61話 帰りは名残惜しい
3人と共に朝飯を食べる。
「この朝食は私が作ったんですよ。まあまあ、いい出来だと思いますが、どうでしょうか?」
「すごく美味しいね。うちの子にも食べさせてあげたいな。レシピとか教えてくれたりしない?」
「ええ、構いませんよ!まあ、明日帰ると言っても連絡はとれますし、タランやヒュプノスも遊びに来てもいいと言ってますので、まとめて今度教えますね」
話しながら食べ進めていると、扉を開けてルシファーが入ってきた。
「おいっす。今日は大人しくしてくれよ、諸君」
ルシファーはそう言って目を擦りながら、席に着く。タランはさっさと食べ終わって、うたた寝している。
ルシファーはヒュプノスにほほ笑みかける。
「ねえ、昨日はどんな夢見せたの?」
そう聞かれたヒュプノスは嬉しそうに、話し始める。
「昨日はクリスマスをテーマにして、雪山で沢山遊びました!今日は皆も参加しますか?」
「いいね!でも、あれやると朝めちゃくちゃ眠くなるからねー、なんでか知らないんだけど」
確かに今すごく眠い。これは寝不足の時の眠気とそっくりだ。
「たぶん、夢見る時はレム睡眠、つまり浅い眠りのまま長時間いるせいで、ろくに眠れて無いんじゃない?」
ルシファーはなるほどと言った感じで、感心している。普段意味の無いと思っていた知識も役立つ時もあるんだな。
自分は味噌汁を啜りながら、今日の予定を考える。
その時、食堂の扉を開けて、ルシファーの部下の鬼が駆け込んでくる。
「た、大変です!冒険者が城の前まで到達しました!警備を一撃で倒して、通り過ぎてきたようです!」
緩んでいた皆の顔が急に引き締まる。自分はよく事情が分かっていないが、緊急事態である事だけは分かる。
「警備を引かせろ!私が直接殺りに行くわ!もし、私がやられた時のための脱出経路を開いて!」
ルシファーはそう叫んで、城内の監視魔術用のスクリーンを呼び出す。
城全体が慌ただしくなっている。自分はルシファーの横に立つ。
「なあ、俺が手伝おうか?」
ルシファーは驚いた顔でこちらを見ている。
「え、でもマヤはただの客人でしょ?こんなのに巻き込めないわよ!」
自分は首にかけている、フェンリル軍のドッグタグを見せる。
「俺はフェンリル軍だ。友軍のために戦うことは厭わない!」
ルシファーは顔を引締め、手を差し出してきた。
「じゃあ、協力を頼もう!同志よ!」
自分はその手を握る。タラン達も戦闘準備をし始める。自分も
「ねえ、なんだか敵少なくない?魔族とかほとんど見かけなかったわ」
「そうだな、たぶん恐れをなして逃げ出したんだろう!このまま魔王を叩くぞ!」
冒険者の男、魔術師の少女、ヒーラーの女の人は廊下を走る。目指しているのは魔王が待つ、玉座に向かう。大きな扉を開けて、玉座に飛び込む。
「よく来たな勇者共!」
開けた瞬間に待ち構えていた、マヤは叫ぶ。
「私は魔王四天王が1人、フェンリル!」
マヤは勇者の正面に立ち、叫ぶ。
「吾輩はバステト!」
タランもマヤにつづく。
「世は幻術師玉藻御前!」
玉藻もキメ顔で叫ぶ。
「私はヴァルハラ…」
ヴァルは乗り切れ無かったが、どうにかして叫ぶ。
わざわざ四天王にしたものの、あまりかっこよくない。
冒険者はあまり乗り気ではないようだが、マヤは上から目線で煽る。
「私達を倒さねば、ルシファー様には勝てないぞ!」
冒険者の男は剣を抜いて1歩踏み出す。その瞬間に冒険者達の後ろから声が聞こえる。
「魔力壁展開!」
待ち構えていたルシファーが男と女性2人との間に壁を作り出す。そう、今回の作戦は分断作戦である。近寄られたら弱いルシファーは、後衛職を倒し、物理大好き組は剣士である冒険者の男を担当する。
「さあ、援護はないぞ!なあ、タラン!サッカーって知ってる?」
「知ってるにゃー!ボールを蹴って遊ぶやつだにゃ?」
役目を終えたヴァルは消えて、玉藻は援護魔術の準備をする。タランとマヤは口角を釣りあげて、男を見つめる。
しかし、男は自信満々に剣を振り上げる。
