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70話 戦場の一コマ

 

「川沿いの要塞は全て完成したって。あとは西部地域の占領だけだね」

「そうだな、どうやら敵兵もまばらだ。いくら金があっても、さすがに全員は輸送出来ないのだろうしな」


 ヨミとサヤとで執務室で話し合う。前線から大分後方の獣人の街に一時的に拠点を置いている。今はとりあえず、南に向けて前線を押し上げるために、敵が多くなってきて止まるしかない所まで進軍する予定だ。


「何回か能力者や転生者が単独で攻め込んでいますが、大概私に真っ二つにされるか、アクケルテさんに撃ち殺されて終わりますね」

「ああ、馬鹿ばっかりで助かるよ。サヤちゃんも、もし敵を取り逃しても深追いは禁物だからね」


 サヤは頷く。どうやら敵はこちらを舐め腐っているようで、バラバラに攻撃を仕掛けてきたり、正面から突っ込んできたりする。あまりにもぬる過ぎて、兵士が油断しないかが1番心配だ。


「IS-6とかは、魔法使い相手に、大分ごり押せるから楽でいいな」

「そうだよねー、傾斜装甲に弱いもんね。というか、そもそも敵の魔術で装甲抜かれたの見た事無くない?」


「ヘルキャットは抜かれたらしいぞ。まあ、重戦車クラスが抜かれたとかは聞かないな」


 この世界での魔術は基本的に対人用に、研究されてきたために、厚い鉄板を貫通できる魔術は殆ど存在しない。精々、対ゴーレム用の爆破魔術で薄い装甲板を貫通できる位だ。


「でもとにかく数が多くて、機関銃の弾が足りなくなるかもしれないらしいよー。もうちょっと資源が欲しいよね」

「早く鉱山地域を占拠したいですねー。しかもその辺では鉄板焼きが美味しいらしいです、楽しみですね!」


 サヤは戦地にいても飯の事ばっかり考えている。でも人を何十人も斬った後に、自分の2倍近くの食事を平らげるのは、中々に強靭なメンタルだ。

 アクケルテは戦闘に出たあとは、肉料理を避ける位には精神面に来るらしい。


「そういえば、マヤくん。仕事の方はどうだい?色々前線から要望が来ているらしいけど」


 ヨミは自分の机を眺める。


「大丈夫だよ。レーションが不味いとか、戦車に給湯器を積んで欲しいとか言ってるくらいで、別状はない」


 そんな話をしていると、ノックの音が聞こえる。


「どうぞー」


 入ってきたのは、ラザフォードとアクケルテだった。


「お疲れ様です〜!一緒におやつでもどうですか〜」

「自分が買ってきた、名産のお菓子があるんすよ。めっちゃ美味しそうっすよー」


 どうやら2人は休憩がてら、ここに寄ったらしい。いつものメンバー以外にもここを休憩所扱いする、軍関係者も多い。部屋がだだっ広いというのもあるが、冷蔵庫や空調設備が整っているせいだ。


「お前ら食べ物でサヤを釣ろうって魂胆だろ。まあ、別にする事ないから構わないけど」


 皆で机に座って、お菓子をつまみ始める。



 ここは大陸東部の軍港バルバトス、ここでは多くの大型艦が出撃のための準備をしている。軍港の建物内の執務室で、雪風とフィアットがダラダラと喋っている。


「うむ、俺たちが乗る戦艦は馬鹿でかいな!あれよりデカいのがいるって本当か?」

「はい、トリトン造船の紀伊が最大級の戦艦ですよー!どうやら異界の大和型を超えるサイズらしいです」


 雪風は戦艦スコルの艦長として呼ばれたのだが、全く海戦の経験がない。何故だろうと不思議に思っていたが、そもそもこんな船で実戦をした事がある人自体がいないのだ。だから、とりあえず指揮が出来そうな人間を乗せたらしい。


