82話 異常対異常
「エージェント・コンプライアンス?しけた顔してるわね。ちゃんとご飯食べてんの?」
マリーは腰に手を置いて、ビワと共にエージェント・コンプライアンスの前に立つ。コンプライアンスは気だるそうにマリー達の方を見る。ただ、危機感は感じているのか、背筋を伸ばして戦闘態勢をとる。
「ふー、全く私は戦闘苦手なのに…マジでメスガキは嫌いなのよ」
そう言いながらコンプライアンスはショットガンを取り出す。ビワは空から巨大なハンマーを取り出して構える。
マリーはアサルトライフルを構えて、戦闘態勢をとる。
「ターゲットロックオン!マリーちゃん、行くよ!」
ビワは走りながらハンマーを振りかぶって、コンプライアンスに叩きつける。コンプライアンスは間一髪で躱してショットガンをビワに向けて撃つ。
しかし、ビワはキョトンとした顔でコンプライアンスを見る。まったく効いていない。
コンプライアンスは舌打ちしながら、後ろに飛ぶが、そこにマリーの弾丸が飛んでくる。どうにかショットガンの銃身で弾くが、肩を掠めて弾丸はどこかに飛んでいく。
「この脳筋共!」
コンプライアンスは着地して、マリー達に向かって手を向ける。
「速度落とせ!」
コンプライアンスの能力の影響でマリーとビワの動きが固まる。ビワがハンマーを持ち上げようとするが、まるで亀のようにゆっくりとしか持ち上がらない。
「中々厄介じゃない…」
コンプライアンスは笑いながらショットガンをビワに向ける。そして何発も撃ち込む。
流石にビワも痛そうに顔を歪める。マリーはアサルトライフルを向けて撃つ。しかし、ゆっくりとした狙いでは当てることが出来ずに、コンプライアンスは軽々と避けてしまう。
「pupaランクくらいならこんなものよ。まだ動けている方だと思うわ」
マリーは叫ぶ。
「うるさい、お前達の都合で私達がランク付けされて、更には狭い檻の中に閉じ込められるなんて、最悪すぎるわ!」
コンプライアンスは静かにショットガンのリロードをする。リロードをし終わると、マリーのアサルトライフルの弾を避けて、歩いて近付く。
「メスガキ、残念だけど、コンカラーは全員機関に収容されなきゃいけないって決まってるの。世界を乱す存在だからね」
コンプライアンスはマリーのアサルトライフルの銃身を抑えて、マリーの顎にショットガンを突きつける。
「これくらいでは死なないでしょ?たっぷり弾丸を味わいなさい」
コンプライアンスが引き金を引こうとした瞬間に、真上から声がする。
「潰れろ〜!」
コンプライアンスが上を向くと、いつの間にかビワが上で飛んでいた。既にビワは重力に身を任せて落下している所だった。
コンプライアンスの速度低下の能力は本人を遅くすることしか出来ない。重力は関係なく働く。
「ふげぇ!」
コンプライアンスは避けきれずに、重いハンマーも合わせると120キロ近い体重に押し潰される。
「重い重い重い!」
その衝撃でコンプライアンスの能力は解除され、2人は自由に動けるようになった。コンプライアンスはまだもがいてるが、手を地面に当てて先程とは違う能力を発動させる。
「立ち入り禁止!」
その瞬間にビワはその場から吹き飛ばされる。コンプライアンスはショットガンを構えようとするが、マリーの銃口は正確にコンプライアンスを狙っていた。
「銃殺刑よ!」
マリーのアサルトライフルは赤く光り、致死の弾丸を発射する。コンプライアンスはショットガンを盾にして、防ごうとするが、ショットガンは弾丸を受けた瞬間に砕け散った。
殺しきれなかった衝撃が体に伝わり、コンプライアンスは吹き飛ばされる。
「ふっ、げぇ!」
木に叩きつられたコンプライアンスは痛そうに身をよじる。そこにビワとマリーが歩いていく。
「ふん、誰がメスガキよ!この不健康女!」
コンプライアンスは手を挙げて降伏の意思を表す。
