71話 前線
南部のある都市の近くで戦闘が発生した。フェンリル軍第7軍第1、3、4戦車隊と王都軍第37攻撃隊が正面衝突した、距離600メートルからの戦闘だ。
「対空戦車以外、機関銃は使うな!歩兵は戦車を盾にして進め!」
第1戦車隊の隊長がT34のハッチから頭を出して、指示を出している。第3戦車隊の隊長である、グランは緊張した顔で、IS-6の車長用のハッチから外を見る。
「クーゲル、そろそろ第3は右側から詰めるわ。砲撃の準備を!」
砲手のクーゲルは返事をする。第3戦車隊はフェンリル軍のM18が2両、P2中戦車が3両、IS-6が2両の構成である。
P2中戦車は正面に傾斜装甲を備え、長砲身の75ミリ砲を搭載した戦車で、十分な速度が出る。
「陣形、梯!突撃!」
グランが無線に叫ぶと、隊列の戦車が階段状に並ぶ。戦車は敵の方に砲を向けながら、全速力で走り続ける。
走りながらも榴弾を撃って、敵を牽制する。榴弾は敵兵の周りで炸裂して、鉄の礫を撒き散らす。
もう目視で視認できるほどに近づく。戦車の速度に敵兵は着いてくる事も逃げる事も出来ない。
近付いてから車長のハッチを閉めて、攻撃態勢に移る。
「あまり迂闊に近付かないで!有利な距離を維持しながら攻撃!」
敵は3面を囲まれて右往左往している。時々魔法を撃ち込んで来るものの、随伴する歩兵が居ないため、全くの無意味である。そうこうしている間にも機関銃や榴弾で、敵兵はバタバタと倒れていく。
12ミリの機関銃で撃たれたら、軽い魔法防御を貼っていたとしても、全く意味をなさない。
「このまま囲い込んで!敵に情報が回る前に殲滅するのよ!」
右と左から戦車が包囲する。剣士が走り込んできたが、すぐに穴だらけにされる。そのまま為す術もなく、王都の兵は全滅した。
しかし、息もつく暇もなく、第1戦車隊の隊長は叫ぶ。
「このまま進撃!もうすぐ平原に出る、第2は迂回して森を通り抜けろ!次の街を占拠するまでは止まるな!」
戦車は直ぐに陣形を組み直し、走り出す。戦った後には、死体と砲弾の薬莢が散らかされているだけだった。
暫くして後続の歩兵が装甲車や自走砲に乗って走ってくる。だが、死体には目もくれずに通り過ぎて行く。
死体を埋めてやるほどの余裕はない。いくら戦車で優位に立っていても、油断すれば数の暴力で押し切られる。今は一刻も早く前線を押し上げなくては行けない。
王都軍の拠点の上空で航空隊が対地攻撃の為に、編隊を組んで飛んでいる。
「爆弾投下!」
爆撃機が爆弾を投下する。地上の建物は大方破壊し尽くされて、そこらじゅうで火災が発生している。航空機はこの世界でも重要な要素である。
連盟軍では航空機の開発に心血を注いできた。そのおかげで優秀な戦闘機や対地攻撃機、爆撃機が完成している。しかし、空の優位性に気付いていたのは、フェンリル軍だけではなかった。
「伊智代さん!前方から飛行物体が!おそらく敵の航空機です!」
「なんじゃと!爆撃機は旋回して基地に戻れ!戦闘機部隊は迎撃を!」
大型の爆撃機はゆっくりと引き返し始めるが、伊智代率いる軽爆撃機隊とリズの護衛部隊が敵に向かって飛んでいく。
「なんじゃ?あの形は?」
この世界の空を飛ぶ機械といえば、気球や魔力で浮かした飛行船である。前から飛んでくる航空機は羽がついておらず、ジェット機のように後部から、何かを噴射しながら飛んできている。
「どうやら魔力浮遊式みたいですけど、変な形ですね。魔力に頼りすぎて翼を捨て去ったんでしょうか?」
伊智代は異形の敵に不安を感じながらも、照準を定める。サイズ的には相当大きく、訓練された伊智代の部隊ならば、おそらく相手の攻撃が当たる前に、攻撃を命中させられるだろう。
