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59話 旅行先で騒ぐ

 

「明日はゆっくり城を見て回るかな。今日はゆっくりしよ」


 玉藻が置いていった煎餅を齧りながら、玉藻の回収の時に貰った城内地図を眺める。

 ゲームの中の魔王城みたいな構造になっているので、おかしいところが多々ある。ヴァルも人がいないので出てきて、一緒になって眺めている。


「滑走路と車庫は後から付け足されたんだろうな。無理やりねじ込まれてるし…」

「んー、城に直接入るのに変なとこ通らなきゃ行けないのにぇー。不便すぎて滑走路つけたのかにゃ」


「そうだにゃ。ここは対冒険者用に作られたせいでぐちゃぐちゃなんだにゃ」


 急に後ろから声を掛けられて、ヴァルがキュッと細くなってしまう。お前はアフリカオオコノハズクか。

 ヴァルはそのまま薄くなって消えてしまった。


「あちゃー、恥ずかしがり屋だったのかにゃー。ごめんにゃー」


 どうやらタランがこっそり部屋に侵入してきたらしい。なんでこの部屋鍵ついてないんだ。


「何しに来たんだ?」

「遊びに誘いに来たんだにゃー!」


 タランは地図の車庫を指さす。


「実はここに、ヨルムンガンド様から貰ったかっこいい戦車があるんだにゃ!一緒にドライブに行かないかにゃ?」


 このでかい車庫はどうやら戦車の為のものだったらしい。ヨルムンガンドはこっちの領地で、紅茶キメて色んな化け物兵器を作っているらしいが、手下に配備できるくらい、量産されているのは初耳だ。


「良いな!ドライブ行くのは有りだな、連れてってくれるか?」


 タランは元気に頷いて、自分の手を引いて、部屋の外に出る。戦車でドライブデートとは、中々面白い発想だな。

 まあ、そもそもこの世界に乗用車は存在しないから、普通のドライブは出来ないのだが。

 しばらく歩いて車庫に繋がる扉の前に立つ。


「ここだにゃー。さあ、可愛いネズミちゃんにご挨拶にゃー」


 扉を開けて中に入ると、そこにはドイツ超重戦車マウスが鎮座していた。化け物みたいな大きさで、これが本当に元の世界で、作られた事があるだなんて信じられない。それが2台並んでいる。


「アイツ、マウスを量産化したのか。ドイツ軍も目を丸くするだろうよ」


 タランはマウスの近くまで走っていって上にとびのる。


「これはマウスJ型だにゃ!長砲身152ミリ砲を積んで副砲を取り払って、50両量産された、ヨルムンガンド軍最強の陸軍兵器だにゃ。まあ、私はそこまで詳しくはないのにゃ。とりあえず乗るにゃー」


