66話 タイムリミット
「とりあえず、街には至急避難するように、指示を出した。詳しく話してくれ」
ヨルムンガンドは、少し落ち着いたようで、順を追って話し出す。
「私は魔法式の核爆弾の爆破処理のために、遠くの海までの輸送船をルルイエに手配していたの。私の領地から、最短で運べる港はここだったから…」
「処理?何で核爆弾を処理をするんだ?」
この世界でも核爆弾を作るのは、とても手間がいって、相当な額がかかるはずだ。それをわざわざ廃棄するとは、自分にはよく分からない。
「今回作ったのは航空用なんだけど失敗作でね、不安定過ぎて下手したら輸送中に爆発する危険性があるから、厳重に包んで海上で起爆する予定だったんだ」
「なるほど、理屈はわかった。しかし、そんな危険な物が盗まれる警備状況ってのは、どういう事なんだ?」
ヨルムンガンドは見た目や言動に反して、しっかりと仕事はこなす奴だ。それなのにここまでの失敗をやらかすなんて、らしくない。
「わざとやばい物だとバレないように、最低限のメンバーで輸送させていたんだよ。だってこれ一つで街が消し飛ぶくらいの代物だし。どうやら甘かったみたいだけど…」
ヨルムンガンドは怒りに震えて、拳を握りしめる。こんなにキレているヨルムンガンドは初めて見た。
「スパイを送り込まれていたのかもな。まさか王都がここまでやるとは…爆弾は何時爆発するんだ?止められるのか?」
トレントが地図をカバンから出して、街に丸をつけていく。多分中央で爆発したと仮定した被害状況の予測かなにかだろう。
「多分、核爆弾を包んでいる封印を解かれたら、遠隔で起爆できるようになっている。剥かれて起爆されるまでがタイムリミット」
自分は実感は全く湧かないものの、身体中に震えがくる。自分の仲間は戦車などで避難は出来るだろうが、街の全員が避難できる保証はない。
「核爆弾は街の外に持ち出されてるとかは無いのか?」
「いや、襲撃された時のために街を囲むように警備はしている。そこは流石に抜けられないだろうから、この街からは出ていない」
ならば、早く探し出さないと、どちらにしろ大変な事になる。しかし、どうやって探せばいい?この街は広大だ、探し出すのは不可能だろう。
「マヤ、やばいんだろ?私の力を貸すぞ!」
自分の足元からひょこっと顔を出す、葵の姿が見える。葵はどこからかとってきたらしい地図に印を付けた物を渡してきた。
「これ、怪しい奴が地下で何かしてるんだ!もしかしたら今回の敵じゃないか?」
「でかした、たぶん安全な距離の地下から遠隔で爆破するつもりだ!2箇所あるが、ヨルムンガンドと俺で二手に別れたら対処ができる」
どうにか希望の光が見えてきた。そこに敵が居なくても、起爆スイッチさえ手に入ってしまえば、起爆は阻止できる。
「よし、私がこの遠い方に行く、マヤはこっちの方に行って…これ、どっちも遠いな」
確かに高速で飛べるヨルムンガンドと違って、自分は空を飛べない。いや、そういえば飛べるじゃないか!
