62話 竜人の街
「それでは本題に入っても宜しいですか?」
「ええ、どうぞ」
自分はフェンリル軍本部の廊下をケーニヒと共に歩く。最近王都との対立が水面下で激しくなってきている。
今回自分は反王都勢力の拡大のための、会議に出席するために、本部に来ているのだ。
今、その会議が終わった後に、ケーニヒに呼びだされて、相談を受けている。
「先程の会議で、多くの組織が連盟に加入してくれました。しかし、ある組織が参加してくれなくてですね。今回、マヤ司令にはそこの説得に行っていただきたいのです」
「そんなに大事な組織なんですか?今回の会議で反王都側の組織は、全部加入したはずでは?」
ケーニヒは資料を取り出して渡してくる。自分はそれを受け取り、ペラペラと捲る。
「いや、今回は中立の組織の勧誘なんです。しかも、この組織がどっちに着くかで、どれだけ王都側に圧力をかけられるかが決まります」
ページを捲っていくと、フェンリルの工業団地とは大分趣の違った、工場の写真が貼られたページが見える。
「そこは魔術工業を生業とする、竜人族の街です。そこも旧王都政府の弾圧によって、端に追いやられた街なのですが、気難しいらしく、中々交渉すらさせてくれません」
確かに地図を見る限り、完全に他をシャットアウトしている。中々面倒臭そうだ。
「了解しました。交渉が成功する保証はありませんが、やるだけやりましょう」
「お願いします。我々はどうやら嫌われているようで、中々無線にも出てくれません」
自分はケーニヒと別れて、テレポーターに向かう。メンバーは誰にしようかな。グランと伊智代で行くかな。
最近あの二人やること無くて暇そうだからし。
「え!竜人の住む街!行く行く!」
「グラン姫が行くのなら儂も着いていかなくてはのう」
ノリノリの暇人2人を連れて、辺境の街に出発する。航空機で向かう手筈になっているが、目的地には滑走路など無い。
どうやって降りるのか、心配していると、航空機の中である物を発見する。
「パラシュート?」
いつの間にこんなもの開発していたんだ。パラシュートがあると言うことは、つまり…無理矢理降下するってことか。
「大分山奥まで来ちゃったねー」
「だな。本当にこんな所に街があるのか、不安になってくるな」
そう言って眺めていると、眼下に見慣れない建物が立ち並んでいた。少し移動するだけで、建物も、種族も完全に違ってくるのは、この世界の不思議な所だ。
まあ、移動距離的には北海道から沖縄位までなんだけどな。
「それでは健闘を祈ります!」
フェンリルの兵に促されて3人で街の外れに降下する。着地した瞬間にこの街の空気の異常さに気付く。別に高地でも無いのに息苦しいのだ。
「酸素が薄いのう。おそらく、山からの魔力の影響じゃな」
ここは山に囲まれた秘境だ。あまり魔力は感じられないが、確かに変な感じはする。
「じゃあ、さっさとここのトップに、話付けに行きましょうか」
街に入って暫く歩くと、商業区画であろう場所に入る。周りの人は皆独特な羽や尻尾が生えていたり、角が生えていたりもする。
グランは自分と同じ種族が普通に暮らしているのに、大分感動しているようだ。
「凄いね、もしかしたら私の親戚がいるかも!」
「ああ、いるかもしれんな」
道行く人に市長が何処にいるかを聞いてみるが、明るく教えてくれる
。てっきり余所者として、無視されるのかと思っていたが、別に変な目を向けられることも無く、普通に対応してくれる。
「竜人はそもそもの人数が少ないために、他種族との共存を厭わないと聞いておったが、ここまで差別意識が無いとは思わんかったの」
伊智代も街の雰囲気に驚いている。だが、こんな所に住んでいて、他の種族との交わりなど無いように見える。何故ここまで珍しがらずに、接することが出来るのだろうか。逆に怖いくらいだ。
