76話 タンクチェイス
「ああ、仕事か?面倒くせえな」
エウスは椅子の背もたれに、もたれかかってガタガタ言わせる。その様子を見ながら、コメットは淡々と説明し始める。
「ちょっとくらいやる気出してください。どうやら重要な物品を積んだ敵の車両が発見されたみたいです。それを追うのが今回の仕事です」
エウスは欠伸をしながら、椅子から立ち上がる。
「まあ、サボったらトレントの奴に追い出されちまうからな。あーあ、マヤの所だったらもうちょっとサボれたんだけどな」
そう言って頭をボリボリ掻きながら、ボヤいているエウスを白い目で見ながら、コメットはエウスに資料を渡す。
「そんなんだから、トレントさんにいつも叱られているんですよ。さっさと用意してください。今回は時間がありませんからね」
コメットはそう言い残してさっさと部屋を出て行った。エウスはその後ろ姿を見ながら、苦笑いをする。
「あいつ、もしかして上司によって性能が変わるのか?ヨミと居る時はポンコツ兎だった癖にな…」
そうボヤきながらエウスも後を追って歩き出す。
「お前が運転するのか?俺心配になってきたな」
「運転くらいできます!私普通に運転上手いですから!駐車はちょっとだけ下手くそだけど…」
エウスとコメットはM18ヘルキャットに乗り込む。今回はほかの乗員は乗せずに、2人だけで乗る。
一応援護の為に兵は待機しているが、相手にバレないように、建物の陰に隠れている。
ここは中立の為に、両方の軍がここを味方につけようと、裏で争っている。
暫く道を見張りながら待っていると、目の前に敵の丸い装甲車が現れる。
「あっ、来ました!追いましょう!」
ヘルキャットは地面をその履帯で削りながら猛スピードで発進する。その様子に気付いたのか、王都の装甲車は速度を上げる。
「敵も中々速いみたいですね!私の腕の見せ所です!」
コメットはうさ耳を揺らしながら、ニヤリと笑う。その様子を見て、エウスは微妙な顔をする。エウスとコメットは付き合いが結構長い。
あまり良い予感はしていなさそうな顔をしながら、エウスは砲手席に座ったまま、前方を眺める。
「今日は筋肉痛かもしれんな…敵さんよ〜さっさと捕まってくれよ」
しかし、そんな願いを他所にヘルキャットと装甲車のカーチェイスは続く。
今走っている場所は広い大通りであるが、そろそろ突き当たりが見えてきた。
「おい、あいつ速度落とさねえぞ!やばくねえか?」
敵の装甲車は最高速を維持しながら、T字路に向かって走り続ける。コメットは真剣な表情のまま、装甲車を追いかける。
「おい、速度落とせ!ぶつかるぞ!」
エウスは焦って叫ぶが、コメットは構わずに突っ走る。そのまま2両はとんでもない速度でT字路に突入するが、2両とも見事なドリフトをしながら、右へ曲っていく。
「うぎゃぁぁぁぁあ!」
天板のない席に座っているエウスは叫ぶ。前の装甲車は何人か跳ね飛ばしながら、突っ切ったらしく、当たりに鮮血が飛び散る。
「ほんとに王都の野郎共は何の為に戦ってるんだか!」
コメットはその様子を見ながら叫ぶが、エウスは相槌すら打つ事も出来ずに、体をかがめている。戦車と装甲車は一定の間隔を開けながら、街の中を疾走する。
「あいつどこまで逃げる気なんだ。人がいてもお構い無しだぞ!」
エウスが砲塔から頭を出して、周りを確認する。暴走する装甲車に周りは阿鼻叫喚である。おそらくフェンリル軍の他の戦車は、自体を悪化させないために、出てくる事が出来ないようだ。
「また曲がるみたいです!」
装甲車はまたドリフトしながら道を曲がる。このまま追いかけ続けていては、街が滅茶苦茶になる。
