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68話 ニュークリアフィッション

 

「あっ、あそこの塔じゃない?」


 ヨミが見つけたらしく、その場所を指さす。皆でその地点を見つめる。どうやら正解のようだ。


「よし、またさっきみたいに飛ぼう!」


 この時は、まだ時間があると思っていた。敵が退避するまでの時間が。


「よし!ヴァル、魔力を供給するぞ!」


 急に辺りが真っ白になる。その時は何が起こったのか、理解できなかった。


 次に熱い風が衝撃波と共に吹いてくる。


 そこでやっと気付いた。


 間に合わなかったのか。


 暫く衝撃波に晒される。


 まともに街を見られるようになった時には、そこには街は無かった。

 ただ、何かの残骸が所々に残った、ただの平地が広がっている。


 皮肉にも、自分達の城は遠くに、その形を残して、聳え立っている。


「なんで…」


 誰も言葉が出なくなった。


 その中で、ヨルムンガンドが一言だけポツリと呟いた。

 それ以外に、人の声はそこでは聞こえなかった。


 フェンリル軍記録

 神歴3068年10月32日、ルルイエ中央部で王都工作員による、悪魔ヨルムンガンドの研究所から輸送中の、試作魔力式核爆弾(型番N-235)の強奪事件発生。フェンリル軍のマヤ、ヨミ、ヨルムンガンドによる奪還作戦は失敗し、工作員の自爆によって、核爆弾はルルイエで炸裂。