「そういえば、雪風ちゃん、海戦とかできるのかい?」

「いえ、わからないです。でも勉強はしてきました!」


 雪風はフィアットに紙を見せつける。そこには日本やイギリスの軍艦が沢山描かれている。


「アマテラスさんはとりあえず、重要区画をぶち抜け!榴弾で燃やせ!横っ腹は晒すな!って言ってました!」


 自信満々にフィアットに見せつけるが、フィアットは微妙な顔をしている。


「それ大丈夫なのか?どうせアマテラス様の事なのだから、ゲームの話だろ?」


 雪風は目をそらす。おそらく図星だったのだろう。しかし、情報が全くないこの世界ではゲームの知識すらも重要なのである。


「でも、私は大丈夫ですよ!絶対に僚艦を沈ませず、敵を殲滅します!」


 フィアットは快活に笑う。


「頼もしいな!俺も能力者に戦場をぐちゃぐちゃにされないように、俺らの船に近付く前に倒してやるよ!」


 窓の外から演習をしている駆逐艦の砲声が聞こえてくる。



「カヤさん、見てください!私の航空機を!」

「おお、格好良いね!リズがこれを自由自在に使いこなせたら、フィアットも惚れ直すだろうな!」


 前線の航空基地で戦車が止まっている。進軍途中に燃料の補給のために、戦車部隊が立ち寄っているのだ。


「伊智代〜最近マヤが冷たいの!毎日連絡入れてるんだけど、大体生返事しか返してこないの」

「グラン姫、儂だけじゃなくてマヤにまで、無線をよこしておるのか?やめといた方がいいぞ、グラン姫はまるで、がとりんぐ砲のように話続けるからのう」


「えー、そんなに喋ってる?」


 部署が違うために直接会うのは1週間ぶりなのだ。みんな嬉々として知り合いに話しかけている。呑気に話しているものの、少し戦車で移動すれば、戦闘になりかねない、ギリギリの場所にいる。


「おっと、私は哨戒任務にいかなきゃ!また夜にでも話そうね、カヤさん!」

「行ってらっしゃい!敵地で落っこちないようにね」


 カヤはリズの背中が見えなくなってから、グランと伊智代の所に行く。


「カヤさん、1週間ぶりじゃの。そっちの様子はどうじゃ?」

「大きな戦闘には巻き込まれていないね。グランが偵察してくれているおかげだな」


「ふふ、私結構役に立ってるんだよ!」


 伊智代はグランの頭を撫でる。


「怪我だけはせんようにの!そもそも姫様が戦場に出てる方がおかしいのじゃ」


 伊智代が心配そうにグランを撫でているのを見て、カヤもマヤを思う。伊智代にとっての娘はグランだが、カヤにとってはマヤが子供のように思えている。親は子供の事を心配してしまうのだ。



 トレントは執務室で腕を組む。双葉が横でうたた寝をしているが、トレントの前にはエウスとコメットとパーミャチが立っている。


「ここでは規則には従って貰うと、再三言ってるだろう?この戦場では規律を乱したものから死んでいく」


 エウスは口の中で飴を転がしながら目を逸らす。


「エウス!お前に言ってるんだぞ!お前サボり癖があるとは聞いていたが、敵を倒してそこで昼寝していいなんて言ってないぞ!」


 トレントはパーミャチとコメットの方を向く。その瞬間に2人は同時に目を逸らす。


「お前達は強盗じゃないんだ。通過した街で欲しい物奪ってくるんじゃない!」


 パーミャチは不服そうにつぶやく。


「私は貰っただけだよ」


 トレントは大きく溜息をついて、パーミャチを怒鳴る。


「武器を持って、押しかけて、貰ったはおかしいだろ!脅して奪い取ったと言うんだよ、それは!」


 トレントは頭を抱える。しばらく問題児達を眺めていたが、トレントは急に笑い出す。


「まあ、お前達にあれこれ押し付けるのも、余計ダメになりそうだ。だが、これだけは約束してくれよ、絶対に死ぬな!」


 3人は真面目な顔をして頷く。

 フェンリル軍は今、巨大な敵を倒さんと進撃している。全員色々な立場で色々な状況で働いているが、共通する目的がある。


「仲間のためにこの戦争に勝つ」


 戦争は既に始まっている。


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