そう考えたコメットは人が居ないことを確認して、先程よりもインコースを攻めながら、曲がり角を曲っていく。
「ちょっと間が詰まったな!もうすぐ俺が飛び移れそうだ!」
装甲車との間隔は一気に狭まり、もうすぐ追いつけるかと言った距離まで近づいている。
それに焦ったのか、装甲車は何度も曲がり角を曲って追い払おうとするが、コメットは完璧な運転で、ピッタリと後ろに着いたまま走り続ける。
「中々追いつけませんね、もっとインコースをつかないと追いつけなさそうです!」
だが、装甲車は細道に入っていった。そこはヘルキャットでは通れそうにない程、細い道だった。
「仕方ないですね!迂回します!」
コメットはそう言って横の大通りに入って、細道の先へ向かって、走っていく。
暫く走っていると、横道から急に目の前に少女が飛び出してきた。
「うお、左右確認しろぉ!」
それに気付いたエウスは能力を使って少女を弾き飛ばす。間一髪で少女にぶつかることなく、通り過ぎた。エウスは冷や汗を拭いながら、前を見る。
どうやらそろそろ細道の出口に近づいてきたようだ。左見ていると、ほかの車両の走る音が聞こえてくる。
「来るぞ!」
細道から装甲車が飛び出す。その正面にはベッタリと血がこびりついている。道が合流してまた真後ろに着く形になる。だが、もう街の大通りではなく。外れの家がポツポツと建っているだけの地区に突入した。地面は舗装されておらず、ガタガタと車両が揺れる。
「あいつスピード落ちてきたぞ!」
車輪は接地面積が小さく、足が取られるような不整地の道路では速度が落ちてしまう。しかし、不整地で走ることが前提の戦車は速度をほとんど落とさずに、どんどんと距離を詰めていく。
「よし、俺が飛び移る!」
そう言ってエウスは大きくジャンプして、装甲車の天井に飛び乗る。そして右手を装甲車に向けて、能力を発動する。
その瞬間に装甲車は地面に軽くめり込んで、すぐにスピードが落ちて、土を撒き散らしながら、停車する。
その横にヘルキャットがドリフトしながら停車する。コメットは操縦席から外に出て、積んでいた杵を取り出して、構える。
装甲車の中から運転手ともう1人が手を挙げながら出てくる。
「降参する、殺さないでくれ!」
だが、エウスはその言葉を無視して、一撃で首を折る。もう1人の方もコメットの杵で頭を叩き割られて絶命する。
「生かす訳が無いだろ。1人も殺さずに運転してたら、少しくらいは迷ったかもしれんが」
エウスはそう言って死体を投げ捨てると、装甲車に近づいて、扉を乱暴に開ける。そこには色々な本や書類などが、おそらく装甲車の揺れで封印が溶けたらしく、バラバラになって散乱している。
「滅茶苦茶になっちまってるじゃねえか。面倒臭えな」
エウスはコメットと共に書類を纏め始める。いるか要らないかは分からないが、とりあえずこんな状態では運べない。
忙しなく作業をしていると、コメットが何かが厳重に箱に仕舞われているのを見つける。
「何でしょう?これは?」
コメットは箱を無理矢理こじ開けて中身を取り出す。それはこの世界では見ないような材質で作られた手帳であった。その手帳は外側は傷や汚れで汚らしいが、どうやら中身は綺麗なようだ。
「エウスさん、なんか重要そうなの見つけましたよ!」
「ん、何だ?手帳か?」
エウスは持っていた本を放り出して、コメットの横に立つ。コメットは手帳を、エウスにもよく見えるように、持ち上げて中身を開ける。
1ページ目には持ち主であろう名前が書いてあった。
「エージェント・セレブルム?これ本名か?」
ページを捲っていくと、綺麗な字で日記のようにその日の出来事が綴られている。
2人は気になって顔を突合せながら読み始めた。




