89話 虎の群れ
「見た感じ、少し装甲が厚いだけで基本はティーガーだな。中身はほとんど原型を留めていないが、弾薬には引火しなかったっぽい」
「薄い所を分厚くした感じだねー。これは多分100モル以上はあるよ」
2人で倒したティーガーを調べていた。乗員は勿論全員死んでいたが、王都の人間である事は確認できた。もう少し詳しく調べなくてはいけないが、量産された可能性が高い。
「装甲厚100ミリなら、うちの大概の砲で抜けるな。だが、こいつの砲の貫徹の方が心配だな。中戦車程度なら抜いてくるかもしれん」
しばらく調べていると、遠くから何か地響きを立てながら、近づいてくる音がする。
「なんだ?って、うげえ!?いっぱい来た!」
「うわあああ!群れをなしてるよぉ!」
目を向けると、そこには列を成してこちらに向かってくる何両ものティーガー達であった。自分達が唖然としていると、少し前でティーガー達は停車する。よく見ると、先頭の戦車はティーガーではなく、進化版のティーガーII重戦車であった。
「王虎まで出てきやがった。王都の戦車部隊はとりあえずドイツ戦車作ればいいと思ってんのか」
ティーガーⅡのハッチが空いて、そこから女の子が顔を出す。
「Guten Tag!フェンリルの共産主義者野郎!私は王都の戦車大隊長、プファイル!よくも私の可愛い部下をやってくれたなあ!」
ドヤ顔をする黒髪の少女はこちらを見下ろしながら叫ぶ。自分は空を飛んで、少し上からプファイルを腕を組んで見下ろす。
「Здравствуйте!…おうおう、何だかナチ臭い奴が出てきたな。お前、ポルシェ砲塔の癖に威張ってんじゃねえぞ!ヘンシェル載せて出直してくれば?」
自分がニヤニヤしながらプファイルを見下ろしていると、少女は顔を真っ赤にして、怒鳴り始める。
「うっせえ!ポルシェで何が悪い!…あっ、でも防楯の下の方は狙わないでね」
「狙うに決まってるだろ。もしIS-6持ってきてたら、122ミリぶち込んでやりたかったよ」
プファイルはムカついた顔をしながら、砲塔に戻り始める。
「まあ、今は生身だろう?なら虎の群れに踏み潰される恐怖に脅えて死ね!とりあえず死ね!」
少女は砲塔のハッチを勢いよく閉める。自分はヨミの所に戻り、ヨミを抱えあげる。
「絶対この数は無理だ。にーげろー!」
流石にこの数は相手していられない。羽を羽ばたかせながら、自分は逃げ始める。後ろから大量の機関銃の弾が飛んでくるのが分かるが、素人の銃撃で落とされる事は無いだろう。
「マヤくん!羽がー!」
ヨミが叫んでいる。自分は恐る恐る自分の羽を見る。
「穴だらけえ…」
何発か被弾したらしく羽に穴が空いている。よく見たら段々と地上が近付いてきている。下手な鉄砲もかずうちゃ当たる…
「落ちるぞー、衝撃に備えろ!」
結局墜落していまう事になってしまった。結構距離は離せたものの、逃げ延びたとは言えない。
2人で急いで村に向かって走りだす、間に合うかは分からないが、ここで留まっているよりはマシだ。2人で走っていると、急にヨミが立ち止まる。
自分も転けそうになりながらも急停止して、ヨミが見ている方向に顔を向ける。
「あれ、自走砲か?」
そこには戦車らしき物体が、比較的綺麗な状態で放置されていた。ヨミと2人で嬉々として駆け寄る。しかし、その車輌の正体が分かった瞬間に、2人で肩を落としてしまった。
「ホロかー。薄々分かってたけど、これじゃあ精々シャーマンしか倒せないぞー」
「四式十五センチ自走砲だっけ?チハの車体に短砲身の榴弾砲載せた」
基本的に旧日本軍の戦車はへっぽこだ。島国だから仕方がないのだが、ティーガー>シャーマン>チハと言った感じに到底太刀打ち出来るレベルではない。
自分達はそっぽを向いて立ち去ろうとする。
しかし、急に頭の中に声が響く。
「ホロだからと言って舐めないで頂きたい。私は転生してチート能力を手に入れたスーパーホロなのだ!」
ヨミと2人で驚いて後ろを振り向く。そこにはホロがひとりでに動き出してこちらを向いている。正直言って今まで体験した中で1番ホラーだ。
「今私の中にはISU-152の力が宿っている。我が盟友たちの子孫よ…私を使いたまえ!」
