54話 純水
ガラハッドは馬から降りて、水属性らしい剣を構える。青年は清々しいイケメンで、真っ直ぐな目をしている。
悪い奴ではないんだろうに、なぜ敵対してしまうのか。それはぶっ倒して聞かないとな。
「さあ、気は進まないが、相手してやるよ」
「ありがとう!勿論能力は自由に使ってくれても構わない。こちらは殺す気はないが、別に君が殺す気で来ても、僕は受け止めよう!」
全く調子狂うな。今回はフェンリルの能力は使わずに行こう。
出来るだけ体力を温存したいのもあるが、こちらも殺意が無い敵を殺すのはできるだけ避けたい。
「じゃあ、行くぞ!」
自分は駆け出し、剣を振る。ガラハッドは水の剣でそれを受け止め、弾き返す。中々に重いな。こいつは能力頼みで生きてきた訳では無いようだ。
「...これは人を斬ってきた剣だな。はは、今日は久しぶりに楽しめそうだな」
ガラハッドはそう言って、1歩踏み込んで切り上げてくる。その素早い一撃をギリギリで躱して、ワンドで腹を狙って突く。
当たったと思ったが、ガラハッドの足から水が噴射され、ガラハッドは浮き上がって回避する。
「危ないところだった。能力を使わないと躱せないのは鍛錬不足だな。精進しなくては」
ガラハッドは水を噴射しながら、ゆっくりと地面に着地する。
「水の能力者か。そんな大量の水どっから持ってくるんだよ」
ガラハッドは腕を上げ、空を指さす。
「雲だ!...まあ、多分なんだけどな」
「多分ってなんだよ。確証持てよ」
ガラハッドは剣をこちらに向け、手から小さな渦潮のような物を作り出す。それを頭の上まで持ち上げて、掲げる。
「さあ、ただ剣を打ち合っているだけでは、面白くない!」
いきなり渦潮から水の大蛇が何匹も飛び出してくる。それはこちらに向かって一斉に飛んでくる。自分は蛇たちの隙間を走り抜けながら、ワンドを構える。
まるで通ってください、と言わんばかりの隙間に嫌な予感がして、後ろに飛び下がる。
「凄いな!バレてしまったか!」
次に通るはずだった隙間はいきなり現れた、竜巻によって掻き消された。
「あからさますぎるんだよ!さすがに引っ掛からないぞ!」
楽しくなってきたな。シンプルな能力は戦ってて、爽快だ。そう思って顔がニヤケてきた所だったのだが、急に大きな爆発音がスルトの方から聞こえてきた。
「なんだ!スルト様が爆発した!?」
爆発と同時に、まるで火山の噴石のように、燃え上がる火の玉が、そこら中に撒き散らされる。
その幾つかがこちらの方に飛んできた。
「ん、やばい!君の動力車の方に飛んでるぞ!」
ガラハッドはそう叫んで、自分が乗ってきた戦車の方に飛んでくる火の玉に向かって、大量の水を噴射する。
しかし、そのガラハッドに向けても火の玉が飛んできている。
「なんで敵の事気にして、自分の事をほったらかすんだ、この馬鹿野郎!」
自分は、フェンリルの力を解放して地面を思いっきり蹴って、火の玉に向かって飛び蹴りをする。核のような何かに当たったが、足が燃えるように熱い。もう片方の足で思いっきり核を蹴り、破壊する。
「よし、ぶっ壊せたな!」
自分は空中で体勢を立て直して、大きな音と共にに石畳を壊しながら着地した。
直ぐにフェンリルの能力を解除して、ガラハッドの方を見ると、ガラハッドは剣を捨てて駆け寄ってきた。
「僕に向かって来た火を消してくれのか!僕は敵なんだよ、別にそんな事しなくてもいいのに!」
「お前こそ何でこっちの事を優先したんだ?他人だぞ!」
ガラハッドは真面目な顔で胸を張る。
「僕は人を助けるのが、信念だ。その次に鍛錬だ!」
ガラハッドは剣を拾いに行って、剣を鞘にしまう。自分は頭を掻きながら、その様子を見つめる。
「何でお前みたいな奴が、スルトの暴走事件に協力してるんだ?」
ガラハッドはキョトンとした顔で、こちらを見つめてきた。
「え?本人了承の元に実験をしてたんじゃないのか?暴走させているつもりは無かっんだが…まさか、僕は悪の軍勢に加担してしまったのか!?」