「二人同時に相手してやるぜ!必殺!スーパーゴぐがぁ!」
技名を言い終わる前に、一瞬で近付いたマヤの蹴りが腹に叩き込まれる。そのまま倒れ込んで蹲った冒険者を指差して、タランは笑う。
「おお!ちょうどいい所にボールがあるにゃ!」
「ボールはトモダチ、HAHAHA!」
審判のいない、ルールもないサッカーが始まる。
「いやあ!八つ当たりってスッキリするねえ!特に自分がやられた事を、他人にしてやるのは、最高っ!」
ルシファーは地面に頭だけ出して、埋め込まれた冒険者達を嘲笑っている。意外とあっさりと倒してしまったな。
数的有利だったとはいえ、ほとんど抵抗も出来ずにやられていた。
「後で掘り出されてから、牢屋行きだな。どんまい!」
自分はその場を離れて、部屋に戻る。
皆と喜びを分かち合いたい気分でもあるが、そろそろ用意しないと、明日帰る時にバタバタしてしまう。
荷物を整理していると、玉藻が部屋に入ってくる。
「明日、お帰りになるのですね。とても寂しいです」
「一生会えなくなる訳じゃないんだから、そんなに寂しがらなくてもいいよ」
自分はお土産と称して、押し付けられた服やお菓子を鞄に押し込む。冒険者から買い取った大容量の空間拡張バッグはもうパンパンになっている。
「そうですね。今度はこちらからも会いに行きたいですね」
そう言って玉藻は、懐から1枚の紙を取り出す。渡してきたそれを見ると、どうやら雑誌のページが破れたものらしい。
「これはおそらくマヤさんの元世界の情報です。ただ、本名などは載っていません」
自分はそれを眺める。どうやら能力者の特集のようだ。対能力者国家軍、第7軍傘下能力者部隊。
おそらく自分がいたであろう組織だが、全く思い出せない。丁度戦いの記憶だけがすっぽりと抜けている。
「全員コードネームかなんかだな。俺はこの大鳳ってのかな。たぶん航空母艦の大鳳から取ったんだろうな」
他の4人のメンバーの名前を見るが、どれも適当な感じだ。
七支刀、夢野久作、ブローニング、レーヴァテイン、全部武器名や人名だ。もうちょっと纏まりのある名前はなかったのだろうか?
「ありがとう、後でじっくり読むよ!」
玉藻は頭を下げて部屋を出ていく。自分は鞄から、布製のファイルを取り出し、貰った紙を挟み込む。
もしかしたら探せば、自分の元の世界での写真も見つかるかもしれない。必要は無いが気にはなるな。
「さあ、帰る時間やで!」
次の日に夢の世界から帰ってきて、朝食を食べ終わった時にヨルムンガンドが食堂に入ってきた。
ヨルムンガンドはルシファーに挨拶して、自分の所に来る。
「まあ、テレポーター繋いだから、暇だったらこっち来ればええからねー。でも、マヤにしか出来ん仕事が溜まってきてしまっとるから、そろそろ帰らなねー」
ルシファー、玉藻、タランが見送りに来た。どうやらヒュプノスがいないようだが多分、起きれなかったのだろう。かく言う自分も眠くて仕方がない。
「じゃあ、2人ともまたねー!ルシファーも仕事がんばれよー」
「お前もだぞー!」
別れを済ましてヨルムンガンドにテレポーターまで運んでもらう。そのテレポーターを抜けた瞬間に、見慣れた城が見える。
「主人様、おかえりなさい!」
「マヤくん、楽しんできたかい?まさか浮気なんてしてないよねー?」
ヨミとサヤに迎えられて、まるで急に夢が覚めたような気分だ。2人と今回の旅行の事について話しながら、城の自室に戻る。
「とりあえず、荷物整理するか」
鞄からお菓子や服を取り出す。お菓子の箱を眺めながら、お土産目当てに着いてきて、ヨダレを垂らしているサヤを撫でながら、色々鞄から出していく。
「ん、なんだこれ?重っ!」
なにかよく分からない感触があり、それを引き出してみると。
「おはよ!」
元気に挨拶する、ヒュプノスがそこにいた。サヤはこちらを見て笑う。
「この子もお土産ですか?」
自分は頭を抱えるしか無かった。こっちに戻ったら、ボケからツッコミ役に逆戻りだな。
ちなみに後でヨルムンガンドが回収しに来た。




