58話 魔界旅行
「ヨルムンガンド、ホントにお前人の事考えへんよな。事前に言ってくれたら準備出来たのに」
「今回はわざと準備できへんように来たからね!さあ、行くで!」
ほとんど着替えと必要品だけ詰めた鞄を持って、ヨルムンガンドに抱えあげられて、空を飛んでいる。
向かっている先はルシファーの魔王城。なんで一人でそんなところに行かねばならんのだ。
まあ、ヨルムンガンドの事だから、何か策はあるんだろうが、急に連れ出されるのは、あまりにも酷い。
テレポーターや、ヨルムンガンドによる、飛行により3時間ほどで山脈を超えて魔族領に入る。
魔族領の深い森の奥に聳え立つ、大きな西洋の城。ここまで捻りのない、魔王城のデザインもない、と思うほどに、黒くてトゲトゲした城。
「なあ、もうちょっとかっこよく出来んの?」
「私も思うわ。流石にこれはダサい」
そのままヨルムンガンドに連れられたまま、魔王城の正面扉で下ろされる。
「よし、仕方ない!ちゃっちゃと魔王始末してくるわ」
そう意気込んで中に入ろうとするが、ヨルムンガンドの様子がおかしい。ニヤニヤとこちらを眺めている。
あれれ?また、こいつ嵌めやがったのか?
「残念やけど、1人では流石に倒せへんよ?今回は修行をしてもらおうと思ったんよ」
「は?裏切ったんちゃうん?」
「いや、あいつ裏切るの辞めた」
自分は頭を抱えるが、ヨルムンガンドは扉を開けて中にグイグイ押し込む。
「ふはははは!よく来たな小さき人間よ!」
中に入ると、長い廊下の奥の正面の椅子にどっかりと座っている、小さい少女が話しかけてくる。
「お前の方が小さいだろ。正直言うけど魔王より強い奴が横にいるのに、お前に威厳はねえぞ」
言い返されて、少女はムスッとした顔をする。自分はヨルムンガンドに向き直る。
「なあ、ヨルムン?こいつと戦って修行せえって事?別にヨルムンが稽古つけてくれたらええんちゃうん?」
「うん?違う違う、今回は戦いのために連れてきた訳ちゃうで」
自分はクエスチョンマークをいっぱい浮かべてヨルムンガンドを見つめていたが、急に魔王が指を鳴らす。
「玉藻、タラン、ヒュプノス!出番だよ!」
上から急に3人の女の子が降ってきた。
「うふふふ」
「にゃはは」
「…ふふ」
左からスタイルのいい九尾の狐、猫耳に肉球ついた手袋をつけた少女、ふわふわした幼女。めちゃくちゃ癖強い奴らが集まってる。カオスさで言えば、うちのメンバーとタメ張れるくらいだな。
「マヤー、今回はね、ハニートラップ対策の訓練をしてもらおうと思ってね。今回はあの子たちに懐柔されんように、耐えきって貰うね!」
自分はジトーっとヨルムンガンドを見つめる。こいつはまた余計な事をさせようと、こんな所まで連れてきたのか。この暇人め!
