88話 8.8cm
「ド田舎だねー。建物もほとんど無いねー」
「当たり前だよ。近くに大きい街もないから」
トラックの様な形をした運搬用の装甲車でヨミと自分とカヤと共に、田舎道を走っている。この装甲車は元々は迷彩が施されていたが、今回は行商に見せかけるために改造が施されている。
2台の幌の中でヨミは縁にもたれかかって、周りの景色を見渡している。珍しいメンバーでの任務だが、これには理由がある。
「マヤ、見当はついてるんだよな?もう村に入ってしまうぞ?」
「うん、航空写真に変な部分が映り込んでたからそこを重点的に」
自分は地図を見ながら答える。大陸の中央部より少し南下した場所にある、のどかな田舎町。王都軍がここに何かの研究所を隠している可能性があると言う、情報が入ってきているのだ。
別にそれだけなら、自分達が出向く必要も無いのだが、この近くでカコらしき人物の目撃情報がある。確保のためならパーミャチも連れていくべきなのだが、今第2軍は大忙しらしい。
「んー、流石にカコちゃんはもう移動しただろうな。とりあえず、ちゃっちゃと偵察して帰ろう」
一応自分は第7軍の司令官と言う立場なのだが、死なないので緊急の任務以外では最前線で戦うことにしている。自分でも言うのもなんだが、自分は能力者として強力な戦力である。司令官の席で事務作業ばかりしているのも、もったいないだろう。
いざと言う時はサヤがどうにかしてくれると信じている。その為に色々と教えこんでいる。
「とりあえずどこかに車止めようか?」
「そうだね、村の端にでも置かしてくれないかな」
ここら辺は低い住宅が並んでいる。この村も王都の手が入っている可能性はあるが、長居するつもりは無い。ついでに探りを入れるのもいいだろう。
自分は眼鏡をかけて軽く変装をする。帽子も被ってできるだけ、誰か分からないようにしてあるが、どこまで通用するだろうか。自分は車から飛び降りる。そして近くを歩いていた老人に話しかける。
「お爺さん、すみません!私達行商をやっていまして、一時的に車を止めたいんです。どこか置ける場所は無いですか?」
「そんな大きな動力車で行商かい?めずらしいねえ。うん、そこの広場なら止めても構わないよ。村長には儂が話をつけておこう」
「有難うございます!お手間を取らせてしまい申し訳ございません!」
「いやいや、構わんよ」
自分は頭を下げて装甲車に乗り込む。
「カヤさん、そこの広場に駐車お願いします」
「あいよ。やけに話が早かったね。逆に不安になっちまうな」
「もう僕達、人を簡単には信じれなくなっちゃったよねー。悲しい運命だね」
カヤはゆっくりと広場に駐車する。どうやら元々行商が店を開くためのスペースらしく、ちょうどいい感じに停められた。
「よし、カヤさんはここで待機よろしくお願いします。自分達で済ましてきます」
「了解、早めにねー」
荷台から降りてヨミと2人で目的地に向かって歩き出す。ヨミは興味深そうにあたりの建物を見渡す。
「何だかルルイエの家と全然見た目が違うね。ちょっと脆そうかも」
「まあ、ルルイエはコンクリートで基礎作ってたし、時代が違うレベルだよな。ここより降雪量も多いから屋根の傾斜も大きいし」
この大陸では文明の発展レベルが地区によって大きく違う。しかも多様化しているため、文明が枝分かれしていると言ってもいいだろう。ルルイエの新しい地区では既に鉄筋コンクリート造の建物が建ち並び始めていた。今は崩れた石の塊になっているが。
「この先の丘の先だったよね」
「ああ、村の人が近寄れないっぽいな。魔物がうろちょろしてるだろうし」
ヨミは伸びをしながら欠伸をする。すごくやる気が無さそうだ。
しばらく歩くと丘を超えて目の前に森が広がる。
「久しぶりに僕の能力使おうかな。魔物操るやつ」
「そういや、そんなのあったな。そもそも魔物に出会うのが、久しぶり過ぎるから仕方が無いけど」
多分初期メンバーしか存在を知らない能力だ。魔物は一定の区域に集中する上に、戦車で轢き殺されてる事の方が多い。だから街の近くにいたら使う事がほとんど無い。