「ヴァル!お前俺だけなら、運んで飛べるんじゃないか?」
ヴァルは姿を表す。
「任せて!今の私ならもう1人運べるにぇ!」
「もう1人?じゃあ、ヨミ!着いてきてくれないか?」
ヨミは死なない体を持っている。もし、起爆して消し飛ばされても、粒子レベルから復活できる。ヨミはさっきまで、青白い顔で話を聞いていたが、自分に白羽の矢が立つと、顔を引き締めて頷く。
「皆はできるだけ遠くに退避してくれ!俺らがくい止めてくる!」
まるで少年漫画の主人公のようなセリフを吐いているが、おそらく自分の顔は焦りと不安でぐちゃぐちゃになっているだろう。
「頼んだぞ!」
トレントの短い激励に励まされ、自分は街の方へ向く。ヨミと一緒にヴァルの方に近付く。
「どうやって乗ればいいの?ほんとに僕達2人運べるの?」
3人で顔を見合わせる。ヴァル、さてはあまり何も考えてなかったな。
「飛び方ダサくない?ちょっとヴァルちゃんが可愛そうやわ」
空を飛びながら、ヨルムンガンドが声をかけてくる。今自分は地面に腹を向けて飛んでいる、ヴァルの背中に抱き着いている格好だ。ヨミは前からヴァルを前から抱き締めている状態で、傍から見たら、訳分からない見た目だろう。
「仕方ないやろ、これが1番バランス取れとんねん」
「こんなに抱き締められたこと無いから、飛び方がどうこうより、恥ずかしい気持ちの方が強いにぇ」
変な格好だが、速度は十分に出ている。じきに敵地に到達する。
「そっちは頼んだぞ!俺達はさっさと始末してくる」
ヴァルは体勢を変えて目標に向かい始める。ヨルムンガンドを見ると、こちらに親指を立てて、笑いかけていた。自分も親指を立てて、笑い返す。
この街は自分の第2の故郷だ。絶対に救ってみせる。
「着陸体勢をとるにぇ!しっかり捕まっててよ!」
ヴァルは足を地面に向けて、魔力を噴射して勢いを殺す。自分達は途中で飛び降りて、着地する。
「よし、この建物の地下だな!」
ここは街の外れの一軒家だ。どうやらこの建物の地下に、謎の空間があり、そこに敵がいる可能性がある。
「マヤくん、細かいところのカバーは僕がするから、フェンリルで突っ込んで!」
「了解!」
自分はフェンリルの能力を使って扉を蹴破り、中を漁り始める。少し探すと地下室への階段のような物があるのが見つかる。
2人で階段を降りると、そこには広い柱だけが立っている、何も無い空間が広がっていた。奥の方には扉が見えるので、そこに敵がいるのだろう。
「おっと、野良犬共のお出ましかい?早いなー、お偉いさん達の予測は大ハズレだな」
柱の影から、男性とシスター風の女性が出てくる。どうやら自分達の存在には、気付かれていたようだ。
「そうですね、私達で止めるしかありませんね」
どうやら簡単には通してくれは無さそうだ。
「敵だろうな。聞く必要は無さそうだ。ヨミ、迅速に片付けるぞ!」
ヨミに合図を送って、敵のところに走り寄る。男に向かって素早く蹴りを繰り出すが、男はギリギリで体を逸らして躱す。
常人には反応できない位の速さで蹴った、それでも避けられたという事は、まあまあ強いな。
「ヨミ、近くで援護しろ!この男から倒すぞ!」
シスターは一旦援護職だと仮定して、面倒そうな方から倒す。ゲームでは援護職から倒した方が楽な事が多いが、今は近い奴から倒した方が効率がいい。
「ふん、そんな簡単に倒される訳が、ぐべふぁ!」
敵の前で、無駄な事を1秒でも話していたら、蹴りを入れられても文句は言えない。
しかもヨミのいつの間にか作り出した黒い刀も男の足を斬り飛ばしていた。
「嘘だろ、容赦無さすぎるぞ!」
男は地面に伏せて口から血を流している。呆気なさすぎるが、油断すれば一瞬で死ぬのが、戦闘だ。しかも、今自分達には余裕が無い。
「おっと油断したなあ!後はシスターさん、投降するか?」
シスターは立ち竦んでいるが、自分は魔術の罠を警戒しながら歩いて近付く。シスターは暫く黙っていたが、後2メートル程で間合いといったところで顔を上げる。
「ふう、本気を出さないと死んでしまいますね。あまり私を舐めていると、痛い目に合いますよ」
そう言って、シスターは着ていた修道服を脱ぎ捨てる。
その下ぴったりと体に貼り付く服と、見せつけるように盛り上がる筋肉が、隠されていた。
「行きますよ」
シスターはファイティングポーズを取っている。まさかのこちらが近接型だったのか。
「いつでも来ればいいさ!タイマンなんて期待すんなよ!」
ヨミと2人でシスターの前に立つ。異世界に似つかわしくない、肉弾戦になりそうだ。




