85話 戦いの後
「落ち込むなよ、パーミャチのせいじゃないって。森の皆も探してくれてるから、きっと見つかるさ」
第2軍の建物の中でパーミャチを慰める。パーミャチは森でカコが行方不明になってから、ずっと落ち込んでいる。
「わかってるけど、カコちゃんが心配なのよ」
自分はパーミャチの背中を摩る。
「まあ、しばらく時間が経たないと、何も進展しないし、落ち着いてくれよ」
パーミャチは座っていた椅子から立ち上がる。
「そうだよね。マヤ、私暫く頭冷やすね」
パーミャチは部屋を出ていく。あそこまで落ち込んでいるパーミャチを見たのは初めてだ。能力を貰った瞬間は見ていないし、カコとパーミャチがどこまで仲良くなっていたのかは分からない。しかし、しょぼくれた様子を見ると、何か絆で結ばれていたのかと考える。
「大変だったな…まさか、こんな事になるとは思わなかった」
自分はため息をついて椅子に座る。ふと机の上を見ると、そこには数枚の紙が乗せられていた。
「ああ、確かサンクチュアリに貰った情報ファイルか。狼の子のはずだったな。怖いけど読むか」
読もうと思ってファイルを手に取ると、噂をすれば狼の子がいつの間にか横に座っていた。反対側にはヨミも座っている。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!僕だよ!パーミャチちゃんは、サヤちゃんがもふもふヒーリングしてくるから、安心してね!」
ヨミが嬉しそうに自分にベトベト触ってくる。
「ヨミは呼んでないけどなー!そういや狼ちゃんとは仲良くしてるのか?」
狼の子は嬉しそうに笑う。
「オイラ、ヨミちゃんと仲良くなったよ!そういや、仲良くなったのに名前呼べないって怒られたよ。名前付けてよー」
狼の子はヨミと逆側から息を荒らげながら抱き着いてくる。確かにペット…いや、女の子を呼ぶ時に名前で呼べないのは、不便だな。
「じゃあ、この情報ファイルに載ってないかな。仮の名前くらい付いてるだろ」
狼の子の情報ファイルを読み始める。
C-2-59180
象徴の狼(symbolic wolf)
pupa→clade
多種多様な能力の行使を行うことが出来る、獣型コンカラー。体長5m程のハイイロオオカミの姿をしているが、人語を操ることが可能。人類に対しては嫌悪の感情を表すものの、極端な感情は持っていない。
右目の瞳孔には様々な記号が表示され、その記号によって能力が変わる。今の所確認できている能力は止まれの道路標識による、対象の行動停止。放射能標識による放射能汚染など。
・・・
某日、象徴の狼の脱走が発生。象徴の狼はその瞳孔にハーケンクロイツを写し出し、その瞬間に施設上空に第二次世界大戦中のドイツ軍爆撃機が出現し、施設を爆撃。
その衝撃で、cladeランク三体の脱走が発生。象徴の狼本体は異世界転移により消息不明。
鎮圧の詳細は記録C-2-59180-d。
「…あまり役に立つ情報はないな。サンクチュアリも世話の詳細は載ってないって言ってたからなー」
狼の子は期待の目でこちらを見つめてくる。自分で名前をつけないといけないようだな。象徴の狼ってもうちょっと何かなかったのか?
「どうしようかな…狼っぽい名前ってなんだろ」
いつの間にか自分の顔に滅茶苦茶近付いて来て、今にもくっつきそうだ。
「じゃあ、ハティでいいかな。フェンリルの子供って言われた奴だし」
適当に決めたのだが、狼の子、ハティは嬉しそうにその尻尾を振っている。やっぱりサヤに比べると野性味が強いな。
「ハティ!可愛い!ありがとう〜やっぱり大好き!」
ハティは急に自分の顔を舐め始めた。やっぱりこいつ恋愛対象じゃなくてペットだよ!
自分は固まってしまったが、ヨミがじとーっと見つめている。ぺろぺろされるのは別に嫌じゃない(サヤで慣れた)が、時間が経過するにつれてヨミの顔が険しくなってくる。
「とりあえず離れて!ぺろぺろ禁止!」
ハティは意外と素直に言うことを聞いてくれた。ヨミはやっと落ち着いたらしく、ため息を着く。こういう風に女の子に挟まれるだなんて、今まで無かったので困惑している。
「もう!勝手にマヤを舐めないでよ…」
自分はヨミをそっと抱きしめる。ヨミに振られたら自分は立ち直れないだろう。ハティは不服そうに口を突き出している。
「ハティはとりあえず、フェンリル軍についての資料を読み込んできて欲しいんだけど」
ハティは立ち上がって、扉まで歩いていく。そして、下手くそな敬礼をしながら扉を開ける。ハティは部屋を出ていく時に親指を立てて、外に出ていった。
「あいつ、空気読めてますよ感出しやがった…」
本当にハティについては行動が読めない。出会って日が浅いと言うだけではなく、シンプルに何考えているか分からない。
「まあ、素直な子ならそこまで面倒じゃないか」
自分はそっとヨミの頭を撫でる。ヨミは自分を真っ直ぐな目で見つめてくる。今までずっと仲良くしてきていたものの、そこまで恋愛的な事はしてきていなかった。
お互いに恥ずかしてくてそこまで積極的には、好意をぶつけてこなかった。
「今日はしばらくもふもふしようかな?」
ヨミは顔を真っ赤にして、にやけてしまっている。
「僕は骨ばってるから、もふもふじゃないけどね…でも、しばらく抱きしめていて欲しいな」
ヨミはモジモジしながら、小さい声で言ってきた。やっぱりヨミはその肌の色と同じくらい、真っ白でピュアな心を持った子だ。とても可愛い。
自分はヨミの頭に顔を埋める。ヨミは意外に綺麗好きでお風呂も良く入っている。しかし、あまりフローラルな匂いはしない。古い本の匂いに近い。
「ねえ、僕の髪の匂い嗅がないでよ!いくら洗ってもいい匂いにならないんだよー!」
ヨミは嫌がっているが、自分はそこまで嫌な感じはしない。死臭がしたら流石に嫌なのだが、古本の匂いなら逆に心地が良いくらいだ。
しばらく抱きしめていると、ヨミはウトウトし始める。
「なんか眠くなってきた…」
ヨミは体温が低いので、自分の体温との差で余計眠いのだろう。自分は逆に冬場なので余計、ひんやりしているヨミの体温で目が冴えている。
「寝ても構わないよ。今日は予定無いからね」
自分はヨミの頭をそっと撫でる。すぐに小さな寝息を立てて眠り始める。よく眠っているのを確認して、自分はヨミを抱き上げて、泊まっている部屋まで連れていく。
そっとベッドにヨミを寝かせて、自分も横で寝転がる。そうしていると自分も段々眠くなってくる。
「そういえば、初めて会った日も同じ布団で寝てたな」
あれから1年半は経っているだろう。自分はその頃を思い出しながら、深い眠りへと落ちていった。