 自分は喜んで砲塔のハッチを開けて乗り込む。



「ふんふんふんふ、ふーんふん」


 鼻歌を歌いながら、この城の持ち主ルシファーは、廊下を歩く。


「ふんふふふ、ふんふんふんふ、ふーんふん!」


 パゴォォォォン


 しかし、上機嫌な鼻歌をかき消すように窓の外から大きな、爆破音が聞こえてきた。

 ルシファーは慌てて外を覗き込むが、そこには目を疑うような光景が、広がっていた。


「嘘でしょ…」


 車庫に大事にしまっていたはずの、マウスが城内の壁やオブジェを壊しながら、走り回っている。

 この城の壁などはよくぶっ壊されて修理されていることがある。ここの兵は問題児が多いことで有名だ。


 その中でも1番と言われるほどの問題児、冒険者120人殺しの猫女こと、タランがこの城に泊まっている。

 因みに実際に群れをなしていた冒険者を120人ほど、素手で全員殺したらしい。


「絶対タランだ。しかも多分おまけまで乗ってる。戦車といえば、フェンリル軍、フェンリル軍と言えば、戦車」


 ルシファーは窓から飛び降りて、マウスの所に向かう。どうやらハッチは開けっ放しのようで、中から声が聞こえてくる。


「にゃははははは!たーのしーにゃ!」

「マウスかっけええなあ!ロマン兵器最高!」


 ルシファーの思っいてた通り、厄介な奴が2人戦車で暴れ回っていた。ルシファーはため息をついて、2人を回収しに行った。



「次からは戦車乗るの禁止だからね!二度とマウスには触らせないから!」


 タランと一緒にルシファーの前で正座させられて、お説教された。やっぱり羽目外しすぎたかな。

 しかし、隣の猫は反省している振りして、実は口の中に飴を転がしている。絶対反省してないな。


 説教が終わって、自分の部屋に戻る。流石に今日はこれ以上暴れられないな。もうすぐ夕飯時だし、ゆっくり休んでまた明日遊ぶかな。


 夕食と入浴を済まして、ゆったりと過ごしていると、だいぶ夜も更けてきた。

 そろそろ寝て、明日の探索のために体力を回復しておきたい。早く寝よう。そう思って布団に入った瞬間に、意識が途切れる。

 目を開けると、そこは真っ白な世界だった。何も無い、ただ床と空だけが永遠と広がっている。


「えぇ…」


 何も声が出なくなるな。さあ、絶望しようかと思った瞬間に、後ろから声がかけられる。


「ようこそ!私の夢の世界へ!」

 後ろを振り向くと、ヒュプノスが腰に手を当ててドヤ顔で立っていた。

 なるほど、夢操る系の能力持ちだったか。とりあえず敵襲じゃないことに安堵する。


「やあ、夜はヒュプノスちゃんパートかい?」

「ええ、そうよ!今日のテーマはハロウィンっていうお祭りよ!」


 うむ、今この世界では秋頃で、ハロウィンが近い時期だったな。まだ先なんだけどな。

 ヒュプノスが手を広げると、辺りに色がつき始めて、西洋風の建物がニョキニョキ生えだした。空も真っ暗になって、南瓜のランプやランタンで照らされたお祭り騒ぎの街が現れる。


「じゃあ、マヤさん!トリックオアトリート!」


 知らない間に着替えていたらしく、ヒュプノスの桃色の髪の上には魔女の帽子が乗っており、服も魔女っ子の上着とかぼちゃっぽいスカートを着ている。

 夢を操るにしても、凄く凝っているな。元の世界でここまで本格的なハロウィンは見た覚えがないので、すごく新鮮だ。


「トリックオアトリート?」

「そうよ!お菓子ちょうだいな!」


 自分は自分の服を見る。自分の服は吸血鬼風の服装になっており、ポケットを探ると、中に飴がいっぱい入っていた。

 しかし、自分は取り出さずにヒュプノスの方を向く。


「じゃあトリックで!」


 ヒュプノスは固まる。自分の中の天使と悪魔のうち、天使は今休業中だ。ちょっといじっても構わないだろう。

 ヒュプノスの顔が赤くなっていく。別にそんなつもりで言ったわけでは無かったのだが、1人で勘違いして、恥ずかしくなっているようだ。


「え…イタズラ?イタズラしていいの?」


 まあ、恥ずかしがっているのを見てニヤニヤしている自分は気持ち悪いが、2次元でしか見たことがなかった、シーンを実際に見れるのはテンション上がるだろう。

 さあ、どうする?恥ずかしくなってここから逃げ出すかな?それとも可愛らしいイタズラで、萌えさせてくれるのかい?


「どうぞ、お菓子はあげないよー」


 自分はポケットから飴を出して包み紙を外して口に入れる。おお、凄い!味する!やばいなこの夢!いやあ、後でこの子に頼み込んで、美味しい物出してもらおうかな。

 てかこの子連れて帰ろうかな、めちゃくちゃいい能力持ちじゃないか。いや、能力目当てで勧誘するのは、あまり好きじゃない。やめておこう。


「じゃあ、私のイタズラを喰らええ!」


 考え事をしていると、ヒュプノスが叫ぶ。トリックだなんて適当な答えなんだから、別に真面目に返さなくても良かったのに。

 そう思って、ヒュプノスの方を見ると、いきなりジャンプして、自分の方に飛びついてきた。


「うびゃあ!」


 避けきれずにモロに顔面にヒュプノスの体がぶつかる。衝撃で鼻が痛い!よろけてそのまま背中から倒れ込んでしまった。

 幸い夢の世界だったおかげで、硬いはずの地面はクッションのように歪んで、自分を受け止める。


「ま、参ったかー!これに懲りたらお菓子をよこせ!」


 ヒュプノスは自分の顔にのしかかったまま、お菓子を要求してくる。危ないところだった。今、幼女の腹が顔に当たっている。ヒュプノスの位置があと少しズレていたら、事案であった。

 別に取り締まる警官も罰する法律もないのだが、元の世界で培われた倫理観は警鐘を鳴らしている。


「ほら、飴ちゃんあげるから、どいてどいて」


 ヒュプノスは立ち上がって自分から離れる。自分も立ち上がって、一息つく。

 ふと気づいて、飴を取り出して包み紙から出す。


「ほら、口を開けて」


 ヒュプノスの口に飴を放り込んで、自分も1つ飴を食べる。その後はぶらぶらと夢の町を歩きながら、夜が明けるまで、ハプニングもなく、ゆったりと過した。


 起きてしまえば霧散してしまうような、淡い世界だが、夢には不思議な魅力があるものだ。


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