60話 魔王は振り回される(物理)
「ふう、よく寝たなあ…」
自分は眠りから覚め、目を開ける。すると、目の前に大きな2つの出っ張りが見える。ああ、何かと思ったら、これ誰かしらの胸だな。
自分は布団の中で手を広げて、指を軽く曲げる。そして思いっきり上に乗っているなにかに向かって、腕を突き上げる。
「正手!」
上に乗っていた玉藻はベッドの天蓋に叩きつけられる。
「ひゃあ!」
自分はベッドから飛び降り、自分か元いた場所に、玉藻が落ちてきた。玉藻は腰をさすりながら、体を起こして自分の横に立つ。
「そこまでしなくても良くないですか?私、腰を痛めてしまいましたよ」
「積極的すぎるんだよ、行動が。どういう仕返しが来るか、1回目で学習しとけ」
自分が部屋を出て朝食を取りに行こうと、歩き出した時に、玉藻に呼び止められる。
自分が立ち止まると、玉藻は懐から鍵を取り出す。
「これ、この城のマスターキーです。今日タランちゃんと遊ぶのに便利かと思って、こっそり盗んできました。これでいくらでもヤンチャしてくださいね!」
「なるほど、便利だな。借りておくよ!」
玉藻はウインクして先に部屋を出ていった。あれ?3人とも、実は本気で俺の事落としに来てなくね?もしかして、仕事をサボるために遊びに来て、ついでにちょっかい掛けに来た説があるな。
まあ、その方が自分も開放的に遊べて楽しいからいいけどね。
自分は腕をあげて伸びをしてから、部屋を出ていく。
「ねえねえ、今日は何して遊ぶにゃ?」
「んー、城の探索でもしようかな?」
タランと2人で城をぶらぶらと歩く。あまり見るものもなく、やる事も無いので、歩く事しかやることが無いのだ。なのでそのまま、タランに案内してもらうことにした。
「ここは宝物庫だにゃー。正直しょぼいものしか置いてなくて、つまらないにゃ」
「ふーん、確かにめぼしいものは無いな。うちの方がいいもん置いてるぞ」
「ここはトラップ動力室だにゃ。いざと言う時には遮断して、魔王部屋の守りの動力に使えるにゃ」
「なるほど、意外と作り込まれてるんだな。基本は一応鉄筋コンクリート製なのは、ヨルムンガンドの入れ知恵なのかな」
「ここは、ルシファーの部屋にゃ!オタク趣味丸出しで恥ずかしいにゃ!」
「ほう、等身大パネルやポスターがあちこちに飾られているな。ルシファーも異世界干渉能力持ちかな。おお、俺の世界にいたキャラクターだ」
自分は辺りを見回す。ベッドの上に寝っ転がって、ゲームをしているルシファーが口をあんぐり開けて、こちらを見ている。
「お前らぁぁぁぁ!何、勝手に入ってきとんじゃああああああああぁぁぁ!」
結局怒り狂ったルシファーにつまみ出されてしまった。また明日みんな連れて侵入しようかな。ゲーム機があるなら、アマテラスからソフトを借りて来れば、色々楽しめそうだな。
昼飯を食べて、またぶらぶらと廊下を歩く。この城の面白そうな所は大概見て回ってしまった。
しかし、暇を潰す方法も見つからない。そんな時にタランがなにか思いついたらしく、肩を叩いてきた。
「そういえば、マヤって狼獣人になればすごく強いって聞いたにゃ!一緒にこの広い城で鬼ごっこしないかにゃ?」
「鬼ごっこか…小さい頃以来だな。よし、夕飯のために腹すかせるかな!」
タランは自分をポンと触る。
「じゃあ、マヤが鬼だにゃ!ほらほらー、私を捕まえるにゃー!」
相当走るのが速いらしく、一瞬でタランの姿が見えなくなってしまった。自分は軽くストレッチをしてからフェンリルの力を解放する。
「さあ、すぐに捕まえてやるよ!」
自分は床を軽く蹴って加速し始める。
「ふー、ゲームしすぎて疲れたなー。慣れない弾幕シューティングなんてするもんじゃないね」
ルシファーは自分の仕事部屋に書類を取りに、廊下を歩いている。冒険者がここまで辿り着く事など滅多にないために、やる事がほぼ無いのだ。
今取りに行っている書類も、ヨルムンガンドの今回の依頼の、報酬に関する書類だ。
「てーれー、てっててれ、てーれー!」
さっきまでプレイしていた、ゲームのBGMを口ずさみながら、廊下を歩いている。
「てーれー、ててーてーてー、てーれー!」
しかし、ルシファーは昨日も鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていたことを思い出した。
「んー、流石に今日は大人しくしてるかなー」
それがフラグになったのかもしれない、急にルシファーのすぐ前の壁が吹き飛ぶ。そこには案の定猫と犬がもみくちゃになって、暴れていた。
「はい!次タランが鬼ねー!」
「やられたにゃー!まさか壁抜きをいとも簡単にこなしてくるとは流石ににゃー」
ルシファーは怒りでプルプルと震える。さあ、今からはおしおきタイムだ。お前らシバキ回してやるからな!