「魔物避けだけしとけば大丈夫だよね」
ヨミはそう言って辺りを見回す。どうやら魔物は付近から立ち去ったようだ。まあまあ使い勝手は良いのだが、戦闘面では微妙なんだよな。
また暫く歩いていると、森が開けてきた。自分達はその場所を見た瞬間に戦慄する。
「そこら中に履帯の後があるよ…」
「マジか…王都の技術力舐めていたが、ここまで戦闘車両開発が進んでいたのか」
この世界でも履帯をつけた車両は元から居た。しかし、その車両は小さいトラクターの様なもので、辺りに広がっている跡は、どう見てももっと大型かつ、重い物である事がすぐ分かる。
次の瞬間に少し遠くの位置で何かが炸裂する音がする。おそらく砲撃の音であろう。
「これは緊急事態だね。どんな奴なのか早く調べなきゃ」
2人で音がした方向に走り出す。すると、何か大きな物体が見えてきた。四角い車体に砲がニョキっと伸びている。完全に戦車だ。しかも、その形はすごく見覚えがある。
「おい、あれ虎じゃね?ティーガー1!」
「えぇ?VI号!?ドイツのVI号戦車がなんでここに?」
ヨミも驚いて騒いでいる。そもそも王都は、軽戦車すら生産された記録がない。なのにいきなりティーガーが走っているのは流石におかしい。
前のKVパターンかもしれないが、それでも見知らぬ兵器を修復できる程の技術力だ。十分な驚異となり得る。
「とりあえず近付こう、1両だけなら今破壊してしまえばいいし」
ヨミと2人でそろそろと近づく。唸るエンジン音と共に草木を踏み潰しながら疾走するティーガーは、段々とこちらに近付いてきている。
「あれ、まさかバレてるのか?ヤベエぞ!」
ティーガーは明らかにこちらに砲を向けている。アハトアハト(8.8センチ砲)を撃ち込まれたら、流石に一撃で死ぬ。そうそう直撃はしないだろうが、至近弾も避けたい。
「マヤくん、もう無理だ、攻撃しよう!」
「了解!装甲厚のテストでもしてやろうじゃねーか!」
自分は砲を展開して空を飛ぶ。ヨミは前に傾斜をかけた盾を浮かせて、ティーガーに向かって走り出す。
次の瞬間にはティーガーのアハトアハトが火を吹く。その砲弾はヨミから大きく離れた所に着弾する。
自分はティーガーの真横に回り込み、砲を構える。
「土手っ腹にぶち込んでやる!」
自分の砲は測ったところ砲身は短いが60ミリの口径がある。ティーガーでも側面なら計算上貫徹可能だ。そう思っていたのだが、自分の砲弾はその装甲に阻まれて、戦車の中に被害を与えることは出来なかった。
「え、なんで抜けないの?バグった?」
自分が唖然としていると、急に砲塔が回ってこちらを向いた。とんでもない旋回速度だ。自分は咄嗟に後ろに飛んで避けると、立っていた場所が砲弾で消し飛ぶのが見えた。
「よく見たらなんか一回り大きい気がする。装甲を厚めに作っているのか…それなら、流れ着いた説は無くなるな」
自分は着地して、砲から逃れる為に回り込む。側面で弾かれたのなら後方でも弾かれる可能性が高い。一応撃ってみるが全く効いている様子はない。
「マヤくん!もう近付いてぶっ壊そうよ!」
自分は頷いて飛んでティーガーの周りを旋回する。ヨミもティーガーの周りを走り回って気を引いている。自分は車体正面に着地して、操縦席の覗き窓に思いっきり鋏を突っ込む。
そしてその刃をじゃぎんと言う音と共に勢い良く閉じる。何かが引っかかる感じと共に、中の操縦手は呻き声を上げることもなく、死亡した。
「おうりゃああ!」
砲塔の上ではヨミが勢い良くハッチをこじ開ける。しかし、いきなり中で爆発が起きて、上にいたヨミは吹き飛ばされる。自分も衝撃でティーガーから転げ落ちる。どうやら敵は自爆を選んだようだ。自分はヨミの所へ駆け寄って、抱き起こす。
「びっくりしたぁ!でも、意外とあっけない最後だったねー!」
2人で今力尽きた猛獣を眺める。KV-2に初めて出会ったドイツ兵の気持ちが分かったような気がした。