ああ、こいつは純粋すぎて人を疑うことが出来ない子なんだな。
騙されて悪事に手を染めるってキャラは、アニメとかではよく見るけど、実際に見るとちょっと阿呆っぽいな。
ガラハッドは自分のした事に愕然としながら、拳を握りしめている。
「くっ、ならばアイツらを止めなくては!知らなかったとはいえ、少女を助けに行く正義の邪魔をするなど、申し訳ないことをした。僕は研究所に向かう!」
そう言って水の馬に乗って、黒髪の青年が向かった方向に走っていった。
後ろから戦車が走ってきて、自分の横に止まる。操縦席のハッチが開き、サヤが顔を出す。
「主人様!早く行きましょう!スルトさんに、またさっきみたいなの飛ばされたら、戦車が壊れちゃいます!」
自分は頷いて、戦車に乗り込む。正直あんな化け物に立ち向かえるかどうかは不安だが、スルトは洗脳されてあんな事になって居るのだろう。
早く助けてやらなければ。
「やめてくれ…殺さないでくれ!」
黒髪の青年は、尻もちをついたまま後ずさる。その情けない姿を冷ややかに見つめながら、近付いて腹に蹴りを入れる。
「俺はお前の命乞いなんかが聞きたい訳じゃない。さっさとスルトを元に戻す方法を吐け」
転生者青年は先程までチート能力でイキって、主神がスルトを救うだとか、犠牲が必要だか何とか喋りまくっていた。
しかし、その威勢は何処に行ったのやら、研究所の部屋の隅で震えている。
「そ、そこの薬を飲ませれば、主神の加護は無くなる。た、助けてくれ!」
俺はその頭を蹴って黙らせる。早くマヤさん達の助太刀をしなくては。俺はそいつの頭を持って、顔を近付ける。
「他に情報は無いのか?今お前を生かしておく理由はない。命乞いするなら今だぞ」
しかし、青年は笑ってこちらを見ている。
「…そうだ。どうせ、教会で復活するんだ。教える必要ないじゃないか」
俺はそいつの頭を圧迫しながら、話しかける。
「残念だが、俺の第二の能力は教会での復活を阻止する能力だ。俺に殺されると復活できずに死ぬぞ」
青年は笑った顔のまま固まる。直ぐにその顔は青ざめて、また震え始める。
「や、やめろ!お、お前も転生者なんだろ?仲間じゃないか!こ、殺す必要は無いだろ!」
俺は手に力を込める。
「お前が仲間?お前みたいな愚図の頭の中には、ケシの花でも詰まってんのか?お前を生かしておいたら、俺の本当の仲間が傷つくんだ」
俺はそいつの頭を持ったまま、立ち上がらせる。
「お前の人生は前世だけで十分だったんだよ。転生してまで生き恥晒すな」
青年は体をばたつかせて抵抗するが、戦っている時に腕の骨は叩き折った。
「やめろ、死ぬのは嫌だ!俺は王都で英雄として生きつづげぶぐぶふぁ!」
青年の頭を捻りきる。首は真後ろに向き、青年は絶命する。俺は死体を蹴り飛ばして、薬を自分の魔法のカバンにしまう。
「さあ、行かなくては」
そう呟き後ろを向くと、青髪の青年が立っている。
「まさか殺してしまうとは思っていなかった。まあ、それについてはとやかく言わない。…スルト様を治す方法は分かったのかい?」
俺はそいつを睨んで戦闘態勢に移る。
「お前もこいつの仲間だろう?殺してやる」
青髪の青年は笑いながら、剣を床に置く。
「さっきまではそうだったが今は君の仲間だ!スルト様の元へ送ろう!」
青年は自分の元へ駆け寄ってきて、一瞬で後ろに回り込む。
「なっ!」
自分が反撃する隙もなく、後ろから抱えあげられる。
「さあ、スルト様が待ってるぞ!行くぞ!」
そのまま運ばれて水の馬に乗せられる。しかも後ろではなく、前に乗せられているために、抱きしめられている格好だ。
「え、ちょっ!いや、着いていくから、近くに動力車があるから、別に乗らなくてもぉ!」
そう叫んだが、青年は聞く耳を持たずに馬を走らせる。俺は涙目になりながら、馬に掴まっているしか無かった。