「オラァ!お前ら覚悟しろ!10時間くらい正座させてやるよ!」
ルシファーは2人に飛び掛る。魔王対獣人2人の戦いが今始まる!
「あのー、ルシファー様?何故こんな事になっているのですか?」
「見ての通りだよ!負けたんだよ!」
魔王城の壁に刺さったルシファーは叫ぶ。ちょうど腰の所で詰まっている状態だ。
自信満々に2人に戦いを挑んだものの、近接が苦手な事をド忘れしていたせいで、遠ざかる間もなくボッコボコにされた。
「でも負けたとしてもそんな状態になりますか、普通?」
「なっとるやろがい!!ってそんなこと言ってないで助けてよ!この状態、見た目が滅茶苦茶やばい状態だからね!」
部下の吸血鬼は、ルシファーの手を持って引っ張る。しばらく引っ張っていると、スポーンっと引っこ抜けた。
「はあ、酷い目にあったわ。よく考えたらタラン1人でも大変なのに、2倍になったら手をつけられないわね」
ルシファーはため息をついて、城を眺める。マヤが帰るまで、この城持つのかが心配で仕方がない。
夕食を食べ終わった後に、ルシファーは大浴場に向かう。今日はボコボコにされて体が汚れたので、早く体を洗いたいのだ。
体を洗い終わって、お湯に浸かる。
「ふうー、ヨルムンガンドには早めに引取りに来てもらわないと、体が持たないわ」
このままゆっくりと、風呂を堪能しようかという時に、いきなり大浴場の扉が開く。
「にゃー、ルシファーが入ってる時は誰もいないにゃー!」
「いいねぇ、遊び放題じゃないか!」
ルシファーは驚きのあまり、足をつってしまった。ここは女湯である。そこに堂々と男が…いや、体は女だ。女体化したら女湯はセーフなのか?
「何入ってきてんのよ!変態!」
痛みに耐えながら叫ぶが、マヤは裸のルシファーを見ても、笑いながら素通りして、体を洗いに行く。
「別にルシファーの体を見に来た訳じゃねえよ。一応、今は女だからセーフだろ?」
「そういう問題じゃない!男に裸見られるなんて、屈辱よ!」
「そっかー、ピュアだねー。体洗うから後でねー」
ルシファーは怒りすらも湧かなくなってしまっていた。もう、あいつに何言っても無駄だ。
いくら恥ずかしがっても、あいつの目的は大浴場で泳ぐことに違いない。興味すら持って貰えないのか。
ああ、ヨルムンガンドのクソ野郎。王都側にまともなやつ居なかったから、戻ってきたのに、なんでこんな目に会わなきゃいけないのだ。
体を洗い終わって2人で遊び始めた、犬と猫をながめる。
「ふう…でも楽しそうだなー。また今度部下の皆でワイワイ、ゲーム大会するのも良いかもね…」
ルシファーは昔を思い出す。
まだ私がルシファーの名を名乗っていなかった時だ。
マヤは仲間と楽しくやっているらしい。最近自分は部下に対して、冷たかったのかもしれない。もうちょっと構ってやるか。
「あっ、装飾の石像壊れた!」
…厳しさも必要みたいだけどね。