 時刻15時37分、爆発によりルルイエの建築物のおよそ75パーセントが完全に破壊、若しくは消滅。

 核爆弾炸裂前の戦闘も含め、死者1686902人負傷者3598863人。ルルイエ総人口の約13パーセントが死亡する被害が発生。



「う…ぐすっ…なんで…こんな事に…うえっ」


 泣き出してしまったヨルムンガンドを抱きしめながら、自分も呆然としている。爆発は止められなかった。

 ずっと勘違いしていた。自分が正義のヒーローで、全てをこの手で救えるのだと。

 そんなことは無かった。

 自分はただ、無力な1人の人間であった。自分の服を涙でびちゃびちゃにしている、この悪魔もこの世界に存在する、1つの生命体に過ぎなかったと、今更実感している。


「私は…最強やったのに…街1つも守れんかった…私のせいで…」


 自分は黙って、そっと頭を撫でる。普段のヨルムンガンドなら、慌てずさっさと次の行動に移っていたはずだ。

 しかし、今はまるで怒られた子供のように、ただただ泣き続けている。


「ヨルムンガンド様、あなたのせいじゃないです。僕達もこの街に王都の工作員が侵入するのを防げなかったんです。自分を責めないでください!」


 ヨミもヨルムンガンドの背中を擦りながら、話しかける。ヨミも決して落ち着き払っている訳では無い。全員、目の前の現実を見るのが、辛いのだ。

 おそらく、全ての住民はまだ避難を終えていなかっただろう。どれくらいの住民が巻き込まれたのかは分からないが、全員助かったなんて事は有り得ないだろう。

 もし助かったとしても、住む家を失っている。城も形が残っているとはいえ、復旧には暫くかかるだろう。


「ヨルムン、とりあえず皆の元へ行こう。一旦落ち着いて、話し合った方がいい」


 自分はそう言って立ち上がらせようとするが、ヨルムンガンドは立ち上がることが出来ずに、震えるだけだった。自分は仕方なく抱きしめたまま、頭を撫で続ける。


「悪魔よ、悲しみは溜め込むべきではない、今十分に放出するのが良かろう」


 その時、後ろから不思議な声が聞こえてきた。この世のものとは思えない、透き通った声だ。何処かで聞いた事がある声だ。


「あなたは確か、地下図書館で出会った…」


 振り返ると、いつかの盲目の少女が、見えない目でヨルムンガンドを見つめている。


「うう…アザトース…何よ…私を笑いに来たの?」


 ヨルムンガンドは涙を流しながら、アザトースを睨みつける。どうやら、ヨルムンガンドと対等に戦った、魔王というのはこの少女の事なのだろう。

 アザトースはクトゥルフ神話の魔王、この世界の魔王のモチーフとなってもおかしくはない。


「我が悲劇を笑うはずがない、ただ、お前は溜め込みすぎていたのだ、魔の民の羨望を一身に受けるには、心に余裕が無さすぎる」


 アザトースは静かに話し続ける。図書館であった時より、瘴気が溢れ出ているのが感じ取れる。

 敵意は感じないものの、謎の寒気によって、鳥肌が立ってしまう。


「今、ひたすら泣いておけ、これからは、いくらでも人が死ぬ、この地の人民の憤怒が、抑えきれぬ程になっている、国を破壊せんとする、戦は直ぐに始まる」


 アザトースは言うだけ言って、その場からいなくなる。自分やヨミはこの状況についていけなかったが、ヨルムンガンドは自分から、体を話して立ち上がる。


「そうやね、戦争が始まるわ、確実に…自分がしっかりせな、王都のクソ野郎にみんな殺されてしまう」


 ヨルムンガンドは涙を服の袖でふいて、自分の方を向く。その顔は涙でぐちゃぐちゃになった跡があるものの、覚悟を決めた表情に変わっていた。


「ヨルムン、無理せんでもええよ、しばらくは休んどき。どうせ、直ぐに行動は起こされへん」


 ヨルムンガンドは頷いて自分の傍による。暫くそこで待っていると、フェンリルの戦車がここまで走ってきた。どうやら、味方の迎えが来たようだ。



「テレポーターは無事だった。しかし、応急的に家を失った市民が住むための仮設住宅として、城を解放する予定だが、それでも700万人近い人数を収容できる能力はない」


 城の会議室でメンバー全員で集まって話し合う。今回の事件では死者も100万人を超えるが、それよりも、生き残った人達の住む場所が消し飛んだのが、1番問題である。


「連盟のどの組織も人手不足とはいえ、急に受け入れられる訳じゃない」

「フェンリルも精々10万人近くしか収容できませんよ…」


 会議室に集まった、各組織の長が話し合っているものの、良い解決策は見つからない。

 今の所、全組織が提供出来る仮の住居は精々200万人程度、どうしようもない状況である。


「魔王領地の天気が安定している所に、仮設の住居を作る案もあるけど、そんな急には出来ないよ」


 自分はどうしようもく、窓から外を眺める。前まで広がっていた街並みはただの平地になっている。以前は城壁が隔てたいたものの消し飛んで、余計に悲壮感が増している。


「まさか、こんな事になるとは、神も予測出来なかったよ」


 知らぬ間に中に侵入していたアマテラスが声をかけてくる。


「アマテラス、これからどうすればいいんだ?」


 別に正解が欲しい訳では無い。言葉通りに神にも縋りたい気持ちである。アマテラスは隣で自分と同じように窓から外を眺める。


「私は名前の割に無能だからね。お告げとかは出来ないよ」


 アマテラスはいつもの、だらしない顔つきが消え去り、真面目な顔をしている。


「今回の件、神界でも騒ぎになっているだよね。神が関与している可能性があるって」

「まさか王都の守護神か」


 アマテラスは頷く。


「まあ、逆にそのおかげで、神もルルイエに直接支援が出来るようになった」


 アマテラスは振り返って、会議をしている所に歩いて行く。


「おほん、連盟の皆さん!ちょっとお話を聞いてください!」


 各組織のリーダー達は驚いてアマテラスの方を見る。


「私の名前は太陽神天照大御神!私が中立神を代表して全力の支援をさせていただきます!」


 全員信じられないように、ざわついていたが、ヨルムンガンドが一言、


「あの子本物だよ」


 と言った瞬間に場が静まりかえる。


「私の敵とも言える神が今回の事件に関わっていることが判明しました。そこで我が友、大国主が行き場のない民のために、家を即席で創り出して助けると、言ってます」


 アマテラスは拳を突き上げる。


「しかし、ここまでされて、大人しくしていられる訳が無い!神も王都側と反王都側に真っ二つに別れて、戦う!共に戦ってくれる同志はいないか!」


 聞いていた人達は最初はキョトンとしていたが、次第に状況が理解できたらしく、全員拳を振り上げて、叫ぶ。


「そうだ!今まで俺たちはさんざん辛酸を舐めさせられてきた!」

「今こそ反撃の時だ!」


 その言葉を端で聞きながら、自分は少し悲しくなってしまった。


「戦争はどこでも無くならないみたいだな。平和はいつも人から離れた所にあるんだろう」


 自分は窓の外を見る、そんなセリフを吐いている自分も復讐の炎に燃えている。


「でもやるしかない、仲間を守る為だ」


 自分は会議室を出る。もうすぐ戦争が始まる。


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