65話 強襲
ルルイエの街に警報のサイレンが響く。普段使われることの無い、やかましい音はざわめく街に、異常事態を知らせながら、駆け抜けていく。
「ルルイエ南部地区にいる人は、至急北に向けて避難してください!所属不明の戦闘部隊による襲撃です!」
ルルイエの戦車部隊は街を走り抜けて、街の防衛に向かう。ギルド街の冒険者達も、馬や動力車に乗って現場に向かっている。
巨大飛行船によって運ばれてきた、鎧を着た軍隊はルルイエの近くにあった村の住人を殺しながら、ルルイエに一直線に向かって来ている。
今はフェンリル軍のトーチカが食い止めているものの、数が多すぎてもう崩壊寸前だ。
「マヤ司令官、こちら第1戦車隊隊長!第1戦車隊、第2戦車隊、現場に到着しました!」
「よし、IS-6は空爆が終わるまで待機!T34の機銃と榴弾で食い止めさせろ!第3戦車隊は存在がバレてもいいから最速で周り込め!」
自分は指揮用として改造されたIS-6で第4戦車部隊と共に、街を避けて大回りに移動している。1部隊につき重戦車5両、中戦車3両、装甲車6両で構成されている、しかもそれが4部隊。
しかし、歩兵部隊の駐屯している総数が、500人ほどと、相当不足しているため、今回の6000人近い兵を相手取るのには少なすぎる。
ルルイエのギルドはこちらに味方しているものの、せいぜい500人程度。
相手も生身ではなく、魔力の込められた鎧や盾を装備しているため、120ミリの榴弾でも至近弾でなければ、殺せないほどに硬い。
「航空隊はまだか?重爆撃機はいないが、少しでも減らしてもらわないと、陸上部隊の負担が凄まじいぞ」
「マヤさん、座標教えてくれたら俺そろそろ撃てるっすよ!」
アクケルテも同じ戦車に乗って移動している。この部隊の役割は、横からの奇襲である。
アクケルテと別の戦車に乗っている雪風で、一気に殲滅する。どうやら魔法防御はできないらしく、雪風のカタストロフは通るだろうが、敵の居る範囲が広く、全滅は期待できない。
「いや、近付いてからでいい、目視で見える距離になったら、俺も指示を出しながら戦車で砲撃をする」
操縦手はカヤ、装填手はサヤ、無職アクケルテ。いや、無職って言うのは可哀想なんだが、あまり戦車では役に立たない。
「もうすぐ、会敵するぞ!気を引き締めろ!」
第4のメンバーに無線で連絡をする。
「伊智代隊長、目標視認しました!」
「よし、投下用意!」
まさか儂が飛行機に乗って、戦うとは。試しに乗ってみたら、結構上手かったから、そのままおだてられて乗り続けているが、マヤから聞くところによると、飛行機は相当戦局に影響するらしい。
儂は何回か戦争を経験してきたが、流石に空を飛んで戦ったことは無い。一応鍛錬はしているものの、実戦経験は無い。
けたたましい音と共に、20機の爆撃機が目標に向かって降下する。フェンリル軍急降下爆撃機、ロンゴミニアド。フェンリル軍の300キロ爆弾を2つ積むことが出来る、最新鋭の航空機。
しかし、航空機を上手く扱えるようなパイロットは存在せず、宝の持ち腐れとも言える。
しかし、伊智代はここで意外な才能を発揮する。
「うむ、あそこに居るのが指揮官かの?あれを狙えば大戦果か?」
周りを見ると、同時に降下した友軍機は爆弾を落として早々に上昇している。
「ちょっと大体に行ってみるか。若い者に年長者の度胸を見せてやらねばならんからの!」
伊智代は敵の指揮官を狙ってどんどん降下していく。限界ギリギリまで降下して、爆弾を落とせば命中率は上がるが、上昇できなければ地面と熱いキスを交わすことになる。
