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53話 9.8を超える者

 

「喰らえ!」


 ハボクックは氷柱をこちら目掛けて飛ばしてくる。俺は剣を構え、能力を発動させる。氷柱は自分の目の前で急速に速度を落とし、剣の届く距離になった頃には亀よりも遅くなる。


「速度はイマイチだな」


 俺は剣で氷柱を叩き割る。核の氷を砕くと氷柱は霧散した。ハボクックは少し眉をひそめて、腕を組む。


「速度が急に落とされた。なんの能力かは知らないが、中々厄介だな」


 ハボクックは氷柱をもう1本生成して、合計5本程の氷柱を周りに浮べる。そして、5本の氷柱を同時に飛ばしてきた。しかし、どの氷柱も自分の前で完全に停止する。


「ふむ、浮かせて飛ばしてきているか。わざわざ割らなきゃいけないのが、ちと面倒臭いが仕方ないな」


 また剣で氷柱を次々に割っていく。その様子を見てハボクックは流石に焦ったような顔をしている。


「クソ、まさか重力使いかよ。やべえな」


 ハボクックは細い氷の礫を次々に生成しながら、後ろに下がっていく。

 どうやら能力はバレてしまったようだな。どうせ調子乗ったガキかと思っていたが、中々洞察力があるじゃないか。


「じゃあ、俺も真面目に戦うかな」


 俺はそう言って剣を構え、自分の足元に上向きの重力場を展開する。それと同時に地面を蹴る。


「くっ、速い!」


 一瞬で距離を詰めたが、ギリギリで氷の壁で剣を弾かれてしまった。俺は氷の壁を蹴って後ろに飛び下がる。

 俺の能力は重力操作と呼ばれている能力だ。実際は重力と言うよりは、物体を加速させる空間を作り出す能力だ。


「さあ、ご自慢の氷を飛ばしてこいよ!俺は能力の半分すら出てないんだぞ!」


 そう煽り、もう一度ハボクックに向かって飛んでいく。今度はさっきよりも加速度を大きくした。また壁を貼ってきたがその壁に重力場を発生させ、さらに壁を蹴り込む。


「潰れやがれ!」


 氷の壁は重い音と共に地面に叩きつけられる。ハボクックは横に転がり、壁に潰される事は避けられたようだ。

 ハボクックは起き上がり、大きく後ろに飛び下がる。


「お前、まさか元王都軍のフィアットか!行方不明とか噂されていたのにまさかこんな所に...」


 ハボクックは先程とは打って変わって、こちらを畏怖の目で見てきた。俺も意外と有名だったのか。


「そんな事はどうでもいいだろ?お前は生き残る事だけ考えとけばいい」


 俺は走ってハボクックに近寄る。ハボクックは氷を飛ばしながら、どんどん後退していく。俺は氷を打ち払いながら、距離を詰めていく。

 そろそろ飛ぶか。軽い重力場を生成して斬り込む。


「くっ!」


 ハボクックは上体を逸らして剣を躱す。もう1度斬り込もうとしたが、ハボクックは足元で氷を爆散させてその勢いで飛んでいく。

 足元の石を掴み、着地した所を狙って投げる。


「おっと加速させすぎたな」


 石に気付いたハボクックは氷の壁を貼って、投石を防ごうとしていたが、砲弾クラスの速度まで加速された石は軽々と壁を貫く。


「ぅぐあ!」


 腹を掠めて石の破片が飛んでいく。ハボクックは片膝をついて横腹を押さえる。


「やっぱり逃げる事すらも、難しいというのか...もう最終手段だ!」


 ハボクックはそう言うと体に氷を纏い始める。数秒ほどでそこに氷の巨人が出来上がる。高さは自分の10倍ほどはある。


「おう、凄いな。雑魚かと思っていたが、見直したぞ」


 巨人は俺に向かって腕を振り下ろす。しかし、腕は俺に触れることなく、空中で停止する。氷の腕に剣を突き立て、よじ登る。そのまま腕を駆け上がる。


「デカいだけじゃあ、ただのカカシだぞ!」


 蚊を叩くようにもう片方の腕で叩き潰そうとしてくるが、また重力場によって止まってしまう。

 しかし、止まった腕が急に爆散し氷の礫を大量に撒き散らす。


「面倒臭いことしやがるな。無駄な事をちまちまやってこられるのは、イラッと来るな」


 俺は止まって自分の周りに重力場を展開する。氷の礫は停止し、俺の周りに球状に浮いている。


「お前も喰らってみろよ!ウザイぞ!」


 礫を調節して巨人の顔に向けて発射する。視覚を担っているであろう、大きな目に礫が突き刺さり、巨人はふらつく。


「さあ、今のうちに登りきるかな」


