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78話 暗い森

 

 自分達は暗い森の入口で武器を構えて、ボーッと立っている。パーミャチは森のおどろおどろしい雰囲気に震えている。正直自分もホラーが得意という訳では無いのでわ少し恐ろしい。


「グレイプニルは目立つから、さっさと見つけて帰ろう。怖いしな」


 自分はパーミャチと共に森の中へ歩き出す。その森は殆ど陽の光が当たらず、まるで夜のようであった。

 生き物の気配はするものの、とても静かで化け物がいると考えなければ、とても落ち着く場所であった。


「震えが止まらないわよー。ゾワゾワする〜」


 パーミャチが恐怖を誤魔化すために、話し続ける。自分は軽く返答しながら、敵が居ないか周りを索敵する。どうやら怪しいところは無さそうだったが、誰かが歩いてくる気配がする。


「誰か居るみたいだぞ。気をつけろ」


 パーミャチにそう言って人の気配のする方向を睨む。歩いてきたのはスーツを着た背の高い男性だった。

 おそらく異界からやってきた組織の方の人間だろう。自分は安心して、その人に近寄ろうとしたが、何か嫌な感じがして立ち止まる。


「おっと、現地の人間の方のようだナ。てっきり侵入なんてしてこないと思ってたんだけどナ」


 その男は頭を掻きながらゆっくりとこちらに近付いてくる。異様な雰囲気に、自分は鳥肌が立ってしまう。


「どうも、自分は人探しをしてましてね。そちらの仲間の方と行動している情報があるんです。なにかご存知ですか?」


 男は首を傾げる。


「あえ?もしかしてオールド達の方の話カ?というか、俺達の存在を知っちまってるのはいただけなねーナ」


 男は殺気を放ちながらこちらを見てくる。自分は殺気を立てないように笑いながら、話し続ける。


「敵対している訳では無いですし、邪魔する気もないです。自分はただ、自分の仲間を探しているだけなので、目的を果たしたら帰ります」


 自分は男を宥めるように言うが、男は以前敵意をこちらに向けたまま、そこに立っている。


「お前の目的はどうでもいいヨ、俺たちの活動がバレた時点で目撃者は排除しなくちゃいけねーんダ」

「なるほど、敵って事か。じゃあグレイプニルも危ねーな。排除するのは俺の方だ」


 自分はフェンリルの力を使おうとするが、ここでも阻害されているようだ。仕方なくワンドと剣を構えて男の方を向く。

 パーミャチも杖を構えて男を狙っている。


「げひっ!久しぶりに戦闘だゼ!口封じっていい響きだよナア!」

「何がいい響きだ。こちとら大迷惑なんじゃ」


 そう言って男に飛び掛る。急所目掛けて、正確に繰り出したワンドは軽く避けられ、それどころか自分の顔面にカウンターを食らわしてきた。


「ぐっ」


 自分は呻きながら後ろに下がって剣とワンドを構え直すが、既に男は自分の間合いにまで侵入してきていた。

 動きが見えなかった。いや、見えていたが、あまりにも滑らかすぎて、頭が動きに追いつけてなかった。

 男の拳をどうにか防いで、反撃しようと剣を振るが、躱されてしまった。敵は相当手練だ。特に異質な能力は使ってないように見えるのに、驚くほど強い。

 パーミャチも後ろからカチューシャを飛ばすが着弾する前には既にそこに男はいなかった。

 自分はワンドは当たらないと感じ、剣だけを持って男と対峙する。


「普通の人間にしては反応がいいなナ。実戦を積んできた感じがして、ゾクゾクするゼ」


 男はニヤニヤしながら腰に着けていた、刃物を手に持つ。それはまるで血に濡れたような模様が描かれた、包丁のような物であった。


「どうやら本気で殺りにくるみたいだな。パーミャチ、距離を間違えるな。俺がカバーできない距離まで離れず、有効距離で撃ち続けてくれ!」


 パーミャチに指示を出して、自分は男から目を離さずに、ゆっくりと前に進む。ある程度進んだ所、男の間合いに入ったらしく、目にも止まらぬ速さで包丁を振るってくる。

 自分は剣で受け止めて、蹴りを繰り出す。しかし、男は片方の腕で受け止めて、逆に回し蹴りを自分に叩き込んできた。