「仕事がブラックだからね、この隈は取れないよ。私はあのショットガンが無いと何も出来ない。煮るなり焼くなり好きにして」
ビワは服の中から縄を取り出して、コンプライアンスを縛り始める。マリーはその様子を見ながら、座って休憩をする。
すると、何処からかこの世の物とは思えない叫び声が聞こえる。マリーは心配そうにその方向を見つめた。
「君達?好きな音楽のジャンルとかあるかい?」
パンデモニウムは指揮棒を撫でながら、魔法少女達の前に立つ。パーミャチはアマテラスの護符を触りながら、不安を隠すために魔法の杖を握りしめる。
「私は可愛い曲が好きよ!明るくて、希望が溢れるようなね」
カコは自信満々にパンデモニウムにステッキを向けて、答える。パンデモニウムはつまらなそうに笑う。
「そうか、薄っぺらいな。もう興味もない、さっさと戦おうか」
パンデモニウムは指揮棒を振る。その瞬間に周りに機械人形が展開される。パーミャチとカコもステッキと杖を構えて変身する。カコはいつもよりフリフリな衣装になって魔力を放出する。
「行くわよ!」
カコはステッキを機械人形達に向ける。ステッキの先からは星の形をした魔弾が飛ぶ。
「私も!」
パーミャチの杖からはロケット弾が次々に飛んでいく。パンデモニウムはそれらを避けながら機械人形達に指示を出す。
「速度上げろ!囲い込め!」
機械人形がやられる度にどんどんと新しい人形を追加していく。人形は近付いて攻撃はせずに、それぞれが乱雑に持っている楽器をかき鳴らす。
パーミャチはロケット弾で機械人形を破壊しながら、カコに強化魔法をかける。
カコは笑顔のままで星弾を撒き散らす。時々ビームも挟みながら、確実に機械人形を減らしていく。
明らかな劣勢にもかかわらず、パンデモニウムは落ち着いている。
「時間切れだな」
10分ほど経った頃だった。先程までは不協和音を撒き散らしていた、機械人形達の演奏が急に纏まり出す。パーミャチは嫌な予感がして、カコの方を見るが、カコは夢中になっていて気付いていないようだ。
「カコちゃん!あいつらの様子がおかしいよ!」
そう言った瞬間にパンデモニウムの楽団は完全に調和する。
「終わりだ!狂え!」
パンデモニウムが叫んだ瞬間にカコとパーミャチは膝から崩れ落ちる。
パーミャチの頭の中では謎の声が響き渡っている。
「お前は誰にも必要とされていない。魔法少女になったとしても、お前は弱い。お前が誰かを助けられることは無い」
パーミャチはその声をポカーンとしながら聞いている。この声はパーミャチの心を殺しに来ているのだろうが、それを邪魔するように他の声が聞こえてくる。
「できるできる!パーミャチは強いぞ!カチューシャは素晴らしい兵器だ!その力があれば敵を殲滅するなんて簡単だ!熱くなれよ!」
アマテラスの暑苦しい声が響いてくるのだ。護符と思っていたものはただの通信機であった。
精神汚染へのゴリ押しジャミングのおかげでパーミャチは、汚染を笑いながら耐えきれた。
「そう言えば、カコちゃんは!?」
パーミャチはハッとしてカコの方を見るが、カコは震えながらブツブツと何かを呟いている。
「私は何で皆の為とか言ってるの?本当に私は人助けしてるの?」
明らかに様子がおかしい。完全に精神をやられてしまったようだ。カコは急に黒いオーラを撒き散らしながら、一瞬で姿を消した。
パーミャチはその異質な様子に震えながら、真っ直ぐにパンデモニウムを見る。
「お前だけになったな。奴はpupaランクでも最強格だ。雑魚だけになって助かった」
パンデモニウムはパーミャチの前に立つが、パーミャチは震えながらもしっかりと立って、杖を構える。
「趣味の悪い音楽を辞めさせてやるから!音楽は人を壊すものじゃない!」
パーミャチはたった1人で人の形をした悪魔に立ち向かう。