「もうすぐ、会館らしいな。そこにここのリーダーが居るらしい。断られても、王都側に着くのかどうかだけは聞かないといけない、気を引き締めるぞ」
会館について、その大きな扉を開けて中に入る。その中にいた人に話をつけて、市長の部屋に入る。
「わざわざこんな所まで、暇な奴らだ」
その部屋は権力者の部屋と言うより、昔の研究者の研究室だ。その真ん中の椅子にどっかりと座っている、ごつい竜人の男だ。
白い髪に、白い羽と尻尾、竜人の姿はやっぱり威圧感がある。グランは可愛らしいが、目の前の相手は怖い雰囲気を醸し出している。
「お忙しい中お時間を頂きありがとうございます」
自分は市長の前に立って話し始める。
「ああ、畜生!ムカつくなあ!絶対連盟に入らなかったのあいつの独断だよ」
露天で買った焼き鳥をやけ食いしながら、ブラブラと道を歩く。交渉のために、反王都連盟がどれくらい資金援助できるか、どういう利点があるのか、話している途中に、どうでもいいと一蹴された。
何故かと聞くと、どうせ俺らを利用するつもりだろう、とか言ってくるのだ。
「そうじゃな、話が通じんタイプの頑固親父じゃのう。面倒なタイプじゃ」
伊智代はやれやれと言った感じで、溜め息をついている。グランも焼き鳥を齧りながら、不機嫌な顔になっている。
「もう、いっその事、優秀そうな人材引っこ抜いて、帰ったら?わざわざ連盟結ばなくも、技術者さえ手に入れば、問題ないし」
確かにグランの言う通りだ。多分ここまで頑固な奴が王都側の言う事を聞くとは思えない。
「じゃあ、うちに必要な技術持ってそうなの探しに行くか」
3人でぶらぶらと歩きながら、店を見て回る。ここは武器産業が盛んなようで、見たことの無いハンマーや重火器が置かれている。
現代兵器のような、スマートな武器ではなく、大砲をそのまま携帯火器にしたような物ばっかりだ。
「よく分からんな。そんなに王都側に持ってかれたらやばい物なのだろうか」
大分街の端まで歩いてくると、今度はゲテモノ武器が増えてくる。剣にハンマーが付いていたり、大砲を4連にした、馬鹿でかい兵器が店先に放り出されている。
「もしかしたら、このゲテモノの中に宝が混ざってるのかもね…それじゃあ、誰を引き抜けばいいか、分からないわ」
自分はふと、何か嫌な感覚がすることに気付く。前は鮫っ子だったが、今回はそういう感じではなく、何かが爆発するような…
ドゴンッ
自分たちの右前の家の屋根から何かが飛び出す。どうやら中で何かが爆発したようだ。
「うわぁぁぁ!誰か助けてぇぇぇ」
飛び出したのは竜人だった。自分はその落下点に走って受け止める。どうやら女の子のようだ。白いもふもふとした長い髪をした、可愛らしい少女だ。
「伊智代さん!空から女の子が!」
「凄い街じゃのう…」
自分はその女の子を地面に下ろす。
「あ、ありがとうございます!まさか、他の街からのやってくる人にまで迷惑かけてしまうなんて…」
少女は申し訳なさそうに頭を下げている。どうやら常習犯らしい。グランは不思議そうにその子を見つめていたが、その子の羽を見て、何か気付いたようだ。
「なんで飛ばされた時飛ばなかったのかなーって思ったら、あなた完全な竜人じゃないのね」
少女の羽を見ると、どうやら作り物の羽のようだった。
「はい、そうなんです。実は竜人と獣人の間の子なんですけれども、母親はここを追放されてしまって…中途半端な自分だけが取り残されてしまって…」
少女は項垂れてしまうが、すぐに顔を上げて、自分を見つめる。
「あなた方はもしかして、フェンリルの方ですか?」
自分が頷くと、少女は自分の方に歩み寄ってくる。
「わ、私、ラザフォードと言います!私を雇ってください!」
いきなりの展開に驚くしか無かった。自分達はラザフォードと見つめあったまま、固まるしか無かった。