 重い一撃だったが自分はよろけずに、鍔迫り合いしていた包丁を弾いて、体勢を崩した所を剣で斬りつける。男は体を逸らして躱そうとするが、体の表面を刃が掠る。


「おっと、俺の蹴りを難なく耐えるだなんテ。いいねえ、異世界人さんヨ!」


 男は笑いながら、地面を蹴って後ろに下がる。男は腹の傷を確かめてから包丁を構えて、こちらを見る。


「じゃあ、そろそろ終わりにするカ?俺は組織で最強と言われる男だゼ」


 見ていると、男が包丁をこちらに向けて何か呟く。自分は嫌な予感がして、包丁の向く先から逃れようとするが、いきなり自分の腹に嫌な感覚がする。

 その瞬間に体に力が入らなくなった。自分の体を見ると、細長い貫通痕が空いていた。


「やっべえ、死んだわ…」


 自分は剣で体を支えて、男を見るが、まだ包丁はこちらを向いている。次の瞬間には自分の胸に穴が空く。


「すまねえが、勝てないゾ。もうお前を捕捉してるんダ」


 どうやらヤバい奴だったらしい。おそらくあの包丁には何か絶対的な力が働いている。どうやっても回避不可能な力だ。

 条件は分からないが、パーミャチが穴だらけにされるのだけは防がなくては。だが、内臓がぐちゃぐちゃにされた自分は既に死亡扱いらしい。

 能力が使えなくなっている。幽霊状態ではあいつに太刀打ちできるはずがない。


「パーミャチ、逃げろ!」


 パーミャチは、頷いて一目散に逃げ出す。

 自分は剣をしまって立ち上がる。男の前に立ちはだかると、男は驚いたように目を見開く。


「やべえナ!お前なんで死なないんだヨ。体の構造どうなってんダ?」


 種を明かせば、パーミャチを追いかけ始めるだろう。はったりでどうにか時間を稼ぐ。


「俺はとてつもない治癒能力を得てるんだ。これくらいでは死なんぞ」


 自分は拳を握って、ファイティングポーズをとる。傷は痛むが、幽霊状態だと緩和されるらしく、表情に出るほどではない。男は嬉しそうに笑いながら包丁を向けて、また自分の腹に穴を開ける。


「じゃあ死ぬまで穴だらけにするだけダ。覚悟はいいカ?」


 自分は貫通された痛みに耐える為に、気を引き締める。だが、いきなり男は後ろに飛び下がる。男がいた場所に何かが着弾する。


「新手カ!面倒臭いことになったナ」


 飛んできた方向を見ると、空に小さな少女が浮かんでいる。フェンリル軍のメンバーでは無さそうだが、味方なのだろうか?

 そう思っていると急に何かに抱き抱えられて、体が宙に浮く。男は自分のの様子に気づいて、包丁をこちらに向けて、何度も能力を発動したらしく。

 腹の辺りがスースーする。おそらく内臓はほとんど消え去ったかもしれない。

 自分を抱え上げた何かはそのまま飛んで男から離れていく。しばらく空の旅をした後に何か洞窟のような場所に到着する。

 その中に抱えられたまま連れていかれるが、奥には扉のような物が設置されていた。抱え上げられたまま、その扉を通過すると、そこは洞窟の中とは思えないような暖かい家の部屋のような場所であった。


「逃げきれたかな。君大丈夫?」


 自分もやっと落ち着きを取り戻す事ができたので上を見上げると。どうやら自分を助けてくれたのは大きな女の子だったようだ。

 腹の傷があるので自力で立ないのに気付いたのか、女の子はそっと椅子に座らせてくれた。

 その女の子は自分よりも身長が高く、もっこもこのジャンバーを着ているらしく、幅も大きい。マフラーで口元を覆っているが、顔は目がくりくりしていて可愛らしい。


「ありがとうございます、大丈夫かと言われれば大丈夫では無いですが、死なないのでご心配なく」


 そう言うと、女の子はニコッと笑う。

 とりあえず、ひとまずは安心できそうだ。しかし、パーミャチは大丈夫なのだろうか?


「ちょっと待って下さい、仲間がまだ森の中にいるんです。助けに行かないと!」


 そう言って立ち上がろうとするが、女の子が駆け寄ってきて、抱き締めてくる。


「安心して、あたいの仲間が助けに行ってるから」


 自分はその言葉を聞くと力が抜けてしまい、意識が飛んでしまった。


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