しかし、伊智代は臆すること無くニヤリと笑って、ギリギリで爆弾を投下する。機体はギシギシ言いながら、地面スレスレの風を受けて、上へと登って行った。
「大当たりじゃな!儂、意外と上手いかもしれんの!」
伊智代は部隊と合流して、飛行場へと舵を切る。爆撃は大成功であった。指揮官を失った軍は統率を失い、その進撃を止めることとなった。
「見事な爆撃だったな。いつの間にエースパイロットがうちの軍に入ってきてたんだ?」
砲塔の上ではアクケルテが準備運動をしている。先程の爆撃と戦車の砲撃で敵の軍の半数近くは消し飛んでしまった。海がある方向を除いて戦車部隊に包囲されている。後は料理をするだけだ。
「ふっふふーん!消し飛ばすよ〜!」
最強クラスの範囲魔法を連発出来る白獅子が近くでウキウキしている。長期戦になると思っていたが、意外と早く片付きそうだ。
ギルドのメンバーも協力してくれているおかげで、時々爆発で敵兵士が打ち上げられている。
「よし、伝達し終えた!真ん中狙えよー、総員撃ちまくれ!」
自分も砲塔に入って、測距儀を覗き込んで、敵を狙う。さあ、自分の射撃の腕を見せてやると、意気込んだものの、すぐに雪風の魔術によって焼却されてしまって、狙っていた的は無くなってしまう。
気を取り直して、違う的を狙っても、アクケルテの銃弾がそいつを引き裂いてしまう。
あっち向いて、そっち向いて、何度も狙い直していたが、一回も撃てずにキョロキョロするしか無かった。
雪風の砲撃はしばらくは飛ばないが、アクケルテは相当なペースで、敵を薙ぎ倒している。
「あ〜もう、めんどくせえ!適当に撃ってやる!」
ヤケになった他の戦車も適当に撃ち始めている。おそらく敵からしたら地獄だろう。鉄の塊や、身を焼き尽くす熱波が、次々に飛んでくるのに逃げる場所もない。1時間ほど経った頃にはほぼ全滅していて、一部の兵士は諦めて投降している。
やはり、うちの軍隊は統率が取れていて、滅茶苦茶強いな。
街側にいたトレントが装甲車でこちらまで、走ってきた。降りてきたその顔は勝利の喜びは微塵も見えない。流石歴戦の司令官と思っていたが、どうやら様子がおかしい。
「マヤ、ちょっとおかしいとは思わないか?」
「確かに無計画過ぎるなー、とは思いましたけど、そこまで違和感は感じませんでしたよ?」
トレントは小さな鉄の板を渡してきた。
「これは王都の軍の識別票だ。あいつらが持っていた」
「やっぱり王都の奴らですか。…何故わざわざフェンリル軍が守りやすい、ここを標的にしたんですかね」
圧倒的に防御側有利な状況であった。わざわざ大軍を派遣して、何がしたかったのだろうか。
「ここを落とすのなら、もっと兵の数が必要だろ?しかも、今回の部隊は相当練度が低かった。こちらにほぼ被害がないのはおかしい」
自分は思い返す。相手に火力役の魔術師がいなかった。しかも、易々と後ろに回り込めるのも、まともに闘いに来た奴とは思えないくらいの、弱さの表れだった。
「まさか…囮?」
「その線が濃厚だろうな。しかし、囮にして何を狙うというのだ。城にも部隊は残っている。怪しい奴がいたという連絡もない」
2人で首を傾げる。変な感じがするものの、相手の意図が読めないために、どうしようもない。
「マヤ、やばい事なった…」
振り向くと、いつの間にかいたヨルムンガンドが、話しかけてきていた。
「どうしたん?そんな青ざめて。初めて見たわ、ヨルムンのそんな顔」
ヨルムンガンドは震えながら話し始める。
「輸送中の魔力核爆弾が、この混乱に乗じて誰かに奪われてしもうてん…どこに行ったかよく分からんのやけど、多分ここで爆発させる気やと思う…」
あまりの衝撃でその場にいた、全員が固まってしまった。ルルイエに更なる危機が訪れる。