「じゃあ、こいつらはハニートラップのプロフェッショナルなのか?てか俺は非リアじゃないし、ヨミがいるから、簡単に女の子に落とされることは無いぞ」
ピュアなヨミの事を思えば、いくら魅力的な女性が現れても、自己を保てるだろう。しかし、ヨルムンガンドは手を振って、否定する。
「違うで。あの子たちはスパイじゃなくて、マヤガチ恋勢」
「なんで魔王側に、俺のガチ恋勢がおるねん。ヨルムン、お前なんか変なことしたんちゃうんか?」
ヨルムンガンドは目を逸らす。
「あー、実は魔族にフェンリル軍は仲間だよーってアピールするためにPV作ってん。そしたら意外な事に、フェンリルのメンバーが、めちゃくちゃ人気出てもうてん」
はぁ…何してくれてんだ、この悪魔。
「じゃあ、私は帰るから、頑張ってやー!」
「おいっ!てめぇぇぇええええ!俺は納得してへん…」
目の前で扉を締められる。扉を開けるが、もうそこにヨルムンガンドは居なかった。ヨルムンガンドがいないとこの距離を帰るのはキツい。アイツが帰るまでここにいるしかないか。
ゆっくりと後ろを振り返る。そこには4人の魔族がこちらを見つめている。
「ルシファーだったっけ、俺は何をすればいいんだ?」
ルシファーは、にたーっと笑って話し始める。
「君には普通にここで数日生活してもらうだけだよ。その中でこの子達が、本気で君を落としに来るから、それに耐えてくれればいいよ」
「なるほど、普通に過ごせばいいんだな。じゃあ適当に暇潰すわ」
ルシファーはこちらに飛んできて、鍵を渡す。
「はい、これ。とりあえず、部屋でゆっくりして」
自分が受け取ると、3人が手招きをする。どうやら部屋まで案内してくれるようだ。
「うふふふ、どうもマヤさん。私は玉藻と申します。一目見た時から、この人は私の結婚相手に相応しいと感じました!」
そう言ってベタベタ触ってくる玉藻を押しのけて、タランが目の前に飛び出してきた。
「あたしはタランだにゃ!マヤ、後で遊ぼうにゃ!」
逆側からひょこっとロリっ子が、顔を出す。
「私、ヒュプノス!これは偽名だけれど、気にしないでね!あなたが凄く頼もしくて好きになったの、必ず私の虜にしてあげる!」
凄いな、これがハーレムと言うやつか!
んー、嬉しいんだけれど、なんかイメージと違うんだよなー。
いきなりすぎて、あまり実感もわかないし、この子達の事知らないからどう接すればいいかも分からない。
なんか身分不相応だ。自分は別に高位の人間って訳でもないしな。精々小さい軍の幹部クラスだし。
まあ、ヨルムンガンドの何時ものイタズラだろう。
しばらく歩いていると、立派な扉の前に辿り着く。どうやらここが自分の部屋らしい。
「とりあえず、荷物整理とかするから、しばらくは来ないでねー」
そう言うと、3人は了承して帰って行った。
…いや、真面目だな!さっきまでの押しはどうした。まあ、こちらとしては有難いんだけど。
部屋に入って背負っていた鞄を下ろす。天蓋が付いたベッドに腰かけて、持ってきた魔導書をめくる。そこには対天使、対魔族両用魔法が書かれている。
「せっかく対策したのになー。でもまた天使とは戦うだろうから、別にいいか」
暫くベットでごろ寝しながら魔力通信板で、動画を見る。これはスマホに似た機能をしているが、表計算ソフトなどは入っておらず、ブラウザだけがあるような状態だ。
次第にアップデートされいくのだろうが、元いた自分の世界とは違う発展の仕方をしているので面白い。
「んー、それにしてもベッドふっかふかだなー。ただこの天蓋はセンスないな。別にこんなんいらんやろ」
独り言を呟いていると、ドアをノックする音が聞こえる。どうぞと応えると、玉藻が入ってきた。
「ふふ、おやつを持って参りました。一緒に如何でしょうか?」
「おっ、いいねぇ。頂こうかな」
自分はベッドに腰かけたまま、玉藻の方に向く。玉藻はベッドの横にあったテーブルに、コップに入った飲み物と煎餅の入ったカゴを置く。
飲み物を手に取って飲もうとしたが、なんだか飲みものに違和感を感じる。なんか、溶け切ってない粉が下に溜まっている?
「ねえ、玉藻さん?」
「はい、なんでしょうか?」
自分は立ち上がり、玉藻の所まで歩いていく。そして顔を近付けて、コップを見えやすいように持ち上げる。
「ウェルカムドリンクが薬入りとは恐れ入った」
「あらあら、バレてしまいましたか…」
玉藻は悪びれずに答える。
「ふざけんな!お前が飲め!」
そのまま玉藻の口にコップの中身を流し込む。突然流し込んだために、玉藻は対応出来ずに、それを飲み込んでしまう。
「えええええええ!乱暴すぎますよ!別にそこまれしらくれも…」
そのままぐっすり寝てしまった。自分は部屋に置いてあった、館内通信機を取って、ルシファーに玉藻の回収を依頼した。
結構、面倒臭い事になったものだな。こんなのがあと2人いるのか…