「ドッグファイトじゃの。どうれ、王都の航空機の性能とやらを見せてもらおうかの!」
伊智代は正面の航空機に機銃をばらまいてから、上に上昇する。どうやら相当装甲は薄いようで、すぐに穴だらけになって爆散する。
一応機首から弾を撃ち込んできたものの、あらぬ方向に飛んでいった。
しかし、伊智代の隊の1機が正面から敵の魔力攻撃を受けて、コックピットに直撃してしまった。こちらも装甲が厚いわけではない。
どうにか風防が吹き飛んだだけで、命は取り留めたようだが、舐めていると痛い目に合うことはわかった。
「正面からは避けるのじゃ!どうやら旋回性能は相当悪いようじゃ、回り込んで後ろから撃ち込め!」
「了解!」
フェンリル軍の戦闘機は王都の航空機の後ろにぴったり着いて、簡単に撃ち落とす。
空を飛んでいるだけでも、凄いとも言えるが、速度、旋回半径、パイロットの練度、何もかもがフェンリル軍が勝っていた。
「空は優勢のようじゃの」
訓練された部隊はすぐに陣形をとって、基地に帰投する。その姿はまるで綺麗に並んで飛ぶ、カモの群れのようであった。
ここは沖合、フェンリル軍の艦隊と王都の艦隊が戦闘を始める。空と陸でも、優勢であったが、海の惨状は酷いものであった。
まるでイエネコとライオンくらいの差がある。王都の砲は艦橋の窓にでも当たらない限り、何も損傷を与えられないのに対し、戦艦の35センチ砲は掠っただけで、木造の哀れな蒸気船を転覆させる。
「もう戦艦は砲撃たないでいいよー。無駄だから。駆逐艦は榴弾で燃やし尽くしちゃってー」
フェンリル軍は駆逐艦が四隻、巡洋艦2隻、戦艦1隻
なのに対し、王都は30隻近くの大艦隊であった。
言葉だけ聞くと、王都側の圧倒的戦力に押されているのようにも聞こえるが、ただの射的ゲームの方が、難しいのでは無いかと言うの程の、馬鹿馬鹿しい戦いであった。
「おっと、ユキカゼちゃん!そろそろお出ましだぞ!行ってくる!」
「お願い!総員、撃ち方止め!能力者部隊が出撃するから、注意して!」
そんな戦いにもジョーカーが存在する。それはただの人間で、船に比べたら蟻のようなサイズである。
しかし、柔軟に戦うことが出来て、様々な能力を使って、小回りのきかない軍艦を翻弄して、油断すると沈めることが出来るのだ。
「敵は氷を張ってる!氷の除去を優先しろ、能力者を近づけさせるな!」
フィアットは能力を使って海上を飛び回って、能力者と戦う。
能力者の数でいえば、圧倒的に王都側の方が多いが、それをたった1人で、対処することが出来るのは、フェンリル軍ではフィアットくらいである。
「隊長に続け!1人も漏らすんじゃないぞ!」
フィアットと一部の能力者以外は艦上から魔力での砲撃を続ける。色々な魔法が海上で飛び交い合う気色は、まるで花火大会のように、ド派手で美しい物であった。
「暇ー!今回は敵多いから暫くかかりそうねー。あそこら辺味方居ないから、ぶっぱなしていい?」
「別に構いませんよ。でも味方が戦ってるのに暇って言うのは、どうかと思いますよ?」
雪風は聞いてない振りをして、艦橋の見張り台から敵の方を見る。壊しがいのある木船が沢山浮かんでいる。
「くらえ、リトル・カタストロフィ!ドッカーン!」
だらけた声とは似つかわしくない、破壊の衝撃が敵のいる海上に広がる。二三隻が直撃してバラバラになって海の藻屑になった。
「うーん、気持ちいいなあ!人が撃ってるのを見るのも楽しいけど、自分が撃つのはもっと楽しいからねー!」
雪風は伸びをしてから、中に戻って行った。
フェンリル軍は順調に進撃している。一瞬で片がつくと、王都で言われていた戦争は、まだまだ終わりそうにはない。




