらダメ。集中しなきゃ」
アニマはボソボソと呟いて、剣を握り直してこちらを向く。自分は蔦を蹴ってもう一度アニマを蹴ろうとするが、今度はよく分からない鳥のような生き物が足の前に出て、自分の蹴りの方向を逸らした。
自分はあらぬ方向に飛んでいってしまうが、フェンリル能力を解除して旋回し、また能力を発動させて復帰する。
しかし、いつの間にか周りを植物や動物に囲まれていた。一気に襲いかかってくる生き物達を蹴りや殴って吹き飛ばしていくが、些か数が多い。
「どこ行きやがった?」
自分は辺りを飛び回ってアニマを探すが、中々それらしき影を見つけられない。困っていると、自分の近くに人間くらいの大きさの航空機が現れる。いつの間にか自分の能力は強くなっていたようだ。
「いいぞ!零戦か!」
自分は周りを飛ぶ5機の零戦に指示を出しながら、周りの生き物達を蹴散らしていく。しばらく戦い続けていると、急に目の前が開ける。
そこにはファンタジー的な巨大な木が真ん中に堂々と立っており、その周りを楽器や綺麗な花やらが取り囲んでいる。
「なにこれ…世界観完全に別物になりやがった!能力の範囲バカ広いな…勝てるか?」
自分はボヤきながら零戦に掴まって、アニマを探し回る。先程まで幻想的とは程遠い荒野で戦っていたはずなのに、まるで狐に化かされているようだ。
飛んで行くにつれて段々と攻撃が激しくなっていく。見た目に反して相当殺意剥き出しの攻撃だ。
「見つけたあ!」
その攻撃の間を縫ってやっとの事でアニマの所に辿り着く。既に周りを飛んでいた航空機も自分が掴まっている物以外は撃ち落とされてしまった。
自分はアニマの横に着地して、周りを見渡す。そこは開けた足場になっており、木にピアノがめり込む形で設置されていた。その椅子に座って静かにピアノを弾く、白い髪の少女。
しばらくした後に、少女は振り返ってこちらにほほ笑みかける。
「遅かったじゃん。でも、流石だよ、この世界でも頑張ってたんだね」
その少女は確かアニマが見せた写真の子だ。つまり目の前の少女はアニマ本人だと言うことだ。全く雰囲気が変わっているため、にわかには信じ難いが。
「ほんとにアニマか?さっきとは雰囲気が違うが、ほんの数分の間に何があった?」
自分は警戒しながらアニマに近付く。アニマはピアノから手を離して、立ち上がる。白い髪と黒い真っ直ぐな角はこの空間で一際美しく見えた。
「そりゃあ、さっきのは予備人格だし。…瑞樹は完全に私の事覚えていないのね。私は記憶を残して転生させられたからとても寂しいよ」
口調も雰囲気も完全に別人のようだ。しかし、何故か懐かしい気がしてくるのも確かだ。
現実世界での記憶は消し飛ばされているが、何か欠片だけ残っている何かが反応しているのかもしれない。
「瑞樹?あっちでの俺の名前か?残念だが、俺は記憶が無い。既に俺はマヤだ、諦めてくれ」
アニマはこちらにゆっくりと歩いてくる。自分は不意打ちを警戒しつつ様子を伺う。アニマは3メートル程離れた場所で止まって話し出す。
「私の昔話を聞いて。それで思い出してくれたら…私は救われるから」
自分は唾を飲み込む。記憶にない自分の姿を他人に教えられると言うのは、不思議な感覚だ。
「私は人間じゃないの。人間に作られた兵器、私は研究所では六号と呼ばれてて…端的に言うと改造人間かな」
自分は口が閉まらなくなった。毎回アニマは衝撃的な事ばかり話してくる。自分が元いた場所の世界観が、どんどん訳が分からなくなっていく。
「だけど、改造人間は皆酷い扱いを受けていたから、人間に強い恨みを持ち始めてね。研究所は血の海、更に私達はテロを起こして、最終的には対能力者組織関西支部で襲撃を起こしたの」
アニマは服のポケットから写真を取り出した。それは前見た写真ではなく、アニマと黒髪の少女、それ以外に7人程の少年少女が思い思いのポーズで写った物であった。
角が生えていたり、体のサイズが異様に大きかったり、異形の存在であるかとが見た目からわかる。その中で、黒髪の少女は何も特徴が無い、普通の少女に見える。
「懐かしい…みんな死んじゃったからねー。早々に逃げ出した夢子もここにいるってことは死んだんだろうなー。あっ、夢子はカラフルの天使の子ね。見た目変わってないから」
アニマは話し続けた。自分は全く記憶にない能力者の戦記を黙って聞いていた。