 自分の周りに重力とは逆方向に重力場を展開する。今、俺は上に落ちる。すぐに馬鹿でかい頭に到達し、能力を解除して着地する。


「反撃できないなら、空き缶のように潰してやるよ」


 俺は足元に自分の能力の最大の重力場を発生させる。その瞬間に巨人は自重によって自壊してしまう。

 大きな音と共に崩れ落ちる氷塊の上で、ゆっくり降下しながら、俺は溜息を着く。


「大した事ないな。もうちょっと健闘出来ただろう?」


 巨人を形成していた氷は霧散する。下向きにかける重力を弱めると、下に倒れているハボクックが見えた。

 ハボクックはどうにか立ち上がってこちらを見る。


「クッソが...重力操作...強すぎるだろ...」


 俺は笑って剣をしまう。別に俺は自分の能力を強いだなんて思った事が無い。

 この能力も欠点は多いし、魔術には滅法弱いのだけはどうにもならない。

 自分の能力を最大限に活用すれば、多少相手の能力が格上でも、どうにかなる。


「お前、氷の使い方下手糞だな。もし、能力交換して戦っても俺が勝ってただろうな」


 ハボクックは歯を食いしばり、氷柱を形成する。


「舐めんな!」


 氷柱を飛ばしてきたが、俺はただ横に歩いて避ける。そのまま歩いて行き、ハボクックの前に立つ。


「まともに当てられないなら、飛ばすんじゃねえよ」


 ハボクックは叫びながら大量の氷の礫を空中に展開する。

 俺はそれを眺めながら駆け出し、スライディングをして、飛んでくる礫を躱しながら、ハボクックの懐に入る。


「自衛くらい、ちゃんとできないのか!」


 ハボクックの顎に思いっきりアッパーを喰らわせる。ハボクックは頭1つ分ほど浮き上がり、地面に叩きつけられる。俺は気絶している事を確かめて、歩き出す。


「こう考えると、うちのメンバーってめちゃくちゃ強いよな。たぶん、対人しかしてないやつばっかりだからかもしれんな」


 そうボヤきながら、目的地に向かって歩き出した。



「そこから中央通りに入れます。真っ直ぐにスルトの元に向かえますよ」


 戦車は街の中を走り抜ける。この街はヴェネツィアのように水路がそこら中に引かれておりさらに、中心部には湖と浮島が存在している。

 その島にスルトは居座っているらしい。


「もう火柱が見えるな。大分遠いんだろここからは?」


 カインは頷いて炎を見つめる。多分スルトはカインにとって、かけがえの無い存在なのだろう。

 たった3人で途方も無い距離を歩き続けてきたのだ。もう家族みたいなものだろう。


「早く助け出してやろう。そして犯人を地獄の底に叩き落としてやろうぜ」


 カインはこちらを見て笑う。


「そうですね。灼熱地獄で焼かれてもらいましょう」


 そう言ってカインは車内に戻る。自分は周囲警戒のために、当たりを見回していたが、何かが近付いてくる予感がした。


「ん、なんか来るぞ。しかも速いな」


 周りを見渡すと、屋根沿いに何かが走ってくる。それは水の馬のような物に乗った二人の男だった。


「また邪魔が入りそうだな。止めてくれ」


 戦車は止まり、その前方に馬が走り込んできた。


「わざわざ、止まってくれたのか!中々漢気のある奴らだな!」


 馬の手網を握っている青髪の青年が不敵な笑いをうかべる。その後ろに座っている黒髪の青年は上から目線で、黙ってこちらを見ている。

 ニヤついているのが気持ち悪い。


「うーん、確かリョウスケ君だったか。俺はスルト様の護衛としてこいつらを止める。先に研究所へ行ってくれないか」


 青髪の青年は後ろの青年に声をかける。


「ああ、ありがとう。俺は研究所でやることがあるからな!俺の能力をこの人達に使うと、可哀想だ。相手をしてあげてくれ!」


 そう言ってリョウスケと呼ばれた青年は何処かに走り出す。


「マヤさん!あいつ多分転生者です!俺があいつを追います。青髪の相手を頼めますか?」


 自分は頷き、サヤに戦車ごと後ろで待機するように指示する。自分は青年の前に立ち、剣とワンドを持つ。


「まさか一騎打ちをしてくれるのか?素晴らしい騎士道精神だ。僕の名前はガラハッド!君と戦えて光栄だよ!」


 なんか面倒くさそうな奴だな、と思いながら戦闘態勢に移る。ガラハッドは凛々しい顔をして、剣を抜いている。戦うしかないようだ。


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