いきなり戦車が喋り出したら、まともに頭が働く訳が無い。2人で固まっているとホロは方向を変えてオープントップの戦闘室をこちらに向ける。
「確かに怖いだろうが、人間形態になる為には戦果が必要なのだ。神とそういう契約を結んでいるのだ、頼む!」
訳が分からないヨミと2人で恐る恐る乗り込む。子供の頃なら喜んでいたのだろうが、今となっては無機物に喋られると、得体の知れない恐怖を覚える。
「猛獣狩りと行こうか!」
自分は砲手席に座って、ヨミは操縦席に座る。ホロは明らかに元の馬力とはかけ離れた速度で発進した。
「ん、何か走ってきたぞ」
ティーガーIIの車長用のハッチから顔を覗かせながらプファイルは、近付いてくる戦車を見下ろす。
「あいつら森で戦車拾ってきてやがったのか!」
「でも団長、あれって…」
ティーガー達の目の前に現れた貧相な戦車。それを見た瞬間にプファイルは笑いだした。
「ホロかよー!うはははは!チハたんよりましで良かったなあ」
ギャーギャー騒いでいる王都軍にイラつきながら自分は標準をティーガーIIに合わせる。
「俺だって拠点からもっとましな戦車持ってきてえよ!」
そう叫び返して、ティーガーIIの砲塔を狙っていると、ホロが話しかけてきた。
「ティーゲルIIは理論上行けるけど、貫通力に振りすぎて精度悪いから横のティーゲル狙ってくれ」
自分はヨミに合図して隣のティーガーに標準を合わせ直す。その間にもプファイルはこちらを嘲笑っている。
「その主砲でどうやって私達の戦車を撃破するの?一昨日きやが…」
プファイルの声は轟音でかき消される。プファイルが慌てて横を見ると、ティーガーがハッチから火柱をあげて燃え盛っていた。車体正面には穴が空いており、全体的に醜く歪んでしまってる。
「え、150ミリの正面装甲なんだけど…榴弾で中身ぐちゃぐちゃにされた訳でもなく、貫通された?」
プファイルは先ほどまでの威勢はどこへ行ったのやら、情けない顔でティーガーの亡骸を見つめている。
「すげえな。貫徹200ミリ超してるんじゃないのか?」
自分は急いで装填を始めながら、撃破したティーガーを眺める。
「くっそー!反撃だあ!」
ティーガーIIは砲をこちらに向ける。ホロは急発進して、その標準が合わせられない速度で走り回る。そして、回り込んで別のティーガーの横に止まる。
自分は容赦なくティーガーの腹に砲弾を叩き込む。弾薬庫に砲撃を喰らったティーガーの砲塔は吹き飛んで、大きな音を立てて地面に転がる。
それを見た他のティーガー達は一斉に後退し始めた。
「おい、逃げ出すなあ!ってポルシェ隊速すぎだろ!」
プファイルは爆速で後退していくポルシェティーガーと通常のティーガー達に叫ぶが、その声は全く
届かずに、散り逃げていった。
「くっそ、私達だけでも!」
自分は咄嗟に砲塔を狙って砲弾を撃ち込む。丁度砲身に直撃して、その砲身をねじ曲げた。
「ぎゃあ!8.8ミリ砲があああ!もう無理だ〜覚えてろお!」
プファイルは悔しそうに、方向を変えて逃げ出して行った。自分はその車体後部に砲弾を撃ち込むが、相当硬いらしく、貫通できなかったようで、そのまま逃げられてしまった。
「まあ、深追いはいけないな。撤退するぞー」
ホロはエンジンを吹かせながら、村に向かって走り出した。おそらく敵も基地の場所が割れた時点で、ここからは移動するだろうが、存在を確認できただけでも上々だ。
「やっと人間形態になれた。感謝する!」
基地に向かって移動する装甲車の荷台で、黒髪の青年が日本の昔の軍服に身を包んで、どっかりと座っている。
「まあ、押し返せたのも四式十五糎自走砲のおかげだ。こちらとしても感謝している」
「いや、急にその名称で呼ぶな、ホロで構わない。これからは君の軍で働かせてもらおう」
また変なのが増えたな。戦力が増えるのは良いのだが、まともな人間がほとんど居ないせいで扱いに困る。
「宜しく!敵戦車をスクラップにするの、手伝ってもらわなきゃね!」
まあ、今回の作戦は成功と言えるだろう。自分は鞄から地図を取り出してそこに書き込まれた、前線の位置を見る。もう既に戦場の半分以上前線を押し上げている。まだまだ戦争は続く。




