87話 空と宇宙
「ふふ、怖気ずいたのかしら?フィアットも大したことないわね」
そう言ってロゼットはフィアットを煽る。しかし、風の音に掻き消されて、何も聞こえてはいなかった。黙ってフィアットは策を練る。
「どうしたら近付ける?ここは空だから、飛ばす物も無いし、困ったな」
普段フィアットが戦闘する時は地面に落ちている、様々な物体を使って戦うことが多い。なので何も無い空はフィアットにとっては不利な場所である。
「まあ、負ける事は無いだろう!リズ、機関銃ばらまいてやれ!」
フィアットは先程とは反対にロゼットの周りをゆっくりと回り始める。リズの航空機は何度も機関銃を撃つが、風で軌道を逸らされて1発も当たらない。
フィアットも流石に焦り出す。これではどうやって攻撃を当てられない。
「そろそろ私から行くわよ!」
ロゼットは風を連れたまま、フィアットに突撃する。フィアットは逃げようと速度を上げるが、ロゼットの方が明らかに速い。すぐにフィアットは暴風域に巻き込まれる。
「やばい!」
撒かれた砂の量自体は少ないのだが、次々に循環しながらフィアットの肌を削り取る。どうにか体勢は維持しているものの、他にできる事は無くなっている。
「これじゃあ死なないわね!まだまだ足りないでしょ!」
ロゼットは何本かの短剣を取り出して、放り投げる。短剣は回転しながらそこらじゅうを飛び回る。フィアットは剣で弾こうとするが、1本の短剣は剣をすり抜けて、フィアットの足を切りつけて飛んでいく。
フィアットは暫く短剣を弾くのに、必死になっていたが、捌ききれずにどんどんと傷は増えていく。
「これは無理だな!仕方無い、使うしか無いか!」
フィアットは剣を鞘にしまう。短剣はその間にも体切り刻む。
フィアットは飛んでくる短剣を見極めて、手掴みでキャッチする。柄の部分を掴む事が出来ずに、手から血が吹き出す。
「喰らえ!そんな所で舐め腐った顔をしてるんじゃない!」
フィアットは両手で短剣を、ロゼットに向けて構える。数秒程構えると、急に手から短剣が発射される。
その短剣は余りにも大きい加速度で速度を上げてロゼットの所に飛んでいく。
「なっ!」
ロゼットは躱しきれずに、肩に短剣を受ける。ダメージを受けた事により、ロゼットの能力が乱れて風は止まる。
周りを舞っていた短剣も推進力を失って落ちていく。ロゼットは肩を抑えながら、フィアットを睨みつける。フィアットは剣を取り出しす。
「さあ、もう風を起こす前に倒してやる!」
フィアットは剣を持ってロゼットに向かって飛んで行く。ロゼットはフラフラと浮かびながら、それをただ眺めている。
しかし、フィアットが近づいた瞬間に、ロゼットは急に動き出して、フィアットの腕を掴む。
「かかったな!」
ロゼットは体勢を変えてフィアットの背が地面に向くようにする。そして地面に向かって加速し始める。
「このまま地面に叩きつける!」
超スピードで、重力の力も借りて、ロゼットは地面にフィアットを叩きつけようとしている。フィアットは歯を食いしばって腕を解こうとするが、全く外れる気配はない。もうすぐ地上に着いてしまう。
「もうすぐ地面でーす!死ねぇ!」
「させるかぁあ!」
既に地上近くまで到達してしまった時に、フィアットは能力を最大まで使って速度を打ち消しにかかる。段々とスピードは落ちて行く。
地上まで十メートルほどの所で2人は静止する。
「くっ、強すぎるでしょ!」
ロゼットは顔を歪ませて叫ぶ。フィアットは冷や汗を浮かべながら、ロゼットに話しかける。
「本当はやりたくなかったが、お前が強すぎたのが悪いんだ!」
フィアットが叫ぶと2人は真上に加速し始める。先程とは反対に真上へと落ち始めたのだ。
「俺の2つ目の能力は一定時間触った物体を永遠に加速させる能力だ。人間程度なら10秒程で十分だ!」
フィアットは体勢を変えて、足を体にひきよせる。
「そして、その加速は何かにぶつからない限り止まらない!」
ロゼットはフィアットの言っている事を理解したらしく青ざめる。そう、空には何かが丁度そこにある事はほとんど無い。
「まさか、私を宇宙まで吹っ飛ばす気!?」
フィアットは慌てているロゼットに申し訳なさそうな顔で話し続ける。
「残虐すぎるよな。だが、お前を殺すのにはこれしかない!」
フィアットは思いっきりロゼットの腹を蹴る。ロゼットは痛みに耐え切れずに手を離す。ロゼットは空中で体をばたつかせて、フィアットを掴もうとするが、その手は空を切る。
「生身で宇宙旅行なんて嫌だー!」
ロゼットは地面に向けて飛ぼうと加速するが、どんどんと上がる速度についていけずに、宙の彼方へと吹き飛ばされていく。
「くそぉああああああぁぁ…!」
ロゼットの声はすぐに小さくなって聞こえなくなった。
フィアットはどうにか勝利したものの、魔力を使い切って6000メートルの地点から落ち始める。
「やばいな、終わった…」
フィアットが死を覚悟した瞬間に、エンジンの唸る音が聞こえる。
「間に合ええ!」
リズは空中でフィアットを受け止めるために、操縦席を全開にして、飛んでいく。丁度落ちる場所に飛ぶことに成功して、大きな衝撃と共にフィアットが着地する。
フィアットは頭を抱えながら後部の操縦席に座って、コックピットを閉める。リズは安堵の息を吐いて、汗を拭う。
「か…勝てたのね!」
フィアットは疲れた様に笑って親指を立てる。
「当たり前だ、俺を誰だと思っている!」
フィアットとリズは笑いながら、基地に向かって空を飛んで行った。
その日は人間を発車された事に怒ったのか、宇宙から地上に反撃を食らわせるかの様な、流れ星や隕石が良く見えたそうだ。
「そういえばリズの能力ってなんなんだ?」
航空機の中でフィアットはリズに聞く。リズは呆れた様な顔をして、答える。
「あのね、全員が全員能力持ちじゃないのよ。私は普通の魔術しか使えないわよ」
フィアットは申し訳なさそうに頭を搔く。この世界で言う能力者の能力とは、いわば固有の現象を魔力の消費するしないに関わらず、発生させられる事を言う。
普通の魔術と言うのは別に特定の個人しか使えないものでは無い。フィアットも余りにも能力者だらけすぎて、勘違いしていたのだ。
「まあ、魔族は素の性能が高いからそこまで大変って訳じゃないんだけどね」
リズはそういったものの、戦闘に関しては他のメンバーに任せっきりであった。だが、今リズは自分の無力さに悩むことは無くなっていた。航空隊のエースとして、自信を持って戦闘に挑むことができている。
「まあ、フィアットが守ってくれるって期待してるからね」
リズが言うとフィアットは珍しく少し恥ずかしがって、黙ってしまった。2人は楽しそうに笑う。
フィアット達の航空機を地上から眺める男がいた。その男の名は転生者ユウキ。
「結局ロゼットちゃんは俺に心を開いてくれなかったな。中々可愛かったから狙ってたんだけど」
ユウキはボリボリと頭を掻きながらニヤリと笑う。
「死体くらい残してくれても良かったのにな。まあ、あいつらに俺に逆らった事を、たっぷりと後悔させてやる」
そう言ってユウキはその場から立ち去る。まだ主力の転生者達は姿を現してはいなかった。




